カナデノオト
時系列はあるので
順番に読んでいただくのを
お勧めしておりますが、
1話完結型の恋愛小説です。
理緒:
主人公。
京都在住のだめ女。
元、だめ女と信じたい今日この頃。
奏:
関東在住の残念なイケメンことかなで。
理緒の彼。
まだ残念さは見えないけれど…?
理緒の1個下。
おきちゃん、沖:
理緒の姉の元彼、
中学時代の先輩、
奏の同期。
院卒のため理緒とは2つ、
奏とは3つ歳が離れている。
カナデノオト
君が奏でる音色は、
私をあるべき方向へ誘うのだ。
金曜日、夜。
「おかえり、俺の可愛い姫」
開口一番がそれだった。
キラッキラの笑顔が眩しい。
さらに今日は、奏っ…
反則です、スーツなんて!!
撃沈している私に、奏は営業スマイルから一転、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ほら、理緒?こっち見なさい」
「ふ、ふあ、は、はい…」
顔をあげれば、辺りを伺った奏に髪を撫でられた。
「今日も可愛いね、俺の姫」
「だ、だだ、だからぁーー!」
「ふふ、楽しいのである」
私は金曜の夜から日曜まで、泊りがけの計画を立てて関東に帰ってきていた。
仕事を終えてダッシュで新幹線に飛び乗ったのである。
我ながら、こうと決めた時の行動力は半端ない。
まぁ、当然、奏も仕事だったわけで。
こうしてスーツ姿での待ち合わせとなった。
いやもう、細身のスーツは奏をさらに際立たせている。
シュッとしたシルエット、長い脚。
や、彼女補正なんて入れなくても、イケメンすぎだ。
こんな彼がいていいの!?
私に!!
「…とりあえず移動しよう。ここは職場が近すぎて不安だ」
「あっ、職場の人に会うの気まずいよね」
はっと我に返ると、奏は少し困った顔をした。
「可愛い彼女を見られても問題無いけど、俺のこのゆるいところは見られたくない」
「あははっ、そう言えば、仕事ではクール奏くんだったね」
「まぁね」
実に、会うのは2週間ぶりだった。
付き合ってから毎日LINEをしたし、
お互いの話もたくさんした。
その間に、奏くんを卒業。
はれて、奏、と呼ぶようになったのだ。
私は元々、1度好きになったらほぼ自分から嫌いになることは無い。
奏にいたっては何故か9ヶ月くらいで振られてしまうと言う。
こんな紳士なイケメン捕まえて、歴代の彼女は何で振るのだろう?
疑問を解消しようとは、あまり思わなかった。
奏の過去を抉りたいわけじゃなかったから。
移動して、ビルのエレベーターに乗った。
イタリアンでディナーと洒落込もうと奏が言ったのだ。
イタリアンのお店は3階にあるという。
「…理緒」
「ん…?っ!」
そっと腰を抱かれて、キスを落とされる。
柔らかくて温かい唇から、甘い香りがした。
「…うん、デートっぽい」
「う、うー。恥ずかしい…きゅーってなる」
おかしいな、初めてってわけじゃないのにな。
何でこんな照れちゃうんだろ!?
「それだけ、俺は愛情込めてるからね」
さらに追撃。
もうだめ、きゅん死しそう。
ちーん。
エレベーターが3階を告げる。
た、助かった…かも?
私は満足気な奏に、照れながら聞いた。
「…ね、奏…その、唇…いい匂いで甘いんだけど…」
「あ、これ?…いいリップみたいだから買った」
取り出したリップは見たことないもので、フレンチバニラの香りと書いてあった。
名前をしっかり記憶に刻む。
奏のキスの香りのリップ…かぁ。
是が非でも欲しい!
パスタとピザ、サラダとワイン。
優雅な食事に舌鼓。
あ、奏の食べ方、綺麗だな。
にこにこしてしまう。
「理緒は特別なんだよ」
「うん?」
唐突に振られた話に、ワインを置く。
奏は少しだけ微笑んだ。
「俺のこのゆるいところは、他の人には見せないから。
でも理緒には最初からわりと出せたから、居心地がよい」
だから、特別だよ。
囁くように言われて、どきっとした。
その時の優しい笑顔は、あまり他で出さないでほしいレベルである。
思わず、えへへと照れながら、
「クールな奏くんはあんまり見たことないけど…きっとかっこいいんだろうなってことはわかるよ」
と返すと、奏は今度こそ破顔した。
「まぁね」
奏は自分がかっこいいことを知っている。
たくさん言われてもきたそうだ。
けれど、私は知っていた。
奏は、さらっと同意することで、かわしているのだ。
<否定しすぎても嫌味、堂々と口にしても嫌味。
だからこうするのが1番って気付いた。
俺は残念なとこも多いからね>
電話した時、そう言っていた奏を思い出す。
その時の奏は、少し切なそうで…
「理緒?」
「あ、うん」
…少し、自分を嫌ってそうだった。
私は奏を正面から見つめ、言葉を紡いだ。
「奏は、本当に素敵だよ、かっこいいのは中身もだから。私はきっと、残念なんて思わない。そんなとこあったら、一緒に直せばいいじゃない?」
我ながら、少し唐突で、かなり恥ずかしい台詞だった。
奏は驚いた顔をして、また笑った。
「急にどうした?…でも…うん。
理緒、好きになってくれてありがと。
俺の特別なお姫様」
…撃沈したのは言うまでもなかった。
「たっだいまー」
「おーおかえり」
ご飯の後、奏と帰ってきたのはおきちゃんの家だ。
1度奏の家に寄り、奏は着替えと車の鍵をとってきた。
ちなみに奏は実家暮らしである。
「飯は?」
「理緒と食べてきた」
「あいよ」
「はいっ、お茶買ってきた!」
「さんきゅー」
いや、そこおかしいだろ!
何で2人でおきちゃんちだよ!?
って話は無い。
当然のような空気と空間があって、楽である。
「俺、明日飲み会だから鍵渡しとくな」
「はいよー」
「あ、風呂わいてるぞ」
「お母さんか!」
おきちゃんと奏のやり取りを聞きながら、私は荷物をごそごそした。
「はい、京都土産!阿闍梨餅〜」
「おう、悪いな」
「奏のもちゃんとあるよ!」
「ん、一緒に食べよ」
「あ、先にお風呂したいかな」
「…脱がして差し上げましょうか?姫」
「ふあ!?な、なっ、ななっ…」
「ははっ、ごめん、行っといで」
ぱたん。
脱衣所の引き戸を閉め、私はへたり込んだ。
いやいやいや!
照れすぎでしょ、おかしいでしょ!
自分で突っ込む。
そしたら今度は奏のキスと甘い香りを思い出して、かあーっと熱くなった。
う、うわー。
私、全力で恋愛しちゃってる…。
それが嬉しくもあり、切なくもある。
もっともっと、奏に好きになってほしい…その気持ちが日に日に膨れ上がっていた。
その夜、前回と同じく2組の布団を3人で使う。
前と違うのは、私と奏の距離だろうか。
ぎゅう。
当然のように腕枕、しかも私を抱き締めるような感じのまま、奏が寝ている。
すー、すー、と吐息がくすぐったい。
恥ずかしいけどこの上無く幸せで、私はその背をそぉっとさすっていた。
「……」
奏の手が、私の腰を抱き寄せる。
「理緒」
「あ、起こしちゃった?」
囁くと、奏がとろけそうな表情で微笑んだ。
「んーん」
ちゅ。
キスが柔らかい。
ぎゅーって、心臓がぎゅーってなった!!
「…いいこ、奏」
髪を撫でると、奏は目を閉じて、
「何でそんな可愛いの…」
と、力一杯私を抱きしめた。
「理緒、その…照れて柔らかく笑うの、他の人に見せちゃだめだよ」
「!」
「その表情は、俺の特権だから」
しばらくして寝入ってしまった奏。
しかしながら私は、しずまれ心臓ーーー!!と、心の中で絶叫しながら、朝を迎えたのだった。
君が奏でる音色は、
私をあるべき方向へ誘うのだ。
ねぇ知ってる?奏。
奏の言葉は、私をこんなに強くしてくれるのよ!
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