56話 コロポックルの村3
「武器は基本的に自由、何でもいいわ。ただし魔法は禁止ね。この村に使える人がほとんどいないからね。どちらかが降参するか気絶したら終了。もちろん相手を殺したりしたら駄目よ? ルールはそれくらいね」
結局参加することになった俺はアンリのお母さんから説明を受けていた。試合自体は二日後にあるらしい。
しかし……魔法は禁止か。ワープや拳銃は魔法とみなされてしまいそうだな。使う事はできないか。
「それでもライさんなら負けませんよ!」
ラフはこういっているがこの村の人がどのくらい強いのかも分からないからな。油断はできない。下手に負けたりしたらアンリにも申し訳ないしな。しかし後二日で出来ることといってもなぁ。
「そうねぇ、戦いに関しては私よりこっちの方が詳しいわね」
そういえばロキさんは去年の優勝者か。
「そうは言ってもなぁ、特に僕から言えることは無いかな。それよりもライ君と手合せしてみたいんだけど……よかったらやらないかい?」
「はい! 是非!」
前回の優勝者だ。それにロキさんは相当強そうな感じがするし色々と教えてもらえるかもしれない。
こっちからお願いしようと思っていたぐらいだ。
村から少し外れた開いた場所でロキさんと向かい合う。ラフはアンリのお母さんが何か話したいことがあるとかで家に残っている。だから今この場にいるのは俺とロキさんだけだ。
「じゃあやろうか。ルールは大会と同じでいいよね?」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
そう言ってロキさんは刀を鞘に収めたまま構える。確か……抜刀術とか居合とか言われるものだよな。
これは下手に間合いに入るとやられるよな。俺の武器はこの短剣だ。とてもじゃないが突っ込んでロキさんの攻撃をどうにかできるとは思えない。かといって魔法を使うわけにもいかないしな。どうするべきか……
「このまま向きあっているのは性にあわないんでね。こっちから行かせてもらおうかな」
ロキさんはそう言い、一瞬で間合いを詰め、刀を振りぬく。俺はとっさに後ろに下がる。これなら当たらないはず……
「っ!?」
反射でロキさんの刀を短剣ではじく。なんだ? 今確実に間合いの外にいたと思ったのに刀が伸びたような……はじいていなかったら確実に当たっていた。というか俺もよくこの短剣ではじけたな。
「まさか避けられると思わなかったなぁ。まぁ、次は外さないけどね」
そうのんびりと言いながら再び刀を鞘に収め構えなおす。とにかく、振り切った後はそうすぐに構えられないはずだ。次をしのいでそのまま懐に突っ込もう。ロキさんが再び間合いを詰め、刀を振りぬく。
先ほどよりも大きく下がったが、やはり刀は俺の所まで届いている。先ほどと同じように刀をはじき、そのまま間合いを詰め……
「えっ?」
俺の目の前に広がるのは青い空。俺の体は地面に横たわっていた。そう、刀をはじき距離を詰めようとした時には正面にいたはずのロキさんの姿は消え、俺は投げ飛ばされていた。
「大丈夫? ライ君」
「あ、はい。大丈夫です」
倒れている俺にちかより、心配そうに顔をのぞき込んでくる。
「良かった。久々に本気でやっちゃったからなぁ。怪我をさせたらなんて言われることやら」
「それにしてもあの刀と最後は何なんですか?」
「ああ、この刀はね、伸びるんだよ。だから初見では普通避けられないんだけどね。最後のはただ単に刀を振った後にライ君に近づいて放り投げただけさ」
刀が伸びるって……それに放り投げただけといってもあの一瞬で近づくことができるものなのか?
「ははは、まあ獣人だしね。それぐらいは簡単さ」
そういえばロキさんは獣人だったな。しかしあんなに早く動けるものなのか。全く分からなかったぞ。
「ロキさんが昔戦った時はどうだったんですか?」
「僕が昔戦った時は大体一回目の抜刀で終わっていたからなぁ。一回目を避けられてもさっきみたいに次で終わってたしね」
そりゃあそうだろうな。あんなのとてもじゃないが避けられる気がしない。気付いたら目の前から消えているどころかいなくなったことにすら気付けなかったんだ。あれ? ひょっとしてロキさん相当強い……
「そんなことないよ。獣人の身体能力のお陰さ」
いやぁ、それだけではないと思うけどな。
「そういえばライ君はなんで短剣しか持っていないんだい?」
「?」
「武器だよ、武器。短剣だけだと色々と不便だろう?」
言われてみればそうだ。今手持ちにある武器といえばこの世界に来た時に小屋で手に入れた短剣と拳銃のみだ。そろそろ新しい武器を持ってみてもいいかもしれない。と言っても大会までに扱えるようになるものか?
「よし、じゃあさっそく武器屋にでも行こうか!」
そうロキさんに言われ武器屋に行くことに。そもそも村の中に武器屋があったのか。
村の中にある武器屋、やはりここもコロポックルの身長に合わせて作られてあるので小さかった。中には様々な武器が置いてある。サイズもコロポックルに合わせたものだけではなく一体誰が使うのであろうか、俺の身長と同じぐらいの大剣まであった。
「あれ、ロキさん? どうしたんですか?」
「ユウじゃないか。僕はライ君の武器を見繕いにね。ユウこそどうしたんだい?」
「僕は明後日に備えて武器を調整しておこうと思いまして。そうですか……ライさんも参加するんですか」
手を顎にあて、何かを考えるように黙り込む。それからいきなり俺に向かって、
「アンリちゃんとは僕が結婚するんですからね! 絶対に負けませんよ!」
そういって武器屋から出ていった。一体何なんだ? いや、確かに俺もアンリ狙いというのはその通りだが。そんなことを考えているとロキさんが説明してくれた。
「あー、昔からユウ君はアンリが好きなんだよ。村を出て行った理由にも関係しているんだけどアンリは自分より強い人じゃないと結婚したくないって言っててね、ユウ君は全く見向きもされていないんだよ」
そうなのか。じゃあ今回はユウにとってアンリと結婚するチャンスというわけか。そしてそこに俺という邪魔者が現れたと。ん……? でも今の話だとアンリより弱い?
「まあ、アンリが村を出る前の話だからね。今はどうなっているかは分からないよ」
ふむ。まあ油断はできないな。一応気を付けておくとしよう。
――――
「ふうん、そんなことがあったのね」
「ええ、大変でした」
一方その頃、ラフは家でアンリのお母さんと旅のいろんな話をしていた。
「で、結局ラフちゃんはライ君とどれくらい進んでるの?」
「進んでる……とは?」
「そりゃあもちろん……キスぐらいはもうしただろうしその先は?」
「そそそ、その先ですか!?」
「あー、その感じだと全然なのか。これはアンリの方が先にできちゃうかもね」
「で、できちゃうって……」
「そりゃあもちろん子供よ」
「っ……!!」
「あらあら、真っ赤になっちゃって」
このようにほとんどラフがからかわれていたが。




