カナデノカコ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
残念なイケメンたる所以の1つは、
今から語られる。
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
カナデノカコ
過去は誰にでもある。
知られたくないこともある。
けれど恐くなる。
おきちゃんがぼやいた。
「これはあくまで俺の主観。奏は…かなり引きずってたけど、今はただのネタなんだろうな」
なぜおきちゃんからこの話を聞くことになったんだったか…
きっかけは、奏が飲みに行ったことだった。
そこにいた女の子は、おきちゃんが少し気になっていた相手だったわけで、つまり、1:1だと警戒されるから、奏を混ぜることで仲良くなろうという魂胆で、おきちゃんが計画した飲みであった。
そういうことならと、特に束縛したいわけでもない私は奏を送り出したわけだけど。
その会話の内容が……。
お会計を済ませ、立ち上がった奏は、女の子…仮にカナちゃんとしよう。…カナちゃんをしげしげ眺めて言った。
「152cmくらい?」
「あ、そうだよー」
「…やっぱりかー」
見かねたおきちゃんが奏をつつく。
「お前さー、いい加減引きずりすぎじゃね?」
それは、奏の元カノの背丈だったのだ。
「いや、引きずってるわけじゃないけど。ただそんくらいだなーって」
「理緒に言ってやろう」
「…それはそれこれはこれ。これはむしろネタじゃん、過去は過去」
…この会話。
たったこれだけの会話。
おきちゃんが知る奏の元カノの背丈がまさにそれで、それを覚えていて話題にしてしまう奏。
当然、私は面白くはない。
その話題を今しがたおきちゃんと奏から聞いたものだから、思わず顔をしかめてしまったわけで。
「いや、ただのネタだよ?…もう過去だし」
いやいや、思うのは自由だけどさ。
それを口に出して確認したことに、私は違和感があって。
それは未練と言う物なのでは?
「奏は…引きずってた時はどうしてたの?」
「聞かない方がいいよ」
ぴしゃりと言い切ると、奏は席を立って、飲み物が無くなっているからと買い物に出て行く。
一緒に行ってもいいか聞いたら、お姫様を買い出しに出すなんてとんでもないと怒られた。
「……うーん。あれはかなり引きずってるように見えちゃう」
唸ると、おきちゃんが先の話をしてくれたのである。
「これはあくまで俺の主観。奏は…かなり引きずってたけど、今はただのネタなんだろうな」
奏の元カノ、林さんは優秀で仕事が出来、社交的だけど自由な猫のような女の子。
奏と同い年で、仕事の絡みも少しあったようだ。
しかしながら、奏は彼女を物にするのになんと2年片思いだったと言う。
そもそも彼女には彼氏がいて、別れたところにアプローチをかけ、苦労して苦労して手に入れたらしい。
まさに、奏が言っていた通りの、追いかけて物にした恋だった。
ところが、付き合ってみると、土日の予定がびっしりの彼女。
男女問わず、何処へでも好き勝手遊びに行くタイプだったのだ。
奏が会いたい時には会えず、よくおきちゃんや同期に会えない愚痴をこぼしていたそうだ。
あげく、彼女が仲のいい男友達と2人きりで泊りに出掛けたことが発覚。
すごーく詰めたところ、私の目指す恋愛じゃないと振られてしまったのである。
しかもそこから、やさぐれた奏は個人携帯の電源をオフ。
なんと半年放置したそうだ。
その間に何人かの同期の結婚式があり、それも知らぬままぶっちしてしまったり。
外で友達に出会っても、あえて知らんぷりをし、声をかけても無視して立ち去る徹底っぷり。
これこそ、残念なイケメンの所以だそうだ。
子供なのである。
それをこじらせた大人なのがなお悪く作用したのである。
「うーん…怒る気すらおきない」
結論。
私はそうはならない。
元々彼優先、彼が忙しければ、私は私で勝手にするスタンスだ。
忙しい奏に私が合わせるのがベストと思っている。
奏の1番落ちた時期が全方位シャットアウトなのだから、今引きずってないというのもあながち嘘ではないんだろう。
「女なんてって言ってたなぁ。…ほんとにもう…」
「理緒にそれを面白おかしく語るのは、俺はちょっと違うと思うけど」
おきちゃんがフォローしてくれた。
私は苦笑して手をぱたぱたさせる。
「いいよ、奏に子供っぽいことがあるのはわかるから。私お姉さんだからね、そこは私が寛大に受け入れればいいんだよ?」
ふふんと笑って見せると、おきちゃんも笑った。
「だめ女な部分でもあるけどな!」
「買ってきたー」
「おかえり奏ー!」
笑顔で玄関に飛び出すと、奏はちょいちょいと手招きをした。
近寄ると、そのままぎゅーっとされる。
わ、わわ!?
「…ごめんなさい」
奏の口から、しゅんとした声がこぼれたのはその時で、舞い上がってた私は意味を掴めず聞き返した。
「うん?」
「ほんとに引きずったりしてないんだよ…もうどうでもいいからネタにしてるだけで…今は理緒に会えたから」
……この子は、もう。
普段とてもとてもかっこいい奏。
「いいんだよ」
私といる時くらい、甘えてくれてもいい。
「私、お姉さんだからねっ」
笑ってみせると、きょとんとした奏がみるみる口元を緩ませた。
「そっ、そーだね!ふ、ふふっ、お姉さんだもんねー??」
「ちょっと!何で笑うのかな?こら、奏!!」
「よしよし、お姉さん、よしよーし!」
「違う!何か違うと思うの!!」
ぎゃーぎゃーしてると、おきちゃんからお呼びがかかった。
「楽しそうだなぁおい…とりあえず、奏ー、お茶くれー」
「はいよ、今行くー」
過去は誰にでもある。
知られたくないこともある。
けれど恐くなる。
それでも、こうして歩み寄る。
それが出来る関係でいたい。
お読み下さってありがとうございます。