62話 ユウ
「おはようございます、ライさん」
「ああ、おはよう」
「どうしました?」
俺が体を起こしたまま動かないのを不審に思ったのかそう尋ねる。
「いや……なんでもない」
いつでもあの蛇に見られていることはラフには言わない方がいいよな。俺以上に慌てそうだ。教えるのもそれはそれで面白そうな気がするけどな。
ロキさんのところでご飯をいただき、そのまま会場へと向かう。ついに今日で終わりかぁ。決勝の方は問題ないだろうから問題は準決勝のユウのほうだな。それを何とかしなければ。
しかし何だろうか。今日は何かが違う。なんというか……感覚がさえているとでも言うのか?
そんな感覚に戸惑っていると隣りから声がかかった。
「今日で最後ですね。頑張ってください!」
「おう! アンリのためだもんな」
「にしてもアンリちゃんの方が先に結婚かぁ。……………ずるい」
「ん、何か言ったか?」
最後にぼそっと言った気がしたが気のせいだろうか。
そんな会話をしていると後ろからちょんちょんと服を引っ張られる。振り返るとそこにはレティがいた。
なんでレティがここに?
「どうしたんだ_」
「いや……ん、がんばって」
それだけぼそっと呟くように言って去っていってしまった。
「ライさーん? また新しい人に手を出してるんですかぁ?」
ラフからそんな声と共に何かどす黒いものを感じる。
ちょっと待て待て、またってなんだ。それに俺は手を出したりなんかしていない!!
「何言ってんだ。村に入ったばかりの時しかレティとは会ってないぞ!?」
「本当ですかぁ? じっくり話を聞く必要がありそうですね……」
「いやいや、本当にあってないからな?」
ラフの疑いがだんだん深くなっていく。そんなに疑われても本当のことなんだが。
後々ロキさんにでも証明してもらおう。
そんなことをしているうちに次の試合が始まろうとしていた。
相手は言うまでもなく、ユウだ。
「ユウ……怪我しないようにね?」
「ああ、絶対に勝ってくるさ」
「そういうことじゃなくて……」
レティが心配してくれるのかそう声をかけてくれた。
大丈夫だ、僕は絶対にあんな人には負けない。
あの人達を初めて見た時はなんでこんな辺ぴな村に来たのだろうと思った。
この村にこれといって何かがある訳でもない。
そう訝しみながら村へと案内した。まさかアンリちゃんが目的だとは。そして大会に参加すると言い出すなんて思いもしなかった。
だけど所詮はトレントに苦戦していたような人間だ。僕の相手ではない、そう思っていた……があの人は余裕で勝ち抜きここまで来た。
正直今の僕が勝てるかは分からない。だけれど勝たなきゃいけないんだ。アンリちゃんと結婚するためにも!!
そう決意してフィールドへと向かっていく。
そこにいるのは勿論ライさんだ。余裕そうにこっちを見下している。
こんな人に負けてなんてたまるか!!
目の前にいるユウに睨まれていた。なんで俺は睨まれているのだろうか?
睨まれる理由が思いつかないし、きっと試合に対する意気込みみたいなものなんだろう。
ユウの武器はユウの身の丈もある大剣だ。よくあんなものを両手とはいえ扱えていると思う。
それに対し俺の武器はいつも使っている短剣だけだ。結局こっちの方が使いやすかったしな。
そして今日はこの武器の方がなんかしっくりくる。
「それでは始めッ」
ロキさんの合図と共にユウは俺に突っ込んでくる。俺に向かってユウの丈ほどもある大剣を振り下ろす。
だが俺はそれを悠々と横にかわす。
なんでだろうか。凄くユウの動きが緩慢に見える。次どう動くのかが手に取るように分かる。
その後、そのまま横に薙ぎ払うのを後ろに飛んで軽くかわす。
「なっ!?」
流石に連続で悠々とかわされたら驚くだろう。俺自身も驚いている。
「くっ!」
自分の攻撃が当たらないことに焦ったのか、更に多彩な攻撃を俺に繰り出してくる。だが今の俺には止まってすら見えるその攻撃を軽くいなしていく。
「これで終わり?」
あまりにも呆気なく感じて、そう漏らしてしまった。
案の定、ユウは恨めしくこちらを睨んでいる。
「くそおおおおお」
叫びながらまた大剣を俺に向かって振るう。
だがそのどれも俺に当たることはなく無駄に終わる。
なんか必死になってるユウが可哀想になってきたな……さっさと終わらせよう。隙を見て少し体制を崩してやるだけであっさりとユウの体制は崩れる。恐らく攻撃が当たらなく、焦っていたせいもあってかあっさり前に倒れこみそうになる。
「うわ!?」
そこに一撃を加えてやるとそのまま声もなく崩れ落ちた。
「ふぅ……」
一番心配していた試合だったがあっさり終わったな。
しかし、この感覚は一体何だったんだろうか?
相手が何をするかが手に取るように分かるというか……どう動くのかが何故か分かった。
まぁ、便利だしあまり気にしなくていいか。




