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チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ  作者: 佐田祐美子
前半、馴れ初め
3/32

郷に入っては

 フリとはいえ、レンの嫁になるということはお妃サマになるということです。

 ……ええ、ごっこ遊びではなくレンは本当に王様だったのですよ。驚いたことに。なので作法とかの勉強が山のようにですね……。ある訳なんです……。しかも私の存在は極秘中の極秘だということで、本を与えられるだけ。「講師がついた方がいいんだけど」とレンに言ったら、「お前の講師にできるほど信用できる人物はいない」との返答でした。それってどうなの、とちらっと思いましたが、この時私はもっと深く考えるべきでしたね。


 そのことについてはおいおいお話していくとして、私が一番困ったのは歴史の勉強でした。知らない国の名前がじゃんじゃか出てきますからね。仕方ありません。とりあえず最優先にしたのは今自分がいる国、オーラリネリア王国のことでした。


「マリサ、地図を持ってきたの」


 そう言って窓から入って来るのはエレーヌです。ちなみにここは王宮の三階。最初は驚きました。エレーヌがバサバサと背中の羽で飛んでいたのですから。訊いてみると、エレーヌはこの国の守護獣である水龍様なのだとか。実は王様よりも偉かったのでした。当時は知らず龍もいるのねぇとほんわかした感想を抱いただけでした。完全に人には擬態できないのだそうで、エレーヌは手足が爬虫類っぽくなっており、泣き黒子のような位置に群青の鱗が残っています。


「ありがとう、エレーヌ。机に広げてくれる?」


 エレーヌが袖をだるだるさせながら地図を広げると、端でギリギリのバランスを保っていた書類や本が落ちていきました。それは後で拾うとして、私は早速歴史書と地図に視線を行ったり来たりさせました。何語なんだこの本? という文字で書かれていましたが、なぜか読めていました。理由は深く考えませんでした。読めるからいいや、私はそう楽天的になる人間です。


「えーっと、オーラリネリア王国は……」


「ここなの」


 私が見つけるよりも先に、エレーヌがたすたすと東の端を叩きました。アメリカに似た大陸の中ではなく、東の海に浮かぶ楕円形の島です。小島ではありませんが、そこまで大きくもないというのが第一印象です。


「ここ? 四大国とか言うからもっと大きなものかと」


「オーラリネリア王国が四大国と呼ばれる理由は大きさではないの。守護獣の格の違いなの」


「じゃあエレーヌがすごいってこと?」


「そうなの。気づくのが遅いの」


 確かに、私の世界でもドラゴンともなればすごい、強い、カッコいいの三拍子揃った印象を持ちます。


「龍を守護獣にしている国は、あとカディルワース白龍王国、ギルドラン赤龍王国、桜花国なの」


 エレーヌがなんとなく指し示した辺りを見ていく。袖のせいで見にくいのですが、中でも桜花国は袖ですっかり隠れてしまうほど領土が小さかったです。


「桜花国……」


 と呟いた私にエレーヌが頷きました。


「カルロのお母さんの国なの」


「カルロ……?」


「カルロヒューレンなの」


 まだ名前を覚えていなかったのかと訊きます? その通りだとお答えします。今はちゃんと覚えていますよ。本当です。

 その辺は置いておいて、少しレンのお母さんのことを語りましょう。十五年前、この大陸全土を巻き込んだ大きな戦争があったそうです。レンのお母さんは桜花国の姫君なのですが、その戦争の最中誘拐されて勝手に妃にされてしまいました。しかしレンが生まれた後、先王はすぐ心変わりされてしまったのだとか。それでも姫君はレンを立派に育て上げました。そして七年後、オーラリネリア王国が負け戦争が終わった際には、先王を処刑し自らを国外追放としたそうです。


 つまり、オーラリネリア王国は敗戦国。レンは敗戦後最初の王様。


「たいへんだぁ……」


 やっと理解して思わず呟いた私にエレーヌは「そうなの」と言ってこくこく頷きました。全く大変さがわかってなさそうな顔をしていましたし、というか絶対わかってなかったと思います。龍ですし。

 しかしこれでレンが私に嫁のフリを依頼してきた理由がわかりました。他国の姫と政略結婚すれば、レンが幼いことを理由に摂政だか関白的な人物がつく。そのためにエレーヌにした指示がなるべく無関係の女、という訳。


「私はあれか。縁談を断るための口実か」


 歴史書をベッドにぶん投げた私にエレーヌが首を傾げました。レンが大変で、忙しいことは理解しました。しましたが、初めて会った日以来レンと話すことができていなかったのです。


「なにが、余を信じろ、従え、だ」


 いや本当、私じゃなくてもよかったのでは? と思い始めていました。ここまで音沙汰がないと桜花国の姫君と同様捨てられるか、そもそも忘れ去られているかもしれないという疑惑さえ持ち始めていたものですから。

 あとここのところ洋食ばかりで胃がムカついていたのもちょっとありました。海外出張ばかりの叔母が、たまの帰国時に泣きながら白米を貪っている気持ちがよくわかりました。


 そして私は決意したのです。厨房へ忍び込むことを。

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