カナデノコト
時系列はあるので、
順番に読んでいただくのを
お勧めしますが、
1話完結型の恋愛小説です。
理緒:
本来の主人公。
京都から関東へ帰ってきて、
就職もしただめ女。
元、だめ女と言い張りたい今日この頃。
奏:
かなで。
残念なイケメン。
理緒の彼氏で1個下。
残念?な理由は2つほど見えてきた。
沖、おきちゃん:
理緒の姉の元彼、
中学時代の2個上の先輩、
院卒のため、年齢は上だが、
奏の同期。
カナデノコト
そうやって甘やかすから
私は強くなりたいと
そう感じている
「バレンタイン…か…」
年が明け、新しい会社に慣れるべくばたばたな日々を送っていて。
ふと、そんな季節だなーと思う。
街にもチョコレートが溢れて、それはもう綺麗なものから変わったものまで目白押しになっていて。
……でもやっぱり、本命でしょう?
…それって、やっぱり…ねぇ?
ちなみに、私はお菓子作りは好きで、一通りのものは作ったことがある。
もちろん、チョコレートに至っては自分の好物だし、クッキー、ケーキ、生チョコ、ドリンクなどなど色々作るわけで。
だから…まぁ凝ったものでも作ろうと思えば出来るわけで。
私は考えながら、無意識に手にとっていた泡立て器をくるりと廻した。
………
「ザッハトルテ…!」
奏が、本社研修を終えた私に買ってくれていた、綺麗なチョコレートケーキ。
それはザッハトルテだった。
奏は嬉しそうにお皿に取り分けて、私に言ってくれたのだ。
「ここのザッハトルテ、本当に美味しいんだよ?理緒にも食べさせてあげたいなーと思ってたんだよね」
「……」
胸の辺りがきゅうっとする。
奏は覚えてるのかな…私が言ったこと…人を好きってどんな気持ち?って問いに、私が答えたことを。
綺麗な場所がありましたー、美味しいものがありましたー、そんな時に、あ、あの人にも見せたいな、一緒に食べたいなって、ふと思い出すような…
自分の言葉をなぞり、奏を見る。
…ねえ奏。
今、奏は…そうやって私を好きでいてくれてるのよ。
とてもとても…幸せ。
「理緒」
「…え、あ、はいっ?」
「はい、あーん」
「っふあ!?」
そんなでれでれの時に呼ばれて、意識が浮上した。
って、こんな時に奏のきらきら営業スマイルは反則です!!!
「あっ…え、ええとっ…あ、あの」
かっこいい美味しそう恥ずかしいーーー!!
大混乱である。
すると、奏が少し低い声で。
「…理緒?」
そう呼ぶのである!
その表情は、意地悪そうな時の笑みに変わっていた。
…も、もうだめ…きゅん死します。
「ご…ごめんなさい……あむ」
「……いいこ」
お、美味しい……。
よしよしと撫でられて、私は撃沈。
何なの!このイケメン何なのーー!!
「…いや、私の彼だけどさ」
はっ。
思わず呟いて我に返る。
思い返してトリップしていたようだ。
私は回していた泡立て器をフックにかけ、ふはー、と息をついた。
「ザッハトルテを作ろう」
それしかないでしょ。
ところが。
ところがである。
バレンタイン当日、定時上がりをするはずが…なんと天候は雪。
交通網の乱れが云々カンヌンで、早く帰るようにと指示があったはずなのに、上司は帰してくれる気配が無い。
奏から帰れる?と声をかけてくれたのに…改札で待っていてくれたのに、私に用意されていたのは書類作成だった。
ひどい…。
奏に一生懸命謝る。
奏は大丈夫と言ってくれたけど…きっとしょんぼりだろう。
<明日昼頃から行くよ。理緒のチョコ、ほしいもん>
<本当にごめん…>
どうしてこう…私は仕事女なんだろうか…。
しみじみ思う。
愛想尽かされたらどうしよう?
そんなことは無いとわかっていてもただ悲しい。
結局、雪で電車が止まり、帰ったのは23時ごろだった。
<お疲れ様、今日も理緒は頑張ってて偉いよ>
奏の優しさに、凍えてやさぐれていた気持ちが熱を持つ。
何て素敵な人なんだろう。
私は着替えると、泡立て器をとった。
「……よし」
ザッハトルテ。
絶対美味しいって言わせたい。
ありがとうと、大好きをたくさんたくさん込めて。
奏のためにケーキを焼いた。
結果…
……何だかわからないが生チョコみたいなケーキが出来た。
要因は簡単、焼き加減がわからなかったのだ。
ザッハトルテ…のような何か。
大丈夫かなこれ…。
味見をしてみたら、びっくりするくらい濃厚なチョコ味。
私には美味しいけど…奏、これ美味しいって言うかなぁ…。
しかしもう1度練習する時間はもう無かった。
「いらっしゃいませ」
やってきた奏を出迎える。
奏は部屋に上がると私の髪を撫でて、微笑んだ。
かわいい…。
普段のゆるい奏はホントにかわいい。
自慢したくてしょうがない。
にこにこしていたら、楽しそーだねーと言われたので、楽しいもんー、と返した。
「…あのね、チョコね、ちょっと失敗しちゃったー」
「ちょこだけにちょこっと?」
「ええっ、ち、違うもん!そんなこと言ってないもん!」
「ふふ、いいよ、理緒がくれるやつなら」
「…そういえば、奏はたくさんもらえそう」
「まぁ仕事ではもらうよね…俺は毎年、新人達とお返しを会議する」
「か、会議…?」
「それなりに、やっぱセンス問われるじゃん?気になるじゃん?」
「参考までに何を返したの?」
「某アロマ系ショップのソープセットとか、有名ブランドのハンカチとか?」
「えっ、高そう…」
「まぁねー、あとはパジャマ」
「ぱ…?え?」
「…は、却下された」
「当たり前でしょ!?」
「なんで?かわいいじゃん」
「かわいくても!彼でもない男の人にかわいいパジャマもらうとか!ないない、絶対着ない!それに彼氏いるのにもらったりしたら、ちょっと問題じゃない!?」
「いいじゃん、買ったって言えば」
「……え、じゃあ、私がそれしてもいいってこと…?男の人にパジャマもらったけど、買ったって言えば?」
「………それはそれこれはこれ!」
「ええーっ、いや、いいって言われたらそれは困るんだけども!」
てんやわんやである。
しかも。
「チョコ余ってたら、ちょうだーい、くださーいって言ってもらってくるから、それもお返しの出費を増やす要因」
「へ?」
「大抵くれるし」
「…えっと、今年も…?」
「勿体無いからね」
「……」
衝撃的である。
「あの、奏…え?」
「…あ、だめだった?」
「や、だ、だめっていうか…そりゃ…彼女いるのにチョコ頂戴って言ってまわるって、それじゃ私どうなるの…」
「理緒のは特別だもん」
そういう問題ではない。
チョコはチョコである。
「私が、何もしてないみたいじゃない…そりゃあ遅かったけどさ」
気持ちが萎む。
雪の中仕事してたのが悪い。
でもその間、奏がチョコを貰って歩いてたのだと思ったら……。
あ、思ったよりずっとショックだ。
どうしよ、ちょっと今、奏の顔見れないかもしれない。
「理緒〜」
「んう!?」
うつむいた瞬間、奏の手がほっぺをむにーっと包んだ。
「理緒がやならもうしない、ごめんなさい」
「……うー」
「…本当に他意は無いから」
そりゃあったら困る…。
「ごめんなさい」
「……うん、もういい」
確かにチョコは勿体無いのだけど…
自分の彼がチョコ頂戴って言ってまでもらってたら、それは切ない。
でも、自分が怒ったりして、奏を困らせるのはもっと切ない。
「…理緒は何がほしい?パジャマ?」
「いらにゃいですー」
「ええー」
「……奏といたいです」
「…」
「奏の時間ください」
「……」
奏がぼーっと私を見てる。
しばらく耐えていたけど、恥ずかしくなって目を逸らしたら、いきなりぎゅーっとされた。
「そんなんでいいの!?…なんなの、かわいすぎ!じゃあいっぱいあげよう。なんなら俺リボン巻こうか?」
「ええ、何それー!」
「ご希望なら服も脱いでおきます姫」「あはは、やだ、おかしいー」
奏の腕の中で笑う。
奏はそっと私を離すと、額にきすを落とした。
「理緒、俺のかわいいお姫様。何にもわからなくしてあげる」
「っ…〜!」
俺のこと好きってこと以外はね。
奏は囁いて、にっこりした。
撃沈、もうあれだ!
泡になって溶ける!
人魚姫…って、姫違いますー!!そもそも失恋はしないけど!?などと内心突っ込みながら、私は奏にぎゅーっと抱き付いた。
大好きすぎて苦しい。
奏はそっと私を抱きしめ直した。
そうやって甘やかすから
私は強くなりたいと
そう感じている
きっと君のためなら、
私はいくらでも頑張れる。
ユニークが700近くなりました、
お読みくださってありがとうございます!




