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チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ  作者: 佐田祐美子
前半、馴れ初め
5/32

ルールは大事

このあたりは会誌にありません。




 そんなこんなで、味噌汁を作るが日課に追加されました。しかしそれは夜なので、今日も今日とて昼間は座学。


「ぅえーっと、これが誰?」


「グランセルネール卿なの」


「こっちは?」


「グランヌーヴェ卿なの。今七賢にいるのは息子だけど血が繋がってない方なの」


 私は閉口しました。絵を見ていますが、どれも同じおじさまにしか見えないからです。元々人の顔と名前を覚えるのは苦手なのですが、ましてや外国人です。ここで一句。外国人、髪・服変えれば皆同じ。しかもどこの誰が養子に出たからどうとか……ぐちゃぐちゃにも程があります。


「もっと楽しく覚えられないか、考えてくるの」


 エレーヌはそう言って窓から出て行きました。私は察して机の上を片付けます。こういう時、エレーヌは新しい資料を持ってくることが多いのです。「好きなことから、イモヅルシキなの」ということで、発明好きの誰々さん、美味しいお肉はどこどこ産などと特徴や名産と紐づけて覚えさせようという作戦のようです。

 けれど、そのせいで集めてくる資料が嵩張り、私に与えられた一室は本と資料のせいで床が抜けるのではという状態になっていました。ただ気になるのはその背表紙にラベルが張られていること。


「戻ったの」


 しばらくして戻ってきたエレーヌは、やはり本を持っていました。


「どれどれ。ぶらり水路の旅? ああ……この国は水路を小舟で移動するのが主なのね。ヨーロッパに確かそんな感じの都市があったような」


 どこだったかなと思い出していると、ドタバタと足音が近づいてきて突然ドアが蹴破られました。次いで怒鳴り声。


「ゴルァ! 一体何冊くすねる気ですかエレーヌさ……ま……?」


 最も、その怒鳴り声は後半萎んでしまったのですけれど。


「え、誰……?」


 呆然と呟く青年には見覚えがありました。後ろに流した癖のある茶髪、榛色の燃える瞳に改造軍服はさっき覚えたばかりだったからです。


「あ、なにかと不幸なレオンさん」


「誰がなにかと不幸だ!?」


 この時私が一番印象強かったものなのですから仕方ありません。厄介なものに好かれやすく、なにかと不幸なレオンさん。エレーヌのお気に入り。


「待ってよ~」


 その後にやってくる高い声とぱたぱたという軽い足音。レオンさんの後ろからひょこっと顔を出した……というよりも小柄でざくざくに切った金髪しか見えませんでした。


「え、誰かいるの?」


 それでも状況に似合わない明るい声が微妙な空気を和らげてくれました。レオンさんはハッとして頭を下げました。


「申し訳ありません、レディ。中に人がいると思わず無礼なことを」


 おかげで後ろの金髪の少年の顔が見えましたが、こちらも頭を下げてしまいました。私はポリポリと頬を掻きました。


「い、いえ。私も初対面でなにかと不幸などと言ってすみませんでした」


 すると後ろからぶぷっと吹き出す音がします。私も謝ったことで頭を上げたレオンさんは後ろを一瞬じとっと睨んでいました。あとで覚えてろよと言わんばかりに。


「そして、失礼を承知でお訊きします。貴女はどちらのご令嬢なのですか?」


「ご令嬢って訳じゃないけど、一応レンの……王様の嫁で、真理紗と申します」


 言ってしまってから、言ってしまってよかったのだっけと思いましたが後の祭り。レオンさんは僅かに目を見開き、エレーヌへ視線をやりました。エレーヌがこくこく頷くと見るや再び頭を下げました。


「これは……知らなかったとはいえ、申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます」


「大丈夫ですから。何度も頭を下げないでください。少し驚いただけですし。ドアも壊れてませんし。それで、レオンさんはどうしてこの部屋に?」


 部屋で暮らしてしばらく経っていましたが、エレーヌ以外がやってきたことはなかったのです。なら一般の立ち入りが禁止されている区画なのではとは思っていました。


「は。図書塔の本が借りられた記録もないのに減っているとの相談を受けまして、調査をしていたのです。すると本を持ったエレーヌ様がこちらの部屋に入られたのが見えましたので、王族専用区画と知りながら無人の部屋だろうと決めつけて踏み込みました。処分はどうか私のみに留めていただけませんか。リーンは先走る私を止めようとしただけなのです」


 なるほど、これがいい上司かなどと思ってしまいました。それにしても間が悪い。私はふと興味を覚えて後ろの金髪少年に訊いてみました。


「リーンさん、よくあります? こういうこと」


「……レオン様は真面目な方なので」


 レオンさんはまたリーンを睨みました。この感じは日常茶飯事なのだろうと思いましたが、それはもうドンピシャでした。彼らが巻き込まれる厄介事は話し出したらキリがないのでここでは語りません。


「でも丁度よかった。私ももしかしてこの本達は借り物なのではと疑念を抱き始めていたんです。きちんと返却しますから、手伝ってくれませんか?」


 私のお願いに二人とも快く頷いてくれたので、私は部屋の片づけをすることにしました。エレーヌが「せっかく持ってきたのに」と文句を言ったので窘めようとしたら、先にレオンさんに怒られていました。


 私はその時になってやっと思い出したのです。七賢の七番目、レオン・グランヌーヴェの二つ名『雷帝』を。

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