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黒銀の魔眼剣士  作者: 神名一葉
第3章:強さを求めて
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第1の機会

sideレイア


後日

俺たちは目覚めた後、朝食を取って直ぐに街へ繰り出した。

俺とアヴァールとアリシアの3人と、ベルゼとエンヴィの2人という分け方だが、開始20分にしてただのデートと化している。


「肉ばかりだと思ったら案外美味しいものもあるわね。甘味とか」


「(むしゃむしゃ)ん・・・(むしゃ)、も、(ゴクン)淡白、で、(はぐっ)私好み」


「そもそも人口が少ないからほぼ全員顔見知りで、トラブルも滅多に起きないらしいな。あ、これ美味い」


アリシアは相変わらず上品に食べているが、食の細いアヴァールが喋りながら肉に食らいついている姿は中々珍しい。2人とも脂肪とかうるさい方だし、この肉はそれくらいヘルシーなのだろう。


「・・・・本当に平和だなぁ」


王国の飯屋で同じように過ごせばすざましい喧騒に加えて僅かな怒鳴り声が聞こえるだろう。


それがこの居住区ではポツポツと会話が聞こえるだけで言い争いも呼び込みも怒鳴り声も聞こえない。

静かなものだ。


「・・・鍛錬する以外にやる事はなく、鍛錬よりも優先するべき取引の条件があり、条件をこなしてる間は暇」


もぐもぐもぐもぐ、ごくん


「何というジレンマ」


辛うじて南の古代龍の情報収集という課題があるのみ。そっちも進展なし。

いよいよもって詰んでいる。狐に関する情報も無さすぎて本当にここに来るのか不安になってきた。

あの時あいつなんて言ってたっけ?


『まず南極大陸、この世界では『氷の大陸』って言うんだっけ?そこに行って荷物を手に入れる。

次に旧魔王城を占拠して防衛装置を整える。

次にボクの大切なものを迎えに行く。

次に君をぶっ殺す。

最後に逆らった神々をぶっ殺して終了かな?

わかりやすく説明するとこう言うこと。おっけぇ?』


「・・・・あれ?」


『まず南極大陸、この世界では『氷の大陸』って言うんだっけ?そこに行って荷物を手に入れる』


「え、嘘・・・・?」


『まず南極大陸、この世界では『氷の大陸』』


「思い返せば・・・・」


『氷の大陸』


「ヴァンパイアの居住区とは、一言も言ってなかったな」


どうしよう。俺、初っ端からやらかしたのでは?

『氷の大陸』に住んでいるのは魔物や獣以外だとヴァンパイア位しかいないって聞いてたから、ここ以外ありえないと思ってた。

冷や汗がダラダラと出始めた。心臓がバクバク鳴ってる。胃がキリキリする。頭がクラクラし始めた。

もし今俺が考えた仮説があってたら、俺たち戦いにきてたはずなのにいつのまにか旅行しにきただけになってしまいかねない。


「・・・・と、とりあえずナイトに【念話】を、しないと」


南の古代龍の方に行ってる可能性も否定できないし、他の可能性も話し合わなければ!


「(ナイト!至急話し合いたい事が!いや、怒らないで聞いてくれ?別にワザとでもなんでもないんだ!だからまずは・・・)」


「(レイアか!?丁度いい!狐が現れた!今そちらへ向かって、もうすぐ着くはずだ!戦闘準備をして待っていろ!!私では止められん!)」


「え、ちょ、ナイト!?」


【念話】ではなく素で叫んでしまったために数人のヴァンパイアとアヴァールとアリシアがこちらを見る。


「どうしたのレイア?ナイトと【念話】してたの?」


「・・・・なに、か、あった?」


「・・・・狐が南の古代龍の所に現れた、んだと思う。それで、狐とナイトのどっちか、あるいは両方がもうじきここに着くって」


「「ーっ!?」」


事情を説明し、2人が息を飲んだ直後だった。


ードゴォォ!!!


「んな!?」


「天井が・・・!?」


「狐、と、ナイ、ト・・・!」


居住区の天井が爆発し、空いた穴から狐らしき影が、そして龍形態のナイトが飛び込んできた。


『レイア!何処にいる!?狐が現れた!南の古代龍殿がやられた!今度は貴様が襲われるぞ!!』


「ーなっ、南の古代龍が、やられた・・・?」


ナイトより強いはずの古代龍を1人で倒したのか・・・?

いや、考えている場合じゃない!


「ナイト!!ここだっ!!!」


狐らしき影を警戒しつつ、ナイトに声で居場所を知らせる。

この居住区は巨大な洞窟のような作りになっている。穴が空いたとはいえ一部分だけだから声は反響する。


ナイトが俺の声に反応してこちらへ飛んできたのが見える。

狐らしき影は相変わらず空中を飛び回っている。こっちに気づいてないのか・・・?


「あはっ声おっき〜!そんなんじゃボクに見つかっちゃうんだよ?」


「ーっ!?」


背後!??


振り向こうとした瞬間、俺の背中に壁のような何かがぶつかり弾き飛ばされた。


「ぐっ・・・あっ!?」


なんとか起き上がって元いた位置を見ると、俺がいた所には白の髪に俺と対になる赤と青の瞳、そしてニヤニヤとした笑みを浮かべた少女。

狐が立っていた。


「油断しすぎでしょ、レイア?そんなんだと、妹だけじゃなくて嫁を両方失う羽目になるよ?」


突然の出来事に固まっているアリシアとアヴァールは、狐の両脇にいる。

狐はゆっくりと、見せつけるように2人の腰に手を回して抱き寄せた。


「ほぅら、2人ともボクの手の中。ぁあ、どうしちゃおうかなぁ?ボク、実験と拷問が趣味なんだ。こんな美少女が相手だと、張り切っちゃうかもしれないなぁ?」


「ひっ・・・!」


「・・・っ!」


狐の手が2人の腰からゆっくりと降りていき、太ももを撫で回し始める。


「ーっ、やめろぉぉぉおおおお!!!」


考える必要なんて無い。アイテムウィンドウから聖剣を取り出し、【縮地突き】で移動してスキルをキャンセル、それから俺の使えるスキルの中で汎用性の高い【斬光波】を放って狐の両脚を・・・!!


「がっ・・・・!?」


斬れなかった


スキルは全て正常に作動した。

にも関わらず、剣を振るう直前で体が硬直している。

動けない


「遅い遅い遅いよぅ、レイアきゅんってばおっそ〜い!そんなんじゃ本当に何もかも失っちゃうゾ!」


狐はニヤニヤとした笑みを深くし、2人の太ももを撫で回す。


「ーっ!?な、なんで・・・クソッ!なんで動かない!?」


スキルの発動を中断しても動けない。

試しに【反魔眼】で自分にかかっている魔法の解除を図るが何も解除できない。


「レ、レイア・・・!」


「ん・・・・ぅ、や・・・!」


2人は狐のセクハラを嫌がりながらも動かない。僅かに体を震わせるだけだ。


「ん〜!いいねぇ!たまにはこういうのもありだね。

じゃ、教えてあげるよ。今3人にかけてるのはちょっとした、手品レベルのチンケな魔法だよ。相手に静電気より少し強い程度の電流を流す程度の、ね。

ボクはただそれを3人の行動するのに必要な中枢神経に流し込んだだけ。

肉を伝って更に弱くなった電流は3人の中枢神経を傷つけない、最小限の刺激を与えた。更に電流には脳が出す指令を無効化するための波長をプログラムしておいた。

電流はボクが込めた魔力量の大きさに比例して長時間3人の神経に留まり続ける。

今回は・・・ざっと1時間って所かな?誤差はあるけど」


「・・・・っ!!な、なにを、言ってる!?」


意味がわからない。

俺の解釈が間違ってないなら、狐は触らずとも人間の行動を一定時間封じることができるということになる。

しかも魔法では無いから魔法無効化の類では対処できない。


だが狐は俺の言葉を別の意味として解釈したようだ。


「あ、ボクの話難しかったかな?つまり3人とも1時間は動けないってこと。

1時間かけてセクハラしてもいいんだけど・・・・」


狐がチラリと周りを見ると、そこには大量のヴァンパイアによる包囲と、ナイトが居た。


『レイアァァァ!!!』


「小娘!氷の龍様をどうした!こっ、殺したというのは本当なのか!?」


「ほら、あの龍とかヴァンパイア達とか、煩いじゃん?だから、さ」



ーー全部殺しちゃおうよ



「ーっ!み、みんな逃げ・・・!!」


「ばいば〜い!」


逃げろというよりも早く、狐の魔法が発動する。


ヴァンパイア達が組んだ包囲網の内側に魔法陣が組まれ、その上により大きな魔法陣が現れる。

通常、魔法陣に魔法陣を重ねても効果はない。別の魔法なら寧ろ阻害されるだけだ。

だが、狐の魔法は正常の作動した。

俺たちを結界が囲み、周囲には氷が生成されていく。


『ぬ!?・・・な、なんだ、こ、れは・・・・!!?』


「ーっ、な、なんだこの魔法は!!?」


「うわぁあぁあ!!?こっ、氷が身体に・・・!?」


「逃げろ!!凍らされちまうぞ!!」


「くそっ、なんだこの氷!?溶けないぞ!!」


氷が凄い勢いで広がっていく。

人に近付くと大きくなって人を呑み込んでいく。中が空洞になってるらしく、中にいる人は魔法を撃ったり剣で攻撃したりしているが一切傷が入る様子はない。ナイトも同じだ。


「あ〜、雰囲気ってさ、大事だよね」


「は?」


「って事でそれっ!」


更に狐の声に反応して氷の一部が結界の内側に侵入し、俺を絡めとり磔にする。


「ーぐっ、な、んだこれ!?」


「お〜、いいね、なんか。何というか、NTR感が強まったよ!これはこれで絵になりそうだよ!?」


狐が興奮した様子で謎の単語を発しながらはしゃぎ始める


「うん、ここまでやったら興味なくてもセクハラしとくべきだよね?みんな期待してるよ。きっと!」


狐の両手がアヴァールの腰に回り、引き寄せる。動けないアヴァールは直立姿勢のまま狐に抱きしめられる。

アヴァールの身長は150cm前半、対してソフィの身長は160cmあるかないかだ。必然、狐の口がアヴァールのデコの辺りに来る。


「ん・・・ちゅ」


「ひぅ・・・・ゃ!」


狐がデコにキスし、少しづつ顔を下にずらしていく。両手でアヴァールの両腕を拘束し、後ろに回す。


「ん・・・ちゅ、んむ・・・はぅ」


「ぃ・・・や!んぅ・・・ひっ」


デコから始まり、頰、首筋、首筋から肩の辺りをそのまま甘噛みしていき、二の腕に溜息を吹きかける。

どれに対してもアヴァールは敏感に反応し、喘いでいる。

何故だろう、不思議とどうでもよく思えてくる。


「ちゅ・・・・あれ、レイア?なにその、残念なものを見る目は?」


「いや・・・お前外見はソフィだし、じゃれ合ってるようにしか見えないからなぁ。アヴァールも普段女友達といる時いじめてオーラみたいなのだしてて、よく弄られてるの見てるから、違和感がないなぁ・・・・って」


「・・・・・うゔぉぁ」


狐が変な声あげてその場に蹲った。

そしてそのまま小声で何か呟き始める。


「よ、予想外すぎる。いや、予定外すぎるんだけど。なんで?NTRってこんなんじゃないよね?なんでほっこりしてんの?なに?ボクのせいなわけ?ボクこの件に関しては関係なくない?ってかもう帰りたいんだけど、もう終わりでよくない?終わっちゃおうぜ?」


そしていきなり立ち上がると虚ろな目をしてこっちに親指を立てて喋り出す。


「あー、なんか、興醒めなんでセクハラはここまでってことで!ばい!」


親指と人差し指と中指だけ立てる妙なポーズをとった狐はそれだけ言うと一瞬で消えた。


「・・・・え?」


待て、整理しよう。

要するになんだ。あいつは用事は終わったし妨害もなかったけど暇だったから遊び(セクハラ)に来た、と?

こっちが数少ない遭遇の機会に備えて鍛錬して、移動して、交渉したのに対して暇だったからおちょくりに来た、と!?


「ば、バカにしやがって!!!」


こっちが色々手回ししてるのに!!


「よりにもよってついでに寄っただと!!?」


そりゃこっちも呑気にデートなんかしてたけれど!!


「これだけの被害を出しておいて!!!」


100以上のヴァンパイア達を氷に閉じ込めて!!


「遊びだって、言うのかぁぁあぁぁぁああああ!!!!!!」


体が動かないのが余計に苛立つ。

体さえ動けば、この怒りも何処かにぶつけることができただろうに。


しばらくして体の自由が戻る頃には、エンヴィとベルゼを含む数人のヴァンパイア達に保護され、そのまま他の者達の救助活動が行われた。

重症者0、軽症者27、意識不明者4、死者は南の古代龍。

ナイトによって運ばれてきたその遺体は一撃で頭を破壊され、心臓がえぐり取られていた。

狐の実力は相変わらず底が見えない。

風邪ひきました。

声が、出ない!?

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