14話 少年との戦い
「ひどいなぁ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
この犬耳の少年はいつからいたのだろうか。
全く気付かなかった。俺は拳銃に手をかける。
「なんだ、お前は」
「そんなに警戒しなくていいじゃないか……」
そう言ってその少年は肩を落とす。
いや、誰だっていきなり現れたら警戒するだろう。それにさっきの発言からすると
俺らのことを見ていたということだろう。
「兄ちゃん達は強いね。それに面白い見たこともない武器も持っているしね」
拳銃のことか。確かにこの世界には他にはない武器だろう。
それにしても……
「何が目的だ?」
「目的かぁ……そうだね、僕と殺し合いをしおうよ!」
その少年は笑顔でそう言った。
「ちょっとまて。殺し合いだと?」
「うん、そうだよ僕はね、とにかく強い奴と戦いたいんだ。そっちのお姉さんも強いだろうけど僕はお兄ちゃんと戦いたいな」
「断るといったら……?」
「どこまでも追いかけるさ。兄ちゃん達みたいな人達と会えることは滅多にないしね!」
恐らくこいつは本当にどこまでも追いかけてくるだろう。たとえワープを使ってもだ。
これからずっとこいつのことを気にかけておくのも遠慮したい。
ここで相手をするのが一番面倒臭くないだろう。
「分かった。一対一でいいか」
「ライさん!? 受けるつもりですか?」
「ああ、どうせ逃げても追いかけられてくるだろうしな」
「それなら……私も戦います」
「いや、ここは俺に任せてくれ」
「でも……」
まだ納得のいっていない様子のラフを無理やり下がらせる。
「もういいかな? じゃあいくよ!」
そう言うと少年は十字架のような形をした短剣を両手に構え迫ってくる。
それを狙い拳銃を撃つ。しかしそれは難なく少年に躱される。
少年は俺に剣を突き刺そうと突撃してくる。
だが俺はワープで少年の後ろにまわり足を狙い引き金を絞る。
俺が後ろに回ったことには気付いていないはずだ。これで動きを止めることができる。
そんな俺の考えを少年は裏切った。少年はそのまま後ろを向き、剣で弾を弾いたのだ。
「あれ? お兄ちゃん 、殺す気できていいんだよ?」
まさか防がれるとは……
俺が呆然としていると再び少年が迫ってくる。
「くっ」
短剣を抜き少年の二本の剣を受け止め続ける。
「凄いね兄ちゃん。これを凌げるなんて」
剣を振りながら少年は楽しそうに笑う。
本当に戦えるのが楽しくてしょうがない。そんな様子だった。
いつもどおりワープで後ろに回る。だがこいつはそれに反応してくる。
後ろにワープした俺に向かって剣を振るう。
だがもうそれには驚かない、俺はもう一度少年の後ろにワープする。
またそれにも少年は反応してくる。そこでまた後ろにワープする。
そして少年はまたそれに反応する。
しばらくそれを続ける。俺はワープし続け少年は俺に後ろを見せないようにクルクル回っている。
やばい……ワープの使い過ぎで体力が……どうにかしないと。
そう思っていたとき少年が突然倒れた。
「あぅ……回りすぎだよぅ」
どうやら目を回して倒れたようだ。少年はとりあえず動けそうになかった。
しかし俺ももう体力がない。とりあえずその場に座り込む。
「兄ちゃんさすがだねぇ……」
「いや、俺は回り込んでいただけだ」
「その回り込むのがわけが分からないんだよ。いきなり目の前から消えるしさぁ」
いやそれに反応するお前もわけが分からないと思うんだが。
「大丈夫ですかライさん!」
ラフが慌ててこっちに走ってくる。
「大丈夫だ。特に何もない」
剣がかすりはしたがこれといって大きな怪我はない。
隣りのこいつも目が回って倒れているだけだしな。
「ええと……これはどうなったんですか?」
そうだ、一応戦いの途中だったはずだ。これはどうなるんだろうか。
向こうももう襲ってくる気配はなさそうだしな。
「僕の負けだよ。こうやって倒されたんだしね。それにしても手加減されて
負けるなんてね……」
「手加減したつもりはないんだけどな」
「嘘つかないでよ。兄ちゃんは僕を殺す気が全くなかったじゃないか」
まあ、確かに殺す気は全くなかった。なんとなくそんな悪い奴じゃないと思った。
俺達に危害を加えてくることに違いはなかったのだが。
とりあえず体力が戻ったら町に帰ろう。トカゲは置いて帰ろう。もう疲れた。
そういえばこの少年はどうするのだろうか。
「お前はどうするんだ? 俺達はもう町に戻ろうと思っているけど」
「そのことで頼みがあるんだ。兄ちゃん達は旅をしているんだよね。僕も連れて行ってくれないか」
えーと……さっきまで俺はこいつに殺されそうになっていたんだよな。
どうしてそうなるんだろうか。
「兄ちゃん達といつでも戦えるようにかな。それに兄ちゃん達について行くと
面白そうだしね! いい加減一人旅も飽きてきたし」
まあちょっとした手合せぐらいなら構わないだろう。
それにこいつはすごく強い。これからの旅に役にたってくれるだろう。
といってもそんなに戦闘があるかも分からないわけだが。
「俺は別に構わないが……ラフはどうだ?」
「私は反対です! そんな危険な人を連れていくわけにはいけません!
それに……ライさんと……」
なにか最後の方、ぼそぼそ言っていたが何を言っていたのだろう。
でも反対か、まあラフが言うのなら仕方がない。この少年には諦めてもらおう。
それを伝えようとしたら少年が、
「姉ちゃんちょっといいかい?」
そういってラフを離れたところに連れて行ってしまった。
「だからさ邪魔はしないからさ……それどころか……」
「っま、まぁそれなら……」
二人で何かを話している。少しして二人が戻ってくる。
「じゃあこれからよろしくね!」
戻ってきて少年はそう言った。あれ、ラフはいいのだろうか。
「はい! 人が多い方が旅は楽しいですしね!」
さっきとえらく態度がちがうが……一体何を話していたんだろうか。
何はともあれ俺達と一緒に旅をする人が一人増えたのだった。




