2魔目 避けられない出会い
善人達が通う【私立・秀学高校】は上の方が薄茶色で下がクリーム色である。その為周りからカステラと呼ばれているがそれば今はどうでも良いだろう。
さて秀学高校ではまず初日に入学式を行いその後ホームルームなのだが入学式の際に入学試験の際に行ったテストで最も優秀な生徒は新入生代表として壇上で話すことになっている。まあ入学できて光栄ですとか……勉学に励みますとか……その程度だ。そして今年の代表生徒は……
「春の陽気が心地よい日の中……」
善人である。善人は魔王だった頃から基本的に新しい物や珍しいものが好きだ。故にこの世界に転生してから漢字・数式・歴史・英語・科学と様々なことを片っ端から勉強した。
何をしても前の世界では見ることのないものばかりで楽しくてしかたがなくその結果……見た目に反して成績は異状に良い事になった。
だが善人が壇上に上った瞬間癇を起こしたり恐怖に心臓を鷲掴みされたような感覚を受けた生徒や緊張して変な汗を出しまくる先生に警察に連絡しそうになった父兄が居て少しだけ傷ついたのは余談だ。
さて、平和に?入学式も終えた善人と聖華は新しい教室にて座っていた。鳴海の【な】と高橋の【た】だが席が隣と言う凄まじい因果率を感じながら居ると反対側から声をかけられた。
「代表お疲れ」
「あ、ああ……」
突然話しかけられ少し吃りながら答える。
茶色に近い髪色で少し日焼けした顔にエネルギッシュな笑みを浮かべ好印象だが体の凹凸が少なくスレンダーな印象を受けるが姿勢も良いし武道を嗜んでいるのかもしれない。
「あ、私は袴田 勇女。宜しくね」
「ああ、よろしぐぅ!」
「?」
勇女は首をかしげる。いきなり善人は飛び上がったからなのだがそりゃそうである。いきなり聖華に足を踏まれた上にグリグリされたからだ……
(何すんだよ!)
(別に……)
テレパシーで文句言うとプイッとそっぽ向かれた。
すると、
「はぁい、新入生の皆さんはじめまして~」
のんびりとした口調……気さくそうな声色……そしてミニ……言っておくがスカートではない。背である。おおよそ140半ばだろう。まさか話し方的に担任だろうか……いろんな意味でありえない。
まあそれに関しては他のクラスメイトも思ったらしく微妙な空気だ。
「皆さんの担任の巨月 大虎です。皆さんの日本史の担任もしますよ」
なんと言うかネタなのかと言いたくなるような名前だ。見た目は大虎ではなく小虎である。いや、小猫だろう。
「ええと……先ずは自己紹介ですね。じゃあ出席番号一番の方からどうぞ~」
そうして自己紹介が始まる。大体名前、出身地中学、趣味とかである。中には彼女募集中とか言って笑いを取るやつもいた。
そして出席番号順ではまず聖華が最初だ。
「高橋 聖華です。趣味は散歩、特技は料理です。今年一年間よろしくお願いします」
『…………』
ぽわ~っとクラスの男女や先生まで見る。まあ魔性の笑みと言うか(魔族の魔性とか洒落にもならないが……)男女問わずに魅了するのが女型魔族の基本的な力だ。別段その気はなくとも一種のフェロモンみたいなものがどうしても出てしまいこればかりは仕方ない。
それからまた数人いくと今度は善人だ。
「鳴海 善人だ。趣味は読書。気軽に声をかけてくれ」
そうは言うもののクラスの全員が顔を逸らしてくるのだ。大虎先生ですらフルフル震えている。今年も会話するのが聖華一人決定だ。
寂しいことは寂しいし実際は魔術で顔を変えたりとか出来るがそれは魔力を無駄遣いだし(無駄遣いしても全く問題ないほどの魔力は所持しているが)何かの拍子に魔術が解けたときが面倒だ。だからこのままで良い。
それから他のクラスメイトも自己紹介していきその後解散となった……
因みに余談だが善人の反対側に座っていた袴田 勇女……彼女も顔立ちとさっぱりした性格から男女ともに人気が出てクラスどころが学年の人気を二分したのだが関係のない話だ……
「あんなに怖がることねぇだろ……」
「まぁまぁ」
善人がぶつくさ言いながらそれを聖華が慰める。あそこまでやられれば腹も立つし傷つきもする。体は頑丈でも心まで頑丈とはいかない。そこは人間も魔族も同じだ。
「で?これからどうすんだ?」
「そうね……入学祝いに何か何処かでお昼食べる?」
「そうだな……じゃあいつものファミレスで良いな?」
「OK、じゃあ取り合えず制服だけは着替えてからね」
端から聴いたらカップルの会話だが当人たちにそのつもりはない。いや、聖華は善人に対して好意を見せてるし善人もそれに対して突っ返すような感情はない。
今はこのままでいたい……そんなことを考えていたところに、
『っ!』
ピン!っと空気が張り詰めた……同時に周りを見渡すと人が一人もいない。元々そんなに人がいたわけでもないが人の気配すらしない。近くの家からも人のいる感覚がしない……
「異空間型の結界術……」
聖華の呟きに善人は頷く。この雰囲気……つい最近のように感じるが最後の感じたのは十六年前……まだサタン善人は呼ばれ、ルキフグスと聖華が呼ばれた頃に感じたものと同質だ。
因みに結界術にはいくつかの種類があり、薄い膜や不可視の壁のようなものを作り出して指定した場所を囲うよく漫画とかにも出てくるタイプの結界術に対象物を封印するための結界術……そして今回のは対象を先ほどまでいた場所と景色だけは同じ異次元に閉じ込める封印用の結界術に似ているタイプの物だ。
だがこう言うタイプのものは発動までに時間が多少掛かるし何より発動させても完成までにタイムラグがある。そのタイムラグがある程度でかければ善人と聖華は簡単に気づいたはず……つまりこの結界術を発動させた人物は相当高い技量を有している。
無論この結界術を壊すのは簡単だがこう言う異空間型は強引に壊して出ようとすると空間に閉じ込められる危険性がある。それは勘弁したいので最後の手段にしたい。
そして恐らく閉じ込めたと言うことは……
「まさかこんなに簡単に引っ掛かるなんてね」
「お前は……!」
善人は驚いた……聖華も唖然としている。目の前にいるのは今日同じクラスになって席も隣だった袴田 勇女……
「だけど初めてみたとき何かの冗談かと思ったわ……ねぇ?鳴海 善人……いや!」
すると勇女の両手に一つずつ魔方陣が現れ剣の柄が出てくる……そしてそれを引き抜き構えるとそれと共に溢れ出す善人や聖華の力の源、魔力に相反し、同時に魔族にとって猛毒のような力……天界が人に与えた神の奇跡【神力】……忘れもしない。自らの首と胴体を切り離した2振りの聖剣……《エクスカリバー》と《デュランダル》……攻撃用のエクスカリバーに防御兼持っているだけで使用者の肉体を常に最善にしようと言う力を持つデュランダル……この2振りの聖剣によって討ち果たされた……そしてその聖剣を持っているやつは恐らく一人……
「魔王サタン!そしてルキフグス!忘れたとは言わせない!」
「お前まさか……勇者か?」
善人の呟きに勇女は刃を向けることで答えた……