19話 勇者の子孫、再び
「今のは!?」
そういってラフ姉ちゃんは村の外に向かって走り出す。相変わらずラフ姉ちゃんは兄ちゃんのこととなると落ち着きがないなぁ。さえ、僕はどうしようか。仮に兄ちゃんが襲われているとしてもそんな簡単に死ぬことはないだろうし。村の周りに気配が増えているし、外も騒々しい。恐らく襲われているのだろう。僕は村を手伝った方がいいかな。
「クレアさん、僕も手伝う?」
「いえ、いいわよ。私だけでどうにかなりそうだしね。それよりライさんの所に行ってあげて」
そう言われた。ひょっとしてこれはクレアさんもかなり強いのではないんだろうか。龍であるラフ姉ちゃんのお母さんと知り合いだというし。是非手合せしてみたいな。
おっと、そんなことを考えている場合じゃなかった。僕も兄ちゃんの所に向かうとしよう。
兄ちゃんの所に向かう途中、村の中では人間と魔物が戦っていた。どうやら襲ってきたのは人間のようだ。元傭兵の集まりかな? そういえばこの間もどこかの村が襲われたと聞いたし。
僕を襲ってくる人間を撃退しながら兄ちゃんの所に向かう。村を出て少しするとラフ姉ちゃんと兄ちゃんの姿が見える。
兄ちゃんは少年と剣を打ち合っていた。いや打ち合っているというよりは兄ちゃんが遊んでいるように見える。少年の剣を軽くいなしている。どうして兄ちゃんは反撃しないのだろうか。
「ラフ姉ちゃん、どうして兄ちゃんは反撃しないんだい」
側で二人が戦っている様子を眺めているラフ姉ちゃんに聞く。
「どうやらあの少年に防護壁がはってあるようで……私もどうしようかと……」
防護壁か……ぞれなら……
僕は少年をめがけて走り出した。
ラフ達が村に行ったあと、暇で仕方なかったので魔法の練習をすることにした。旅に出てからも毎日続けているが実戦で使う機会は今の所ない。魔法を使うよりもワープや拳銃の方が使いやすく魔法より強いのだ。そっちの方が素早く使うことができるし威力も高い。魔法も練習したら強くなるんだろうが……
ワープと拳銃よりも使えるようになるのはいつだろう。この世界にいる間にそうなるだろうか?
まあ、練習あるのみか。そう思い、練習を再開する。周りの魔素を使い、様々な形の炎や、氷を作り出していく。飛ばしてみたりもするがやはり拳銃に比べて威力がない。
そんな風に一人寂しく魔法の練習をしていると目の前に二人の人間が現れた。
一人はすらっとした顔立ちの少年、腰に長剣をさしている。もう一人は妖艶、とでもいうのが
相応しいのだろうか、そんな女性。雰囲気としては魔女といってもいいかもしれない。
俺と一緒で旅でもしているのだろうか? でも、わざわざ魔物の村に来るのだろうか?
「また出会ったな! 今度こそ僕が倒してやる」
また……? こんなやつとあったことあったかな。
「どちら様でしょうか?」
「なっ、忘れたというのか! この間お前が僕を邪魔したんだろう」
邪魔した……ああ、この間の勇者の子孫というやつかな。面倒くさいなぁ。あれ、相手しなきゃ駄目なのかな。ラフ達を連れて逃げてもいいかな。隣りにいる女性も協力者なんだろうな。
「あれ? そういえば鎧は?」
この間は全身鎧で覆われていたはずだ。今日はそれがない。
「驚いたか! 彼女の魔法で防護壁をはってあるから鎧がなくてもいいんだぞ!」
手の内を晒してもいいんだろうか? それにしても防護壁か、ラフから聞いたことがある。
魔力が強い人だとどんな攻撃でも通らないほどかたいとか。
どれぐらいかたいかは分からないが、それを人一人分はれるということはあの女性も相当魔力があるのだろう。やっぱり逃げるべきだろうか。
「予定通り手を出さないでね。僕一人でやるからさ」
「ええ、分かってるわ」
そう言ってその女性は消える。転移魔法だろうか。前もこの少年がいきなり消えていたが普通にあるものなのか? とにかく敵は少年一人だけになった。これならどうにかなるだろう。
少年が剣を構え、こちらに襲いかかってくる。とりあえずワープで避けてみる。
「またそれかっ! 甘いっ!」
そういって少年は後ろに剣を振る。しかしそこに俺はいない。少年の剣は空気を切る。
「えっ!?」
俺は少年から少し離れた後ろにワープしていた。前回防がれたのにまた真後ろにワープするわけないだろ。色々聞きたいことがあるし、殺さないでおこう。体制の崩れた少年の足を狙ってに向かって撃つ。
そのまま少年にあたったと思ったのだが、少年の足を貫通することはなかった。防護壁か。拳銃の弾も防ぐのか、厄介だな。
「くらえっ」
「おっと」
再び少年が俺に向けて剣を振るう。俺はそれを軽くいなしていく。少年が弱いのだろうか、少年の攻撃を見切るのは簡単だ。
「くそっ」
少年が少し距離を取り手を俺に向け、炎の玉を出す。それも難なくワープでよける。
こいつの攻撃をかわすのは余裕だ。それにしてもどうしようか。このまま避け続けても終わりがない。
俺が攻撃しても防護壁によって防がれるだけだ。それをどうにかしないと……
そのまま受け続ける。発砲音を聞いてかラフが村からかけつけてきてくれたようだ。
「すまん、ラフ。こいつは防護壁がはってある。攻撃が通らないんだがどうにかならないか!?」
「防護壁ですか……すいません、少し考えさせてください!」
ラフの考えに期待しよう。それまでこいつの相手をしてやるとしよう。
しばらくしてからアンリも来たようだ。ラフが説明しているみたいだ。
「僕に任せて、兄ちゃん!」
アンリが少年の方にかけてくる。何をするのだろうか?
アンリは剣を抜き、後ろから少年に突き立てる。
いや、だから防護壁が……そう思っていた。だがアンリの剣は少年の防護壁を突き抜けた。
「えっ?」
「兄ちゃん! 後は任せるよ」
アンリは何をしたんだ? まあ、とりあえずは目の前の少年をどうにかするとしよう。
驚いている少年の頭を強打し、気絶させる。
「ふぅ、助かったありがとうアンリ。でも何をしたんだ?」
「説明していなかったけ? 僕の剣は魔法を無力化するんだよ」
いや無力化するって……強すぎないかなその力は。とりあえず目の前の少年を縛るとしよう。
起きて抵抗でもされたら困る。縛ろうとし始めた時だった。
目の前の少年が消えた。
「えっ!?」
少年は確かに目の前で横たわっていたはずだ。それが消えた。
今俺たちが見ている中でだ。
「ごめんねぇ。この子は頂いていくわ。捕えられても困るからね」
後ろから声がする。先ほど少年と一緒にいた女性が少年を抱え、そこにいた。
この女性はいつからいたんだ!? そしてどうやって少年を連れ去ったのだろうか?
「いやまさか私の防護壁が壊されるなんてね。だから私も手伝うって言ったのに。
この子は強情だからなぁ」
そうしみじみと女性は言う。
「お前は何者なんだ?」
「私? そうねぇ一応、人間の味方かしらね?」
一応? とはどういうことなんだろうか。そういうとその女性は少年を連れて消えていった。
結局何者だったんだろうか……
結局今回も勇者の子孫とやらを逃すことになってしまった。




