似た者同士
リーンに上手く話せた自信はありません。途切れ途切れでしたし、自分自身よくわかっていないことでしたので。根気強く聞いていたリーンは、私が話し終えると「ふぅん」と漏らして言いました。
「要は、マリサ様が陛下のことを愛していると証明すればいいわ訳ですね」
なんというざっくり解釈でしょう。でも間違ってはいません。それでも気恥ずかしくて、私は平静を装ってパイに手を伸ばしました。
「まあそういうこと」
私の返答を聞いたリーンもパイをひとつ口に入れ、こくりと飲み込みこちらに向き直りました。
「マリサ様、わたくしはレオンのことを好きだと思いますか?」
私は何度か目を瞬きました。
「ええと、いつも仲良しだし、そうなんじゃないの?」
少し控え目に言いましたが、二人は仲良しどころかバカップルの類だと思っていました。私の答えにリーンは苦笑しました。
「正解は、『わからない』なのですよ、マリサ様。……驚かれました? それにわたくしとレオンは、やむを得ない事情があっての政略結婚ですのよ」
リーンはふっと目を伏せました。
「最初はもう、相性は最悪でした。ただ魔法の才能があったという理由でグランヌーヴェ卿の養子になったレオンが、生粋の名門貴族令嬢であるわたくしに好意的であるはずがないでしょう。けれど、無視をされることもなければ乱暴に扱われたこともありません」
「レオンさんはそんな人じゃないもんね」
数度しか会っていなくともそのくらい私にもわかります。リーンはふんわりと笑って頷きました。
「ええ。ただわたくしとの距離感が掴めず困惑していただけでした。恋だとか愛だとか、そういう関係は築けなくとも友情のようなものがあれば十分だと、わたくしはもちろんレオンも同じように考えていたと思います」
「いた、ってことは」
「そうなった決定的な事件があるですが、身内の醜聞でございますのでお話することはできません」
一瞬、リーンの目がすっと冷たくなりました。まるでゴミクズを見るような目です。すぐ元に戻ったので見間違いかと思った程です。いつもにこにこしている人が稀に怒ると怖いですよね。
「まあ、なにはともあれ。わたくしはレオンと一緒にいるのが嫌ではありません。話すのも楽しいです。頭を撫でられても平気ですし、手を繋ぐのも構いません。……そう、嫌ではないと思えるのがレオンだけだと気づくと、わたくしはこの感情に恋愛感情という名前をつけました」
「なんか、意外。もっとこう、好き! って感じの気持ちかと思った」
「おかしいですか? わたくし、物心ついた時には父は旅ばかりしていましたし、世間知らずの母と幼い弟とで貧乏暮らしが長かったものですから、わがままひとつ言い出せないまま育ちましたの。そのうちに自分の感情というものが自分でわからなくなってしまいましたの。……あら、マリサ様も心当たりがあるというお顔をされていますわね」
まさしくその通りでした。幼い頃に両親を亡くし、私の押しつけ合いをする親戚を前にした時。私はこれ以上傷つくことがないように心を閉ざしました。引き取ってくれた叔母も叔母で、私以上に子どもみたいな人ですから私がしっかりしないといけませんでしたし、近所の子どもコミュニティでも私が最年長です。
私は、私自身の感情というものがすっかり理解できなくなっていました。
「そう……私達似た者同士みたい」
「まあ、なら心配要りませんわね。マリサ様もそのうち今日は膝に座らせないのかなとかキスしないのかなとか触りたいとか考えるようになりま」
「コラ待てぇ!!!」
止めた方がよさそうな話の流れを止めたのは、『雷帝』の二つ名に相応しい怒鳴り声でした。いつの間にか開け放たれたドアからレオンさんがドスドスという足音で入ってきて、リーンの頭をぐちゃぐちゃに掻き回しました。嬉しそうな悲鳴を上げるリーンを苦々しい顔で睨んだ後、こちらに視線を向けます。
「マリサ様、今こいつが言ったことは速やかにお忘れください。それと、なにがあったか知りませんが陛下と早く仲直りしてください。落ち込んでいるせいか仕事効率がやや落ちています」
まさか王サマ業にまで支障が出ているとは思いませんでした。
「うーん、努力はしてみる」
「頼みますよ。陛下の方の用事も済みましたので、おれ達はこれで下がらせていただきます」
「あ、じゃあ、マリサ様、またお話ししましょうね!」
二人は嵐のように去っていきました。勢いに呑まれていた私は息をつくと、しばらく目を閉じました。謝罪のシュミレートと解決策を練るためです。
まあ、大して意味がなかったのですけれど。




