コトワリヲムスブ
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
基本的には1話で区切りのある
恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
まだ残念さは見えないけれど…?
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
森君:
理緒の仕事仲間。
ちょっと前まで気になっていた、
4つ下の男の子。
コトワリヲムスブ
理由はたくさんある。
それを結べば、私の道標となる。
「おこしやす京都〜」
1人で歓迎ムードを漂わせて、靴を脱いだ。
真っ暗な部屋は、私の京都での住処。
おかえりと笑う奏も、適当なおきちゃんもいない。
寂しいなー…っと、ううん!
だめだ!
こんなことでへこたれない。
私はちゃんと、自立しなければ。
ぺしぺし、と頬を叩いて、まずはスマホを取り出した。
自立って言っても、ただいまって言うくらいは許される。
<おかえり、俺の可愛い姫。
無事でよかった>
返信は早かった。
うわ。うわーー。
姫って!姫って〜〜!
悶えてそわそわしてしまう。
思わず頬に手を伸ばしたら、そこに追い打ちが。
<頬をぺしぺししない>
うあぁんーーーっ!
何で、何でわかるんだろう!?
私はペシャンコの布団に突っ伏して、足をじたばた。
「もお…奏はすごいよ…」
今、きっと真っ赤だ。
恥ずかしい…。
<だ、大丈夫!だもん!未遂ですー!>
送り返して息をつく。
とりあえず色々と片付けて、お風呂に入ることにした。
「…はぁ…明日から仕事だーあ」
一週間を生きる。
そうすれば、また奏に会える。
私はともすれば寂しくなる気持ちを奮い立たせた。
そう、来週は友達の結婚式が入っている。
また帰る算段であった。
うん…私は頑張れる。
月曜。京都。仕事。
「理緒さん、りーおーさーん」
「…ん?あ、何?」
キーボードを叩いていた指を止める。
集中してたんだけどなーと思いながら顔を上げると、森君が私を見下ろしていた。
年下の…そう、気になっていた、あの子である。
簡単に言えば、都合の良い女をしていただけ、だめ女どころかだめだめ女だった。
「理緒さん今日、飯行きません??」
「……あー、ごめんね、パスで!」
「えっ、何でですか」
「いや、仕事あるし」
「…最近冷たくないですか?僕と飯は嫌ですか?」
「はあ…何言ってるのよ?別に嫌でもなんでもないよ」
むしろ、ごめんどうでもいい。
「…あ、わかりました、僕が別の女と仲良くしてるから、駆け引きでしょ」
「……は、はぁ?」
「だって理緒さんは僕のこと好きですからね」
「は、はぁ…」
「ちょっと!突っ込んでくださいよ!」
「はは…とりあえず今日はごめん」
「じゃあ明日」
「ええと明日は…」
「じゃあ明後日!」
「……」
どうしたのよ急に。
びっくりして凝視していると、森君は口をへの字にした。
「何ですかジロジロと。最近、理緒さんと遊んでないからちょっと気になったんです」
私は思わず吹き出しそうになった。
何それ?
いいように遊ぶだけじゃない!
ご飯して、服や靴をねだる。
そういう関係だったじゃない。
「やだ、そんな気遣いいらないよー」
笑って言うと、森君は拗ねた顔をした。
…あぁ何だろう。
この拗ねた顔も好きと言えば好きだったはずだ。
でも、それは…私が寂しかっただけ。
誰かに寄り添ってたかっただけなんだなぁ…。
奏に感じる愛おしさは、森君には感じなかったから。
「もういいです…けど明後日空けといてくださいね!!」
<ってなことがあったわけです>
<おーおー、離れそうなニオイを感じ取る男の本能かね>
おきちゃんとLINEをやり取り。
奏に心配させるのは本意ではないので、とりあえずの相談先はおきちゃんである。
<離れそうも何も離れてるけどね>
<ははっ、まぁな(笑)>
そもそも森君は容姿はかっこいい分類だと誰もが言う。
背も183と奏より高く(奏は181なんだけど…)、かなり鍛えているがガリガリと、なんというか色々バランスに問題あるタイプ。
ただ、女ったらしというか…すぐ飽きては乗り換えを繰り返していて、パチンコ好き、見栄っ張りで、気に入った女の子には奢りたがりと…まぁそういう子である。
身体の関係を持った仕事仲間も何人かいるようだ。
年も私の4つ下とくれば、遊びたい盛りなのかもしれないけど…。
……。
森君のそういうのは天性なのか、私もいいように遊ばれたのは確かだ。
ちなみに、私は身体の関係は無い。
そこまで節操無い歳ではないわけで。
けれど一応、森君のために付け足すけど、仕事に対する熱意とか、家族に対する姿勢とか、そんなとこは尊敬出来た。
だから私は、森君が好きだった…んだと思う。
だから、遊ばれててもよかったのだ。
理性は警鐘を鳴らしていたけれど。
…だめ女たる所以のひとつである。
それに…つい最近、私は仲の良いパートさんから、あることを聞いていた。
森君は30台の女の人にぞっこんで、まさに付き合い始めたところだ、と。
聞いた時も、かなりどうでもよかった。
よかったですねー、今度はどれくらい続きますかねー?
適当にそんなことを答えた気がする。
…私は自分が手の平を返していることを自覚していたけど、それ以上の関心がわかなかった。
<奏がいることさばっと伝えて、ばさーっといきたいなー>
<いいんじゃないか?振り回されてばっかりだったし>
<この調子で絡まれるのは正直面倒なのよね>
<ははっ、だろうな>
そんなやり取りをして、おきちゃんにありがとうと告げた。
奏には、森君に伝えて絡むのを辞めてもらうと宣言した。
<そんな奴に使う労力すら無駄。いっそ無視してもよい>
奏はばっさり切り捨てていたけど。
私は仕事仲間なのでそうもいかないのであった。
<とりあえず、俺の姫だから触るなって言っといて>
<わ、私は奏のだけど…姫って〜>
<理緒は俺のだよ。負けるとも思わない。俺はそういう人間性の奴が嫌いだから>
<…うん。奏が負けるなんてあり得ない…奏みたいなジェントルさん、いないんだから>
水曜。夜。職場。
「理緒さん、飯!」
「もうここでいいー?何処か行くのはちょっと」
「なんでこんなとこで食べなきゃならないんすか!わかりました、下の餃子屋ならいいでしょ!?」
「…はぁ、そうね。それくらいなら」
職場の一階は餃子屋で、ご飯、味噌汁、餃子、お漬物の定食がある。
値段も手頃、ニンニク抜きも出来るので私は好きだった。
「で、聞いてくれます?」
「…何を」
出された水を飲み、定食を注文してから、森君が身を乗り出した。
「今、彼女いるんですよ」
「あーはいはい、のろけたかったんですか」
「違います!」
「じゃあ何…」
「そいつわがままやし、財布すら出そうとしないんですよ。それに、すぐ不貞腐れるし」
「……」
「正直合わないって思うんです」
「……」
「だからもう会うのも面倒なって…聞いてます?」
「聞いてる」
「何ですか、ヤキモチですか」
「…はあ…。森君」
「はい」
「自分が選んだんだよ。どこ見てたの?顔??…熱しやすいのも結構だけど…」
この後は、自分のことでもある。
そう思ったら、無性に悲しくなった。
「ちゃんと考えて好きになろうよ」
「な、なんなんすか!知ったような言い方してー」
「…そうだね」
「理緒さん?」
「いやー、そりゃだめ女にもなるよなぁ」
「はい?」
「こっちの話!…ねえ、ちゃんと好きになれる人探した方がいいよ」
「え…」
「自分が守りたいって思うような」
誰にも渡したくない程度には好きだよ。
「お金だって出してあげたいってなるような」
姫は出してはいけない。
俺は彼女もいなかったし実家暮らしで、お金は貯まったから。
理緒になら、出してあげたいから。
「ちゃんと、好きになれる人」
理緒は特別なんだよ。
「…理緒さんこそどーなんですか!俺みたいなのと遊んでばっかで」
「彼が出来たよ」
「ふぁっ!?」
そこに、定食が運ばれてくる。
「さー食べよ」
「ちょっ…どういうことっすか!?」
「いただきまーす」
「そんなすぐ…だって、ええーー」
餃子が少し苦い気がした。
情けない部分が、きっと一緒に練りこまれている。
奏の話を森君に自慢するのも癪なくらい、自分が情けなかった。
説明すると、奏に慰められてしまった。
<大丈夫だよ、俺はだめ男にはならないからね>
<知ってるもん…>
<よしよし>
優しい奏。
この人に恥じない自分でいようって、ホントに思った。
<…そんなわけで、惚気るのは後回し>
<自分がだめ女だって痛感したわけね>
おきちゃんにも報告をする。
<森君には悪いけど、俺もそういうのは好きになれん>
それに、とおきちゃんは続けた。
<そんなのにひっかかったら勿体無い>
<まぁ、そうだよね。私、だめ女脱したよね>
<ははっ、そりゃどーかな?なんたって今の相手、残念なイケメンだからな?>
<それ。未だに実感無いけど>
<お前くらいになると許せるのかもなぁ>
<ど、どういう意味…>
こうして夜は更けて行く。
木曜。夜。残業。
「理緒さん!すんません、製造手伝えませんか!?」
「んー?」
「ちょっと采配ミスしました…」
「明日必要な商品?」
「はい、今日やっとかないとパートさん達がキツくなります…すんません」
「わかった!今行く」
私の職場は化粧品製造業。
身だしなみを整えて製造を手伝うことになるため、自分の仕事は後回しになる。
それでも、ミスは社員でカバーしなければならなかった。
他の社員は帰ったし…私しかいないのなら仕方ない。
「どれ?」
「そこの、それです。検品してもろていいですか?」
「はいよー」
ボトルを回しながらチェックしていく。
すると、森君が正面に来て、同じように検品を始めた。
「他のは終わってるの?」
「はい、俺の仕事は出来てます」
「…?」
俺って言う時は、仕事モードじゃない時だ。
違和感を感じた。
「理緒さん」
ボトルを回しながら、森君が言う。
「考えたんすけど、ずるいです」
「は、はぁ?」
「自分ちゃっかり男作るとか…正直、理緒さんはそんなすぐどっか行くと思ってませんでした」
「いやいや、その言い方おかしいって。彼女いる人の台詞じゃないでしょ」
「今の相手はただの好奇心です!すごい歳上なら、楽そうだなーって」
「…うわ、今の最低だけど?」
「知ってますよ、理緒さんのせいでしょう!」
「何でよ」
「理緒さんは俺に彼女いても近くにいるって思ってたんですもん」
「……」
な、何を言っているんだ?
理解が及ばないのは、私の語彙力が足りないから??
「理緒さんみたいな面倒な人でも、こんだけ長く一緒にいるの初めてなんですよ!?」
なっ……
その言い方に絶句する。
「だから戻ってきて下さい」
くるくる。
ボトルを回して検品を進める。
頭が追いつかない。
「…ええと」
声を絞り出したら、予想よりずっと乾いていて冷たい声だった。
「尊敬出来るとこあった。いい子だとも思ってた。けど、男としては最低だね」
「皆に言われます…でも気付いちゃいました」
「うん?」
「本当に好きになれる人」
「…へえ」
「今の理緒さんなら、俺付き合いたいです。付き合いましょう」
「だからさ…それは振られそうになってヤケになってるよね…?そもそも私は揺らがないよ、今の人大好きだもん」
「うわ、俺の前で惚気るのやめてくれません!?」
「……若いっていいね」
よくわからない台詞を吐いて、私は手元に集中した。
なんだこれ、バカみたい。
「どんな人ですか」
「…すごく優しいよ。私は大事にされてるって実感出来る。何があっても私を蔑ろにしないって信じれる」
「…何してはる人ですか」
「大手企業の営業。期待の星。長身イケメン王子様タイプ」
言ってから、姫、という言葉がよぎって、思わず口元が緩んだ。
「…いい人なんすね」
「うん」
「…うわー、なんだこれ…こんな悔しいの初めてです俺」
「知らないよー、それに、本当に好きっていうのと違う気がする、今の君は」
「…それは何でですか」
「おもちゃ取られた子供みたいだから」
「……」
「あーあ、だめ女だったなあー」
「なんですかそれ、俺といたらだめ女ですか!」
「そーよ?だめ男って知ってて遊んでたんだもん。充分だめ女」
「なんやそれ!ひどいなあ!」
森君はからからと笑って、ふと真顔になった。
「関東帰るんでしょ?」
「うん、年内には引継まで完了する」
「…仕事、理緒さんとならやりやすくて好きやったのに」
「あと3ヶ月あるよ」
「本気なんですね」
「彼のこともそうだけど…転機なんだ。私はもっとやれるって思いたい。友達とも遊びたいし」
「そうですか。僕…応援してますね」
何事も無かったかのように、森君は検品を再開した。
しばらく黙々と仕事していると、ふと森君が私を伺った。
「そうだ、あの、理緒さん」
「はい?」
「…あの、僕のこと、その、周りに言わないで下さい」
「…はい?」
「だめ男やとか、ケチやとか、やりまくりとか…」
……。
は、はぁ…?
呆れて声が出ない。
「居辛くなるのは困るんで」
「あのさ…見くびらないでくれる?」
最悪……。
私はため息をついた。
こんな子を気にしていた自分が、本当に情けなかった。
<理緒、元気無い?>
<え?…どして?>
<文面>
<…ふふ、奏ってば本当紳士だー、優しい〜>
<優しいのは理緒にだけ>
<うぁん…撃沈します>
<可愛いなぁ>
事情を少し説明すると、奏はさらっと返してきた。
<見る目無いね>
私は奏に言葉を送った。
<見くびらないでほしいね…私は…私は、そんな女にはならない>
それから少し間があって、奏からは一言だけ。
<大丈夫だよ>
それが私を勇気付けてくれた。
理由はたくさんある。
それを結べば、私の道標となる。
私は歩く。
強くありたいから。
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