カナデルノハワタシ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
まだ残念さは見えないけれど…?
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
森川さん:
奏の同期。
なんだか、奏とは合わない…?
金田さん、金ちゃん:
奏の同期。
ムードメーカーでお日様のような人。
カナデルノハワタシ
鳴らせ鳴らせ
この気持ちを鳴らせ
それが旋律となり響くだろう
フットサルの日、メンバーとお茶を終えて帰路についた頃、奏からLINEが来た。
<お姫、今どこ?>
お姫じゃないと照れたけど、フットサルで森川さんと揉めて?しまったこともあって、我慢する。
<皆とお茶して、これからおきちゃんちに帰るとこだよ、奏は?>
<仕事終わったとこ。…行くよ、沖とそこら辺で待ってて>
<うん、わかった。気をつけてね>
「おきちゃん、ここで待機」
「あいよ」
頷いて、おきちゃんは皆にじゃーなーと告げる。
さすが、よくわかってる。
「またねー!」
手を振って挨拶すれば、各々が手を振り返してくれた。
もちろん、森川さんも。
「お待たせ」
停めてある車から、奏が手を上げる。
はぁ、いつ見ても奏はかっこいいなぁ…。
サーモンピンクの淡いパステルカラーのTシャツに、白いコットンのカッターシャツ。
カッターシャツは、ボタンの縫い付け部分と襟の縁が赤いチェックになっている。
色のチョイスとちょっとした遊び心が私のツボで、顔が綻んでしまった。
おきちゃんを後部座席に乗せ、助手席に乗ると、待ち兼ねたように奏の手が髪を撫でる。
「おかえり、理緒」
きゅーんとなる私に、奏は構わず髪をかき回し続ける。
お、おおう?
ちょっと、長いような…あと、髪が絡まっていくような…!
「う、うわわ、ちょ、ちょと!あははっ、奏ってば!ぼさぼさなるよ!?」
「よしよーし、よしよしよーし」
「犬か!」
おきちゃんが後ろから突っ込むと、奏は満足したのか手を離した。
「うむ、今日もうちのお姫はかわいい」
「ちょっとーーー」
髪を直しながら、頬は緩みっぱなし。
我ながら、単純だなぁーと思う。
「とりあえず移動する」
奏はサイドブレーキを降ろし、ビートルちゃんを発車させた。
「森川はあーなると手がつけれん」
おきちゃんが苦笑混じりに言うと、奏はため息をついた。
「あー…謝っとくべき?そもそも謝るようなこと?いいじゃん沖に言ったじゃん」
「まぁ、それで納得しない人だっていうのは分かった」
私が言うと、奏はさらにため息をついた。
「ですよね」
奏の表情が曇っている。
あ、奏…こういう時はそんな顔するんだ…。
思わず魅入っていると、奏は横目に私を見て、私の頬を撫でた。
「やな役回りさせたよね」
「えっ?ううん!?大丈夫だよー、むしろ上手く収めてあげれなかった、ごめんね」
「いやー、そんなことはない。さっき金ちゃんからLINEきてた」
「うん?」
「後で教えてあげる」
「うん」
そもそも、と。
奏は奏の経緯を話し始めた。
「俺、フットサルやりたかったの。だから、数人に連絡したの。身内で、お遊び程度のフットサルがしたかっただけ」
「まぁなー、お前、知らない奴とか仲良くない奴、呼ばないもんな」
おきちゃんが同意する。
「それを森川が、勝手に連絡網とか作り出して、知らない奴とか集め出して、幹事面し始めたの。もういいやーってなったの。それは俺のしたいフットサルではない」
ぴしゃりと言い切るけど、奏の表情は固い。
「それを、俺が言い出したって言われましても」
「ははっ、ほーんとお前、災難だったな今回」
「うー」
奏は呻いて、ハンドルを持つ手に突っ伏した。
「俺が謝れば丸く収まるんだろうけど、悪くないのに謝る義理はない」
……。
ふーん、成る程ー。
奏は、プライドを傷付けられるのが嫌いな性格で。
私は、人の言うことを否定せず受け入れるタイプである。
それが上手く作用してるのは、ここ一ヶ月で理解していた。
でも、人に怒られるのがすごく嫌いな分、本当は波風立てたくなくて、謝る謝らないの気持ちの間に挟まってしまったのだろう。
「奏」
「ふぁい…?」
「奏は連絡しなかったことどう思ってるの?」
「…しとけば、丸く収まったと思ってる…その分皆には迷惑かけた」
「あはは、そうかも〜!でも皆もちゃんと事情わかってると思うよ!大丈夫だよ〜」
「…うん…。うん、皆に迷惑かけたくないから、謝っとく」
「…そか!」
よしよしーと、奏の髪を撫でる。
奏は優しい。
ちょっとした言葉があれば、結論を見出すのだ。
それが謝るための理由付けだとしても、私は否定しない。
私が拭える程度の煩わしさなら、いくらでも拭ってあげたかった。
「いや、お前らいいなあ」
「はい?」
おきちゃんが感心したように呟いた。
聞き返すと、彼はにやにやと笑っていた。
「理緒は奏のこと、本当にわかってると思った」
「…理緒は可愛いからね」
奏はそう返して、ちょっとだけ肩の力を抜いた。
それ以上奏が落ち込まないように、話題を変えた。
「あのねっ金ちゃんがね、奏は簡単に陥落しないって言ってたよ」
「否定はしない」
「あははっ、だからね、どうやって落としたんだーって聞かれたり、あとね!握手した!」
そこで初めて、奏の表情が綻んだ。
「何でまた」
「奏と付き合ってくれてホンマにありがとうやわぁー!って!」
「ふふ」
笑い声を漏らして、奏は満更でもない表情をしてくれた。
「金ちゃん、本当いい人だからね?俺、あんないい人、他に知らないよ」
「そういや、金ちゃん、結婚決まったみたいだぞ」
「えっ、まじで!?」
おきちゃんの一言に奏が食いつく。
ナイスフォローである。
「年末あたりに二次会やるって。後で連絡くるんじゃね?」
「そうかーとうとうかー」
彼女のことは知らないし、黙って聞いていると、奏が簡単な説明を挟んでくれた。
「彼女の方も同期。俺は会ったこと2回だけなんだけど」
「そーなんだ?」
「付き合って1年くらいだったと思う〜」
「いい時期だねえ」
おきちゃん、ここで余計なこと言わないでね。
心の中で念じていたら、奏がコンビニに車を止めた。
「トイレ借りてくる」
「はーい」
「いや、お前らはいつ?って言いたくてやばかった」
「やっぱり!??言うなよ〜言うなよーって念じてたよっ」
「ははっ、やべぇ、言いたい!」
「やめてね!?」
「まぁでも、奏をすんなり謝る方に誘導したのはすごいわ」
「誘導っていうか…奏はちゃんと謝る理由付けが欲しかったんだと思うよ」
「その理由付けの種を巻くことを誘導ってんだよ」
「あははっ、そおかー」
「お前は否定しないもんなー」
「あ、やっぱり?奏は奏のプライドがあって、それが良くも悪くも作用しちゃうんだろうねー」
「ま、お前のそういうとこに奏が甘え過ぎなければいいけど」
奏が戻ってくるのが見えて、おきちゃんは俺もトイレと出て行った。
「おっかえりー」
「……」
奏はさっと辺りを見回すと、身を乗り出してキスをしてきた。
「っ…、!!」
舌、舌がっ…
柔らかく、温かくて。
全身が熱を帯びる。
瞬間、ふっと奏の熱が遠のいた。
「ありがとう理緒」
「ふあ…、え?…なんでー?」
溶けかけた思考で応える。
「金ちゃんからLINEきてた話、彼女に会うたで!ってきて、うちの姫をありがとうって返して、かわいくていいこでホンマこっちがありがとうやわー!って返ってきた」
「お、おおう…」
ツッコミどころと照れどころが多過ぎます…!!
頭を抱えていると、奏は笑った。
「場を丸く収めるのに、理緒がよくやってくれてたって」
その言葉に、思考がクリアになる。
「!…それは、金ちゃんが1番やってくれたの。だから、お礼は金ちゃんに、だよ!本当にいい人だった」
「うん、金ちゃんにもお礼はしてる」
奏は私の手をそっと撫でた。
「俺の自慢の彼女だからって送っといたよ」
「!!」
「俺の自慢の可愛いお姫様。…大好きだよ理緒」
きゅーーーってなって、奏を見てられない。
やばい、やばいから!
何その破壊的な告白は!
こんなこと言われてきゅんきゅんしない女の人いないから!
いないからーー!!
「ふふっ、可愛いなぁ理緒」
ばたばたする私に、奏は今日1番の笑顔で言葉を紡いだ。
鳴らせ鳴らせ
この気持ちを鳴らせ
それが旋律となり響くだろう
私が奏でるこの旋律が、
貴方を守る風であるといいな。
…なんて、詩みたいなことを思った。
お読みくださりありがとうやわー。
握手したってー?
ホンマありがとう!!
金ちゃんが本当にいい人なんです。