9話 襲撃
やっぱり眠れない。
隣りで女性が寝ているのだ。
隣りで寝ているとはいえ何かするわけでもないというのに……
そういえばラフからも寝息が聞こえない気がする。起きているのだろうか。
はぁ、どうしよう。やっぱり外で寝ようかな。
そんなことに悩んでいた時だった。
外で大きな音がした。
「なんだ? 何かあったのか」
「何ですか、今の音は!」
ラフが飛び起きる。やっぱりラフも起きていたのか。
それにしても何があったんだろうか。
なにやら悲鳴のような物も聞こえる。
「ちょっと見に行ってみるか」
家に村長さんもいなくなっていた。
どこにいったんだろうか。
外に出るとあちこちで炎が上がっていた。
「なんだ……なにがあったんだ?」
「ライさん! あそこっ」
ラフが指差した先には村長さんが人間と戦っていた。
人間が村長に剣を振るう。村長さんはそれを華麗にかわし、
持っている斧を振るった。戦っていた人間の首が飛んでいく。
村長さん、強いんだな。
「何があったんですか村長さん」
「今、人間達に襲われています。恐らく元々傭兵だった人でしょう。あなた方は逃げてください」
「そんな、逃げるわけにはいきませんよ」
そうだな、さっきから村から離れた場所から魔法が飛んできている。
逃げること自体が難しいだろう。
「俺達も手伝いますよ」
「いや、しかし……」
「どのみちこのままじゃ逃げられないでしょう」
「すまない……頼む」
さて、どうしようか。
とりあえず魔法を飛ばしてる奴を倒しに行こう。
恐らく見えてる場所だしワープで移動できるだろう。
もし逃げるとしてもそいつらがいるとどうしようもない。
「ラフはどうする? 俺は村の外の奴らを倒そうと思うが」
「私もライさんを手伝います。正直、一人では不安ですし……」
ありがたい。ラフがいればだいぶ楽になるだろう。それにいざという時に逃げるのが楽になる。
「じゃあ、村長さん。行ってきます」
もたもたしていたら村が焼け尽きてしまう。
俺はラフを連れて遠くで光っている場所にワープした。
「……えっ?」
村長さんが驚いていたことは言うまでもない。
――――
村から離れたところに六人の人間がいた。
「楽な仕事だよな。ここで魔法を唱えているだけでいいなんて」
「だな。襲われる心配もないし。報酬も高いしな!」
六人はのんびり話しながら村に向かって魔法を撃つ。
もちろん後ろに二人がいることに気付いている訳がなかった……
――――
いい場所に出たようだ。
敵の正面に出なくてよかった。
相手は人間が六人。油断しているようだ。
「ラフ、一番左の奴は残そう。右の二人を頼む」
小声でラフに言う。ラフが小さく頷く。
「いくぞ」
短剣で一人の首を落とし、そのまま隣の一人の首も落とす。
「なっ、なんだおま」
言い終わる前に三人目を殺す。
ちらっと横を見る。どうやらラフも何事もなく二人をやれたようだ。
残った一人が騒ぎ立てている。うるさいなぁ。
「なんだ、お前は! なぜこんなところにいる。そしてなぜ魔物の味方をしているんだ!」
そういってこっちに向かって魔法を撃ってくる。俺でも使えるような初歩的な魔法だ。
いつもどおりワープで後ろに回り込む。
「ごちゃごちゃ言うな。質問に答えたら見逃してやるから」
そういってそいつの首に短剣をあてる。
それだけでそいつはなんでも答えてくれた。
相手の規模は40人程度。ほとんどが元傭兵のようだ。
村の人数が60人ぐらいだから、勝つのは厳しいだろうか。
だいたいが食料目当てらしい。襲う計画を立てた奴だけは違うようだ。
「お前らでも敵うわけがない。なんせあのグリフィズ・オーエンの子孫だからな。
あいつは俺らと比べ物にならないぐらい強い」
グリフィズ・オーエン? 誰だそれ。俺が知っている訳もない。
「ラフ知ってる?」
「昔、人間側で勇者と呼ばれ、最も魔物を苦しめたとか言われる存在です。
まだ子孫がいたんですね。知らなかったです」
勇者とかいるんだな。やっぱ強いんだろうなぁ。
このまま村を放置して逃げるのもありか。所詮は一晩泊めてもらっただけだ。
その勇者の子孫とやらに負ける気もしないが、わざわざ実力のわからない奴に
突っ込んでいかないでもいいだろう。
そんなことを考えていたら
「早く助けに行きましょう! ライさん」
ラフがそう言った。見捨てる、という考えはないようだ。
仕方ない。ラフだけに行かせるわけにもいかないし俺もいくか。
「はっはっはっ、せいぜいがんばるんだな」
「ああ、せいぜい頑張ってくるよ」
そういってそいつを殺す。
「なっ、見逃してくれるって……」
「見逃す訳ないだろ」
見逃したらまた何をやらかすか分からないしな。
俺とラフはワープで村の入り口まで飛ぶ。
これだけ短い時間にたくさん使ったのは初めてだ。
さすがに疲れてきた。だがそんなことを言っている場合でもない。
村には魔物、人間があちこちに倒れていた。
この村の人達が強いのか、村の人達の方が優勢のようだ。
誰かいないかと探してみると村に入る時にいた狼の人がいた。
「どういう状況だ」
「おお、あんたか。大体は片付いたんだが……勇者の子孫とやらが
まだ向こうで戦っている。俺じゃ相手にならなかった……」
「分かった。任せろ」
「兄ちゃん!?」
その狼の人が言っていた場所に行く。
そこに行くと村長さんとそいつが戦っていた。そいつは全身鎧で覆われていた。
あれが勇者のとやらなんだろうか。周りで見ている魔物たちは敵わないのか
手を出せないようだった。
「もう仲間も死んだぞ、お前も諦めたらどうだ」
「仲間っ? 関係ないね。所詮こいつらは捨て駒さ。それにお前らなんて
僕一人でも十分さ」
「くっ」
そいつが村長さんの体性を崩し、そのまま村長に剣を振り下ろす。
だがその剣が村長さんに当たることはなかった。
「なんだお前は?」
「俺? ただの人間だが」
俺の短剣がこいつの剣を受け止めていた。
というか普通こんな短剣で受け止めれるものじゃなくね?
呑気にそんなことを考えていると
「フレイムランス!」
ラフの魔法だろう。炎の槍がこいつを襲う。
「ちっ」
勇者の子孫とやらが後ろに下がる。
これで距離ができた。いつもどおりワープで勇者の後ろに回り込む。
鎧の隙間から刺そうとした。
だが俺の短剣がそいつの首に刺さることはなかった。
剣を後ろに回して防がれたのだ。
「なっ!?」
一旦、ワープで距離をとる。どうしてふせがれたんだ?
「なぜ、分かった」
「前、戦った奴にも一瞬で後ろに回り込む奴がいてね。それ以来後ろには気を
つけているのさ」
それだけで防げるものなのだろうか。思ったより強いのかもしれない。
「あんた何で魔物の味方をしているんだ? 魔物は滅ぶべきものだろ」
「俺は魔物に恨みとかないんでな」
「恨みがない……? 何を言っているんだお前は。僕達はこいつらのせいで
苦しんできたんじゃないか。和解することが馬鹿げているんだよ。魔物の味方って
いうならお前も敵だ」
話になりそうではない。仕方ない、やるしかないのか?
「だが、さすがにお前と龍二人を相手にするのは分が悪いな。
ここは退かせてもらうよ」
そういって小さな宝石みたいなものを取り出す。
それを砕くとそいつの姿は光に包まれ、消えていた。
とりあえず村は助かったようだ。
またこいつと会うことになるんだろうか……
会いたくないなぁ。面倒くさそうだし。
そんな俺の願いも虚しくまた会うことになる。
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