コトワリヲウタウ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
まだ残念さは見えないけれど…?
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
森川さん:
奏の同期。
なんだか、奏とは合わない…?
阿形さん:
奏の同期。
仲良くしているようだ。
金田さん、金ちゃん:
奏の同期。
ムードメーカーでお日様のような人。
コトワリヲウタウ
理を唄えば、
物事は解けて、
すんなりと混ざり合う。
それはある平日…涼しくなってきた秋の話。
<フットサル?>
<そう。理緒が良かったら>
<わぁ、楽しそう!ふふー、私こう見えてスポーツ好きよ?>
<ドジっ子なのに?>
<なっ…ち、ちがーうもん!ドジっ子じゃないですー!>
<じゃあ天然だ>
<え、ええーっ、どこにそんな要素あった?無いよね??>
<知ってた?気付いてないから天然って言うんだよ>
<よっ、養殖だよ!>
<養殖は養殖だって宣言しないんだよ>
<ふふふー、私の演技に騙されるとは奏ってばまだまだ…>
<……>
<ごめんなさい…>
<よろしい>
こんな会話があって、フットサルに参加することが決まった。
5対5のちんまりしたサッカーのようなもので、高校の授業でもやったから、あらかたルールはわかる。
メンバーは奏の同期達。
当然、おきちゃんもいた。
だいぶ気楽な集まりだって想像はつくし、人見知りもしないから大丈夫だろう。
次のお休みに、また関東に帰ることになるけど、奏と会えるならこの上なく嬉しい。
<俺ら、そこらの一般カップルより会ってるからね>
奏はそう言うけど…わからなかった。
最初の彼は5年、中学3年から19までの付き合いで。
学生の身分で地元の仲間とくれば、週に3回は会っていたし。
次にいたっては20から28になる少し前までの8年同棲。
毎日顏を合わせていたわけで。
…20代のきらきらな8年をもったいない…と友達は言うけれど、それはそれ、これはこれである。
たくさん素敵な思いもした…はずだ。
まぁそんなわけで話を戻すと。
週に1回、休みに会えるか会えないか。
そんな経験は無かったのである。
だから、会いたくなるのだ。
こうして京都にいる今だって、会えるなら何時でも…。
なんて思ってしまう。
<一般カップルのことはわからないやー、そういうものなんだね>
そう返して、会話を終わらせた。
私自身は毎日会っていても苦ではないわけで。
だからって、奏にそれを告げるのもおかしいと思うから。
フットサルの前日、金曜の夜。
私は仕事を済ませ、夜行バスに乗った。
新幹線ばかり乗れるほど、お給料はもらってなかったのである。
バスは安いのだ。
残業していた奏からLINEがきたのは、日付が変わる直前だった。
<ごめん…どうしてもこの案件が終わらない…明日フットサル行けない>
<あれ、そうなの?…私どうしたらいいかな>
<日曜は理緒とゆっくりしたいから、明日は沖にうちの姫を預けるのです>
<うぁ…今だめだってば!バスでにやにやしちゃうよっ、照れるよ〜〜!>
<ほっぺむにむにむに>
<っ…いいの!予想しなくていいのっ!
…あっ、そうだ、ハロウィンもうすぐだね!>
露骨に話を変えると、奏はすぐに乗ってくれた。
<お菓子くれても悪戯しちゃうぞー>
<えっ、ええ!?…お菓子は…あげるけど…あの…>
<悪戯されたい理緒可愛い>
<ふえっ!?そ、そうじゃなくてっ>
あぁだめだっ
墓穴掘っちゃう…!
<…とりあえず、俺は幹事みたいなもんだけど…もう1人いつの間にか幹事っぽくなってる奴がいて>
<うん?そうなんだー>
<…まぁ、うん…。進行はすると思うよ>
その言い回しにちょっと違和感を感じる。
どうしたのかな?
<わかった、じゃあ明日はおきちゃんとフットサル行くね>
けれど、それ以上は奏が何も言わないから、聞くのはやめることにした。
そのすぐ後、おきちゃんと奏とのグループLINEに、奏からメッセージが飛んだ。
<仕事なった、すまない。うちのお姫をよろしく>
<おー了解>
お、お姫って!!!
という突っ込みは心の中だけにして、気にしてないのを装うことにする。
そわそわして眠れなくなっちゃうもん…。
私は椅子にもたれて眠りについた。
「おはよー」
「おーおはよー」
「バスは身体が痛いや」
朝8時にはおきちゃんちに到着。
いつも通りの出迎えがあった。
ぐぐーっと伸びをしていると、おきちゃんは布団に戻っていく。
「フットサルまで寝るから好きにしてろー」
「ふぁいー」
奏みたいな返事をして、ソファに横になる。
<おきちゃんち着いた。仕事頑張ってね奏>
LINEをして一息。
フットサルの準備は出来てるし。
私ももう少し寝とこ…。
奏の分も楽しんでこないとね。
<2点決めといで>
起きたら、そんなLINEが入っていた。
<う、点までとるには…どぉかなあ>
返すと、すぐに返信がきた。
<3アシストでも許してあげよう>
<アシストなら…。じゃあご褒美に奏の写メね?>
<考えといてあげる>
<ほんと!えへへー頑張る!>
<今日も理緒が可愛い>
うー、もー、何でそんなっ…
きゅんきゅんさせないでくださいーー!
ばたばたしていたら、おきちゃんがむくりと顔を上げた。
「シャワーする」
「あ、はい」
「フットサルの前に軽く飯するか。お前は準備は?」
「ばんたーん」
「おー」
さすが男性と言うべきか、おきちゃんはさらっとシャワーや着替えを終えて準備を整えた。
ものの10分の出来事だった。
フットサルの前に2人でファミレス。
そういえば、とおきちゃんに聞いてみる。
「今日の幹事って奏だったんでしょ?」
「ああ、まぁそうだな」
「いつの間にか幹事っぽくなってる奴がいるって言ってたー」
「ああ。森川のこと」
「森川さん?」
「んー…森川はなぁ…ネガティブというか…正直、奏とは合わないような気も…」
「ふーん?」
「彼女出来たって言ったら、間違いなく祝福するより自分比べて悲観するタイプ」
「うえ…そ、そかぁ。うん?そういえば、私が奏の彼女って、周りの人は…」
「知らないだろうな」
「お、おおーう…知らんぷりしとくのがいい、かな」
「あ、でも阿形は知ってるだろ」
「阿形さん…?誰」
「お前が友達の結婚式行った日、奏と一緒に行動してた同期の男」
「ああー、鬱の女の子に会いに行ったやつだ!」
「そそ」
そういえば奏、同期の男が一緒だからーとか言ってたなあ。
それが阿形さんか。
「ま、紹介は適当にしてやるよ」
<阿形は理緒のこと知ってるよ>
奏に聞いたら、当然のように返ってきた。
<そっかー?>
<俺がのろけまくったからね>
<えっ、ええ!?>
<俺ののろけ話はレアである>
<うう、わ、私も奏のこと聞いちゃうもん!>
<俺のこと聞くなら、俺のいない今日が狙い目だね>
<えー!あははっ、いっぱい聞いちゃお♫あ、でも、私からは他の人には言わないから、奏のタイミングで言って?>
<適当に。理緒に任せるー>
<そお?わかった>
「だめ女、理緒です」
「ちょっと、いきなりその紹介は適当すぎない!?」
おきちゃんに思わず突っ込んだ。
背は低めで色黒、体型は多少大きめ、眼帯をしているのが森川さん。
どうやら何かの拍子に目元をぶつけ、よく見えなくなってしまったらしい。
背が高めで色白、すらりと細く切れ長の目の関西人が阿形さん。
この人が、奏と一緒にいた人だ。
朗らかに笑う、大阪弁の太陽みたいな人が金田さん、こと金ちゃん。
場を明るくしてくれるムードメーカーだろう。
この3人はすぐに覚えた。
その他も同期のようだが、おきちゃんに聞くと知らない人もいるという。
「まぁよろしくな理緒ちゃん!仲良うしよや!」
「よろしく金ちゃん!」
「理緒ちゃんでいいのかな、よろしく」
「よろしくお願いします森川さん!」
挨拶をして、少し離れたところにいた阿形さんに歩み寄る。
阿形さんは目が合うと、口元だけにやっと笑って見せた。
「聞いてる」
「うん…私はさっき聞いた。よろしく、阿形さん」
「この間は悪かったな、奏連れ回して」
「ううーん、奏は大事な友達って言ってたし、私もそれでいいと思うよ!」
「そか」
こそこそっとやりとりを交わし、おきちゃんの所に戻る。
みんないい人そう、よかった。
「で、言い出しっぺの奏は?」
森川さんが見回したのはその時。
私は奏という単語にそっちを見た。
「ああ、仕事入っちゃったって」
おきちゃんが答える。
が。
「は?何で沖に伝えて幹事の俺に何もないの?」
空気がぱりっと乾いた音を立てたような気がした。
「そもそも、やりたいっつったの奏だろ?それが仕事優先ってなんだよ?」
そ、それは。
思わず言い出そうか迷う。
それは、私を優先してくれたからで…。
おきちゃんは、わざとなんだろう、からからと笑ってみせた。
「まーまー、いいじゃん!俺はたまたま聞いただけだし。楽しもうぜ?」
だがしかし。
森川さんの機嫌は悪くなるばかりだった。
「よくないだろ!あいつが何もしないから集めてやったのに」
あ、と声が漏れた。
成る程…奏はこういう言い方は絶対嫌いだと、私でもわかる。
奏とは合わないような気も…とおきちゃんが言っていた意味を理解して、自然と眉が寄ってしまった。
おおっと、いけないいけない。
眉間をぐりぐりする。
私のためと知ったら、矛先はさらに奏に向きそうだな…。
そもそも、集めてやったのに、という言い方は良くない気もする。
奏が幹事って言葉を微妙な使い方したのは、このせいだろう。
森川さんは率先して人を集めていたはずだ。
でなければ、奏が集めた中に、知らない人が混ざるはずがないのだから。
…営業スマイルを浮かべる奏。
流れるようなトークで笑う奏。
あれは表向きの顔で、実際は人見知りな面もある。
それくらい、もう知ってるんだから…。
彼女ですもん。
…おっと、脱線…。
とりあえず、この場を納めなくては。
どうしたもんかと考えていたら、金ちゃんがどかんと笑った。
「えーやん!10人おるやん!理緒ちゃんいてくれて助かったわー!ほな、準備運動?ラジオ体操??」
場の空気が動き出すのを感じる。
おお、金ちゃんすごい!
奏はきっとこういう人、好きだろうなって、顔が綻んだ。
歌を歌いながら体操を始めた金ちゃんに感謝して、私も体操に混じってみる。
やがて皆も笑いながら参加した。
楽しい雰囲気で試合を終えた…はずだった。
途中、奏にみんなの写メをこっそり撮って送ったり、結局アシストが足りなくて奏の写メは諦め…なんて残念だったりはしたんだけど…。
更衣室から出てきた森川さんが、あきらかにふてている。
こりゃ…何かあったかな。
おきちゃんを見ると、肩をすくめてこっちに来た。
「すまん」
「うん?」
「奏と理緒のこと話した」
「おおう!?な、何でまた…」
「めんどかった」
「うぐ…そりゃ反論しませんけど…」
「まぁ、あーいうやつだからさ…普通に付き合う分にはいい奴なんだけど…あーなるとめんどい」
「…」
これは…奏に言っとくべきだな…。
私はスマホを取り出…す前に、ぱたぱたと森川さんに駆け寄った。
「企画ありがとうございました!楽しかったです!…あと、すみません、奏のこと」
「あー、理緒ちゃんには怒ってないから大丈夫」
うわぁ、怒ってるよ、主に顔から滲み出てるよ…?
「奏に時間取ってもらうの優先させちゃったんで…私のせいです。すみません」
「そこは怒らないよ。それでも、俺に連絡するのは当然ってこと」
うん…まぁそれはそうかも…?
どんな形であれ人を集めたのは森川さんだろうからね…。
「奏にも言っときます」
ぺこりと頭を下げると、流石にばつが悪かったのか、森川さんはいやいや、と手を振った。
そして諦めたように、皆を振り返る。
「とりあえず…おーい、みんな飯行くよなー?」
その後は当然のようにご飯となり、おしゃれな感じのハワイアンレストランでテーブルを囲むことに。
私は奏に諸事情をLINEし、奏の返事が無いので楽しむことにした。
「理緒ちゃんは何処に住んでるん?」
金ちゃんに話題をふられて、京都だと答えたのが、そもそもの始まり。
金ちゃんはくるくるとよく動くぱっちりした瞳でへぇー!と言った。
「ほな、こっちには何で?」
「実家がこっちなの。おきちゃんは中学の時の先輩で、姉の元彼だったりする」
「ほあは!?そりゃまた!」
金ちゃんが笑い出すので、周りも興味津々。
おきちゃんはまぁ腐れ縁だと笑った。
「じゃあ、実家に泊まってるんや?」
「えっ?…あー、あーー?いや?おきちゃんちだけど」
「ほあはぁっ!?何でなん!」
「奏と京都行った時に、理緒の家に泊まったんだけど、その延長でこっち来た時の宿になってる」
「そだねー、なんやかんやもう家族みたいだしー」
「うん…ちょっと待ってな?俺は全く着いて行けてないぞ。奏…っていうと、1人しか知らんけど?」
「おう、その奏だ」
「ほほーお!?奏はもう友達やったんか!」
「奏もその流れで、理緒が来る時はうちに泊まったりするぞ」
「何やって!?何やの、ルームシェア!?」
「ははは」
乾いた笑いをもらすと、阿形さんと目が合う。
にやりとされて、思わず肩をすくめた。
理緒に任せるって奏は言ってたけど…
「質問でーす、俺はな、一つ屋根の下に男女おったらな、いろいろある…と期待するんやけど!?」
「まあな」
おうっ!?
私は目を見開いただろう。
おきちゃんがさらりと同意して、にやにやした。
「待て待て待てーい!何やって、つまり理緒ちゃんは既にどちらかの彼女であると!?」
「ははっ」
「おきちゃん…ははって、丸投げっすか」
「どっちだと思う?金ちゃん」
「むっちゃ目ぇ覚めたわ。待ってな、まず、理緒ちゃんちに2人が泊まったのはいつなん?」
「8月末〜」
「今10月頭やろ。つまり9月中やろ」
「ん、うん、まあ…」
「……沖やな」
「結論はやっ」
思わず突っ込みを。
しかもハズレてますけど金ちゃん!?
「やってな、沖と理緒ちゃんは家族みたいな仲だって言うたやろ。それに家にも泊める」
「うん、まぁ…」
「加えてな、奏は絶対付き合うたりせん」
「ほー?何で?」
おきちゃんが楽しそうだ。
私はそわそわした。
「奏は、じっくり人を見て、じっくり好きになるタイプや。そんなすぐ堕ちひんやろー?あいつが陥落するとしたら…あ、理緒ちゃんを貶してるわけやないで?…あいつが好きになるなら、相当運命やと思う」
「運命……かぁ」
思わず呟いてしまった。
すると、一瞬沈黙が。
「…え?」
金ちゃんが目をぱちぱち。
私は自分の発言と、それを噛み締めていた状況に、はっとした。
「あっ、あれっ?ええとっ?」
「え?…あの、理緒ちゃん。もしかして、奏なん…?」
「ええと、は、はい…」
「ほああはぁっ!?ほんま!?ホンマに!?どうやって陥落させたん!?あの奏やで?」
「ど、どう…?…普通に紳士で優しかったから…私も普通に…特別なことはしてなかったかな…?あ、でも。尻尾振ってぐるぐるする犬みたいだったって…」
すっ
金ちゃんから右手が差し出される。
「??」
握手のように掴むと、ぎゅーっと握り返された。
「ありがとう!」
「ほあ?」
「ありがとうやわ!こんないい子が奏の彼女なんて!俺、マジで嬉しい」
「あっ、えっと?あ、ありがとう?」
「どこが!どこが良かったん!?」
「背中…押してくれるとことか。あと可愛い」
「可愛い……?」
「えっ?可愛いよ…なんかほわほわだし」
「ほわほわ…奏が!?」
「ええっ!?そ、そうだけど!?」
「奏には絶対理緒ちゃんみたいな子やないとあかんわ!今までだって追いかけてばっかりやったもん!」
「お、おおう?」
「奏に可愛いとか言えるん、理緒ちゃんだけやと思うわ」
金ちゃんが大いに盛り上がり、周りも笑った。
奏の友達って、本当に素敵だ。
けど、その時、森川さんがちょっと拗ねた顔だったのを、私は見ていた。
何事も無ければいいな。
理を唄えば、
物事は解けて、
すんなりと混ざり合う。
こうして、私は奏の友達と交流を持った。
感想、評価、ブックマーク、ありがとうございます。
きゅん要素以外も盛り込んで、
少女漫画のような恋愛譚を更新したいと思います。