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チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ  作者: 佐田祐美子
後半、好きの種類
24/32

まるで自分でないような




「昨日はすまなかった」


 いつもよりちょっと気まずい味噌汁タイム、地下の隠し部屋に入って来るなりレンは頭を下げました。その瞬間の私の気持ちがわかりますか? 大人なのだから私が先に謝らなきゃ、と思って散々重ねたシュミレートが全て無駄になったのです。固まるしかありません。それでまだ私が怒っていると思ったのでしょう。レンは言葉を重ねました。


「母上は大層厳しく容赦のない人だから、なにかきついことを言われたのではないかと心配になってだな。だが、問い詰める必要はなかったと思い直した。だから、すまなかった」


 しかも完璧な謝罪と言えるでしょう。流石有能な王様……ですが、身内にまでそんな有能さを発揮して欲しくはありませんでした。寂れた地下室だというのに王の風格を湛えた顔は、幼くあどけなさを残した雰囲気にはミスマッチにすぎます。


 そういう時、無性にレンの頬を引っ張ってやりたくなるのですが、ここは控えておきます。代わりに、私は鰹節を削る手を止めてぱたぱたと払いました。


 そしてレンに向かって手を差し出しました。


 レンは何度か緑の目を瞬いて、少し笑いました。


「なんだ、仲直りの握手か」


「まあ、そんなとこ」


 けれど、レンも手を差し出すだけでした。その手を取るかどうかは、私に委ねられました。私は少し葛藤しました。デコピンしたり頬をつねったりは散々しましたが、手を握るということはこれが初めてでした。躊躇いながらもきゅっと握ると、ぎゅっと握り返されました。

 レンが僅かに目を見開きました。


「へえ、身長はマリサの方が大きいが、手の大きさはそんなに変わらないんだな」


 握手していた手を解いて重ね合わせられると、確かにそんなに差はありませんでした。そうしてみて気づいたのですが、剣術の鍛練などもしているせいかレンの手にはマメやタコがありました。


「まあ、身長の方も……すぐ追い越すつもりだが」


 あ、どうしようと思いました。実は私、高校でもまだ身長が伸びていましたので。レンが一生追いつかなかったらどうしようと思いました。いえ、心配ありません。四年後には無事抜かれました。今は私が少し見上げるくらいです。

 ともあれ、そんなバカなことを考えていますと、指の隙間にレンの指がするりと入り込んできました。びっくりして思わず手を引っ込めてしまいましたことです。


「すまない。ちょっと悪戯してやりたくなってな」


 しかもなんてことないように笑いやがりました。


「あ、うん、ちょっとびっくりした」


 ちょっとというか、割とです。それも自分の感情の動きにです。なんというか、背筋を指でなぞられたような、そんな感じにぞくぞくしたものですから。わかります? しかもそれがよかったんですよ。嫌じゃないどころの騒ぎではありません。


 自分で言っててなんか気持ち悪いですね? でもそうなんです。わかる人います絶対。


「とにかく、これで仲直りということでっ」


 私はレンから距離を取るべく、鰹節削りを再開しました。いつの間に、本当にいつの間に、子どもと大人の境目を綱渡りしているレンが好きになっていたらしく。いやあの、もう、ショタコンと笑いたければ笑ってください。今私はもーれつに穴があったら入りたいし穴がなくても自分で掘って入りたい気分です。





 ごほんごほん。……これで一応、味噌汁に関する事件は一通りお話しできたと思います。こんな話を聞きたいなんて皆さんなかなかの物好きですね……。え、恋の話ならどんとこい、ですか。恋の話なんでしょうかこれ。

 ともかく終わりなので! 次の方に行ってください早く!




――――END







とりあえず一旦おしまいです。お疲れ様でした。

この後SSを少しだけ投稿します。

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