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第10話:絶対絶命

 転移トラップにかかった俺とエアは、星の海のフロア・42階層とは全く別の階層に転移していた。

 夜天ような迷宮の天井に輝く星々はそのままだが、足下は暗く視界が悪い。


 あたりを見渡しても、星明かりだけが射す闇が広がっているだけだ。


「ここは何階層なんだろう……?」

「わからない。星乙女の迷宮であることは確かのようだが」


 俺が首を横に振ると、エアは美貌をわずかに歪める。


「あの転移トラップ、人為的なものだよね」


「間違いなく、な。

 どうやらあの血文字を描いた人間は、俺たちに石城を探られたくなかったようだな」


「何があるんだろう。あそこ」

「あそこに、『星乙女の迷宮の闇』があったりしてな」

「可能性は高そうだけど……」


 俺とエアは深刻な顔つきになって見つめ合った。

 ここが何階層で、どれだけの強さの魔物が出るのかハッキリしない以上、迂闊に歩き回るのは危険だった。


「エア。悪いんだが、転移結晶を使って42階層に戻れるか?」

「うん。やってみる」


 エアはサイドバッグから転移結晶を取り出し、虚空に向かって投げた。

 転移結晶が放物線を描いて地面に落ち、きらめくような輝きを放ちながら粉々になる。


 俺たちの体に光が輝いたが、しかし。

 その魔法効力が完全に発動される前に、光はかき消えた。


「転移が発動しない……?」


「おいおい、まさか。

 ここは転移結晶が使えない階層なんじゃないだろうな」


「それは困ったね」


 高難易度の迷宮には時折、転移結晶やマジックアイテムの類が使用不可能な階層もある。

 他にも魔法無効化階層や、物理ダメージが比率でカットされる階層、嵐や雷などの悪天候の階層。


 迷宮には様々なダンジョンペナルティが課せられる場所がある。


「この階層が転移結晶が使えないとなると、上の階層か下の階層まで行って、転移結晶が使えるところまで出なければいけないわけだけど」

「ここが星乙女の何階層で、どの地点にいるかどうかも分からないんじゃな」


 その時、俺たちの頭上で怪鳥の魔物が翼をはためかせながら飛んできた。

 その怪鳥は、俺たちを見つけると、「クワァァァァー!」と言う大きな鳴き声をあげる。


「…………」


 俺とエアは顔を見合わせた。

 次の瞬間。迷宮の地面を叩き鳴らすような、「ドドドドド!!」という大量の足音が迫ってくる。


「いしか。あれ、魔物呼んだんじゃない?」

「だろうな」


 俺とエアは顔を見合わせたまま、表情を蒼白にしてつばを飲み込む。


「もしかして、私たち、絶体絶命?」

「間違いなくな」

 

「ドドドドド!!」という迫ってくる大量の足音から察するに、数十を超える魔物の大群が俺たちを襲おうとしていることは明白だった。


「イシカ」

「エア」


「「逃げよう!!!」」


 一瞬のうちに互いの了解を得て、俺とエアは必死の形相で逃げ始めた。

 全力で走っても、魔物の大群は徐々に距離を詰めてくる。


「エア! どこかで『エヴァキュエートエリア』を張る! 

 60秒間は魔物の攻撃を完全にシャットアウトできるから、その間にお前の手持ちスキルで魔物をなんとか撒けないか!?」


「私が使える天使術に『ショートジャンプ』と『パーティーコール』という魔法がある。

 それで、逃げるだけならいけると思う」


「具体的な性能は!」


 俺とエアは走りながら、逃走作戦を練る。


「『ショートジャンプ』は直径20メートル以内の任意の場所に空間跳躍する魔法。

 『パーティーコール』は使用するヴァルキリー()の座標に、パーティーメンバー全員をコールする魔法」


「使えるな。ただ、平地でそれを使ってもあまり意味がない。

 遮蔽物(しゃへいぶつ)がある場所まで走って、そこで魔物を撒くぞ!」


「了解!」


 俺とエアは必死になって迷宮を駆け抜けた。



 ◇ ◆



「イシカ! 来てる来てる! 魔物の大群が目の前に!」


「分かってら! だがエヴァキュは『あらゆる攻撃を無効化』する空間を張る魔法だ。

 俺を信じろ!」


『ドドドドド!』という迷宮を揺さぶる音を鳴らしながら、俺とエアに魔物の大群が突っ込んでくる。

 俺たちの背後には地底湖が広がっていて行軍不能、目の前には魔物の大群が押し寄せてくるという、まさに背水の陣といった形だった。


 押し寄せてくる魔物の群れは、非常にランクの高い魔物で構成されていた。

 ゴブリンはゴブリンでもロードゴブリンや、デビルオーガ、ナイトメアスペシャルといった、トップ冒険者でも勝てるかどうか分からない凶悪な魔物ばかりだった。


 ここから推察するに、俺たちはかなり深い階層に転移させられたらしい。


 デビルオーガたちが集団で突撃してくる圧倒的な威圧感に、エアは思わず後ずさりしている。

 しかし、俺とて妨害職のスペシャリストと呼ばれた職業を持つ男だ。


 ただ単に物理が強いだけで負けるほど、甘くはない。


「『エヴァキュエートエリア』!!」


 俺とエアを起点として、10メートル大の紫色の半球が出現する。

 デビルオーガたちは紫色の半球の中にいる俺たちめがけ、勢いよく突っ込んできたが、そこで足をとられて次々に転んだ。


 この内部では、あらゆる攻撃行動が封じられる空間で、魔物の行動を不能にさせる。


「さすが、鎌の妨害スキル……!」

「言ったろ。エア! 攻撃を無効化してる今のうちに、飛べ!!」

「分かってる!」


 エアは目を閉じると、神聖な光を身にまとう。

 俺には意味が理解できない祝詞(のりと)をつぶやくと、エアの背中に光り輝く銀色の羽が生える。


 天使の羽だ。

 エアの身体を、荘厳な光が包み込む。

 

 ――ヴァルキリー。


 聖天使の職業の名に、嘘偽りはなかった。


「『ショートジャンプ』!!」


 エアが魔法を使い、一瞬にしてその場から消失した。

 そして地底湖の水上にエアが現れる。

 

 天使の翼をはためかせたエアは水没することなく、続けて魔法を行使した。


「『パーティーコール』!!」


 魔法の中でも特別な効力をもつ天使術が発動し、俺の身体がエアのもとに引き寄せられる。

 視界が暗転した直後には、俺は地底湖の水上に現れていた。


 あわてて浮遊するエアの身体をつかむ。


「っとと!」


 魔物の大群は地底湖の中までは入ってこれず、水辺で水上に逃げた俺たちを恨めしそうに眺めていた。


「1回のジャンプじゃ地底湖は渡り切れないから、数回イシカを地底湖の中に落としながら回収して渡るけど、我慢してね」

「翼で飛んでそのまま運んでくれよ」


「いや、ヴァルキリーの羽は『浮遊効果』はあっても、パーティーメンバーを連れた『飛行効果』はできないの。

 私1人なら飛行できるけど、多分『ショートジャンプ』で渡った方が早いよ」


「あ、そうなの……。

 じゃあそれでお願いします……」


「じゃ、行くよ」


 エアの身体が『ショートジャンプ』によって消失し、その瞬間つかまる場所のなくなった俺は地底湖の中へとざぶん! と落ちる。


 冷たい水に濡れたのもわずかのうちだった。

 また『パーティーコール』によって回収され、水上に浮かぶエアの下に引き寄せられた。


「つ、づめだい……」

「男の子でしょ。我慢しなさい」

「わーってら」


 それを数回繰り返して、俺たちは地底湖を渡って魔物の大群から逃れたのだった。

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