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チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ  作者: 佐田祐美子
後半、好きの種類
18/32

気まま一人旅




 少しだけ、この異世界の地理について説明しましょう。


 東の島国、オーラリネリア王国から大陸へと船で渡りますと、まずリベリヲン皇国に到着します。ということは、大戦時にここはオーラリネリア王国によっていの一番に占領された国です。反発もあったでしょう。それでもきちんと玄関口として機能しているのは、ひとえにレンの誠意と国交を拒否しなかったリベリヲン皇帝によるものです。

 おかげで私も難なく大陸へ渡ることができました。


「おお……」


 私はつい感嘆の声を漏らしてしまいました。街の様子が随分違っていたからです。

 なんといいましょうか。オーラリネリア王国は白い石造りの家が多くて、ヨーロッパ海岸沿いの観光地といった雰囲気なのですが、リベリヲン皇国はヨーロッパの田舎町といった風情です。小石混じりの灰色の石壁の家が並んでいて、鈍色の風見鶏やお店の看板が潮風で揺れています。それに黒髪の人も割と多く、少しだけ日本が懐かしくもなりました。


 船着き場の周辺はオープンテラスのカフェや宿屋がたくさんありました。屋台や露店からは賑やかな会話が聞こえてきます。観光が目的だったら、私もその会話に加わっていたかもしれません。


 私は地図を持ちながら駅に向かってひたすら歩きました。小高い丘にある皇帝の邸宅は港からでも見えていたので、目印はそれです。

 ちなみに駅と言いましたが、異世界にもあります、鉄道。切符を買って乗るシステムも同じです。電車というよりは汽車という感じで、現代日本にある電車よりもミステリーで有名なオリエント急行が近いかなと思います。


 そこでとある人物と乗り合わせました。同じくリベリヲン皇国皇帝邸宅前から乗ってきた、めちゃくちゃ前髪の長い男性です。左目はすっかり隠れてしまっています。私がおやと思ったのは、右目も黒かったからです。顔立ちも純日本人と言っていいでしょう。

 でもそんなこともどうでもいいくらい、彼は挙動不審でした。いや、危ない人という意味ではなく……そうですね、極度の人見知り、一言で表すならそれでしょう。すごく顔色が悪くておどおどしていました。


「大丈夫ですか?」


 見るからに大丈夫そうではなかったので、声をかけてみました。すると私が驚くくらいびくりとして、口を何度か開閉させてから返事をしました。


「えーとあの、そのぅ……一応、はい」


 会話はそこで途切れました。なんだか気まずくなってしまいましたので、私は必死に会話の糸口を探しました。そこで目をつけたのは彼の持っている箱です。それは皇帝御用達のお菓子のお店、エンペラーの箱でした。行列必至のロールケーキはエレーヌの好物です。


「ロールケーキですか?」


「えっあっはい、そうです」


「買うまで大変だと伺っています。最高のお土産じゃないですか」


「お土産……というより貢ぎ物ですね……」


 答える彼の纏うオーラがいっそう重くじめじめしたものになりました。


「じ、実は、つつつ妻に家出されてしまいまして」


「はあ」


「迎えに行くところなんですよ、はい。反省してます。工房に籠りっきりで、家族を蔑ろにした……」


「職人さんなのですか」


 私は少し驚きました。彼の服は地味ですが上質で、貴族とはいかないまでも金持ちであることは一目瞭然だったので。彼は右目を泳がせました。


「魔法道具作りは、趣味ですね……。趣味に打ち込みすぎて、本業も疎かに……はあ……」


「それはいけませんね。没頭できる趣味があるのは尊敬しますけど、家出した奥さんに同情します」


「ですよねぇ……」


 頭を抱えた彼ですが『次は魔法塔~魔法塔です』という車内アナウンスに顔を上げました。この魔法塔が鉄道を開発した機関です。創始者がだいぶイカれた方々なので後でお話しします。


「あ、の。話、聞いてくれて、ありがとうございました」


「いえ、仲直りできるといいですね」


 彼はペコリと頭を下げて汽車を降りました。


 ちなみに彼の正体は、大戦後リベリヲン皇国の復興に尽力していた皇帝陛下です。どこでなにと出会うかわからない人生ですね。






リベリヲン皇国の皇帝陛下についての話もそこそこ長いです。今回はあくまでマリサの話が主なので、名前も出しません。

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