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第12話:研究施設

 鍾乳洞の果てにあったのは、大理石で造られた謎の研究施設だった。

 中に入ると、大きなホールのような場所に、薄い青色のカプセルや、なんらかの実験を行うであろう器具がそこら中に設置されていた。


「エア。これ、何を行うところだと思う?」

「…………」


 俺の問いに、エアは苦々しげに研究施設を見つめている。

 まるで、肉親の仇を見るかのような目で。


「エア」

「あっ。……な、なに。イシカ」


 エアは普段の無表情から、面白いぐらいに動揺していた。

 やはり、こいつは何かを隠している。

 それも、アーニャが失踪した件に関して、決定的な何かを。


「ここが、何を行う施設なのかと思って聞いたんだが」

「……分からない。魔物の住処にしては、さっきから出てこないよね」


 エアは首を横に振って答える。


「あぁ。あっちの小部屋を見てみよう」


 俺とエアはホールからつながっている小部屋に入ってみることにした。

 小部屋の中に入ると、42階層の石城で発見したようなベッドとテーブル、それから顔の切り取られた写真があった。


「ベッドとテーブルセット……。人間の匂いがするね」

「それに、またこの写真か……」


 テーブルの上にある、42階層の石城にあったのと同じ、顔のない写真。


「イシカ。これ、42階層の石城と関係があるよね」

「間違いなくな。もう少し探索してみよう」


「オッケ」

 

 俺たちは引き続き研究施設の内部を探索し、この建物の内訳は大きく分けて5つだった。



 1、様々な実験器具が置かれている大きなホール


 2、ホールからつながる、ベッドとテーブルが置かれている1〜2人用の部屋(これは複数ある)


 3、調理場のある大きな食堂


 4、30人ぐらいは入れそうな大浴場


 5、運動か、なんらかのトレーニングをするであろう、広い砂地の訓練場



 しかしこの施設のどこにも人影はなく、無人のままだった。


「人間の匂いが」

「果てしなくするな」


 エアと俺は頷き合う。

 一体、星乙女の迷宮で何が行われていたのだろうか。


「イシカ。私、訓練場を詳しく調べてみるつもりだけど、イシカはどうする?」

「そうだな……。不審人物の奇襲もないみたいだし、俺は小部屋に戻って探索してみるよ」


「分かった。何か発見したら呼ぶね」

「あぁ」


 エアと俺は二手に別れ、俺はまた人間の居住空間の小部屋に戻ってきた。

 それぞれの小部屋は殺風景な部屋で、部屋主の私物などはほとんど見て取れない。


 テーブルの引き出しを開けてみても、髪をとく(くし)や安物の銅鏡、霧吹きといった身だしなみを整える道具があるぐらいで、特にめぼしいものはない。


 俺はすべての小部屋をくまなく見て回り、最後の部屋にあたった部屋は少し内観が豪勢だった。

 ベッドとテーブルの他に、観葉植物が置いてある。

 この施設で1番偉いやつのための部屋なのだろうか。


「観葉植物の下に、何か置いてあったりするかも」

 

 そう思って持ち上げてみたが、何もない。


「空振りか……。次は食堂でも調べるかな」

 

 と諦めかけ、惰性の捜索でテーブルの引き出しを開けようとした時、一番下の引き出しが、ガッ、とつっかえて開くことができない。


「お」


 鍵でもかかっているのだろうか。


 俺は力を込めて、テーブルの一番下の引き出しを、壊れるのもかまわず無理やりこじ開ける。

 なかなか開かなかったので、鎌を魔法で呼び出して、『アーマーカット』を使う。


 スキルが成功したのを確認して、力任せに引き、ガキョッ、という鈍い音が響き、つっかえが外れた。


 その引き出しの中に入っていたものは、羊皮紙で作られた書籍だった。

 それをめくり、読み始める。


 

 書籍の中には、衝撃の事実が書かれていた。




『研究レポート』


 ケース1 被験体A (性別・女性 年齢・12歳)


 実験には比較的協力的で、未来予知能力に優れる。

 テストでも優秀な成績を残すが、平時から精神に不安定なところが見られる。

 時折、他の被験体と口論になり、暴力を振るうこともしばしば。


 この被験体は極度のストレスを感じると現実を否定し始め、「私は悪くない。私をいじめる世界が間違っている。だからお前らが悪なんだ」と口述し、研究員を激しく憎み始める癖がある。

 

 この現実認識能力の急激な低下は、薬物の投与をし始めてから見られだした傾向のため、薬の副作用である可能性が高い。

 薬物の投与が精神の病を引き起こす原因であれば、要改善。


 この被験体はいずれ人格破滅をまねく恐れが高い。

 テストでは優秀な成績を残せるだけに、惜しい。



 ○週間後。

 精神に発狂をきたす。

 廃棄処分に決定。




 ケース2 被験体B (性別・男性 年齢・11歳)

 

 性格は温厚で職員の命令にも従順だが、実験ではあらゆる数値を平均より大きく下回る。

 特殊な職業にも目覚めなかったため、研究の失敗例。


 データを収集のち、廃棄処分に決定。




 ケース3 被験体C (性別・男性 年齢13歳)


 あらゆるテストで、被検体トップの成績を残す。

 中でもエンパシー能力が非常に高く、相手の思考を読み取れるという、魔法を超えた能力を発揮する。

 

 よって職員や他の被験体の思惑や意図を先読みして、こちらに気に入られる言動を計算して振る舞えるため、被検体や職員関わらず研究施設の全員に好かれている。

 本人もその能力に自信を持っている様子だが、読み取りたくない他者の思考をも読み取るため、精神的な負担を抱えている。


 職員がケアすること。

 そういった特別な能力を持ちながらも、性格破綻も特に認められないため、まず間違いなく成功例。



 ○ヶ月後。

 精神に発狂を来きたす。

 廃棄処分に決定。




「な……なんなんだ……これ……!?」


 書籍の中は、そういう実験結果がずらーっと並んでおり、それを読んだ俺は驚愕(きょうがく)に震えていた。


 ここは……なんらかの、人体実験場だった……?

 それも、違法な。


 これがアーニャの言う、星乙女の迷宮に隠された闇……。

 アーニャはこれを知って消されたのだろうか。


 研究レポートを読み進めると、さらなる事実を、俺は知ることになる。




 ケース31 被験体E-2


 知能テスト、運動テストで抜群に良好な成績を残すも、心理テストでやや感情面の凍りつきが見られる。

 特に、親しくなった者に見捨てられる不安が強く、感情を殺して自我を制御しているフシがある。


 おそらく、幼児の頃に両親に捨てられこの施設にやってきたという生歴によるものだと思われる。

 薬物への耐性が非常に強く、投与を続けた結果、最上位職の『ヴァルキリー』を獲得。


 精神に多少の異常を抱えながらも、まともに社会生活を送れる唯一の成功例。


 以後、知能テストや運動テストでトップの成績を誇るも、14歳の時に施設から脱走。

 登録抹消処分。



 個体名 エア・アルライト




「え……?」

 

 俺はツバを呑み込んだ。

 

「エア……アルライト……?」


 信じようとして、なかなか事実が飲み込めなかった。


 その時、俺はぞっとした恐怖を感じる。

 何かが、俺の背後に潜んでいる。


「警告したはずだ。

 お前は、見てはいけないものを、見てしまった」


 心臓が、すくみ上がる思いがした。

 恐怖に心をバクバク言わせながら、俺はゆっくりと背後を振り返る。


 そこには、不気味な能面のマスクをかぶり、全身を黒い外套でおおった男が、剣を構えて立っていた。

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