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20話 水浴び

「この度は本当にありがとうございます」


俺はあの勇者に子孫たちを撃退した後、クレアさんの家に呼ばれていた。もちろん俺が村に入ることに反対した魔物もいたようだ。俺も村に入るのは遠慮しようとした。だがクレアさんが周りを黙らせ無理やり俺を連れてきた。


「いえ、そんな……それより村の方は大丈夫だったんですか? 村も人間たちに襲われたとそうですが……」

「はい、村には死人一人いません。私の村には人間に遅れを取るような者はいませんよ」

そうなのか、それは良かった。でもあいつ等は何者なんだろうか。この間もこうやって村を襲っていて……本当に人間と魔物が争いをやめたことに反対している者達だけなのだろうか?


「そうですね……最近は襲われている村も増えています。調べておかないといけませんね。

 そんなことより少しお聞きしたいんですが……ひょっとして貴方は魔王様では……」

魔王様? 何のことだろう。


「魔王様とは、人間でありながら私達魔物の頂点に立った方です。魔物をまとめ上げ、人間との争いをやめさせようとした人ですね。ラフの祖父にあたる方です」

ラフの祖父はそんな人だったのか。だがなんでそれが俺という話になるのだろう。

しかもラフの祖父ということは何年前の話なんだろう。


「それは……貴方の雰囲気が魔王様そのものだからです。それに貴方が持っているその短剣と拳銃は魔王様が愛用していたものです」

「ちょっとまって、どうしてそうなる。大体人間ならもう生きているはずがないだろう!?」

「魔王様ならなにがあっても不思議ではないかと……」

「それにこの短剣と拳銃は偶々見つけたものだ。俺が元から持っていたものではない!」


そういうとクレアさんは残念そうな顔をする。

「そうですよね。魔王様が生きているはずはないですよね……すいません、あまりにも

 貴方と雰囲気が似ていたので……」

申し訳なさそうにクレア案はそう言った。

なんか気まずい空気になってしまった。どうしよう……


「よかったら祖父の話を聞かせてもらえませんか!?」

「魔王様の?」

ラフも祖父に会ったことがないのだからやはり気になるのだろう。クレアさんにそう言った。ラフの場合、龍と人間が結婚している。だから寿命が違いすぎるのだ。

龍にとっては百年などあっというまらしい。祖父にあったことがないのも当然だろう。

俺としてはラフの年齢が気になる所なんだが聞いても教えてくれなかった。毎回はぐらかされてしまっている。


「僕も魔王様の話を聞きたいな」

アンリもそう言い出した。


「魔王様の話ですか。話して差し上げたいところではありますが……エマも話さなかったのでしょう? それなら私からも話すことはできません」


「そうですか……」

ラフが落ち込む。にしてもエマさんはラフに話してなかったのか。一応違う世界から来ていたことは話していてみたいだけど……なにかあったのだろうか。


「申し訳ありません。代わりといってはなんですが、是非この村でゆっくりしていってください」

是非ゆっくりさせてもらおう、と言いたいところだけどこの村でゆっくりできるだろうか。

この村は人間を嫌っているんじゃなかったのか……?


「それに関しては大丈夫です。安心してください」

そう意味深にクレアさんがほほ笑む。一体なにをしたんだろうか。


今日はもうこの村に泊まることにした。もう日も暮れていたし、クレアさんが泊まっていけというので泊まらせてもらうことにした。


しかも……残念、いや嬉しいことにラフ達とは別の部屋である。ラフとアンリの部屋、俺の部屋に分けてくれた。さすがクレアさんだ。なにがさすがかわからないけど!

今日はぐっすりと眠れそうだ。本当ラフが一緒にいると落ち着いて寝られないからな。

決して俺が小心者なわけではない。誰だって隣で可愛い娘が寝ていたら眠れないよね?


「さて、水浴びにでも行ってくるか」

もう今日は水浴びをした後寝るとしよう。家の裏の森に泉があるそうだ。クレアさんが所有している物だから他に人が入ってくることもない。

残念ながら魔物側には風呂や温泉といったものは普及していない。水浴びが基本のようだ。

人間側には風呂や温泉といったものがあるそうだ。

ああ、早く人間側に行きたくなってきたなぁ。食べ物といい風呂といい……

俺には魔物側より人間側の方がよさそうだ。


着替えと体を拭くための布を持って家の裏に向かう。

「あら? 水浴び?」

行く途中声をかけられた。

「はい」

「そう、気を付けてね~」


何に気を付けるというのだろう。魔獣でも出るのだろうか?

不思議に思いながら家の裏にある森に入っていく。

月の明かりのおかげか森の中も明るかった。


少し森を歩くと先に木がなく少しひらけた場所が見えた。

「お、ここかな?」

そういって俺はそのひらけた泉のある場所に着くと目の前には一人の女性と一人の少女がいた。無論、ラフとアンリだ。

俺はとっさに木の裏に身を隠す。まさかラフとアンリが水浴びをしていたとは……

クレアさんも言ってくれればよかったのに……ひょっとして気を付けてと言っていたのはこういう事だったのか!? いや、気を付けようがない。どうしろっていうんだ。

木からこっそりとラフ達を見る。

ラフのほっそりとした体。大きいとは言えないが綺麗に形の整った胸、腰まですらっと伸びている黒髪、ラフの全身が月に照らされていた。

アンリは……うん、どこもまだあんまり成長していないな。これからに期待だな。

ってそんなじろじろ見て俺は変態かっ! ラフ達に気付かれる前に早く戻らないと……

そう俺が戻ろうとし始めた瞬間、ラフ達が気になる事を話し始めた。


「そういえばさ、ラフ姉ちゃん。正直兄ちゃんのことはどう思っているの?」

「えっ!? ライさんのことですか」

ふと足を止めてしまう。ラフが俺の事をどう思っているか、か……

正直すごく気になる。今まで短い間とはいえ一緒に旅をしてきた仲だ。


「そうそう、僕は兄ちゃんの事は大好きだよ! 強いし頼りがいがあるしね!」

おおう、嬉しい事をいってくれるじゃないかアンリ。勿論異性としてではなく、

友達としてだろうけどな!


「で、姉ちゃんは?」

「私にとってライさんは私を助けてくれた恩人ですし、やっぱりアンリちゃんと一緒で頼りになる方ですかね」

ラフも嬉しいことを言ってくれる。そんなに頼りにされていたのか!


「んん? 本当にそれだけ?」

「そ、それだけですよ」

「兄ちゃんが大好きで一緒にいられないと寂しいとかは?」

「そんなわけないじゃないですか! そ、そんなライさんが好きで離れたくないから旅について行ったとか! 決してそんなことは……」

「あはは、姉ちゃん自分で言っちゃってるよ。やっぱり姉ちゃんは兄ちゃんの事が好きだったんだね」

「あっ、あぅ……」

なんかいけない事を聞いてしまった気がする。ラフが俺の事を好きだって……

いや、確かに今までもそんな兆候はあった気もするが……

俺の勘違いだろうと思い気にしないことにしていた。

でもやっぱりそうだったのか。どうしよう、これからどんな顔をしてラフに会えばいいのだろうか。その前にとりあえずここから去ろう。今ばれたら不味い……


そう思い俺がワープを使いこの場から離れようとした瞬間、

「おーい兄ちゃん、兄ちゃんは姉ちゃんの事どう思ってるの?」

「え?」

アンリからそう俺に声がかかる。そう俺にだ。

え、ばれてたのか!? いつからだ、もしかして……最初から?


「ええええええ、兄ちゃんってライさんの事ですか!?」

「そうだよ、ちょっと前からそこの茂みにいたんだけど出てこないからどうしたのかなって思って」

アンリめ……このタイミングで俺に呼びかけるとか絶対確信犯だろ……


「じゃあ今の話も全部……?」

「うん! 聞かれていたと思うよ!」

アンリの楽しそうな声が聞こえる。くそっ、アンリめ。

とりあえずどうしたらいいか分からなくなった俺はワープで部屋まで逃げることにした。

部屋まで戻ってくる。

そういえばそうだった、完全に忘れていた。アンリには周りの気配を感じ取れる能力があったんだった…… 

焦って戻ってきてしまったが、ラフ達に謝りに行ったほうがいいよな。

でも……どうすればいいんだ俺は。



「おーい、兄ちゃん?」

兄ちゃんの気配がなくなった。逃げたな兄ちゃん。せっかく僕がここまでお膳立てしてやったというのに……

「あぅぅ……ライさんに聞かれてたの……」

ラフ姉ちゃんは未だにあわあわと慌てている。


正直兄ちゃんもラフ姉ちゃんも早く、くっつけばいいと思う。傍から見ていて付き合っているようにしか見えないし。まあ、兄ちゃんもラフ姉ちゃんの思いを知ったわけだし少し位進展するだろう。

ラフ姉ちゃんにも幸せになって欲しいしね!


僕は兄ちゃんの事を好きだけれども異性としてではない。だから兄ちゃんとラフ姉ちゃんがくっついても特に思うこともない。


「さっきはああ言ったけど、距離が遠かったし聞かれてないかもよ?」

「そ、そうですよねきっと。この距離ですし……」

そういってラフ姉ちゃんを慰める。まあ僕のせいなんだが。

まあ、聞かれてないということはないだろうが。


さて恐らく兄ちゃんは今日僕たちの部屋に謝りにくることだろう。

あの兄ちゃんだし間違いない。楽しみにして待つとしよう。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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