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第4話:星乙女の迷宮

 アーニャの手紙を発見した翌日。

 俺とエアは実際にアーニャが失踪したとされる『星乙女の迷宮』の調査に乗り出すことにした。


「はーい。それじゃあー。イシカくんとエアちゃんのパーティー結成の届け出を、確かに受理いたしましたあー」


 語尾が甘ったるく伸びる冒険者ギルドの受付嬢に、俺とエアはパーティ結成の届け出を提出していた。


 パーティーは冒険者同士なら、ギルドに申請せずとも誰とでも気軽に組むことができる。

 が、顔見知り程度の冒険者同士でパーティーを組む際には、入手したアイテムやゴールドの分配で、揉めることが多い。


「この装備アイテムはあの時は俺に譲ってくれる話だった」、「私は魔導師だからポーション分は経費でもらえるはずだった」、などと。

 報酬分配時に、あれを言ったこれを言わなかったで、喧嘩になることも多々ある。


 そのようなトラブルを仲介に入って解決してくれるのが、冒険者ギルドの一つの仕事だった。

 冒険者ギルドにパーティー申請をしておくと、書面で契約の証拠ができるから。


 そういう意味で、冒険者たちはギルドにパーティー申請する。


 誰とでも組めるパーティーと違って、アーニャが入っていたクランという組織はまた別のものだ。

 クランは基本的に10~50名ほどの冒険者で構成される、パーティーより1つ格が上の組織だが、クランは内部の規則や規律が厳しいところが多い。


 クランという組織は一度加入したら余程のことがない限り脱退は認められず、クランでの金策狩りやレベル上げもほぼ強制参加しなければならないという話だ。


 クランメンバーはクランの発展のために尽力する必要があり、厳しいクランだと上納金制度もある。

 クランマスターや幹部の意見は絶対、だとされている。


 パーティーが友達同士の付き合いとするなら、クランは家族だ。

 そして『友達』と『家族』を総まとめに管理している親分が、冒険者ギルドという存在だった。


 ギルド > クラン > パーティー

 

 と、こう言ったパワーバランスで、冒険者業界は確立されている。


 アーニャが裏切った(と思われている)のは、クランという名の『家族』である。

 家族の裏切るような女には、相応の制裁が待ち受けている。


 俺は、真実を明らかにして、アーニャを悪評から救いたかった。


「ち……アーニャの名誉は、俺が必ず取り戻してやるからな」


 小さく誓いの言葉をつぶいた。

 冒険者ギルドではアーニャの身内だった俺にも、白い目、あるいは同情的な目が向けられている。


「イシカ、あまり気にしないで。行くよ」

「あぁ、分かってる」


 俺はエアを伴って、冒険者ギルドの外に出た。



 ◇ ◆



 俺が生活する迷宮都市ラヴァンダには、その地下空間に物理的な制限を超えた、大小様々な迷宮が存在している。


 迷宮の中は魔力の源で満たされており、最奥部にある『コア・クリスタル』に到達すれば、晴れてタンジョンクリアだ。


『コア・クリスタル』からは、数々の貴重な魔法アイテム、装備を手に入れることができる。

 冒険者は基本的に迷宮のクリアを目標にし、その希少な魔法アイテムを売った上がりで生活する職業だ。


 また迷宮を最後までクリアできない場合でも――そのケースの方が大多数だが、途中で出現する魔物を倒せば魔法アイテムの素材となる魔石を落とすので、それを売れば生活が成り立つことが多い。


 このようにして、迷宮都市の冒険者という職業は、迷宮探索によってそれなりの稼ぎを得ている。

 

 迷宮の種類や難易度もたくさんあって、この迷宮都市に来たばかりの冒険者初心者がよく入って小銭と経験を稼ぐのが、『アインツダンジョン』。

 これは別名・『ビギナー迷宮』と呼ばれていて、出てくる魔物もスライムやゴブリンと言った弱い種族が多い。


 ブロンズランクの時の俺も、安全に稼ぎたい時はよくアインツダンジョンに入っていた。


 他にも中級のシルバー・ゴールドランク向けの『ホロウダンジョン』から、上級のプラチナランク向け『エヴァリーダンジョン』、最上級のミスリルランクですら歯が立たない『デモンズダンジョン』などと、迷宮都市の地下空間には、物理法則を超えた数々の迷宮が広がっているのだった。


「よし。それじゃ、私とイシカで迷宮攻略していきましょうか」


 迷宮の入り口の前で、装備を点検し終えたエアが言った。


「『アストライアダンジョン』……。別名・『星乙女の迷宮』。

 その攻略難易度は、プラチナランクの冒険者たちが挑むと言われてる、高難易度ダンジョンだよな」


「だね。現在未クリア、最深到達層が45階層。

 だいたいどこの迷宮でも100層構成だから、もう半分ちょっとでクリアのダンジョンだね」


 エアは簡単そうに言うが、迷宮をクリアすることはとても難しい。

 すでにクリアされている迷宮は攻略方法が確立されているから、レベルや経験を積んで必勝法をなぞるだけでいい。


 しかし、未クリアの迷宮は、何が出てくるか分からない。

 攻略方法が確立されていない最深階層は、常にアクシデントとトラブルがつきものだ。


 どこにどんな罠があって、どういう攻撃を行ってくる魔物がいるかという情報がない。

 たまに初見殺しを行う魔物もいるので、油断ならないのだ。


 魔物は死んでも次から次に最深部の『コア・クリスタル』より生まれ湧いてくるが、人間は一度死んでしまうと人生が終わる。

 よって、未クリアの迷宮攻略は慎重にならざるを得ず、難関迷宮ほど遅々とした攻略進度で進むことになる。


「イシカ。アーニャたちが失踪した階層は知ってるよね?」


「あぁ、あの後。エアといったん別れた後に、もう一度ノエルに聞きに行った。

 アーニャにつながる情報が得られるかもしれないならと、クランの攻略進捗情報とマップを書き写させてもらったよ。

 最深階層の45階層にたどり着く前の、42階層で魔物との交戦中に、アーニャが失踪したらしい」


「オッケ。私の持ってる情報と相違ないね。

 じゃあ、42階層に一気にリフトするよ」


「え。お前、この迷宮にリフトできる記憶ポイント持ってんの?」


 俺は目を丸くする。

 リフトと言うのは、転移結晶を使って目的の階層に仲間を一気に運ぶ手法である。


 転移結晶は非常に高価な魔法アイテムで、迷宮に設定した記憶ポイントに一息にジャンプすることができる。

 転移結晶にポイントを記憶させるには、一度その場所まで行って結晶に座標を刻まなければならない。


 だが記憶ポイントが作られた転移結晶は誰が使っても、その場所に飛ぶことができる。


 だからこれを利用して、トップランクのクランは難関迷宮の中でも、経験値やドロップアイテムが美味しくてなおかつ魔物が弱い狩場のポイントを記憶させて、その転移結晶を市場で高値で売ったりしている。


 そういったポイントが記憶された転移結晶を利用して、パーティーメンバーやクランメンバーと一緒に階層を飛び越えるのが、リフト、と呼ばれる行為である。


「まぁね。私も前々から『ストレミーア』の動向はチェックしていたしね。

 ここの記憶がある転移結晶が役に立つかもと思って、買っておいて良かったよ」


「安い買い物じゃないだろうに……。つーか」

「なに?」


 俺はエアの顔をまじまじと見た。

 表情のない美貌がこちらを興味なさげに見返す。


「何のために」

「念のために」


 意味が分からなかったが、別にエアの事情に深入りするつもりはなかったので流した。


「まぁ俺はリフトがあってありがたいけどな。

 ゴールドランクの俺1人じゃ、42階層までたどり着くだけで苦労しそうだったし」


「じゃ、リフト行くよ」


 エアは転移結晶をベルトバッグから取り出し、頭上に放り投げた。

 落下の放物曲線を描いて地面に落ちた転移結晶はきらめく光を放って砕け散り、魔法の効果を発生させた。


 俺たちの視界が明滅し、一瞬にして迷宮の入り口から、幻想的な迷宮内へと転移する。



 ◇ ◆



 あたりを見渡せば、一面が星にあふれていた。

 闇に閉ざされた迷宮の中は、数多ある星の輝きによって幻想的に照らし出されている。


 天井に星の瞬きがあるだけでなく、地中にも星が埋め込まれているかのようだ。

 足下は水を固めたみたいな透明色の地面で、その中に輝く星が足下からライトアップしている。


 見渡す限り星の海、と表現するのが一番いい。


 俺たちは星乙女の迷宮、42階層に一瞬のうちに到達していた。


「いつ見ても、綺麗なところだね」


 エアが、ほうっと、優しいため息を漏らす。


「俺は星乙女の迷宮に初めて来たんだが、これは女が喜びそうな幻想的な光景だな」

「実際、魔物があまり出ない低階層は、カップルのデートスポットになっているからね」


「無愛想な美人と並んでも、デートしてる気分にはならないけどな」

「気が合うね。私もカッコイイ男性が好みなんだ」


「おいおい、俺はイケメンだろ」

「…………ハッ」


 そのエアの笑いは、男のプライドを刺激する、とても嫌な笑いだった。


「ま。冗談はともかく先へ行こう」

「だな……」


 俺とエアは、星乙女の迷宮42階層の探索を始めた。

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