表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

コトワリヲムスブ

時系列はあるので

順番に読んでいただくのを

お勧めしておりますが、

基本的には1話で区切りのある

恋愛小説です。


理緒:

主人公。

京都在住のだめ女。

元、だめ女と信じたい今日この頃。


奏:

関東在住の残念なイケメンことかなで。

理緒の彼。

まだ残念さは見えないけれど…?

理緒の1個下。


おきちゃん、沖:

理緒の姉の元彼、

中学時代の先輩、

奏の同期。

院卒のため理緒とは2つ、

奏とは3つ歳が離れている。


森君:

理緒の仕事仲間。

ちょっと前まで気になっていた、

4つ下の男の子。

コトワリヲムスブ


理由はたくさんある。

それを結べば、私の道標となる。


「おこしやす京都〜」

1人で歓迎ムードを漂わせて、靴を脱いだ。

真っ暗な部屋は、私の京都での住処。

おかえりと笑う奏も、適当なおきちゃんもいない。

寂しいなー…っと、ううん!

だめだ!

こんなことでへこたれない。

私はちゃんと、自立しなければ。

ぺしぺし、と頬を叩いて、まずはスマホを取り出した。

自立って言っても、ただいまって言うくらいは許される。


<おかえり、俺の可愛い姫。

無事でよかった>


返信は早かった。

うわ。うわーー。

姫って!姫って〜〜!

悶えてそわそわしてしまう。

思わず頬に手を伸ばしたら、そこに追い打ちが。


<頬をぺしぺししない>


うあぁんーーーっ!

何で、何でわかるんだろう!?

私はペシャンコの布団に突っ伏して、足をじたばた。

「もお…奏はすごいよ…」

今、きっと真っ赤だ。

恥ずかしい…。


<だ、大丈夫!だもん!未遂ですー!>


送り返して息をつく。

とりあえず色々と片付けて、お風呂に入ることにした。

「…はぁ…明日から仕事だーあ」

一週間を生きる。

そうすれば、また奏に会える。

私はともすれば寂しくなる気持ちを奮い立たせた。

そう、来週は友達の結婚式が入っている。

また帰る算段であった。

うん…私は頑張れる。


月曜。京都。仕事。


「理緒さん、りーおーさーん」

「…ん?あ、何?」

キーボードを叩いていた指を止める。

集中してたんだけどなーと思いながら顔を上げると、森君が私を見下ろしていた。

年下の…そう、気になっていた、あの子である。

簡単に言えば、都合の良い女をしていただけ、だめ女どころかだめだめ女だった。

「理緒さん今日、飯行きません??」

「……あー、ごめんね、パスで!」

「えっ、何でですか」

「いや、仕事あるし」

「…最近冷たくないですか?僕と飯は嫌ですか?」

「はあ…何言ってるのよ?別に嫌でもなんでもないよ」

むしろ、ごめんどうでもいい。

「…あ、わかりました、僕が別の女と仲良くしてるから、駆け引きでしょ」

「……は、はぁ?」

「だって理緒さんは僕のこと好きですからね」

「は、はぁ…」

「ちょっと!突っ込んでくださいよ!」

「はは…とりあえず今日はごめん」

「じゃあ明日」

「ええと明日は…」

「じゃあ明後日!」

「……」

どうしたのよ急に。

びっくりして凝視していると、森君は口をへの字にした。

「何ですかジロジロと。最近、理緒さんと遊んでないからちょっと気になったんです」

私は思わず吹き出しそうになった。

何それ?

いいように遊ぶだけじゃない!

ご飯して、服や靴をねだる。

そういう関係だったじゃない。

「やだ、そんな気遣いいらないよー」

笑って言うと、森君は拗ねた顔をした。

…あぁ何だろう。

この拗ねた顔も好きと言えば好きだったはずだ。

でも、それは…私が寂しかっただけ。

誰かに寄り添ってたかっただけなんだなぁ…。

奏に感じる愛おしさは、森君には感じなかったから。

「もういいです…けど明後日空けといてくださいね!!」


<ってなことがあったわけです>

<おーおー、離れそうなニオイを感じ取る男の本能かね>


おきちゃんとLINEをやり取り。

奏に心配させるのは本意ではないので、とりあえずの相談先はおきちゃんである。


<離れそうも何も離れてるけどね>

<ははっ、まぁな(笑)>


そもそも森君は容姿はかっこいい分類だと誰もが言う。

背も183と奏より高く(奏は181なんだけど…)、かなり鍛えているがガリガリと、なんというか色々バランスに問題あるタイプ。

ただ、女ったらしというか…すぐ飽きては乗り換えを繰り返していて、パチンコ好き、見栄っ張りで、気に入った女の子には奢りたがりと…まぁそういう子である。

身体の関係を持った仕事仲間も何人かいるようだ。

年も私の4つ下とくれば、遊びたい盛りなのかもしれないけど…。

……。

森君のそういうのは天性なのか、私もいいように遊ばれたのは確かだ。

ちなみに、私は身体の関係は無い。

そこまで節操無い歳ではないわけで。

けれど一応、森君のために付け足すけど、仕事に対する熱意とか、家族に対する姿勢とか、そんなとこは尊敬出来た。

だから私は、森君が好きだった…んだと思う。

だから、遊ばれててもよかったのだ。

理性は警鐘を鳴らしていたけれど。

…だめ女たる所以のひとつである。


それに…つい最近、私は仲の良いパートさんから、あることを聞いていた。

森君は30台の女の人にぞっこんで、まさに付き合い始めたところだ、と。

聞いた時も、かなりどうでもよかった。

よかったですねー、今度はどれくらい続きますかねー?

適当にそんなことを答えた気がする。

…私は自分が手の平を返していることを自覚していたけど、それ以上の関心がわかなかった。


<奏がいることさばっと伝えて、ばさーっといきたいなー>

<いいんじゃないか?振り回されてばっかりだったし>

<この調子で絡まれるのは正直面倒なのよね>

<ははっ、だろうな>


そんなやり取りをして、おきちゃんにありがとうと告げた。

奏には、森君に伝えて絡むのを辞めてもらうと宣言した。

<そんな奴に使う労力すら無駄。いっそ無視してもよい>

奏はばっさり切り捨てていたけど。

私は仕事仲間なのでそうもいかないのであった。

<とりあえず、俺の姫だから触るなって言っといて>

<わ、私は奏のだけど…姫って〜>

<理緒は俺のだよ。負けるとも思わない。俺はそういう人間性の奴が嫌いだから>

<…うん。奏が負けるなんてあり得ない…奏みたいなジェントルさん、いないんだから>


水曜。夜。職場。


「理緒さん、飯!」

「もうここでいいー?何処か行くのはちょっと」

「なんでこんなとこで食べなきゃならないんすか!わかりました、下の餃子屋ならいいでしょ!?」

「…はぁ、そうね。それくらいなら」

職場の一階は餃子屋で、ご飯、味噌汁、餃子、お漬物の定食がある。

値段も手頃、ニンニク抜きも出来るので私は好きだった。


「で、聞いてくれます?」

「…何を」

出された水を飲み、定食を注文してから、森君が身を乗り出した。

「今、彼女いるんですよ」

「あーはいはい、のろけたかったんですか」

「違います!」

「じゃあ何…」

「そいつわがままやし、財布すら出そうとしないんですよ。それに、すぐ不貞腐れるし」

「……」

「正直合わないって思うんです」

「……」

「だからもう会うのも面倒なって…聞いてます?」

「聞いてる」

「何ですか、ヤキモチですか」

「…はあ…。森君」

「はい」

「自分が選んだんだよ。どこ見てたの?顔??…熱しやすいのも結構だけど…」

この後は、自分のことでもある。

そう思ったら、無性に悲しくなった。

「ちゃんと考えて好きになろうよ」

「な、なんなんすか!知ったような言い方してー」

「…そうだね」

「理緒さん?」

「いやー、そりゃだめ女にもなるよなぁ」

「はい?」

「こっちの話!…ねえ、ちゃんと好きになれる人探した方がいいよ」

「え…」

「自分が守りたいって思うような」

誰にも渡したくない程度には好きだよ。

「お金だって出してあげたいってなるような」

姫は出してはいけない。

俺は彼女もいなかったし実家暮らしで、お金は貯まったから。

理緒になら、出してあげたいから。

「ちゃんと、好きになれる人」

理緒は特別なんだよ。

「…理緒さんこそどーなんですか!俺みたいなのと遊んでばっかで」

「彼が出来たよ」

「ふぁっ!?」

そこに、定食が運ばれてくる。

「さー食べよ」

「ちょっ…どういうことっすか!?」

「いただきまーす」

「そんなすぐ…だって、ええーー」

餃子が少し苦い気がした。

情けない部分が、きっと一緒に練りこまれている。

奏の話を森君に自慢するのも癪なくらい、自分が情けなかった。


説明すると、奏に慰められてしまった。

<大丈夫だよ、俺はだめ男にはならないからね>

<知ってるもん…>

<よしよし>

優しい奏。

この人に恥じない自分でいようって、ホントに思った。


<…そんなわけで、惚気るのは後回し>

<自分がだめ女だって痛感したわけね>


おきちゃんにも報告をする。


<森君には悪いけど、俺もそういうのは好きになれん>

それに、とおきちゃんは続けた。

<そんなのにひっかかったら勿体無い>

<まぁ、そうだよね。私、だめ女脱したよね>

<ははっ、そりゃどーかな?なんたって今の相手、残念なイケメンだからな?>

<それ。未だに実感無いけど>

<お前くらいになると許せるのかもなぁ>

<ど、どういう意味…>

こうして夜は更けて行く。


木曜。夜。残業。


「理緒さん!すんません、製造手伝えませんか!?」

「んー?」

「ちょっと采配ミスしました…」

「明日必要な商品?」

「はい、今日やっとかないとパートさん達がキツくなります…すんません」

「わかった!今行く」


私の職場は化粧品製造業。

身だしなみを整えて製造を手伝うことになるため、自分の仕事は後回しになる。

それでも、ミスは社員でカバーしなければならなかった。

他の社員は帰ったし…私しかいないのなら仕方ない。

「どれ?」

「そこの、それです。検品してもろていいですか?」

「はいよー」

ボトルを回しながらチェックしていく。

すると、森君が正面に来て、同じように検品を始めた。

「他のは終わってるの?」

「はい、俺の仕事は出来てます」

「…?」

俺って言う時は、仕事モードじゃない時だ。

違和感を感じた。

「理緒さん」

ボトルを回しながら、森君が言う。

「考えたんすけど、ずるいです」

「は、はぁ?」

「自分ちゃっかり男作るとか…正直、理緒さんはそんなすぐどっか行くと思ってませんでした」

「いやいや、その言い方おかしいって。彼女いる人の台詞じゃないでしょ」

「今の相手はただの好奇心です!すごい歳上なら、楽そうだなーって」

「…うわ、今の最低だけど?」

「知ってますよ、理緒さんのせいでしょう!」

「何でよ」

「理緒さんは俺に彼女いても近くにいるって思ってたんですもん」

「……」

な、何を言っているんだ?

理解が及ばないのは、私の語彙力が足りないから??

「理緒さんみたいな面倒な人でも、こんだけ長く一緒にいるの初めてなんですよ!?」

なっ……

その言い方に絶句する。

「だから戻ってきて下さい」

くるくる。

ボトルを回して検品を進める。

頭が追いつかない。

「…ええと」

声を絞り出したら、予想よりずっと乾いていて冷たい声だった。

「尊敬出来るとこあった。いい子だとも思ってた。けど、男としては最低だね」

「皆に言われます…でも気付いちゃいました」

「うん?」

「本当に好きになれる人」

「…へえ」

「今の理緒さんなら、俺付き合いたいです。付き合いましょう」

「だからさ…それは振られそうになってヤケになってるよね…?そもそも私は揺らがないよ、今の人大好きだもん」

「うわ、俺の前で惚気るのやめてくれません!?」

「……若いっていいね」

よくわからない台詞を吐いて、私は手元に集中した。

なんだこれ、バカみたい。

「どんな人ですか」

「…すごく優しいよ。私は大事にされてるって実感出来る。何があっても私を蔑ろにしないって信じれる」

「…何してはる人ですか」

「大手企業の営業。期待の星。長身イケメン王子様タイプ」

言ってから、姫、という言葉がよぎって、思わず口元が緩んだ。

「…いい人なんすね」

「うん」

「…うわー、なんだこれ…こんな悔しいの初めてです俺」

「知らないよー、それに、本当に好きっていうのと違う気がする、今の君は」

「…それは何でですか」

「おもちゃ取られた子供みたいだから」

「……」

「あーあ、だめ女だったなあー」

「なんですかそれ、俺といたらだめ女ですか!」

「そーよ?だめ男って知ってて遊んでたんだもん。充分だめ女」

「なんやそれ!ひどいなあ!」

森君はからからと笑って、ふと真顔になった。

「関東帰るんでしょ?」

「うん、年内には引継まで完了する」

「…仕事、理緒さんとならやりやすくて好きやったのに」

「あと3ヶ月あるよ」

「本気なんですね」

「彼のこともそうだけど…転機なんだ。私はもっとやれるって思いたい。友達とも遊びたいし」

「そうですか。僕…応援してますね」

何事も無かったかのように、森君は検品を再開した。

しばらく黙々と仕事していると、ふと森君が私を伺った。

「そうだ、あの、理緒さん」

「はい?」

「…あの、僕のこと、その、周りに言わないで下さい」

「…はい?」

「だめ男やとか、ケチやとか、やりまくりとか…」

……。

は、はぁ…?

呆れて声が出ない。

「居辛くなるのは困るんで」

「あのさ…見くびらないでくれる?」

最悪……。

私はため息をついた。

こんな子を気にしていた自分が、本当に情けなかった。


<理緒、元気無い?>

<え?…どして?>

<文面>

<…ふふ、奏ってば本当紳士だー、優しい〜>

<優しいのは理緒にだけ>

<うぁん…撃沈します>

<可愛いなぁ>

事情を少し説明すると、奏はさらっと返してきた。

<見る目無いね>

私は奏に言葉を送った。

<見くびらないでほしいね…私は…私は、そんな女にはならない>

それから少し間があって、奏からは一言だけ。

<大丈夫だよ>

それが私を勇気付けてくれた。


理由はたくさんある。

それを結べば、私の道標となる。


私は歩く。

強くありたいから。


感想、評価、いただけたら嬉しいです。

跳ねて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ