25話 次の仕事
町に戻り宿に帰る。
宿に戻るといつもどおりセミラさんがいた。
「あら、お帰りなさい。一体そんなに長い間どこに行っていたの?」
「いえ、ちょっとラフの村に行ってました」
「そう……そういえば前から気になっていたんだけどラフちゃんって種族は何なの? 初めは鳥類系か
爬虫類系かとも思っていたんだけど……なんか違う気がしてならないのよね」
「種族ですか!? あの、その……ライさん……」
そううろたえながらラフが助けを求めるような顔でこっちを見てくる。別に適当に言っておけばいいものを……このさいセミラさんにも言っておいてもいいかもしれない。恐らくこれから長い間お世話になるわけだし、ずっと隠し続けるのも面倒だ。
「ラフ、セミラさんには言っておいてもいいか?」
「は、はい。私は別にかまいません……」
ラフにも許可を得たのでセミラさんに言う。
「ラフの種族は龍なんですよ」
「えっ……? ライ君、今なんて?」
「えと、ラフの種族は龍です」
「え!?」
そういってセミラさんは口をぽかんと開けたまま固まってしまった。あら? どうしたんだろう。
やっぱり龍だということはそれほど驚くことなんだろうか。
「ほら、兄ちゃん。これが普通の反応なんだよ」
そうアンリが俺に向かって後ろから話す。それからセミラさんが動くようになるまでしばらく待った。
「えっ!? 本当に?」
セミラさんが動くようになってからも何度も聞いてくる。よほど信じがたいのだろう。
「これからラフちゃんをなんて呼べばいいのかしら……ラフ様?」
「いえ、普段通りに接してくださいよ……」
それからしばらくセミラさんを説得するのに時間を使った。
「まさか……生きている内に龍に会うとはね……」
それにしてもセミラさんはあっさり信じたな。なんでだろう?
「元々ラフちゃんが只者ではない気はしていたからね。龍といわれたら納得だわ。それにしても龍と一緒に旅をしているライ君も何者なの?」
「俺は普通の人間ですよ」
「いや、龍と一緒に旅をしている時点で普通じゃないからね? 魔物と旅をしている時点でおかしいというのに……ひょっとしてライ君、魔王様だったり……?」
少し話が飛びすぎではないだろうか。なんで魔物と旅をしている=魔王様となるんだろうか。
そりゃ珍しい人間ではあるんだろうけど……
「なわけないです。普通の人間ですよ」
「そうよね……もしそうだったら私、驚きすぎて死んでたかもしれないわ」
いくらなんでも大げさだろう。アンリは共感できるのかセミラさんの隣でうなずいている。
「勿論誰にも言わない方がいいわね。村の事も聞かない方が良さそうね……というか聞いたら
私が倒れないでいられる自信がないわ」
まあそれに関してはそうして貰えると助かる。まあ信じる人などほとんどいないだろうが。一旦部屋に戻り、これからを考える。
「さて、これからどうしようか。今まで通りといってもどこに行く?」
「取りあえず私はライさんと一緒にいられるならどこでも……」
顔を赤く染めながらそう言ってくれる。ああ、もうラフは可愛いなぁ……
「兄ちゃんもラフ姉ちゃんものろけるのをやめてもらえるかな? 取りあえずはギルドで
仕事を見に行った方がいいんじゃないかな? 最近仕事をしていなかったんだし」
せっかくラフといちゃついていたのにアンリに止められてしまった。まあ、そうだな。最近仕事もしないでゆっくりしていただけだ。これではただのニートになってしまう。働くとしよう。
ということで三人でギルドへと行く。ギルドに行くと受付にはいつもゴーレムさんがいた。
「おう、お前ら、久しぶりだな。今日は何の要件だ?」
「なんか新しい仕事とかありませんかね?」
「仕事か……これなんかどうだ?」
そういって一枚の紙を出す。その紙には薬草の採取とあった。町からは遠く離れたところではあるが、期限はないし簡単そうだ。の割に報酬がいい。なんでだろうか?
「それはな……採取するの自体は難しくないんだがな、そこら辺で出る魔獣が厄介なんだよ」
なるほど、そういう事か。まあ、そんなに苦戦することはないし、ここまで遠いならほかの村にもよれるだろう。受けるとするか。
「では、受けさせてもらいます」
「おお、受けてくれるか。この薬草は結構消耗するからな……いつでも不足しているんだよ。じゃあ、よろしくな」
――――
「はぁはぁ……」
「大丈夫ですか? ライさん」
薬草を摘みにその場所まで歩いているわけだが……
ずっと歩いている。なのにラフとアンリには疲れた様子が見えない。これが魔物と人間の違いか……
「そろそろ休憩します?」
「いや、もうちょっとで日が暮れるしもう少し行こう」
三人の中で唯一男である俺がこれというのは情けない……
ゴーレムさんによると薬草の場所に行くまでに二つ程村があるそうだ。
どちらも人間を迎え入れてくれるところだといいんだがなぁ……
という事で今日は野宿だ。ラフは料理の準備をし、俺らは寝床の準備をする。
「なんかこうやってすごすのも普通になってきたね!」
そうだな……こうやってアンリやラフとも日常となっている。
この世界に来た時は一体どうなるかと思っていたが……
今ではのんびり楽しくすごせている。
「ありがとうな。ラフ、アンリ」
「いきなりどうしたんですかライさん?」
「いや、お前らのおかげでこの世界で楽しくすごせているなって」
本当にそれだ。ラフとアンリのおかげだ。
「お礼を言うのは私の方ですよ。私もライさんに助けてもらいましたし。それに……こうやって外に出る こともできました」
そうラフが微笑みながら言う。相変わらず嬉しいことを言ってくれるな。
「僕もだよ! 僕も兄ちゃん達がいなかったら今頃まだ一人寂しく旅をしていただろうしね!」
アンリもいつも通りの調子で元気よく言う。本当嬉しいことを言ってくれるな。
アンリとラフに会えて本当によかった。
そんなことを考えながら眠りにつく。勿論隣にはラフもいる。
記憶も取り戻したいが別にそこまで重要でもない気がしてきた。
このままこんな日々が続くといいな。




