表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

リオノコト

時系列はあるので、

順番に読んでいただくのを

お勧めしますが、

1話完結型の恋愛小説です。


理緒:

本来の主人公。

関東出身、京都在住のだめ女。

今回は奏視点のお話。


奏:

かなで。

残念なイケメン。

理緒の1個下。


沖、おきちゃん:

理緒の姉の元彼、

中学時代の2個上の先輩、

院卒のため、年齢は上だが、

奏の同期。

リオノコト


俺の可愛いお姫様。

大事にしなきゃなって、

本気で思ったんだ。


その子はまるで、人懐っこい子犬のようだった。

尻尾をぶんぶんしながら俺の周りを走り回っているような。

感情豊かで、表情はころころ変わる。

笑顔も、膨れた顔も、ちょっと自分を責めたような大人の顔も、あたりまえのように俺に見せた。

俺にとって、全力で感情を表に出しているのがなんだか新鮮で。

それは最初から、好感触だったのかもしれないなーと、今は思う。



まず驚いたのは、俺の同期である沖がいるにしても、知らない男を部屋に泊めることだった。

いや、むしろ沖の提案なんだろうってことは察したわけだけど、少しは気を使え、主に俺に、と思ったわけで。

全力アウェイである。

…会ってみたら気を使ってくれるいい子だったし、逆に申し訳なさそうに自分の部屋に泊まらせることを謝っていたからいいものの…ギャルみたいなのが出てきたら引いていたかもしれない。

とりあえず、だめ女というその子は、床に座っていた俺に、ぺしゃんこだけど布団に座れと説教したり、忙しそうだ。

じゃあと布団に座った時、ほっとした顔で、よろしい!と笑ったのと、俺たちが疲れているだろうからと、湯船にお湯をはってくれていたのは、いい子ポイントをアップさせた。


次の日、その子…俺は理緒とは呼べなかったが…は、だめ女っぷりを聞かせてくれた。

困ったように笑うその表情は、元気が無いようにも見える。

いや、正直言えば、ありえないくらいの一途っぷりというか…化石か?と思ったわけで…。

「今時…そんなこいるんだね」

と、思わず呟いてしまったほどである。

まぁでも、だめ女なのはだめ男が相手だからだと、聞いてて思った。

俺も残念とは言われるけど…それでもその男達に負けることは無いなーと思う程度には、ひどい巡り合わせである。

電車にゆられながらそんなことを思っていた時、すごい音と共にゲリラ豪雨。

その子は傘を持っていなく、俺と沖は持っているという状態に陥った。

駅に着くと、大雨。

売店は坂道の下。

目の前の子犬は意を決したような顔をしていて。

今にも駆け出しそうだ。

「どーぞ」

いたたまれなくて、俺は傘を掲げてしまった。

驚いた顔をして、しどろもどろに返答しながら、おずおずと傘の下に収まるその子。

…背が俺の肩ほどで、思ったより小さいなと思った。

とりあえず濡らしてしまっては申し訳ないので、傘を傾けておく。

俺の右側が濡れるが、そこは紳士の気にすべきポイントではない。

普段なら…正直なところ、一緒に傘に入るくらいなら渡してしまうのだが…相手はこの子犬。

まぁいいかと漠然と思っていたところで、そっと傘を押し戻されて、我に返る。

「いいんだよ、半分こしよ?」

子犬が濡れないよう、傘を傾けていたのに気付いていたらしい。

「…や、人様を濡らすのは…」

「…着いたっ、だからちゃんと挿して!」

売店に飛び込んで、笑うその子に。

いいこだなーと思った。


…正直に言おう。

背は高い、顏はまあまあ、外面は紳士、あとバンドをしていたのもあって、俺はモテた。

いや、会社入ってからはモテるなんてことは無かったけど…それなりにオファーは頂いている。

ただ、それを俺が好きになるかは別でしょって話であって、そもそも恋愛とは追いかけて手に入れるべきだ。

…そう思っていたから…この人懐こい勢いに、いつの間にか呑まれていたのである。

普段なら、馴れ馴れしくされれば俺は壁をはり、それ以上踏み込むなと線を引くわけだけど…奏くん奏くん、と人懐こい声で呼ばれていても、そこには何の気負いも感じなくて。

女の女たる所以である甘ったるい感じは、この子には無かったんだよねー。



「うーん、転ばないようにしないと…」

雨はやみ、ぬかるんだ山路を残すのみ。

そんな中、その子…理緒とはまだ呼んですらいない…は、ぼやいて足元を見ている。

……ふむ。

今は隣に位置してる俺は、少し考えた。

この子犬は、滑れば間違いなく転ぶだろう。

紳士たれという校訓の学校で、紳士とはなんぞやというものをなんとなく学んできた俺は、それなりに気を使うわけで。

うん…支えてあげれるかもしれないなー。

結論を出すと、下側に移動した。

しばらく様子を見ながら歩いていると、不意に呼ばれた。

「ねぇ」

「はい?」

「ありがとう奏くん」

「!…気付いてたんだ」

「まぁね!」

へぇ、と思う。

こういう風に下側にいること…まぁ今回は特殊だけど…の、意味に気付いた子は他にいない。

人間が良く出来ているというか…人としてスマートでもあるなと感じた。

そのくせ、お礼を言ってとびきりの笑顔である。

…不覚にも、ちょっとかわいいと思ってしまった。

まさにその瞬間。

ずるぅっ

「あ」

「お」

沖が転びかけていて、

「あ、あぶねーっ!」

吹き出した。

「さすがにお前を助ける準備はしてなかったわ!」

「だよね!」

あー、なんか…

久しぶりに楽しいぞ。

なんだこれ。

それは、この旅行がそれなりに気に入った瞬間で、楽しそうに笑っているその子…理緒を見て、俺は自然と口に出していた。

「なんか元気なったね」

「ん?うん!…奏くんのおかげだよ」

飾らない、媚びない、真っ直ぐな賞賛。

今日初めて見る優しい笑みは、大人っぽい。

ふーん、こんな顏もするんだ…。

俺は少しだけ戸惑ったのもあって…返答に間が空いた。

「………良いことである。

おきには世話になってるから、その友達にも良くするのである」

「…?」

理緒…は、不思議そうな顔をして、何か納得したのか言い直した。

「つまり、2人には感謝してるー」

うむ、とりあえず頷いておこう。



京都は満喫した。

「…お茶して帰るかー」

沖の言葉に理緒…口に出しては1度も呼んでない…が頷いて、向き直る。

「楽しかったねー。奏くんも楽しめた?」

「うん、中々によかった」

「なら良かった!やー、自然いっぱいって大事だね、私なんか吹っ切れた」

確かに吹っ切れているように見えるなーなどと思いながらお茶を頼む。

いろいろと話をしていると、理緒が嬉しそうに言い出した。

「あっ、そういえば知ってる?ストローの袋をこうやって…」

得意気…とでも言うのがいいのか。

ぎゅっと袋を寄せてから、ストローを抜くと、それに水滴を垂らし、くにゃくにゃと膨らんでいく様を見せてくれた。

「ほらほらっ、見て見てっ、すごくない?楽しくない?」

本当に楽しそうに顔を上げた理緒。

その表情の変化を眺めていた俺と、まともに視線がかち合った。

何か、そう、魔が差したって感じだよね。

俺はとびきりの営業スマイルを作って、

「わー、ほんとだー、すごーい!なにそれー?ストローがどうなるのー??」

と、理緒を見つめてみた。

目を見開いて瞬きする理緒の頬が、みるみる紅くなる。

「ちょ、ちょとまっ…あ、あれ!?」

あ、かわいいかも…。

「うんうんー、たのしーね!どうなるの?もう一回見せて?」

調子に乗った俺は、畳み掛けることにした。

「だっ、だから待ってってば!いや、だって楽しくて…あれえ!?」

恥ずかしさのあまりか、頬を覆うその仕草も楽しい。

「ぶはっ、なんだ、どーしたんだよ理緒」

「いや、何か顔がっ…熱い熱い!なにこれ!」

沖の突っ込みにも余裕が無いようだ。

「俺、こういうところしか見てないけど?」

思わず言うと、理緒はむーっと口を尖らせて反論した。

「そんなことはないっ!む、むしろ、私こんなキャラじゃない…しっ」

「うん、俺もこんな理緒は見たことないからな、ははっ」

沖の援護射撃。

うん、ナイス連携。

「やめて!こっち見ないでぇー」

見ないでと言われたら見るのが男の子だよね。

などと思いながら見守ると、理緒はますます混乱した。

「ほら!だってさ!楽しくなってほしいじゃない?…だからさ!」

必死に弁解?するところがまた良い。

「ふ、弄りの方向性を理解した」

にやりと笑えば、理緒は完全に顔を覆ってしまった。

「だーかーらー!!」

うん、これは…かわいいな。



帰りの新幹線に乗る前、理緒は明後日から関東に来ると言う。

とんとんと沖の家に泊まることが決まり、理緒は暇ならご飯しようと笑った。

仕事もあるけど、時間とれるなら行くのも悪くないなー。

とりあえずの返事をして、新幹線に乗り込んだ。

「まあ、あんな奴だよ」

沖が言う。

「まあ、だめ女だったけどー、人間力は高いよね」

「まあな。あいつは俺の中で人として上位にいるぞ」

「正直、巡り合わせが悪いだけだろーね。人様の恋愛に口を挟むつもりもないけどー」

「だなー。で、お前は楽しめた?」

「悪くないね」

「ふ」

沖は笑うと、続けた。

「お前が人間力高いって褒めるなら、理緒も喜ぶだろ。友達欲しがってたから」

「……うむ」

…そうか。

喜ぶのか。

ほころんだ理緒の笑顔を思い出して、まぁ笑うのであればいいか、と思った。



<楽しかった、ありがと!おかげでさ、すごく笑ったよー>

理緒は気負うこともなく、LINEをぽいぽい投げてくる。

こういうとこも子犬っぽい。

当たり障りなく返しておくと、

<でねっ、今更だけど、お友達になってください!>

と、今更な言葉が送られてきた。

なんだこれ、ふりか!ふりなのか!

そりゃあワタクシ紳士ですので?

かっこよくお答えしてみせますよ?


<だが断る>

<何故なら既にお友達である>


<あ、何それかっこいい!あっ、じわじわくる、あはは!>

…楽しそうだな。

自然と、口元が緩んだ。


<かっこよく決めるつもりだったから想定外だけど、笑うのはいいことだぞー>

<うんうん!1番笑ったのは私だよー>

<だろうね>

<あははっ。…それと>

理緒は一呼吸おいて、次のLINEを送ってきた。

<私、だめ女だったから…脱してみせようと思う>

……宣言。

誰かに言うことで強固な意思になるのかもしれない。

<うん、次会う時までに脱しといてね>

悪くない提案なので期限をつけてあげることにする。

<それ明日だけど!?>

この突っ込みも悪くない。

ちょっと考えて、本心を伝えた。

<まぁ、男の巡り合わせが無いだけで、充分いい女だと思うよ>

今頃照れてるかもしれないなーと漠然と思う。

<奏くん紳士すぎ!>

<よく言われる>

<それでも!受け取りなさい、それはすごいことなんだから!>

<素直に人を褒められることもすごいんだよ❤︎って褒め返してあげよう>

<ちょっ…わ、私は褒められなれてない!>

反応に、思わずふ、と笑ってしまう。

思い通りの反応で、中々に楽しいのだ。

<楽しい。…まぁ俺もさ、残念って言われるし、長いこといたらそういう部分も見えるかもね>

<こら……!!いや…うーん、私ね、結構なんでも許せちゃうから気にならないかもー。でも、そうだな、わかるくらいの時間まで、もっと遊べたらいいよね>



そんなこんなで関東に来た理緒。

名前はまだ呼んでないが、姫と呼ぶことで落ち着いた。

何というか…名前呼びってハードル高くね?っていうのが俺の結論だし。

しかも、姫と呼ぶと理緒はものすごく照れて、それが俺のツボだった。

しばらく楽しめそうだ。

結局、家に帰るという考えは無くなって、俺も沖の家に泊まることにする。

一応、泊まる準備をしていたのもあった。

寝る時は、沖、俺、理緒で川の字。

微妙な距離感で、理緒は眠っていた。

そういえば、理緒といる間は俺、緩いなー。

人にはあまり見せないところを、理緒には見せてる。

居心地は悪くなかった。

それに、好意全開の子犬をかまっている気分もあった気がする。


そんな夜中のこと。


もそもそと理緒が動くので、意識が浮上した。

何となく距離が近い気がしたので、寝たふりをしておく。

…このシチュエーションにいい思い出が無いんだよねー。

昔、同期15人くらいで遊びに行った時、酔った女の子が泣きながら抱きついて離れず、俺は痴漢じゃありませんとばかりに万歳したままその女の子と床に転がっていたのである。

断じて何もない。

しかし、それを見つけた男がはやしたて、最終的には俺がブチ切れである。

また何かあったらそれこそ…理緒とは2度と会わない…だろうと思う。

たぶん。

…けれど、予想に反して…布団が引き上げられ包まれた。

…はいでたのを掛け直してくれたようだ。

近くに感じる気配は、やがてころんと横になって、俺のお腹の辺りをとん、とん、と優しくたたきだした。

………いやいや。

これ、他意は無いんだろうか?

無防備すぎ……。

一応俺、男ですけど…?

…けれど、その手はゆっくりになり、やがて、すーすーと吐息が聞こえる。

…えぇー。

…まあいいか……。

やがて俺の意識もまた眠りに落ちた。


次の日も、俺は姫と一緒に沖の家へ。

何の話題からか、沖が悪ノリを始めて、何故か俺が理緒に腕枕することになった。

…まぁ悪い気はしない。

しどろもどろな理緒を見ていると楽しくて、俺は笑った。

「おいで姫」

「も、もー!していただきますよ!?ほらっ!」

差し出した腕に、ころんと理緒の頭が乗る。

柔らかい髪から、甘い香り。

目が合うと、理緒は照れたのか下を向いてしまった。

それが、さらに俺との距離を縮めたことに気付いてない。

………。

ふわ。

思わず髪を撫でてしまった。

理緒は首を竦ませて、一気に熱を持つ。

…昨日の仕返しだー。

心の中で笑うと、理緒はもぞもぞと体勢を変えていく。

「姫が良い位置を探しておられる」

「っ、ち、ちがっ…」

かわいい。

髪を優しく撫でれば、理緒は落ち着かない様子でさらにもぞもぞ。

やがて、俺の腕に乗り過ぎないような位置で落ち着いた。

…ほんと、かわいいんだけど。

寝るまで撫でていてあげよう。


その後、気が付けば理緒は腕からどいていて、また布団をかけてくれた。

……そして、今日は横にならずに、そーっと俺のお腹あたりをとん、とん、としだした。

……あ、だめだ。

かわいい。

その思いが、正直もういっぱいで。

俺は理緒を引き寄せ、抱き締めてしまった。

ここまでされて、黙ってるほど草食ではない。

「ちょちょ、奏くん…あの??」

慌てた声で理緒が囁く。

その動揺っぷりに、我に返った…が、こうしてしまったら後の祭りである。

今更解放も出来ず、俺もどうしていいかわからず…。

ぎゅーっとしていると、理緒はどんどん熱くなる。

やがて、身体の力が少し抜けて、理緒が俺に身を預けた。

……寝てると思ってるだろうか。

…いや、たぶん起きてると思ってるだろうな…。

あれこれ考えていると、ごそりと沖が動いた。

今だっ!ナイス沖!!

俺は出来るだけ自然に理緒を解放し、背中を向けた。

これ以上理緒の方向いてたら、たぶん触れたくなる。

…でもそれが、好きなのかって言われると…自信が無かった。


前の彼女と別れてから、やさぐれて生きていたんだよなー。

だからもう、好きって気持ちがどんなものか、思い出せなかったのである。


朝、理緒はそわそわしているし。

俺も少し距離をとった。

嫌がられて…は、いないはずだ。

そうは思ったんだけど、変な雰囲気のまま、俺たちは仕事に向かったのである。


<嫌じゃなかったから甘えたけど、寝込み襲っちゃった気分!勘違いとかしてないから安心していいよ!私が自己嫌悪なるから言っとくね(笑)>

理緒からのLINEは昼頃にきた。

気を使われているようだ。

けれど、何て返そうか迷って、結局夕方にこう書いた。

<寝込み襲われる女子です。寝てたとはいえ、俺もグダりすぎてたよね、失礼しました>

……襲ったのはもちろん理緒である。

<私が男子ってこと!?(笑)

まぁ、奏くんが嫌じゃなければ甘えておいでー、黙ってぎゅーってしたげよう!>

……いいこだな。

そう思ったけど、沖に今日は休めと言われていた。

まあ、理緒に合わせる顔が無いような気もしていたけど。



俺は仕事を理由に、理緒に会いに行かなかった。

それなのに、仕事の合間に、理緒が京都に帰るときのお土産にいいかも…と、お菓子を眺めていて。

しかも…同期の女の子に、理緒の話をしてしまうくらいだった。

俺の周りんぐるぐるしてね、かわいいんだよね、と。

そしたらそいつは、いーじゃーん!付き合っちゃいなよー!と言ってきた。

……俺、どうしたいんだろ。



その次の日。

理緒はもうすぐ帰ってしまう。

そう思うと、何となく…顔くらい見ておきたいと思った。

俺は理緒と待ち合わせて、コンビニに買い出しに行ってから、沖の家に行くことにする。

…聞いておきたいことがあった。

「やほー奏くん!」

駅で待ち合わせて、改札から出てきた理緒はにこにこと笑っていた。

「お疲れ様!仕事忙しいんだよね、大変だね」

「まぁねー」

…一生懸命話す理緒に、少し申し訳ない。

気を遣ったりしてるのかなー。

俺は歩きながら、そういえば、と話をふった。

「俺の営業先にしか売ってないお菓子があってさ」

「うん?そうなの?それすごいね!」

「うん、それで京都帰るお土産にって思ったんだけど」

「うんー」

「…忘れた」

「あはっ、何それー!あははっ、ありがと〜!そう思ってくれるだけでも嬉しいな」

楽しそうだし、そんなことを嬉しいと言う理緒。

この子は本当にいいこである。

そこで、ようやっと…聞きたかったことを聞く決心がついた。

「……あのさ、人を好きになるってどんな気持ち?」

「へ?…あ、うーん。…そうだなぁ…ふとした時に思い出す気持ちかな」

「どゆこと?」

「綺麗な場所がありましたー、美味しいものがありましたー、そんな時に、あ、あの人にも見せたいな、一緒に食べたいなって、ふと思い出すような」

「……なるほどねー。…なんかさ、人を好きってどんなのか、もうわからないからさ、俺」

「まぁ、恋愛とかじゃなくても、仲良ければ思い出すと思うの。だからそれが恋愛の好きかは、あとは自分の感じ方とか回数次第じゃないかな?」

「うん」

「…と、私は思うな」

「うん、ありがと」

…そうかー、と思った。

薄々は思ってたんだけど、やっぱりこれ…好きなんじゃね?と思う。

いや、こんな短時間でありえないだろうとも思ってたんだけど…。

ちらと理緒を見ると、ほんわりと笑いかけられた。

…理緒の笑顔には種類がある。

全力で笑っているの、困ったように笑うの、きらきらと期待に満ちてる時もあれば、大人っぽい笑みの時も。

感情豊かで、素直で、人としても好感が持てた。


だから、帰るまではせめて、たくさん甘やかしてあげたいなと思った。

好意全開で尻尾を振り回し、俺の周りをぐるぐるする。

そんな理緒を見ていたいと…そうも思った。


そして…夜が来る。

理緒を撫でたり、姫と呼んだり、満喫していたのだけど…。

「なあ、お前らぐだぐだと…めんどくさいなはっきりしろよ!」

……沖に怒られた。

俺は理緒と顔を見合わせた。

「うだうだして俺を挟むな!どうなんだよ!」

説教をくらうこと5分。

理緒は耐えれなくなったらしい。

「あ、あのですね」

「なんだよ」

「いたら言えないこともね!あると思うんだけど!?」

それ言っちゃうんだ。

思わず笑ってしまう。

沖は買い物に行くと出て行ってしまった。

まぁ、こうなったら後は勢いなのかもしれないなー。

「あの、ええと奏くん?」

「うん」

「あのね、私はね、奏くんを好きだけど、なんていうか違うの…私京都帰るし、遠距離とか自分が無理だし、だから恋愛の好きとしては焦ってなくてですね」

理緒はそーっと手を伸ばし、俺の髪を撫でた。

「迷惑かけるつもりも無かったし、だから壁とか嫌だし…その…だから。ごめんね、ぎゅってされたことも勘違いとかしてないの、責任取るとか思ってたら……」

全く、本当にかわいい。

一生懸命否定してるのに、その好意は俺に向いているんだと実感出来てしまう。

遠距離無理とか言ってる時点で、それって、もう俺のこと恋愛として好きなんだよね。

「……いや、正直ね。3年は待てる」

「は?…え?」

「…付き合おう?」

「……っ!」

理緒が目を見開く。

少し潤んだ瞳がかわいい。

「は、はい…」

頷く理緒が愛おしい。

そっと抱きしめて、離れたすきにキスをひとつ。

「ん…っ」

恥ずかしいのか、俯く理緒。

「…言ってなかった」

「う、うん?」

「好きだよ」

「っ…〜〜っわ、私も…あの…好きだよ…」

かわいすぎる。

なんだこれ。


俺の可愛いお姫様。

大事にしなきゃなって、

本気で思ったんだ。


追いかけるのが恋愛だと思ってた。

でもさ、理緒のおかげて…好きって気持ち、思い出した。

好かれる恋愛も、悪くないな。


奏視点のお話でした。

いろいろ考えていたんです。


お読みくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ