かしましかしまし【マリサ目線】
ステラ、ノエル初登場です。後ろに簡単な紹介を付けます。
まさか、パジャマパーティーの話があのクロウさんの耳に入るとは思わなかった。レンにどうすると訊かれたものの、二つ返事で行くと言っていた。
「キャー! 久しぶりやんなぁ! 元気にしとった!?」
ファンシーな部屋を再現した異空間に到着して開口一番、訛りのある公用語で出迎えてくれたのはクロウさんの奥さん、ステラだった。私はぱちぱちと目を瞬かせる。
「ステラ、それ」
指摘すると、恥ずかしそうに微笑んで三角の耳をぺたりと伏せた。そう、頭の上の獣耳だ。
「子ども産むとなぁ。しばらくの間は魔力が安定しなくって、中途半端になってしまうんよ」
ステラは人間と魔獣のハーフだ。忌み子と呼ばれて命を狙われる存在だというが、その組織は見つけ次第クロウさんが潰しているらしい。私はそもそもこの世界で育っていないので偏見はない。むしろ。
「可愛いですね。触ってもいいですか」
「ええよ~」
銀毛に彩られた耳に恐る恐る触ってみると、ふにふにしていて気持ちがいい。毛艶がいいのはステラの髪質だと思う。
「ふむ、ケモミミ属性というのは愛でてなんぼだろう」
やや低い声がして振り返ると、小柄な黒髪の女性がいた。あまりお会いしたことはないけれど、ええと。
「あ、ノエルちゃんもいらっしゃい!」
そうだ。リベリヲン皇国のノエル皇后陛下。私が以前桜花国に行った時に乗り合わせた、前髪の長い男性の奥さんだ。ノエル様はステラの耳をしげしげと眺めて感想を漏らす。
「ああ……アキバのメイドがしているカチューシャでもない……本物だ……」
「え?」
私はつい反応してしまった。ノエル様が気づいて自嘲気味な笑みを浮かべる。
「気にしないで欲しい。ただの独り言なので」
「いや、だって、ノエル様は秋葉原に行ったことがあるのですか?」
「え?」
今度はノエル様が目を見開いた。薄青の目をぱちぱちと瞬いて。
「あの電気街を……知って……?」
「私はあまり行ったことないですけど。テレビとかで時々」
「まあるい緑の……」
「山手線」
「「…………………」」
なんか、同郷の人を発見してしまった。ステラだけが状況がよくわからずこてんと首を傾げていた。
――――
ノエルは――畏れ多くも呼び捨てでいいと言われた――、板橋区でヒキコモリをしていたらしい。しかしオフ会を計画した日がたまたま台風の日にぶち当たり、台風で飛ばされてこの世界に来たのだという。
「オズの魔法使いですか」
「ボクもそう思った」
まさかのボクっ娘だったノエルが頷いた。まだみんなで寝っ転がって話すには時間が早いので、各々色んな人を捕まえて話をしている。
「でも、ボクの因果のせいかなとも思うんだよね。元々ボクは大戦の戦禍から逃れようと乳母が魔法道具を使ったら、なんの手違いか東京に放り出されたクチで」
「ああ、最初からこっちの世界の人間だったと」
「そうそう。タマキのことも関係している可能性もあるけど」
「タマキというと、皇帝陛下ですか」
「うん。あれも赤羽に住んでたヒキコモリなんだけどね。ここだけの話、彼は魔王の息子だから」
「はい? 魔王?」
「信じられないだろうね。けど本当の話なんだ。だから大抵の魔獣はタマキにひれ伏してしまうし、魔獣の心がよくわかるらしいね。お陰で副業の魔法道具職人としての腕がいい。素性は隠してるのに依頼は絶えないし、品質は最高のフローレスをもらっている」
自慢げに語っていたが、ノエルの声はどんどん落ち込んでいく。
「だからってね、ボクを放っていい理由にはならないんだよ……。その間誰が政治やってると思ってるの……。なにより寂しいとか考えないのかな、ああ、考えてたらこんなことになってないか……ふふふ……」
ノエルのプチ家出癖は耳にしたことはあるが、まさかそんな理由だったとは。どう反応したものか悩んでいると、どん、と背中に誰か抱きついてきた。
「あかーん! マリサちゃんパスーっ!」
もしかしなくてもステラだ。パスとはなんのことかとステラがやって来た方を見ると、何人もの女性がニヤニヤと笑っていた。
「マリサ様、今交代交代で旦那様との馴れ初めをお話していますのよ」
ああそういう……って、パスされちゃったよどうしようかな。
じりじりと近寄ってくる彼女達にいつの間にか囲まれてしまい、後に引けなくなってしまった。腹を括るしかなさそうだ。
「こほん。……では、お気に召すかどうかはわかりませんが、私もお話させていただきます。せっかくなので題名でもつけましょうか。『チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ』とでも」
ステラ
クロウの嫁。魔法塔の創始者の一人。魔獣とのハーフ。本性は白銀の狼のような姿。訛っているがこれは公用語を教えた養父のイタズラで、エセ訛り。二つ名は『災厄』で、クロウと合わせて『最凶災厄』と呼ばれることが多い。
ノエル
板橋区にかつて住んでいたヒキコモリ。なんやかんやあってリベリヲン皇国の皇后となる。趣味はプチ家出。自嘲癖がある。




