奴隷商館
ポーション、ハイポーションに関する会話等を追加しました。(3月17日)
イネルバの路地裏に出た。時刻は午後三時くらいかな? まぁここと日本の時間が同じとは限らないけど。とにかく南門へ行こう。まだレオンさんがいればいいけど。
運良くまだレオンさんはいた。
「レオンさん。」
「おぅ、アキラか、どうだあそこの飯は美味かっただろう?」
「ええ、とっても美味しくて2杯もおかわりしちゃいましたよ。」
「そうかそうか、そりゃよかった。」
「ところで、スライムを倒した時に、ポーションを手にいれたんですが、これって回復薬ですよね? どのくらいの効果を期待できるんでしょう? あとこの上のものってあるんでしょうか?」
「お? 野良のスライム倒して、ポーションが出たのか? そりゃ運がいいな。ポーションは、そうだな、たいていの怪我や出血、疲労ならすぐに回復してくれるな。ただ、手足を失ったり、致命的な怪我なんかを回復するにはその上のハイポーションが必要だな。もっともハイポーションなんかはこの街では、まずお目にかかれない。伝説とまで言われちまってるからな。」
なるほど、ハイポーションは手足の欠損すら直してくれるのか……すごいな。
「それと、一緒にダンジョンに潜る仲間として絶対に裏切らない奴隷が欲しいと思うんですが……どうでしょう?」
「……うん、そうだな。そう考える奴はケッコウいるな。逆にパーティからあぶれ、ソロでもやってけなくて食うこともままならず、自ら奴隷となって仲間を探す冒険者もいる。金があれば前者、なければ後者になる。」
「そうですよね……レオンさん。奴隷が手に入る場所を教えてください。」
洋館風の建物の門には[リック商会]とあった。レオンさんが教えてくれたのがここなんだけど……とりあえず、呼び鈴を押せばいいのかな? あれ、そんなのない? どうしよう?
「いらっしゃいませ。どうぞお入りください。」
オレがあたふたしてると、門が開き、初老の紳士がでてきた。どこかから見ていたのかな?
「はい、失礼します。」
門をくぐり、館に入る。立派な建物だなぁ。
応接室に通され、紅茶のようなものを出された。紅茶だよな、これ? アールグレイっぽい味がする。オレはダージリンのほうが好きだけどな。あ、戦車は関係ないよ。
「私、当商会の当主、リックと申します。以後お見知りおきを。」
「アキラです。よろしくお願いします。レオンさんの紹介で来ました。」
「ほう、レオンさんの?」
「ダンジョンに潜る仲間となる奴隷が手に入らないかと思いまして。」
「そうですか、ご予算はどれくらいでしょう?」
「いま、手持ちは金貨13枚なんですが・・・」
やっぱ少ないかな? もう少し素材を売ってお金をつくってからにしたほうがいいかなぁ?
「申し上げにくいのですが、正直、そのご予算ではまともな奴隷は手に入りませんな。欠損の激しい少女なら、そのお値段でお譲りできる子が1人いるのですが……ダンジョンに潜るパートナーは務まりそうにありません。本人はそれを希望しているようなのですが……」
「一応、その子を見せていただけますか?」
オレの手元にはハイポーションがある。これを使えばその子を直してあげらるかもしれないしな。
「承知いたしました。しばらくお待ちください。」
待つことしばらく。リックさんは1人の少女を連れてきた。
15歳くらいだろうか? 成長途中と思われる体はひきしまっており、野生の狼のような美しさがあった。長いプラチナブロンドの髪の上にイヌ耳……じゃないな、狼の耳が出ていた。
ただその両目には包帯が巻かれ、右腕も肘から下がなかった。
「この子はソロで冒険者をしていたのですが、一月前、オークダンジョンでモンスターに目と右腕をやられましてな。なんとか出口までは自力ででてくることができて一命をとりとめたのですが、その治療費が払えず。奴隷となったのです。」
「銀狼族のアリエスです。目は見えませんが、敵の近くにさえ連れていってもらえれば気配を読んで戦うことができます。どうか、私をお買い上げください。」
なんと、目が見えなくても、片腕がなくても、まだ戦うことをあきらめてないらしい。なんて強い意志だ。これはとんだ掘り出しものかもしれない。
「……この子を買います。」
オレは金貨13枚を出してリックさんに手渡した。
「確かに……では、奴隷契約を行います。アリエス、服を脱いでこちらに背中を見せなさい。」
「はい。」
アリエスは貫頭衣のようなものを脱いで背中をリックさんに向けた。そこには複雑な紋様が描かれていた。
「術式展開、奴隷紋発動。」
アリエスの背中の紋様が輝きだした。
「さあ、アキラさま、この紋様にあなたの血をたらしてください。」
リックさんはナイフを手渡してきた。やっぱりか、そんな気はしてた。まぁ、アリエスがあれだけの覚悟を示したんだ。こんなことぐらいで臆してられないよな。
オレはナイフで小指を軽く切り、その血をアリエスの紋様にたらした。
紋様は瞬間、一際大きく輝いたあと、もとに戻った。
「これで契約は完了しました。アキラさま、アリエスをどうかよろしくお願いいたします。」
リックさんは深々と頭を下げた。
オレはアリエスの手を引いてリック商会をでた。目が見えないはずなのにアリエスの足取りはしっかりしている。
「ご主人さま、これからよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそよろしくたのむな。とりあえず。オレの家に行くからな。……この辺でいいかな?」
オレは1LDKの扉を館の塀に設置して開いた。
「ここに入るよ。」
「ここはまだ館の塀のはずですが、え? 転移魔法?」
マンションの玄関に入って靴を脱ぐ。
「アリエスも靴を脱いでって……裸足だったのか、ちょっとまっててね。」
風呂場にいってタオルを濡らしてもってきた。それでアリエスの足を丁寧に拭いた。
「あ、つめたい。でも気持ちいい。ありがとうございます。ご主人さま。」
「これぐらい、気にしないで、じゃあ、こっちだよ。入って来て。」
再びアリエスの手を引いて誘導してリビングのソファに座らせた。
「フカフカのイスですね。気持ちいいです。」
「じゃあ、早速アリエスの怪我の治療をするね。包帯をとるよ?」
「え? 私の怪我を治すなんて、伝説のハイポーションでもない限り不可能ですよ?」
オレはアリエスの目と腕の包帯をとった。深くえぐられた傷はやはり痛々しい。そこにアイテムウィンドウからハイポーションを取り出して、目に1本、腕に1本ふりかけ、最後に口からも飲ませた。こんだけやりゃあ効くだろ、いや効いてくれ、たのむ。
アリエスの傷が光に包まれていく。
「こ、これは、まさか本当に……」
刺激を少なくするために照明の灯りをできるだけ落とした。
光が収まるとアリエスの目の傷はすっかり癒えていた。腕も綺麗に再生されていた。
ゆっくりとアリエスが目を開けた。その瞳は綺麗な碧眼だった。
オレをじっと見つめて来た。やがてその瞳が潤み、涙が溢れ出した。
「……見えます。ご主人様の顔が見えます。ああ、右腕もある。」
アリエスはオレに抱きついてきた。
「ありがとうございますご主人様。このご恩は絶対、一生忘れません。」