コトワリヲシルス
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
まだ残念さは見えないけれど…?
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
コトワリヲシルス
理由を綴り、
自分を縁取る。
理は私を形作る一部分。
金曜と土曜
金曜はお休みをとっていた。
友達の結婚式は土曜で、その準備がしたかったのだ。
友達は幼稚園…ともすればそれ以下からの幼馴染で、最近会ってないなと思えば出先の駅でばったり会ったり、どうしてるかなと思えばメールがきたりと、本当に腐れ縁だった。
極めつけは、私の友達と、幼馴染の友達が、友達でしたなんてこともある。
類友…っていうのかな?
とりあえず、そんな友達のために京都から関東に戻るのは必然で、しかも受付を任されていたわけで。
靴を新調し、お祝いを準備し、と、やることは多いのだ。
それと…実はまだ奏のことを伝えてなくて、前の彼と同棲してると思っているのも訂正が必要である。
招待状にはちゃっかりこうあった。
<旦那も連れておいでよ!>
おおーーっとぉー!?ってなったのは確か。
何たって、めでたい式の前に別れましたーなんて言えないわけで。
<ちょっと無理みたいー!折角だし水入らずで、会えた時にもろもろ話そう>
取り急ぎそんな風に返したはずだった。
そんなわけで、金曜午前には関東に戻り、会社の前まで行っておきちゃんから鍵を借りて(ちなみに、奏とおきちゃんの社屋は別の場所にある)、荷物を置かせてもらってから買い物と洒落込んだ。
<今日はどうしてるの?お姫様>
<姫ちがうもん!明日の結婚式の準備だよー!>
<…ドレスのお姫…>
<ちょっとっ…>
<うむ、悪くないのである>
<え、ええー>
奏は明日、会社を休んでいる友達に会いに行くそうだ。
それは大学からの友達で、女の子であった。
<大丈夫だよ、明日は2人じゃないよ>
<うん、心配はしてないよ。楽しんで>
<もう1人同期の男いるからね。…ただ、女の方は鬱で休んでるから、人混みはダメらしい。だから車は出すけど…>
<あはは、大丈夫だってば。信じてるし行っといで?私も結婚式だしー>
<うん、仲良くしてる友達だから心配なんだ。…ごめんね>
<気にしないー>
<今日も俺、仕事で晩御飯すら理緒と一緒してあげれない>
<あははっ、いいのよ、仕事大事!>
<……理緒は本当にいいこ>
<ええ?何で?>
<彼氏が他にかまけて、折角関東きても仕事で構ってもらえないのに>
<当然でしょ?私は奏の彼女だよ。奏が選んだんだもの、応えてみせる!>
<…いいこである>
奏の方こそ、だよ。
こんな、私のこと気にかけてくれるんだもん…。
これ以上を望むなんてバチがあたる。
そう思って、微笑んだ。
…結婚式はとても素敵で、友達も旦那さんも幸せそうだった。
2次会にも参加して、祝福する。
そんな時に、奏から連絡が入った。
<姫、迎え行けるかも>
<どうしたの?友達は?>
<彼女迎えに行くから、近くの駅で降ろすって宣言してみた>
<ほんと!嬉しいな。でも、無理しないでいいからね?>
<うん、とりあえず近くの駅に向かうから、また連絡する>
わぁ、嬉しい…!
素直にそう思う。
どちらにしろ明日は会えるはずだったけど、折角だからドレス姿を見せたかった。
友達にも、今なら伝えられるかも…。
「理緒ー」
「あ、ちょうど良かった!話したかったんだ!」
やっぱりいいタイミング!
私は奏のことを話した。
もちろん、前の彼とは別れていたことも。
「そうだったの!?ごめんね、変なこと書いちゃった!」
「いいのいいのー、今の彼、すごいいい人でさ。この後迎え来てくれそうなんだぁ」
「ほんとー!?うっわ、紹介してよー!」
「タイミングが合えば!」
思えば、この時だいぶ浮かれてしまっていた。
30分くらいしただろうか。
奏から連絡があった。
<理緒、ごめん…やっぱり無理そう>
<あら…だめそう?>
<具合悪そうでさ…>
<そっか>
ちょっと素っ気なくなってしまったなと、慌てて付け足す。
<大丈夫よ、優先してあげて>
<俺の姫を優先させたいのは山々なんだけど…>
がっかりしなかったわけじゃない。
そりゃ当然だ。
でも…そうだよね、友達も大事にするべきだから。
私はスマホの画面を指でなぞって、口元を引き上げた。
例え画面越しでも、笑顔で送り出してあげるのがいいって思ったから。
<友達を優先することも必要!私は大丈夫だから。今度独り占めさせてもらう!>
<ドレス>
<うん?>
<ドレス脱がないで待ってて。どんな遅くなっても行くから。絶対>
<…!うん!>
嬉しくて飛び上がりそうだった。
ただ、行くというのはつまり、おきちゃんちに来るってことなわけだけど。
友達には事情を説明し、いつか紹介するねと伝えた。
楽しみにしてるね、と笑ってくれるその子に、心からおめでとうと告げる。
私はおきちゃんちに帰って、奏を待つことにした。
「ただいま!」
「おー、おかー」
「奏来るって!」
「へいへい」
相変わらずの緩さ。
私を迎え入れたおきちゃんは、パソコンの前に座ってゲームをしていた。
ちなみに昨日夜はおきちゃんと2人だったわけだけど。
奏も今更気にしないようだ。
むしろ、何処かに1人で泊まらせるより安心だって笑っていた。
「風呂は?」
「奏からドレス脱がないでって言われてる」
「ははっ、仲のいいことで」
「へへー、でしょー?」
笑いながらソファに陣取る。
するとおきちゃんがお茶を出してくれた。
「結婚式はどうだった?」
「最高に良かった」
「良かったな」
「うんうん!」
「で、いつ?」
「はい?」
「お前らは」
ぶは。
飲みかけたお茶を噴き出しかけて、私はむせかえった。
「げほげほっ、ちょっと!それ奏の前で言わないでよね!?まだ付き合いたてで結婚なんて話題出したくないよ!?」
「はははっ」
「笑い事じゃないんだからー」
「まぁでも、歳的にそろそろだろ」
「…適齢期的に言えばそうかもだけど…全く焦ってないのよねぇ」
本音をこぼすと、おきちゃんは笑った。
「奏ならお前の歳、気にするだろ」
「う、うーん…確かに」
ただ、奏は9ヶ月で振られるって話だった。
だから少なくとも1年は様子見るだろうな、と思う。
9ヶ月云々は私には絶対関係無いし、一緒になるなら奏がいいな…なんて…。
ピリリリリ!
「うわ、うわあっ!?」
電話が突然鳴って、私は文字通り飛び上がった。
奏の着信だ。
取り落としそうになったスマホをキャッチし、通話ボタンをぽちる。
「もっ、もしもし!?」
「遅くなってごめん、日付変わるまでには着くから」
「うん…気を付けてくるんだよ?」
「ドレスは?」
「っ…き、着てる」
「いいこ」
じゃあ後で。
そう言って電話は切れた。
時計を確認すると、23時10分を少し回っている。
「今日中には着くって」
「奏のにやにや顏が浮かぶわ。ははっ」
「おかえりなさい!」
玄関を開けると、奏はまず私を上から下まで眺めた。
思わず身をすくめる。
あ、あれ。
恥ずかしいかも…。
「おかー」
「おー、遅くなった。帰ったぞー」
「お前は父親かっ」
おきちゃんが部屋から顏を出す。
奏は靴を脱いで部屋にあがる時、私の髪を撫でて行った。
う。
うわぁ…!!
「おいで姫」
姫違う!と突っ込む余裕は、既に無かった。
奏は右手の人差し指を立て、それを右から左に振った。
私は両手を広げて、その場で回って見せる。
「何してんだよ?」
おきちゃんがたまらない様子で噴き出した。
「え?奏が回れって言うから…」
「いや、声は発してないけどね」
「むぐ…」
奏は意地悪そうな笑みで続けた。
「悪くないのである」
解放されたので、お風呂に入ろうと脱衣所へ移動した。
背中のファスナーを降ろしたところで…奏がひょいっと入ってきた。
その、あまりに自然な動作に、私も反応が遅れて。
「……」
「……」
しばし見つめ合う。
次の瞬間、奏はきらっきらの営業スマイルを見せた。
「っっ!!」
かーーーっと血が登る。
こ、これはっ…ちょ、ちょ、待って!
「似合ってる。可愛いよ俺の姫」
耳元に唇を寄せた奏は、少し低いトーンで囁く。
逃げようとしたら、そのまま壁に押し付けられて、私は顏を上げられない。
「ねぇ…こっち見て。理緒…俺にもっと見せて…?」
「だ、だって…」
もごもごしていたら、顎の下に指を差し入れらて、無理やり視線を合わされた。
「いいこだね…」
「っ…ん…」
唇が重なる。
翻弄されて、腰が砕けそうになった。
そこをすかさず、奏が左腕で引き寄せて支える。
あ、だめ。
この体勢だと、ドレスが…。
奏にしがみつくようにして、身体を寄せる。
離れてたら、ドレスが落ちてしまう。
すると、奏は唇を首元に寄せた。
「あっ…んむ」
顎の下を支えていた右手が、私の口元を覆う。
「しぃ」
「っ…!」
ちゅ。
柔らかくて温かい奏の唇。
「…んぅ、…っ」
奏は2〜3回首元にキスした後、ふと離れた。
「っ!ーーっ!!」
落ちかけたドレスを、慌てて描き抱く。
私の口元を覆っていた手を放し、奏はにっこりしてみせた。
「いいのに、押えなくても」
「そっ、そんなこと言われてもっ」
「ま、これ以上は俺が我慢出来なくなっちゃうけどね〜」
「こ、こらぁ…奏〜」
このぎゅーっとなる気持ちをどうしたらいいのよー。
とっくに我慢の限界ですけど?
恨めしく思って見上げていると、奏は何を思ったのか言った。
「ねえ、友達と温泉とか行く予定は?」
「えっ?」
「京都で銭湯とか行く?」
「?…行く予定なんて無いけど…」
「ん」
「!?」
胸元の心臓より。
奏が突然顏を寄せて、ちゅ、と吸い付いた。
「っ…」
痺れるような気持ち良さと恥ずかしさが込み上げる。
長い時間だったのか、はたまた一瞬か…。
奏はそっと唇を離し、囁いた。
「…理緒は俺のだって印」
「私は奏のだよ…もっと色んなとこ…つけていい…よ?」
「見えるところは品が無い」
真顔でぴしゃりと返されて、笑う。
見えるところなんて言ってないのに、とは、なんだか恥ずかしくて言えなかった。
理由を綴り、
自分を縁取る。
理は私を形作る一部分。
こうやって貴方を好きな理由がひとつ増える。
それは私を形作るのに重要なのであった。
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