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カナデノハナ

時系列はあるので

順番に読んでいただくのを

お勧めしておりますが、

基本的には1話で区切りのある

恋愛小説です。


理緒:

主人公。

京都在住のだめ女。

元、だめ女と信じたい今日この頃。


奏:

関東在住の残念なイケメンことかなで。

理緒の彼。

まだ残念さは見えないけれど…?

理緒の1個下。


おきちゃん、沖:

理緒の姉の元彼、

中学時代の先輩、

奏の同期。

院卒のため理緒とは2つ、

奏とは3つ歳が離れている。

カナデノハナ


奏でた音色。

彩られる世界。

私の中に花が咲き乱れる。


日曜、朝。


「おはよ」

奏が額にキスを落とす。

私は微睡みから一気に浮上した。

「…おはよう奏」

朝からこのイケメンは眩しすぎる。

しかも、心臓は早鐘のように脈打って、止まらなかった。

「んっ」

私からは頬に一つ、キスを。

奏はまだ眠そうな顔を、優しくほころばせた。

もうきゅんきゅんする。

だめだ!

私は火が出そうな頬をぺしぺしすると、シャワーすることに決めた。


「おはよー」

おきちゃんが後ろ頭をかきながらキッチンにやってきた。

私は目玉焼きをお皿に降ろすと、おきちゃんに指示を出す。

「トースターの食パン盛って」

「おー」

「奏は?」

「さあ?布団は動いてなかった」

「あはは、まだ寝てるんだね」

食パンにはチーズを乗せて焼いてある。

そこに塩コショウをした目玉焼きをプラスして、ベーコンを添えた。

「はい出来上がり、持ってって」

「ういー」

泊まってる間のご飯は、分担されていた。

昨日の夜は奏が焼きそばを作っている。

このルームシェアのような環境は、とてもとても楽しい。

「何かいいよな、この不思議空間」

「あ、わかる!何だろうね、しかも関係性も変だし!」

「俺だけ除け者ですねわかります」

「あっはは!家主なのに!」

テーブルにお皿を並べ、野菜ジュースを人数分ついだ。

そこで奏に声をかける。

「奏、ご飯出来たよ〜」

「ふぁい…」

もそもそと布団が動く。

ぴょこんと顔を出した奏の髪は好き放題に跳ねている。

「とりあえず顔洗ってくる…」

「ついでに髪も見ておいで?ふふ」


ご飯を食べ、皆が準備を終えたとこで、奏が言った。

「姫をみなとみらいにお連れする」

「ひっ…姫って!わ、私は街娘っ…」

思わず突っ込むと、おきちゃんは笑いながら、

「おー、気をつけてなー」

と言った。

「あっ、じゃあ荷物持ってかなきゃ。そのまま京都戻ることになりそう」

「新幹線何時?」

「新横浜を20時半」

「了解です姫」

「こらーー!」

そうだった。

私、京都帰らないとなんだったな。

少し寂しいな。

考えていると、奏が笑った。

「姫が寂しそうである」

「うわあ!な、何で!?何でわかったの!?」

「うちのお姫なので」

「うあぁーーーー」

思えば奏は、いつも私の表情やテンションを察してくれていた。

私もそうならなきゃ!

強く思って、私は帰りの準備も始めた。


日曜、昼〜夜。


「とりあえず…散歩しよう」

みなとみらいに着いた頃にはお茶の時間だった。

地下駐車場に車を置いて、エレベーターへ乗り込む。

…あ、エレベーター…。

そう思ったら、奏から引き寄せられて、ぎゅっとされた。

お約束のキスも。

甘いフレンチバニラの香り。

あ、どうしよう…。

気持ちよすぎてとろけそう。


ちーん


「っ!」

我に返って飛び上がるように離れる。

がーっとドアがスライドし、外には他のお客さんがいた。

「ちょっと離すの遅かったね」

その間をすり抜けながら奏がぼそっと囁いて、さらに付け足した。

「そこ!いちゃつかない!って思われてるね」

「も、もうー!そんなことはっ…ありましたけどもっ」

「リア充爆発しろー」

「いや、それ爆発するのこっちだからね!?」

せめて顔が紅いのを悟られまいと、頬をむにむにしていたら、奏が笑った。

「何それ可愛い、でも挙動不審すぎ、ははっ」

「ううー」


人混みの中を、ビルの合間を、奏はするすると抜けて行く。

最初手を繋いでいたけど、奏は腕を組む方が好きだと気付く。

さりげなく出される腕が、ツカマリナサイと言っている。

私は腕を巻き付けて、目一杯くっついた。

「うむ、よい感触である」

「ええっ!?何それー!」

可笑しくてたまらない。

見上げるようなビル群は、ゆっくりと夕焼け色に染まろうとしていた。

「わぁ…綺麗」

「ここ」

「うん?」

「皆が写真撮るスポット。水面に映るビル群…今日はちょっと風あるけど、それが撮れる」

それに、と奏はスマホを取り出した。

「今の時間なら、この夕焼け色も絶妙である」

「あっ…わ、私も!」

慌ててスマホを出して、シャッターボタンを押す。

明るさの調整をしながら、慎重に、たくさん。

思わずため息が出てしまうくらい、美しい景色だった。

自然も大好きだけれど、人工物…しかも神社とかではなく、無機質な鉄やコンクリが織り成す世界も捨てたもんじゃないんだ。

そう気が付いた瞬間だった。

「奏…」

「うんー?」

「素敵だね、ここ、こんなに…綺麗だよ〜」

奏はにこりとすると、少し間を置いて戯けてみせる。

「理緒も綺麗だよ」

私は当然…撃沈してしまうのであった。


いつの間にか暗かった。

私達は海沿いの静かな公園にたどり着く。

有名な公園とは違って、喧騒は遠のき、波の音が聞こえ、いる人達も静かに寄り添っていた。

「俺さー、何かやなことあった時、ここ1人で散歩してさー」

「うん」

「なんかさ、ちっぽけじゃね?って思うんだよねー、俺の悩みなんか」

「…うん」

「座って1人でぼーーっと海見てさ。波の音がして、それで頑張ろうってさ」

「うん…そっかぁ」

奏がもやもやしたら来る散歩道。

ただ歩くだけでこんなに幸せなのはどうしてかな。

きらきらの街並みと、静かな海辺。

ほんと、悩んでたらちっぽけだって思うよね…。

散歩したくなるの、わかる気がした。

これからは、私と、幸せな気持ちでたくさん歩こうね。

心の中で呟いて、回した腕に力を込めた。

「……」

突然奏が立ち止まる。

海沿いの階段に私を引いて座らせ、隣に座る。

きょろきょろと辺りを伺ってから…奏はキスをくれた。

「俺のお気に入りの場所、理緒に見せられて良かった」

「うん…すごく気に入った」

「光栄です、姫」

「っ!!」

不意打ちである。

奏の肩に額を押し付けて顔を伏せると、奏はくすりと笑った。

「誰にも渡したくない程度には好きだよ」

「…えっ?」

て、程度?

どの程度……?

ちょっと迷う言い回しだ。

「ええっと?それ、んん?」

考えていてもよくわからなかったので、とりあえずは好きだってことで納得した。

好きだよ。

なんて素敵な響きだろ?

「楽しそうだね」

「楽しいよ?奏は楽しくないの?」

「悪くないね」

「ふふ、そっかー」

幸せで、幸せで。

ふにゃりと笑う私に、奏も、満足そうだった。

「…俺はね」

「うん?」

「恋愛もさー、苦労して手に入れてなんほだって思ってた」

「……」

「逃げられたらさ、追いかけたくなるじゃん。…でもさ、結局、手に入れても他に行かれて。だから女なんてと思ってた」

「…うん」

「だから理緒は…他行ったらだめだよ?…俺のことしか見えなくしてあげる」

もちろん恥ずかしかった。

けど、今は恥ずかしさを飲み込んで、奏に笑いかけた。

「もう…奏しか見えなくなっちゃった。知ってるでしょう?1度好きになったらとことん好きなままよ」



奏。

奏が言う「悪くない」は、奏の中で最上級だってこと、私はもう知っている。

そして「誰にも渡したくない程度」っていうのは、誰にも渡したくない、理緒は俺のだから渡さない、って意味だってことも。



「それじゃ、ここでごめんね」

「いいのよー、むしろ送ってくれてありがとね!」

「気を付けてね」

「奏も」

「……理緒」

「…ん…」

お別れのキスをして、車を降りる。

帰りの新幹線が出る30分前に、駅にリリースされるところだった。

「あ、そうだ。奏」

「うん?」

「あのね…大好きだよ」

「……ふ、知ってる」

「うん。もっともっと…追い掛けられる側…好かれる側を体験させてあげる」

他の人が思ってたよりずっと…貴方を愛してあげる。

「…ありがと、理緒」


奏でた音色。

彩られる世界。

私の中に花が咲き乱れる。


大好きだよ、奏。

お読みいただきありがとうございます!

感想などいただけたら嬉しいです。

ぐるぐる回って喜びます。

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