悪は滅びる
コンコン
ノックの音が響いた。
「どうぞ。」
ガチャリ
「失礼します。」
栗色の髪をハーフカットにしたソバカスが顔に残る少女が入ってきた。
私は目を見開いた。なぜ、彼女がここにいるのだ?、くそ、やつらは失敗したのか?、使いえないやつらだ。30人以上もいて・・・
ここはリタンブールの冒険者ギルド、ギルドマスターの執務室。
私はトムソン、ギルドマスターだ。今年で47になる。最近頭頂部の抜け毛が気になっている。
「よくきたね、デイジーさん。さ、座って。紅茶でいいかな?」
来客の少女に応接セットのイスを示し、紅茶を入れる。
「あ、おかまいなく。用が済めばすぐ帰りますので、」
あいかわらず無愛想な小娘だと思いながら、私は紅茶をいれた。
「それで、今日はどうしたんですかな?」
「実はここに来る途中、野盗に襲われまして、一緒にいた冒険者の方が退治してくれましたので、その報告にきました。」
「なんだと?・・・そうか、しかし君が無事で良かった。」
私は一応驚いたふりをした。
「失礼します。」
私の秘書の女性が書類を持って来てくれた。
そこにはデイジーたちを襲わせた野盗の名が書かれていた。全て死亡か・・・
「確かに・・・全員犯罪者登録されていたようだね。」
秘書から皮袋を受け取り、デイジーに渡す。
「これが彼らに掛けられていた懸賞金、金貨220枚だ。」
「確認させていただきます。」
デイジーは受けとった皮袋の中身を出し、確認した。
「・・・確かに、ではこれで失礼します。」
デイジーはお金を受け取ると早々に席を立ち、出て行った。
バタン。
音を立てて扉がしまった。
「くそぉ!!」
ドカ!
1人になると、私は立ち上がって応接セットの机の足をけった。
数日前、隣町のイネルバでドラゴンダンジョンが発見された。
この国初めてのドラゴンダンジョンの発見とあって、ここリタンブールでもお祭り騒ぎとなった。
しかし、私はおもしろくなかった。
ドラゴンダンジョンが発見されたのはイネルバだぞ?、
これまで、初級から中級冒険者はイネルバ、上級冒険者はリタンブールといった住み分けができていたんだぞ?、
それが今回のドラゴンダンジョンの発見でそのバランスがくずれるかもしれない。
せっかく、目障りだったイネルバ冒険者ギルドの前マスターをこの国のグランドマスター選挙の前に始末できたと思っていたのに・・・このままでは、イネルバの新人マスターに選挙で遅れをとりかねない。
ドラゴンダンジョンを発見した冒険者が黒ランク冒険者になるために王都へ行く。ギルドの同行員はデイジー。
その情報を掴んだ私は内通している野盗にその馬車を襲撃するように裏から手配した。こいつを野放しにしておいては、後々やっかいだと思ったのだ。
しかし、全て返り討ちにあうとは・・・少々その冒険者を侮っていたようだ。帰りにここを通る時は今回の倍以上の数で襲わせてやる・・・
4日後、リタンブール上空を王都方面からイネルバ方面へ黄金色の超巨大なドラゴンが通過していった。
警鐘が街中に響き渡る中、私は呆然とそのドラゴンを見上げていた。
美しい・・・
そのあまりの神々しさに私の頬にはいつのまにか涙が流れ、膝をつき、手を合わせて祈っていた。
後で聞いたところによると、あの美しいドラゴンは私が野盗におそわせた冒険者の従魔だったらしい。
私はとんでもないものを敵に回してしまったのか?、・・・しかし、もう後には引けない。
コンコンコン
「失礼する。」
私はノックと同時に部屋に入った。
部屋の中では黒縁のメガネをかけた金髪碧眼の美女が執務机で書類の処理をしていた。
彼女、ステラは驚いた様子で顔を上げた。ここはイネルバ冒険者ギルドのマスター執務室だ。
「これはトムソンさん。どうしました?、突然。」
ドカ!
私は乱暴に応接セットの長椅子ソファに腰を下ろす。
「ドラゴンダンジョンに続いて、ミノタウロスダンジョンまで発見されたそうじゃないか?」
「あら、お耳が早いのですね。流石、トムソンさんです。」
「世辞はいいい。・・・で、どうするつもりだ?、」
「勿論、白金ランク以上の冒険者に開放しますわ。」
ガタン!
「リタンブールのギルドを潰す気か!?、」
私は叫んで立ち上がった。
「大丈夫ですわよ、今回見つかったのは小規模なものです。市場の全ての需要を満たすものではありません。リタンブールとの住み分けはできます。・・・もっとも、この功績で次のグランドマスター選挙は私が勝たせていただくことになるかもしれませんけど・・・ふふ。」
ギリ、
私は奥歯をかみ締めた。
「・・・小娘、前マスターのようになりたいのか?、」
「あら、どういった意味かしら?、」
「どうもこうもない。黙ってオレの言いなりになれってことだ。さもないと前マスターのように殺す。ここのミノタウロスダンジョンは秘匿しろ。」
ギルドマスターとはいえ、小娘1人、どうとでもなる。私に逆らえないように調教してやる。
「・・・どう思われます?、ジャスティス審議官。」
「いやはや、先ほどの言動で脅迫罪は確定ですな。そして会話の中に見逃せない内容がありましたな。」
カーテンの影から真っ白いスーツを着たオールバックの金髪の男が出てきた。手には記録の水晶を持っている。
私は驚愕し、目を見開いた。なぜこの男がここにいる?、ここにいていい人間ではない。
「あ・・・あなたはジャスティス審議官?、王都にいるはずでは?」
「ええ、確かに私は王都にいたはずなのですが、何故かイネルバにいるのですよね。不思議です。まぁ、そのことは後でいいでしょう。トムソンさん、あなたはイネルバの前ギルドマスターを殺害したのですか?」
「あ・・・え・・・うぅ。」
国王直属の審議官、ジャスティスは真偽眼の持ち主だ。その眼は全ての真偽を見抜く。金色の瞳が私を捉えた。
国王直属は伊達ではなく、腕っ節も強い。運動不足の中年男の私がかなう相手ではない。
「うあああああ!!」
私は叫んで逃げ出した。
くそぉ、なんでこうなった。なんでだぁあああ!!!




