第13話:迷宮に隠されていた真実
「ッ――!」
閃光がきらめく。
俺は遮二無二になってしゃがみこみ、一閃される剣を回避した。
目の前には能面のマスクをつけた男が、俺に向かって剣を振りかぶっている。
俺は即座に魔法で鎌を呼び出し、応戦した。
「エア! 無事か!? エアッ!」
呼びかけたが、エアの返事はない。
「チッ……、このままやるしかねえか」
「…………」
能面マスクの男は部屋の出口に陣取り、意地でも俺をこの小部屋から出さないつもりのようだった。
俺の『エヴァキュエートエリア』を張れば、半径10メートル以内では攻撃が無効化される。
出ようと思えば部屋からは出られるが、『エヴァキュエートエリア』を使用後は10分間のクールタイムが必要だ。
『エヴァキュエートエリア』は俺の切り札的スキルでもあるため、あまり乱用したくない。
「シッ――!」
能面マスクの男は息を吐きながら、俺に高速の剣戟を放ってきた。
鎌でなんとか応戦し、弾き返す。
剣と鎌がぶつかりあった時、威力強化の魔法光が、あたりに撒き散らされた。
能面マスクの男の攻撃は続く。
「フッ――!」
連続で繰り出される上段、中段、下段のパターン豊富な攻撃に、近接戦闘の本職じゃない俺は押され気味となる。
致命傷となる攻撃はなんとか鎌で弾くが、それ以外の腕や足への攻撃は防ぎきれない。
俺の肌を剣が切り裂き、血が流れる。
「ち……」
このままではやられるな。
『アームカット』か『レッグカット』を当てて、ここから逃げ出したい。
が、見たところこいつは剣士系列の職業だ。
近接戦闘のプロに1対1で、妨害のスキルが自由に当てられると考えるのは少し無理がある。
どうする。
『エヴァキュ』のクールタイムを惜しんでいる余裕はないか。
まずは『エヴァキュ』を使って攻撃を封じ、相手が動揺している隙に『アーム』、『レッグ』、『ワーム』の3連コンボを決めるか。
よし。それでジ・エンドだ。
素早く戦闘判断し、俺は鎌を振り上げて『エヴァキュエートエリア』を行使した。
紫色の半球体が、俺を起点として直径10メートルの大きさで出現する。
「っ!?」
剣を振りかぶって俺の首を狙っていた能面マスクだったが、突如として剣が地面に転がる。
「悪いね。このエリアの中では、あらゆる攻撃が無効化されるんだ」
そう言いながら、俺は能面マスクの懐に潜り込み、スキルを行使する。
「『アームカット』!!」
能面マスクの両腕を、俺の鎌スキルが切り裂く。
スキルが成功。
これでエヴァキュエートエリア外に出ても、能面マスクは60秒間、あらゆる攻撃ができなくなった。
「っ……!」
俺の鎌スキルを脅威に感じたのか、能面マスクは地面に落ちた剣を拾うことなく、部屋の出口から逃走しようとする。
「逃がすか! 『レッグカット』!!」
鎌を振りかざし、足を切りつける。
しかし、足を切り裂きはしたものの、スキルの効果は成功しなかった。
鎌で切りつけた部分から血を流しながら、能面マスクの男は速やかに研究施設から逃走していった。
「逃したか……」
惜しかった。『レッグカット』が成功していれば、移動が不能になる。
腕と足を切って、そこへ全魔法・スキル・アビリティを強制的に不能にする魔法の檻『ワームプリズン』に入れれば、いつもの勝ち確パターンだったのだが。
血を流しながら逃走した先を追うと、能面マスクはどうやら鍾乳洞を戻って地上に出たようだった。
研究施設の出口の外に、血が点々と続いていた。
「あいつを追うよりも、エアと合流したほうがいいな」
俺はそう思って、訓練場にいるはずのエアを捜しに向かった。
◇ ◆
能面マスクとの戦闘で窮地を脱した俺は、訓練場にやってきていた……が。
訓練場を捜索しているはずのエアはそこにはなく、ただぽかーんとした砂地が広がっているだけだった。
「エア! おい、エア! どこにいるんだ!?」
俺は叫びながら訓練場を一回りしてみたが、エアの姿は見つからない。
他の場所に捜索に行ったのだろうか。
もしそうだったなら、小部屋で戦闘していた俺に気づいても良さそうなものだが……。
そう思案に暮れていたら、足下でごつん、と何かにぶつかる感触があった。
「ん……?」
目を凝らして砂地を見てみると、そこには砂の中に隠された、地下への扉の取っ手があった。
「地下への、階段……?」
驚きながら、俺はそれを開けてみる。
地下へ続く扉の先は、予想どおり秘密階段になっていた。
エアはここを降りたのだろうか。
階段の通路になる燭台には炎が灯っていて、誰かがここを降りていったことは間違いなかった。
「エア! いるなら返事をしろ! エア!」
俺は叫びながら、階段を慎重に降りていく。
長く続く階段を降りきれば、そこは地下室が広がっていた。
その地下室には牢獄が設置されていて、そこには幼い子どもらしき、白骨化した死体があった。
「な……!」
そして、その屍が積み重なる牢獄の前に、白銀の長髪をしたエアが立っていた。
彼女は無表情で、白骨化した死体を見つめている。
「エア。ここで何をしている?」
俺の問いには直接答えることなく、エアは言った。
「……もう、イシカにも、ここがどういう場所だか。分かったでしょ」
含みのある言葉だった。
まるで最初から、すべてを知っていたかのように。
「お前は、最初から知っていたのか?」
俺は尋ねる。
エアは寂しそうな笑いを浮かべて、振り返り頷いた。
「ここは、人体実験場。
魔法的に優秀な戦闘マシーンを作り出すために、孤児となった子どもたちを拾ってきて、ここで育てているの。
特殊な薬物を使って、ね。
『ストレミーア』は、その人体実験に一部加担していた。
ここの胴元は、迷宮都市の闇組織を束ねるマフィアだけどね」
「『ストレミーア』が、マフィアのシノギに加担していたのか……。
アーニャが消されたのも、これを知ったからなのか?」
「そうだよ。あの子は、ここの秘密を知って、世間に暴露しようとした。
それで、クランとマフィアの関係者に消された。
正確には『消されそうになった寸前に、アーニャが失踪した』が正しいかな」
「アーニャが、そんなことを抱えていたのか……。
じゃあ、なんでお前は俺に近づいてきた?
あの本を見た。個体名、エア・アルライト。
お前も、ここの人体実験の被害者だったんだな」
俺の言葉に、エアは、しばらく瞑目していた。
「教えてくれ。エアは一体、何が目的なんだ?」
俺の言葉に、エアは地下室を超えた、遥か向こうの景色を眺める素振りを見せる。
それは、遠い遠い過去を思い出すかのような、郷愁の眼差しだった。
エアは、長い沈黙のあと、これだけを口にした。
「――復讐」
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