23話 帰宅
村は以前と変わっていなさそうだった。
「へぇー、ここがラフお姉ちゃんの村か」
俺達は村に入っていく。
「お、ライにラフ? 帰ってきたのか」
村に入ってすぐロイが声をかけてくる。ロイを見るのも久しぶりだな。
「ちょっとエマさんの所に用があってな」
「そうか、まあいる間だけでもゆっくりしていけよ」
エマさんの所に行くまでにいろんな人に声をかけられた。
やっぱりこの村はいいな。ほのぼのとしていて落ち着く。
将来住むとしたらこんな所に住みたいな。
「一緒に……ずっと……」
そうラフの呟く声が聞こえた。
俺は違う世界から来たことや記憶がないことは話したが、まだ話していないこともある。
恐らく一年でいなくなってしまうことだ。
つまりラフと別れることとなる。いつか必ず言わなければいけないが……
「どうしたんですか? ライさん」
おっと、それを考えるのに夢中になっていたようだ。
なんでもない、そうラフに言ってエマさんの家に向かう。
「エマさんの家もひさしぶりだなぁ」
「こ、ここがそのラフ姉ちゃんのお母さんがいる家なんだね。
うぅ、緊張するなぁ」
アンリは村についてからずっとこんな様子だ。アンリ曰く、
「だって龍だよ!? その村にいるだけでそりゃあ緊張するよ!
なんかラフ姉ちゃんは大丈夫なんだけどなぁ」
もし最初からラフが龍だと分かっていたらどうしたんだろう?
今頃もビビっているのかな。
「もし分かっていたら喧嘩なんてうっていないよ! 即座に逃げだしていたよ」
本当にどれだけなんだよ。いくらなんでもビビリすぎだろう。
さて、こうやってずっと家の前にいても仕方がない。
早く家に入ろう。
「お母ーさん?」
「ラフ? あら、ライさんも。帰ってきたの?」
「まあ、聞きたい事がありまして……」
「そうなの。じゃあ居間でゆっくり話しましょう。
そっちのお嬢さんはどなた?」
エマさんの問いかけにアンリが慌てながら答える。
「ひゃい! あ、アンリ、シェーファーですっ! よ、よろしくお願いしましゅ!」
「あらあら、そんなに緊張しなくていいわよ。私はエマね。
まあ聞いていると思うけどラフの母親です」
アンリがすごい噛みながら自己紹介をする。
取りあえず皆で居間に行く。
「で、話ってなんなのかしら?」
俺達は、村を襲った奴らの事、勇者の子孫の事についてエマさんに話す。
「勇者の子孫……そいつらの対策ね」
「はい、どうにかなりませんかね」
エマさんはしばらく悩ましげな顔をしてから言った。
「そうですね、話しますか。まずその勇者の子孫が持っていたという石ですが……
恐らく私のお父様が作ったものです」
エマさんのお父さんというと魔王様のことか。まさかその人が作ったとは。
「その石は砕くと一定の決めた場所に戻れる物です。もうなくなっていたと思っていたんですが……
まさかまだあったとは……。対策は……難しいですね。使われるとどうしようもないです」
でも魔王様が作ったものだったんだな。なぜそれを勇者の子孫が持っているのかが分からない。
「お父様は勇者様と仲が良かったんですよ」
「え、勇者って魔物と敵対していたわけではないんですか?」
エマさんが言うには普通に仲が良かったそうだ。この村を立ち上げる時も手伝っていたらしい。
なぜその勇者の子孫があんな風になっているんだ? 偽物、とかではないよな。
「それともう一人の女性ですが……もしライさんと同じような能力なら対策の立てようが……
折角訪ねてもらったのに、お役に立てずすいません……」
エマさんでも駄目か……結局、何も対策が立たなかった。
その後、折角だし家に泊まっていくという事になった。
「ライさんは勿論私の部屋ですよね?」
ラフの部屋か……見てみたい気もするな。折角だしな! ラフの部屋でもいいだろう!
決してやましいことがあるわけではない。
アンリはこの間俺が泊まっていた部屋に泊まることになった。
とりあえず時間に余裕があるので久々に村をまわることにした。
「この村は面白いね! いろんな種族がいて。強そうな人も沢山いるねし!」
アンリが楽しそうに村を見ている。まあ、本当にここにはいろんな魔物や人間がいるからな。
そういえばアンリは戦ってみなくていいのだろうか?
「そ、そんな、さすがに龍のいる村に住んでいる人達とも戦いたくないよ……
いくら僕が強い人と戦いたいからって龍に関係する人達とは戦わないよ」
龍って聞くと普通はそんな反応なのかな? 今度セミラさんにでも聞いてみよう。
「あれ? ラフにライさん、帰ってきていたんですか!?」
お、ラウラだ。久しぶりだな。それから皆で俺達の旅についての話をする。
そうしている内に俺達を見かけた人達が集まり、村の人達がかなり集まっていた。
皆で話している内にすぐ日が暮れる。
もうこんな時間か。早いな。エマさんの家に戻る。
エマさんの家で夕食を頂く。久々のエマさんのご飯だな。
「美味しいね! 兄ちゃん!」
「ああ、美味しいな」
やっぱりエマさんの料理は美味しい。でも俺にはラフの料理の方がいいなぁ。
「ふふっ、ありがとうございます。でもライさんにはラフの料理の方がいいですよね?」
エマさんからそんな声がかかる。いや、確かにラフの料理の方がいいと思ったけれども……それを今言うわけには……
「そういえば今日はラフと一緒の部屋で寝るんですってね」
エマさんがこっちをニヤニヤしながら見てくる。
もしかしてもう気づかれているのだろうか?
エマさんに言っておかなければいけないよな。
いつ言おうか、まあ、ラフと相談してからにしよう。
ーーーー
長いな……
俺は今、ラフの部屋の前で待っている。
ご飯を食べて、ラフの部屋に入ろうとした時だった。
先に部屋に入ろうとしていたラフが急に、
「ん……? あっ! ライさん入らないで! すいません、ここで少し待っていて下さい」
入る前に扉を閉められてしまった。
中ではドタバタと何かを片付けるような音が聞こえてくる。
何か見られたらまずいいものでもあったんだろうか?
「お、お待たせしました……どうぞ、ライさん」
そういって部屋の中からラフが顔を出す。
なんだかんだ言ってラフの部屋に入るのは初めてだ。
部屋の中は小奇麗できちんと片付いており、沢山の可愛らしいぬいぐるみがあった。まさに女の子らしい部屋という感じだ。
「えらく可愛らしい部屋だな」
「そ、そうですか? やっぱりこんなにぬいぐるみを持っているのは子供っぽいですよね」
「そんな事ないと思うぞ。俺は可愛いと思うぞ。でもこんなにどこから手に入れたんだ?」
「えと……私が作ったんです……」
私が作ったって……ここにあるのを全部作ったという事か!?
凄いな、ラフにはこんな特技もあったんだな。
ラフの部屋でそのまま二人で話し続ける。こう二人だけで、ずっと一緒にいるのはとても楽しい。
色々なことをについて話す。これからの事。今までの旅の事。
「そういえばエマさんに俺達の事を話するか?」
まあするまでもなく、ばれているような気もするが……
「そうですね、早いうちに話しておいた方がいいですよね」
ラフも話す、という事でいいようだ。機会を見てエマさんには話しておくとしよう。
そのまま二人で話し続ける。その時間はあっという間だった。
ふと外を見てみると外が明るくなっていた。
「あれ……もう朝?」
「えっ……本当だ……」
ラフも驚いて外を見る。話すのが楽しすぎて、全く気付いていなかった……
いや、でも寝る時の心配をしなくていいのはよかったな……




