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転生魔王の高校生活  作者: 咲実
第一章 入学式と言う名の始まり
4/6

3魔目 部活動

「でも待てよ……勇者って女だったのか?」

「…………」


異世界では勇者と呼ばれこの世界に転生して現在は花の女子高生、袴田 勇女の表情が善人の呟きでひきつった……ビキィ!っと効果音が付きそうな勢いだ。


「そう言えば可笑しいわね……」


聖華も顎に手を添え勇者を思い出す。


確か異世界で最後に戦った勇者は全身を隙間なく覆うプレートアーマー……顔も完全に隠した兜を着けていたし実は素顔を善人も聖華も知らない。確かに声は低かったが男と判断するには微妙なくらいだ。


「う、うるせぇな!俺のことはどうだっていいんだよ!」

「俺?お前女なのに【俺】なの?いや、別に男女差別の気は無いけど口調も偉く乱暴だなぁ……」

「…………やっぱり声も前に聞いたときより高いわね」


善人と聖華が首をかしげると勇女は地団駄を踏んだ。


「だから俺のことはいいんだよ!」

「なあ、それにさっきクラスで会ったときは一人称って私だったよな?」

「そ、それは……」


勇女が後ずさった。何かすごく居心地が悪そうだ。


「もしかしてあれじゃない?」

「あれって?」


善人は聖華を見た。


「あの人もしかしたら男の娘なのかも……」

「なにっ!オカマなのか!?」

「しぃ!人には気付いて欲しくない性癖があるのよ。こういうのは気付かない振りをするの!恐らくさっきまで転生して何かしらの方法で女に成り済まして悠々自適に自分を晒け出して居たところだったのよ」

「な、成程……なら俺たちは黙って気付かない振りだな」


そうして二人は勇女に生暖かい視線を向けた。


「絶対なんか変な誤解しただろ……俺だって好きで女やってるわけじゃないんだよ!」

「つまり前は男だったんだな?」

「………………」


好き好んでやっていない……つまり遠回しに女なのは不服と言うわけであり前はよかったと言うニュアンスがあった……つまり統合すると……


「お前転生したとき性別反転したんだろ?」

「な、ななななななな!!!!!!!!!!!!!!!」


面白いくらい分かりやすい狼狽をした。いや、薄々最初から気づいていたけどまさかと言う心が先にあった。とは言え転生と言う事態が普通じゃないのであり得ないわけでもないと思える。


「成程ねぇ……女になっちまったのか~そりゃ御愁傷様~」

「同情するなぁあああああああああ!!!!!!!!!」


ぶちギレた勇女が右手にもったエクスカリバーを振り下ろした……そこからすさまじい衝撃波が唸りをあげて生まれると善人と聖華に目掛けて翔ぶ……だが善人は指をピッと衝撃波に向けると呟いた。


死の雷(デス・トール)


善人の魔力が瞬時に体外に出され善人の詔によって形質を変える。そして降ったのは雷と言うよりは巨大な一本の光の柱だった……それは衝撃波を押し潰した……もしも人に向けて放たれれば圧死は免れず同時に柱を包む電流が体を焼き尽くしただろう……


「止めとけって。女になった影響で今の攻撃の威力も落ちてる。それに別に敵対する理由なくね?」

「ある!何の目的があるんだか知らないけどな!お前たちの好きにはさせなないぞ!」

『目的?』


善人と聖華は首をかしげつつ互いを見た。


「そうだ!さぁ今度は何をたくらんでる!まあどうせ大方学校の生徒を洗脳でもして世界征服の足掛かりとかだろ!」

『……………………』


善人と聖華には全く身に覚えがない。世界征服とかそんなめんどくさいことを何で目指さなくてはいけないのだろう。と言うか他者の上はもう懲り懲りである。


「目的と言うか……目標ならあるけどな……」

「何だ?罪を告白か?良いぜ聞いてやる!」


善人は勇女に許可をもらって言う……ここは一つ誤解を解いておかないと面倒みたいだ。


「あのな勇者……俺はもう世界征服とかどうでもいいんだ。そんなことより目指すものがある」

「はぁ?世界征服よりヤバイことって何を考えてるんだ!」

「お前は何でそう悪い方にばっかり考えが行くんだよ!教えてやる!俺が目指すのはこの国でもっとも安定している職業だ!」

「………………は?」


勇者の顔がひきつった……え?まさか?みたいな目である。


「俺の将来の目標は……公務員だ!特に役所とかの事務員がいい!言っておくが警察とかじゃないぞ!平和的で静かな人生を送れる職を送りたいんだ!」

「……はぁ!?」


勇女は唖然とした。


「なに言ってんだ!魔王が公務員とか聞いたことないぞ!」

「あのなぁ勇者……俺はもう魔王じゃないし聖華もルキフグスじゃないんだ。二人で平和で静かに生活したいんだよ。もう何か戦うとか刺激とか要らないんだ。わかるか?」

「なんだよまるで俺が平和に暮らしたい奴を悪役にして剣向けてるみたいじゃないか!」


いやそう言ってるんですけど?と善人返しそうになったがそこは我慢だ。ここで怒らすと危ない……


「ていうか信じられるか!選びに選んで公務員志望って……もっとなにかないのか!若者らしくないぞ!」

「だってもう前の世界で数万年単位で生きたからあんまし精神的にはもう若くないし……割りと今の世界の今の生活気に入ってるしね。態々壊したいとかない」


それが本音だ。平和で静かに生きたい……それが元魔王の本音である……そもそも異世界でだって……いや、いまそれを言っても仕方ないな。黙っておく。


『…………………………』


暫しの間沈黙がその場を包んだ。そして、


「……ちっ」


勇女は剣をしまった。


「嘘は言ってないみたいだから見逃してやる」

「それは嬉しいね」


納得してくれて嬉しいよと善人が肩を竦める。しかし、だけどな……と勇女は続けた。


「俺はお前を信用はしてない!何れ本性を晒すに決まってるんだ!絶対に目を離さないからな……」


そう言ってどこかに合図すると結界が解けた……瞬きひとつすると人通りも戻っているし、勇女も消えていた……


「はぁ……生まれ変わって平和で静かで楽しい青春が待ってるはずが何で入学して隣の席の女の子に聖剣を向けられて猜疑心を向けられらなきゃいけないんだよ~」

「世の中儘ならない物よねぇ……」


善人がガックシ肩を落とすと聖華も嘆息したのであった……


余談だが善人が死の雷(デス・トール)で作った大穴は近所で宇宙人の襲来かと騒ぎになったのだが……まぁそれはどうでもいい話だろう。



それから数日……善人は胃の痛い思いをする羽目になった……何故なら勇女がジーッとこっちを見てくるのだ。一挙一足を監視されている……居心地最悪である。そんな人を抹殺できそうな眼で見ないでくれよ……怖いから……


そもそも前回は相手の頭に血がのぼっていたお陰で助かったが聖剣をもってる以上幾ら力が落ちたとはいえ危険なのにはかわりないのだ。


(あー……いやだいやだ……)


何て言う日が続いた日の放課後のことである。


「ねぇ鳴海くん、高橋さん。少し放課後面貸せ――もとい、少し付き合ってもらえるかしら?」


普段は猫を被っている勇女に声をかけられ善人と聖華は眉を寄せた……嫌な予感しかしない。なので断るのが得策だな。


『いや……』

「拒否権はないから」


嫌だ、と言い切る前に勇女に言われてしまった……


「さ、行くわよ」

「ガッデム……」

「はぁ……」


勇女に引きずられて善人と聖華の二人は教室から出ていった……畜生、何で平和に生活すら出来ないんだよ……もう魔王じゃないのに……



と言うわけで場所が変わり三人は部活棟にいた……元々部活に善人も聖華も所属するつもりは毛頭なかったのでここに来ることはないはずだった……のにここにいる……


余談だが秀学高校は部活も盛んで多種多様な部活があり野球部やサッカー部等のような一般的なものから良くわからない部活まで数多く存在し学校も存在を把握してないものまであるらしい……それは学校運営としてどうなんだろうとは思うが……


「着いたわよ」


と、他の生徒の目もあるため女口調の勇女が部屋の扉を開ける……その中には人影があった。


「お?」


中にいたのは一人だけ……綺麗なブロンドの髪を後ろで縛った小柄な背丈……丸い目にピンクの唇……この顔には覚えがあった……よく覚えている。


「お前確か……僧侶」

「はははははい!私は元僧侶です!本日はお日柄も良く魔王殿もお元気そうで……」

「魔王に礼儀払うんじゃないわよ」


前の世界では僧侶……正確にはシスターだった人物は勇者にチョップを喰らう。名前は知らないが確かにこんな風に気が弱かった……だが彼女が放つ魔法は侮りがたく攻撃魔法も補助魔法も回復魔法も何であろうと完璧に使いこなしていた。仲間の魔族もこいつに何十体と屠られたのも記憶に新しい……恐らく先日の結界を張った張本人だろう。勇女にはそんな能力はない。ん?待てよ……


ふと善人は視線を下に落とし……固まった。


「どうしたの?善人」

「聖華……僧侶の足元を見ろ」

「はぁ?いったい何が……え?」


聖華も固まった……何故ならそうだろう……異世界ではシスターと呼ばれた人物が……なんとスラックスを履いているのだから……


「何でスカートじゃないんだ?」


良く見てみれば男子制服を着ているのに善人と聖華は気づく……そしてそんな問いに元僧侶は答えた……


「私……男になりました」

『……え?』


二人はカチンコチンに固まった……そしてモジモジするな……もう違和感しかないぞ……


「あ、私の名前は桑原 祈って言います。よろしくです」

「だから何でそうやって敬語使うのよ!こいつらなんて適当でいいのよ適当で。しかもあんた先輩だろ!」


と、勇女が言う。本人目の前で言う言葉ではない。


しかし僧侶も性転換……しかしこれはまた男か女か服装以外では判断つかんな……って先輩?マジか……これで先輩……善人どころか聖華より小さい。


「で?何のようだよ」


と、いつまでも喋っていても仕方ないので善人は何故ここに自分達を呼び出し……いや、誘拐したのかを聞く。


「見て分からない?」

「わからないね」


そう善人は返すと勇女はやれやれと肩を竦める。


「ここは部室棟だぞ?」

「それはわかるよ。何でここに?」

「全く……おれは考えたんだ」


既に元の勇女が勇者だった頃の口調に戻り話を続ける。


「何時あんたらが本性を晒すかわからない以上このままにしておくわけにいかない。見張っておかないと危険すぎるしな」


全く信用がないようだ……少し位信じてほしいのが人情……いや、魔情ってやつだろう。


「だから二人とも。この今日立ち上げることになったオカルト研究会に入れ」

『……………………はぁ?』


善人と聖華は突然の勧誘とあんまりな論理に唖然とした。


「いや何で?」

「放課後も見張れるだろ?」

「いやだから言っただろ?おれは将来公務員を目指してるって……」

「どう考えたって嘘くさいわ!」


善人は何だと!っと眉を寄せた。こっちが頑張って目指す目標を嘘臭いとは勘弁ならんぞ!


「言わせてもらおうと思ってたがな!お前はこっちが必死に普通に溶け込もうってしてるのに邪魔すんじゃねぇよ!お前みたいなやつが犯罪の更正を阻害すんだ!」

「ふざけんじゃないねぇ!てめぇが前の世界で何をしたか分かって言ってんの

のか!」

「はぁ……」


二人の喧嘩が周りに漏れないように聖華はピンっと指を張ると一言呟いた。


「不可視の壁よ、音を絶て」


そう呟いた瞬間不可視の壁が善人と勇女を囲んだ……すると二人はまるでパントマイムでもやっているかのような光景を目の前で繰り広げる光景へと変わった。


「あ、お茶いります?」

「あ、すいません」


と、聖華は祈からポットのお茶を貰った。高級品と言う訳じゃ勿論ないが喉も乾いてたし美味しい。すると、


『………………………………』

「ん?」


ふと、聖華は善人と勇女の方を見ると二人がこっちに向かってなにかを叫んでる……あぁ、今結界で囲んでるからこっちに来れないのだった。


そう思い至り聖華はもう一度指を振ると結界は解除され二人の声が聞こえるようになった。


『なんで仲良くやってんだよ!』


二人の声は完全にハモった……


「だって善人……あんただって言ってたじゃない。もう私たちは魔王とルキフグスじゃないんだって。だったら別に喧嘩する理由もないでしょ」

「わ、わたしも仲良くやった方がいいかと……」


と、聖華と祈は言う……だが、


「俺だって喧嘩したくねぇよ!でもこいつがしつこいんだ!グチグチと何時までも同じようなこと言うしよ!」

「俺はこいつと馴れ合う気はない!本当は顔だって見たくない!だがこいつがなにかをすれば討伐した身としては責任感じんだよ!もう転生何てできないくらいきっちり消滅させとけば良かったってな」


ガルルルルといがみ合う二人……これは何と言うか……犬猿の仲と言うやつになってしまったらしい。善人も殺されたことに文句はなくともここまでしつこいとうっさい!とぶちギレるのも当たり前と言うやつだ。


「とにかくよ、もう一旦喧嘩はおしまい。善人、もう見張らせたいなら見張らせればいいと思うわ。どうせなにもしないんだしちょっと強引な部活勧誘にあったと思って諦めましょ」

「なんでお前はそう簡単に諦めんだよ……」

「だってどうせ帰宅部やるよりなんかの部活やってた方が面白いと思うわ。それに……そのうち飽きるでしょ。そしたら幽霊部員になっていいと思うし」

「飽きるか!」


勇女が聖華に怒鳴った。だが聖華は我存ぜぬと言わんばかりに明後日の方向を見ている。


「あ、あのぉ……魔王殿……」

「ん?」


すると今度は祈が善人に話しかけてきた。


「すいませんが……ここは引き受けていただけませんか?わ、私も今更世界をどうこうしようとかは思ってませんが……勇女ちゃんが……」

「勇女ちゃんいうな!しかもお前なんでそっちサイドなんだよ……」

「だって勇女ちゃん……もし世界征服みたいなの考えてたら普通もう動いてると思うよ?少なくとも何かしらの異変がこの世界に起きてるはずだよ?だって魔王とその右腕だもん。異変と言う出来事に前の世界と人間と違って慣れてないはずのこの世界の人たち相手なら半月で日本……一年もあれば世界の半分は自分の支配下におけるはずだもん」

「そうだそうだ」


善人が後ろで同意する……勇女の額に青筋が走った。


「だ、だけど……」

「ダメだよ、この人はまだ怪しい段階ではあっても被疑者じゃないんだよ?だったら相応に礼節をもって接するのが人でしょ?」

「うぅ……」


完全に祈が優勢だった。こう言う所がやはり元とは言えシスターなだけはある……相手を納得と言うか物事の道理を説くのはお手のものと言ったところだろう……勇女もタジタジだ。


「それじゃあ仲直りね」


そう言って勇女の手と善人の手をとると握手させる祈……それをされた二人は大きなため息をつくと……


「ヨロシク……」

「コチラコソ……」


お互いの手が軋むほど握り会うが顔だけはにこやかに……祈もその外見に騙され仲良くなったと笑うが聖華はしっかりその光景を見ていた……


「こりゃダメね……」


と、言う聖華の呟きが妙に部室に響いたのは余談だろう……

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