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第5話:探索

 星乙女の迷宮、42階層。


 あたり一面の星の輝きを目にしながら、俺とエアは慎重に周囲を警戒しながら歩いていた。

 幻想的な光景だが、ここは迷宮だ。


 いつ何時、魔物に襲われるか分からない。


「ところで聞くの忘れたけど、イシカって冒険者としての職業ってなんなの?」

「ん。俺は『鎌術師』だな」


「鎌か……。珍しいね、妨害職だ」


 俺の言葉に、エアは感嘆とした声音を漏らす。


 冒険者の職業には、大別して4つのパターンがある。


 1、火力職

 2、タンク職

 3、妨害職

 4、支援職


 これらのうち、俺の『鎌術師』は妨害職に分類される。


 そもそも職業というのは、生まれつき神様に与えられている不変のもので、基本的には生まれ持った職業から変わることはない。

 そして職業は、自分が何に適しているかを知ることができる、才能を明示化したものだ。

 

 火力職の代表的なものに『剣士』や『魔導師』があり、タンク職では『重剣士』、妨害職では『デビルキャスト』など。

 それから一般的なもので『村人』や『商人』なども、戦闘職だけでなく、様々な職業が存在している。

 

 職業は生まれながらに神様に決められていて、戦闘に適した職業を得た人物はだいたい稼ぎの良い冒険者になる。

 もちろん『剣士』で農業をやる人のような例外もあるが。


 職業は、『才能の差』だ。

 基本的に基本職『剣士』がいくら努力したところで、上位職の『聖騎士』には勝てない。

 もし『剣士』が『聖騎士』に勝てるとしたら、それは時の運である。


 そして俺の『鎌術師』は妨害職としてかなり性能の高い職業で、妨害が1人パーティーにいればだいぶ戦闘が楽になるので、重宝されることが多い。


「鎌か。使うスキルはピーキーだけど、たしかに頼りになるよね」

「俺も一応、ゴールドランクの冒険者なんで」


 ちなみにアーニャの職業は、最上位職のうちの1つ『幻影騎士』だった。

 多彩なスキルと高い攻撃力を持つ火力職で、だからこそアーニャは冒険者としてすぐに頭角を現すことができた。


「そう言うエアの職業は、なんなんだよ」

「私? 私は『ヴァルキリー』」

「すげえな。お前も最上位職なんだ」


『ヴァルキリー』は【天使術】という、従来の魔法よりも優れた効果を発揮する、特殊な魔法が使える。

 支援も火力も同時にこなせる職業で、どのパーティーやクランでも、引っ張りだこの才能である。


 しかしエアは、俺の賞賛を吐き捨てるような表情で否定した。


「なにがすごいもんか。こんな職業、私はいらなかった」

「なんで?」


 俺の純粋な疑問に、エアは一瞬ひるんだが、やがて無表情に戻って言った。


「……だって、最上位職なんかなくても、私って綺麗だから」


 美人のエアは、無表情のまま腰に手をあてて、平坦な胸を前に突き出してみせる。


「あー、はいはい。それはよかったですね。

 つーか、お前、天使なんてガラじゃなくね……?

 どっちかっていうと、悪魔か堕天使」


「うるさい。鎌に言われたくない」


 俺の悪態を、エアは涼しい顔で受け流す。

 大部分の職業では、【魔法】、【スキル】、【アビリティ】、という3種の特殊技能を使うことができる。


【魔法】は、その名のとおり魔力を大きく消費して行う技のことだ。

 スキルやアビリティより効果範囲が広く、汎用性の高い技。


 攻撃魔法から、防御魔法、妨害魔法、治癒魔法と、様々な種類の魔法がある。

 職業で言うと『魔導師』や『聖術師』が、広範囲の魔法を取得できる。


 また俺の『鎌術士』やエアの『ヴァルキリー』は、魔法で自在に武器を消したり具現化させたりすることができるので、便利だ。



【スキル】は、これも魔力を消費して行う技だが、魔法より消費魔力が少なく、また効果範囲が狭い。

 たとえるなら、魔法の『ファイアーストーム』が中範囲を攻撃する技なのに対し、スキルの『フレイムラッシュ』は火炎の単体攻撃の技である。


 『剣士』や『武闘家』、『聖騎士』が多くのスキルを取得していく。



【アビリティ】は、魔力を消費せずに、常時効果の恩恵が得られるものを言う。

『剣士』の筋力上昇アビリティであったり、『武道家』の回避ステップ力の上昇、『魔導師』の詠唱短縮。


 アビリティは常時発動型で、効果も普遍性のあるものが多い。



 この3つの技を効率的に取得できるかどうか。

 そしてハイランクのものを覚えることできるかどうかは、本人の努力もあるが『職業』自体の性能差によるところが大きい。


 エアと並んで歩いているうちに、星海の向こうから魔物が襲い掛かってくる気配がした。


「おっと、やっこさんが来たよ。

 ちょっとは戦闘で役に立ってよね、イシカ」


「おう。逃げ足なら任せとけ」


「ダメじゃん……」


 辟易(へきえき)とした表情で、エアが虚空から光輝く剣を生み出した。

 それに習い、俺も魔法で鎌を具現化させる。


 俺たちは武器を構え、魔物の襲来に備えた。

 現れた魔物は、片翼を失った中空に浮かぶ堕天使のような姿をしていた。


 魔物は手に、大きな三枝槍(さんえそう)を持っている。


「フォーリンエンジェルか。

 イシカ、せめて死なないように!」


「分かってら」


 エアが輝く剣を手に、フォーリンエンジェルへと突っ込んでいく。

 堕天使の魔物はエアの突進に対し、三枝槍を大きく掲げた。


「キィィ――!」


 フォーリンエンジェルの槍から閃光がきらめき、魔法が行使される。

 雷の魔法だった。


 魔物が中空に掲げた三枝槍から、三本の電流がエアに向かって伸びていく。


「ふっ――!」


 電流の攻撃を、エアは光輝く剣でもって叩き落とした。

 エアを襲った電流が叩き壊され、効力を失って消滅していく。


 ――マジックパリィング。

 上位剣スキルのうちの1つだった。


「すげえな……」

「イシカ! 黙って見てないで働く!」

「わーってるよ!」


 俺は自分の身長よりも大きな鎌を手に、フォーリンエンジェルに突っ込んでいく。

 エアに気を引かれていた魔物は、俺の近接をあっさりと許し、俺はフォーリンエンジェルに鎌で切りつけた。


「『アームカット』!!」


 魔力効果のある、『鎌術師』のスキルの行使である。

 『アームカット』は、魔物のあらゆる攻撃行動を60秒間できなくさせるという、神のような効力を持つ。


 鎌で切りつけたフォーリンエンジェルは、両腕が使用不能になって攻撃できなくなった。

 慌てて逃げようとする魔物にステップインして、俺は続けざまにスキルを叩き込む。


「『レッグカット』!」


 今度は両足を鎌で切り裂き、魔物の移動を封じるスキルだ。

 レッグカットによって魔物は身動きが取れなくなり、その場に棒立ちとなる。


「ラスト! 『ワームプリズン』!」


 攻撃も回避も不能になったフォーリンエンジェルに、俺はワームプリズンという、魔法でできた檻に魔物をはめ込んだ。

 これは魔法・スキル・アビリティの使用をすべて不可能にさせる、魔法の(おり)だ。


 腕と足が使えない状態で、この魔法の檻(ワームプリズン)に入れられた魔物は、為す術無く倒される運命にある。

 妨害職の面目躍如。身じろぎすらできず、あとは火力にタコ殴りにされるしかない魔物の、一丁上がりである。


「エア! あとは頼んだ」

「了解」


 俺がステップバックして下がると同時に、入れ替わりにエアがフロントステップで前に出る。

 すべての行動が不能になったフォーリンエンジェルを、エアは光り輝く剣で真っ二つに切り裂いて見せた。


 魔物が悲鳴を上げて消え、ドロップアイテムとして魔石を残した。


「ふう」


 エアは汗1つかかずに、下に転がった魔石を拾い上げ、バッグの中に入れた。

 ドロップアイテムは各自が拾っておいて、迷宮探索が終わった後にきっちり精算するのが冒険者の習わしだ。


 戦闘が終わって、エアは俺をじっと見つめていた。


「な、なんだよ」


「いや……思ったより、よほど優秀だった。

 なんでこの実力で、ゴールドランクなの?

 プラチナランクでもおかしくない」


「冒険者ギルドの評価方法が、火力に偏重(へんちょう)しているだろ」

「そうか……。たしかに高ランクの冒険者で妨害職って、あまり見ないもんね」


「おまけに、火力がいなければ妨害は何もできないからな」

「そっか」


 エアはうんうんと頷いている。


「魔物のハメ方が非常に上手かった。

 腕と足を切って、それで檻に入れるんだね」


「ま、これが妨害職の仕事なんでね」


「いいよ、すごく戦いやすい。

 次からもこの調子でお願い」


「あいよ」


 エアの称賛に、俺はそっけないふりをして答える。


『鎌術師』の覚えることができるスキルは、本当に神スキルなものが多い。

 今回使ったスキルは、以下の3つだ。



『アームカット』

 60秒間、敵のあらゆる攻撃を封じる効力を持つ。



『レッグカット』

 60秒間、敵のあらゆる移動を封じる効力を持つ。



『ワームプリズン』

 敵を魔法で作り出した檻に封じ込め、すべてのバフ効果・魔法・スキル・アビリティを封じる効力を持つ。



 こういう豊富な妨害スキルは妨害職しか覚えられることができず、そもそも妨害職になれる冒険者が少ないから、妨害職はパーティーでは頼られることが多い。


「先に進もうか、イシカ」

「あぁ」


 戦闘の余韻に浸っていた俺を置いて、エアは冷淡な表情で先に進んで行く。

 その背中を慌てて追いかけて、俺は声をかけた。


「まぁ、なんだ。しかし、エアも本当に強かったんだな」


「言ったでしょ。私もアーニャと同じプラチナランクなの。

 でも、ま。よかった。

 イシカの練度なら、私も安心して背中を預けられる」


「後ろからグサッと行くかもしれないけどな」

「こらこら」


 肩に背負った鎌を魔法によって消して、俺はエアの後を歩きながら言った。

 エアが珍しく苦笑している。


「しかし、俺の本職は戦闘じゃなくて、頭脳労働なもんでね。

 頭を使うのが専門なんで」


「なにが『頭脳労働が専門』なんだか」


 やれやれだよ、とでも言わんばかりに、エアは大げさに肩をすくめていた。

話が面白かったら、ぜひポイント評価やブックマークをよろしくお願いいたします!!

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