うわのそら
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あ、そうですね、味噌です、味噌。
一晩風花姫に泊めてもらったら、次の日補充してありました。たぶん風花姫がくれたのだと思います。
ええと、はい。翌日には桜花国の大鳥居のところにリーンとレオンさんが迎えに来ていて、オーラリネリア王国に到着するまでの間、ずっとレオンさんに説教されていました。
もちろん、帰って来たらレンにもめちゃくちゃ怒られました。
「無事だったからよかったものの、なにかあったらと気が気でなかったのだぞ。身を守る手段をひとつも持っていないし」
そんなことを言っていたと思います。その間、私はずっと頭ひとつぶん下にあるレンの頭をじーっと見ていました。そして私の言動を思い返していました。
レンのことは好きです。しかし、以前お話しした通り私は恋愛事には疎いのです。レンは確かに私がいないとダメそうなのですが、私がここにいるのはレンの母親代わりをするためなのでしょうか?
「おい、聞いてるのか」
「ごめん、聞いてなかった」
素直に白状すれば、レンは呆然としました。なんともいえない空気をなんとかしてくれるのはやっぱりリーンです。
「まあまあ、今日はそのくらいにしませんか? マリサ様もお疲れだと思いますし」
「そ、そう、だな……。すまない、配慮が足りなかった。下がっていい」
レンのお許しが出たので、私は自室に引っ込みました。翌日にはレンも少し落ち着いていて、しこたま怒られるようなことはなかったのですが……。
「どうした? なんかぼんやりしているな」
レンが楽しみにしていた味噌汁タイムにそんなことを言われてしまいました。
「んー……、いや、レンには言えない」
「え」
ああ、言い方がまずかったと思いました。上手い表現はないかと探したのですが、どれもピンとくるものがなく。結局黙ってレンを見つめることとなりました。そうしているとレンの眉間のシワが深くなります。
「ほら、また眉間にシワが寄ってる」
メソポタミア文明でも作るつもり、と続けて眉間をぐりぐりしてやるのがいつものパターン。ですが、私の手は持ち上げられだけで止まってしまいました。頭の片隅で声がした気がしたのです。それは紛れもない私の声で。
そういうとこだぞ、と。
「マリサ……?」
不安そうなレンの声で我に返りました。私はきゅっと手を握り込んで引っ込めました。
「ごめん、なんでもない」
「なんでもなくはないだろう。昨日から少しおかしいぞ」
レンが立ち上がって、こちらへ一歩踏み出しました。私の足が一歩後ろに下がります。
「桜花国でなにかあったか?」
図星。私はまた一歩下がります。その距離をレンが詰めました。
「いや、うん、ちょっと疲れてるだけ」
「母上に会ったのか?」
図星。後退る私と近寄るレン。
「会っ……た、けど、特になにも」
「嘘だな。なにを言われた?」
私の背が壁につきました。この時ばかりレンの頭の良さを恨んだことはありません。かつてない至近距離にあるレンの顔から逃げるように、私は天井へ視線を逃がしました。
「ぼくの目を見て」
見られる訳がありません。俯いたら鼻先が触れそうな距離です。私は、そう、混乱していました。
「~っ、もう! ほっといて!!!」
あんなに大きな声を出したのは何年ぶりでしょう。レンが怯んだ隙に逃げ出して、ダッシュで部屋に戻りました。




