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こんな恋の始まりもあるはず。 2

作者: メラルー



 私には、変態でストーカーでヤンデレ属性の幼なじみがいる。




もう桜も散って青々と葉桜が茂っている今日この頃。そんな幼なじみは今日も今日とて家の前で私をお出迎えしていた。



「あーちゃんおはよう」

「おはよう敦、くっつこうとしないで」

「嫌だ。あーちゃん今日も可愛いね。そのスカートから見える太ももとかマジ誘っているようにしか見えな(殴」

「まだ何か言うか?」

「何でもないです……」

敦の鳩尾にクリーンヒットした拳を緩め、私は学校へと歩く。



その横をニマニマと嬉しそうに歩く野崎 敦は、つい最近までただの幼なじみだと思っていたお隣さんだ。

170位の身長で、色が白くて華奢に見えるが、ちゃんと筋肉はついている属に言う細マッチョな体。

真っ暗なストレートの黒髪に、少し垂れた瞳と泣き黒子が色っぽいと学校のみんなに大人気な人物。

が、中を開いて覗いてみればただのヤンデレストーカーでした。なにそれ怖い。




「そういえばあーちゃん、進学どうする?」

「…え、いきなりどうしたの」

まだ私たちは二年生。まあそろそろ考えなきゃいけない時期だけど、呑気な私はまだ未定だ。



「まだ決めてない」

「そっか。決まったら教えてね。一緒の学校にするから」

「訂正、女子大に行こうと思う」




敦が真っ青な顔でおののいた。



「何で!? それじゃあ俺入れないじゃん!」

「それが狙いだ馬鹿め!! 何さり気なく同じ学校に進学しようとする!!」

「だってあーちゃん、違う学校になったら昼間一緒にいられないんだよ? 夜しかあーちゃんに会えないなんて……」

「ほほう、夜も会うつもりだったのか」

するとキョトンとした顔で敦は私を見つめた。




「え、俺たち進学したら同棲するんでしょ?」

「私の右ストレートが唸るっ!!」




敦の鳩尾にまた拳をクリーンヒットさせようとするが、今度は簡単にひょいと避けられた。な、むかつく!!



「いつそんな話出た? ねえいつそんな話した?」

「俺の脳内のあーちゃんは同棲に大賛成だった」

「二次元なんかに頼るな。リアルを見つめるんだ」

「え、もしかして嫌なの!?」

「嫌だよ!!」

「そんな!! 俺の計画が……」

シュンとうなだれるが、ここが道端だと言うことを忘れないで。そしてもう学校が近いから生徒がチラホラ見えるってのも。

既に後少しで校門だ。出来るだけ女子の嫉妬の的になりたくない私は急ぎ足で敦と距離を取る。




「あ、あーちゃんどこいくの」

「離れて変態ストーカー」

「ああ、周りの目が気になるの?」

と、珍しく敦が私の意を得てくれた。




「うん。そうだよ、だから-…」

「あーちゃんは相変わらず恥ずかしがり屋だなぁ。いい加減人前でいちゃつくのに慣れようよ。まぁあーちゃんの頼みだから、いつものように真後ろ一メートルをキープするけど」

「待て、今、合っているようで全然違う解釈を敦はしている気がする」

離れてくれるのはいいが、何かが違う。敦の言い方だと、まるで人前でいちゃつくのが恥ずかしくて、『み、みんな見てるよぉ』『馬鹿、見せつけてるんだよ』みたいな甘酸っぱい青春ストーリーみたいに聞こえる。

まぁ、『真後ろ一メートルキープ』の言葉で甘酸っぱさが激減したけど。




「え、違う解釈? あ、分かった」

「おぉ、分かってくれた?」

「うん。『周りの目が気になるけど、特別に手を握って教室まで一緒に行ってあげる。べ、別に敦とずっと一緒にいたい訳じゃないんだからねっ!!』って事か。ツンデレのあーちゃんも可愛いよ。じゃ、行こっか」

「お前の脳内は一体どうなっているんだ!?」

違う解釈っていうか、完璧に都合の良いように解釈されてる!!

なんで頭はいい筈なのにそういう所は馬鹿なの!?




「何でいきなりのツンデレ設定-…、うわ、貴様何をするっ!!」

「あーちゃんの手小さくて柔らかいよね。可愛いマジで可愛いもう手の感触だけで一発イケる」

「何普通に校門前で下ネタを…、ちょ、本当に離して!! なに恋人繋ぎしてんのちょっと!!」

散歩を嫌がる犬よろしく踏ん張るが、こちとら身長150しかない小さい部類の女子高生。力で勝てる筈もなく、こうして私は教室へと連行された。








昼休み




「敦君と茜、付き合い始めたんだ。ハハッ☆ 転校生ざまぁ!!」

と清々しいまでの笑顔で友人の由香は叫んだ。




「あーちゃん恥ずかしがり屋だからさ、いっつも否定するんだよ」

拗ねたように呟いて、敦は美味しそうなお弁当をつつく。





私を膝の上に乗せて







「…ど、どうしてこうなった」

おののきながらもメロンパンを口にする。敦が嬉しそうに『あーちゃんパン食べてる姿も可愛い』と耳元で呟いた。



いつものように友達と一緒にご飯食べようと思って机をくっつけて、椅子に座ろうとしたらもう既にそこには敦が座ってスタンバってた。

あっれー? あっれ~!? と何度首を傾げても現実は変わらない。器用に左手で私をホールドし、右手で優雅に食事を進める敦。

ヤバい、こいつ外堀から埋めるつもりだ。




「…マジで付き合ってない。本気で付き合ってない」

「またまたぁ~。こんなラブラブな所見せつけておきながらまだ言うかこいつぅ~♪ マジリア充死ね」

と由香が呟く。水谷 由香はショートカット似合う明るく可愛いちょっとオタクな私の友達で、明るく活発な子だ。だが現在恋人募集中らしい。



「そんなツンデレな所も好きだよあーちゃん。ほら俺の卵焼きあげる」

「これはツンデレな態度じゃないですツンドラな態度です。卵焼きは頂きます」

敦の箸から直接卵焼き頂く。うん、莉子さん(敦の母親)の料理はいつ食べても美味しい。

まくまくと卵焼きを頬張っていると、由香がニヤニヤしながら話題を変えてきた。




「二人って経験済み? ぁ、もう結婚の約束とかしてたり? 子供は二人にしようね~とか? あ~んいいな~私も彼氏欲しいマジリア充爆発しろ」

本音が。さっきから本音がちらちらと顔を覗かせている。

だから付き合ってもいない、と私が言う前に、白米を咀嚼し終えた敦が口を開いた。


「あーちゃんの初めては今年の夏休みに貰って婚約して、卒業したら同棲。大学出て俺が就職決まったら結婚して子供3人の幸せな家庭を築く予定」

「なにそれ初耳」

すらすらと将来の計画を話す敦に絶句した。とりあえず今年の夏休みは旅行に出かけないといけないな。




「え、子供4人がいい?」

「そこじゃない。議論する所はそこじゃなく、根本的に私たちは付き合っていないはずだよ?」

「俺と婚約して専業主婦になってよ!」

「わけがわからないよ」

貴様どこのインキュベーターだ。




「もう! 茜頑固なのはよくないよ末永く爆発しろっ!!」

「いやだからあんたさっきから本音がー…!!」

「式場はどこにしようかあーちゃん」

「貴様ら人の話を聞くという事を学んでこいっ!!」

そうこうしている内に予鈴のチャイムが鳴り響いた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「先生…、こんな事嫌だっ……」



放課後、私は理科準備室に閉じ込められていた。

狭いそこには、私と一人の男の、まだ年若い化学担当の原先生しかいない。

彼の机の周りには何枚もの資料がはびこっていて、独特の鼻につくような匂いが充満していた。



私は鍵の掛けられたドアをガチャガチャと捻るも、たかが女子高生にはどうする事も出来ない。引け腰の私を追い詰めるかのように原先生は距離を縮め、銀縁眼鏡を指の腹で押し上げる。



「土屋、抵抗しても無駄だぞ。長い鬼ごっこは終わりだ」

興奮しているのか、若干先生の息が荒い。これから起こるだろう事に私の顔は青ざめた。



「嫌、原先生っ……!」

「さっさと来い。お前が従順にしていれば早めに済ませてやる」

縋るように名前を呼ぶも、原先生は落ち着き払って私の手首を掴む。これから起こりうるであろう絶望に、私はなすすべは無いのだ。

呆気なく私は机の方に引かれて座らされた。






「さぁ、今日こそ補習の課題出してもらうからな」

「嫌ぁやりたくないぃ~~!!」

思わず先生の机に突っ伏した。衝撃で書類の塔が崩れたが関係ない。

私、みんなの所に帰りたい…!!



罠だった。これは用意周到な罠だった。

こそこそと色んな理由を付けて大嫌いな化学の補習から逃げてきた最近。そしたら今日最後の授業の後、『補習はもういいから、とにかくプリントだけでも貰っていけ』と先生がわざわざ言いに来たのだ。



わあい、原先生神様っ!! プリント貰っても提出しなくていいなんてと喜々としてついていったら、部屋に入った瞬間鍵が掛けられた。なんと巧妙な罠何だろう。



「初めからこれが狙いか…、裏切り者…!!」

「補習から逃げるお前が悪い。明日っから二人っきりで放課後補習一週間だ。嬉しいな土屋?」

「嫌だ死んじゃう!! 化学を勉強し過ぎると過呼吸になるんです私!!」

「そうだったのか…。先生も鬼じゃない。過呼吸が収まったら再開するようにするな?」

「鬼ぃ!!」



ぐずぐずと言いながらもペンを動かす。こうなったら殺るっきゃない間違えたやるっきゃない。今日は早く帰って撮りだめしたドラマを見るのだ。教師という社会人からの圧力なんかに負けない。

とは言ったものの、たったのプリント一枚だった。でも20分かかった。こ、これを一週間続けるのか…、と考えたら目眩がする。

フラフラしながらも、やっと開いた扉を『明日は倍だからな~』開いて出て行った。




放課後20分では、まだまだ校舎には人がたくさんいる。だが、別校舎にある理科準備室の周りはシンと静まり返っていた。

これで教室に帰れば、敦がどこ行ってたのと抱きついてくるんだろうなと考えながらのんびりと歩いていたら、横からグイッと引っ張られた。



「ぎゃあっ!?」

なんて全然可愛らしくもない声を出しながら私は足をもつれさせながら体制を整えようとする。が、そこまで運動能力が高くない私はそのままバランスを崩して倒れ込んだ。




「……っ~…」

「やっと来たわね、土屋さん」

聞き覚えのない声に釣られて顔を上げてみれば、



「………誰」

本当に知らない人だった。

知らない、だが多分この学校の生徒だろう女の子たちが私を見下ろしていた。

そろりと周りを見渡す。薄暗い…、多分、視聴覚室だと思う。

既に入り口は閉められ、まるで黒魔術を始めそうな彼女たちの雰囲気に私は思わず身構える。



「…あの、何かご用ですか」

黒魔術サークルへのご入会はちょっと…、とおずおずと出たその言葉に、少女たちはくすくすと笑った。



「ご用? 分かってる癖に」

「今更そんなとぼけた事言って」

と声が上がる。え、え? 何だろう。人気ある原先生の補習から逃げてた罰? と素っ頓狂な考えが私の中に流れた。




「やっちゃいなさい」

と、暗がりの奥から声が聞こえた。

一斉に女の子たちが私に群がり、体を地面に押さえつける。



「え、ええぇ!?」

ご、強姦!? この集団で強姦!? と真っ青になった。というか女子に襲われるのは果たして強姦に入るのかとずいぶん変な事を考えている内に、両手は纏められカチリ、と手錠らしきものがかけられた。



「ちょ、」

これは本気でシャレにならない。

手錠をかけた野郎の顔を見ようとして…、思わず固まった。



「え、野々瀬、さん?」

同じクラスメートの顔があった。緩く巻かれた髪をかきあげつつ、野々瀬さんはうっすらと笑う。



「全く、幼なじみだからといってもあまり敦君に喋りかけないんだもん油断しちゃった。本当、いけ好かない女よね土屋さんて」

敦、という最近私の元にやってきた疫病神か死に神なんじゃないかという野郎の名前が出てきて、思わず顔をしかめてしまう。



「なに、どういう事? 人様に手錠をかけるんだもんそれなりの理由があるんだよね?」

うつ伏せに這いつくばりつつも、野々瀬さんを睨みつける。すると、また奥の方から声が聞こえた。



「私の敦を奪ったんだもの、それなりの報復は…、考えていたわよね?」

コツ、コツ、と足音が聞こえて来そうな雰囲気だが、生憎とうちの学校はサンダルなのだ。掠れた音を鳴らしつつ、若干微妙となりつつも登場したのは……、



「美弥、さん…?」

そう、転校生で敦に振られた、佐藤 美弥さんだったのだ!!(ナ、ナンダッテー!?)



美弥さんは可愛らしい顔をまるで悪役みたいに歪ませつつ私を見下ろす。ちょ、あの、パンツが見え…、いや、今は言うまい。



「私の敦を盗んだでしょ? だから、返してもらおうと思って」

美弥さんはにっこり笑って、『だから返して今すぐ別れて?』と言ってきた。いや、付き合ってないから!! と言いたいけど、これ以上状況を悪化させたくないのも事実だ。



「はい分かりました」

ヤケに素直なのが気に食わないのか、美弥さんはフンと鼻で笑って私の背中を踏みつける。



「あんたみたいな平凡女が、私の所持品に手を出すからこうなるのよ」

「……それ、どういう意味」

これには、穏便に済ませようと考えていた私も反論していた。


「どういう意味って、そのままよ。私は可愛いでしょ? だから、ステータスついでに格好いい男と付き合うのも当たり前でしょ?

宝石と同じよ。貢いでくれればなお良しね」

「……あんた、敦をそうやって見てたの?」




私と敦は、ストーカーとか、ヤンデレとか、恋人以前に幼なじみだ。

そして、いじめられっ子のあいつを守っていたのも……私だった。



「敦が別れて正解だわ。あんたみたいな性格破綻者にはお似合いじゃないし!!」

「なっ」

「男と付き合うのがステータス? 頭おかしいんじゃないの? てかその考え自体痛い発言だわお前さてはDQNかDQNだなっ!!


そんな奴に私の敦はくれてやりません!!」





その時、いきなり私のケータイが鳴り響いた。因みに着メロはピタゴラスイッチである。





爽やかな朝を連想させる笛の音が気まずい雰囲気に流れる。ああ何この公開処刑。ハズい。恐ろしくハズい。




「なっ、この女っ」


『あーちゃん? そこにいるの?』





ひくり、と女子たちが固まった。

この学校であーちゃんなどと他人を呼ぶのは一人しかいない。そう、ついさっきまで話題に上がっていた野崎 敦一人しか。

みんなが沈黙する中、ドアの前に立っているであろう敦も沈黙する。そしてまた鳴り響く気の抜ける着メロ。



『あーちゃん、待ってて』

その言葉が聞こえた途端……、ドアの真ん中がへっこんだ。耳障りな音と共にぼこんと。

硬質な何かでぶったたいているのか、ガンガンとドアが悲鳴を上げる。



やがて、真ん中がひしゃげたドアは派手な音を立てながら地面に転がった。



ドアの前には敦一人だけが立っていた。ドアをぶっ壊した張本人であろう敦の手には、野球部から持ってきたのか一本の金属バットが握られている。

喋らなくても、こちらを見据える冷たい瞳のおかげでここにいる誰もが理解出来た。



敦が、怒ってる。






「……あーちゃん」

低い怒気の籠もった声を聞いて、背筋が寒くなる。

怖くて何も言えない。これが、あの泣き虫だった敦? 無意識にも私は固唾を飲んで-……。





「俺はGLガールズラブも許さないからねあーちゃん」

「なんでやねんっ!!」

思わずツッコんでしまった。




「どうしてこの状況でその考えになった! どう考えてもそんな状況じゃないでしょ!!」

「放課後誰もいない教室であーちゃんが手錠装備しているんだよ!? そう考えるでしょ。俺だったら襲う光の速さで襲う!!」

「そこしか見てないのかよ!! もっと周りをよく見てよ!! 外してはならないものが見えるでしょ!?」

「俺あーちゃんしか見えないから」

「眼科行け変態!!」

ぎゃあぎゃあと言い合いをしている私たちにギャラリーはあ然。私も敦の言葉にあ然だが。

一瞬、シリアスクラッシャーされた-…と思いきや、



「でも、俺のあーちゃんに手錠をかけるなんて許せないな」

とまた怒気が戻ってきた。すぅ、と無表情に戻った敦が女子を睥睨する。



「俺のあーちゃんに手ぇ出そうとするなんて…、女でも許さない。精神的苦痛と肉体的苦痛、どっちか選べよ」

にやり、と狂気に満ちた笑顔で敦はゆっくりと手に持っていた金属バットを肩に乗せた。パニックに陥っている彼女たちには絶大な効果だったらしく、一人また一人とその場に崩れていく。




「…敦、もういいよ」

「ヤダよ。しっかりと心と体に刻み込んであげないと。俺のあーちゃんに手ぇ出したらどうなるかって」

「……はぁ~…。

手錠が痛いな~誰か野々瀬さんが持っている鍵で外してくれたらお礼に日帰りデートするのにな~(棒)」

「おい鍵寄越せっ!!」

さっきの恐ろしい雰囲気はどこへやら、敦はわたわたと野々瀬さんから鍵を奪い取り、素早く手錠を外してくれた。無理な体制でいたからか、体が若干痛い。



「ふぅ、疲れた…」

「これで二泊三日の子作り旅行獲得だねあーちゃん」

「お前耳鼻科にも行った方がいいと思う」

日帰りデートがグレードアップしている事はさておき、私は彼女たちを見つめた。




真っ青になって震える女子の中、美弥さんだけは気丈にも私たちを睨み返していた。



「美弥さん」

「な、何よ」



「確かに、敦も美弥さんに悪い事をしたと思う」

そう、こいつは私の気を引きたいが為に美弥さんと付き合ったと言っていた。そう考えると、敦は美弥さんに一切手を出していないとしても彼女を弄んだ事に変わりは無い。



だけど。



「だけど、男をステータスとしてしか見ない美弥さんだって、敦を弄んだ事には変わりない、よね? だったら、敦とおあいこだよね。

好きじゃないのに、付き合って、周りに見せびらかすって、それってただ虚勢を張りたいだけなんでしょ?

もうちょっと楽しい生き方考えたら?」



そろだけ言って、私は視聴覚室を後にした。








「あーちゃん」

「……」

「ねぇあーちゃん」

「……」

「あーちゃんでば」

「……」

「今日のパンツはシマシマなんだね」

「公然猥褻ぅ~!!」

バシッ!! と付いてきた敦を叩く。も、奴はこちらを冷めた瞳で見下ろすだけだ。

思わずその視線にたじろぐ。




「な、なによ」

「あーちゃんは、もっと危機感持ってくれなきゃ困る。ちゃんと俺から離れないようにして。そうじゃないと、またあんな事になっちゃうでしょ」

「だったらあんたが私から離れれば万事解決よ」

「それは無理」

「なんで!!」

「あーちゃんの事愛してるから」

真剣なその表情に……、柄にも無く赤面してしまう。



「な、何いっ-…、わぁっ!!」

ひょいと脇の下に手を入れられ、私は担ぎ上げられた。

敦はそのまま無言で移動して-…、何故か、理科準備室に忍び込んだ。



「ちょ、敦!!」

「先生は来ないよ。鍵は俺が持ってるもん」

敦は鍵をかけた後、その鍵を私が背伸びしても届かない場所に置いてしまった。



まずい。

密室。二人きり。理科準備室。

しかも相手はヤンデレストーカーと来た。



コーション!! コーション!! 直ちに脱出を試みよ!! と私の脳内で警鐘がなるが、既に敦の間合いに入っている私はあっさりとその手にまた捕まり、座らされた。



先生の、机に。




ヤバい、と思った。

夕焼けが入り込む中、敦の無表情はなまじ顔が整っているから様になる。色っぽい少し垂れた瞳が、私を見据えた。

机の上で身を縮ませる私に覆い被さるようにして、グッと距離が縮まる。



「愛してる。あーちゃんの事ずっと愛してたし、だからあーちゃんに手を出さないよう努めてた。自分勝手に行動してあーちゃんを傷つけたくなかったしあーちゃんが離れるかもと危惧してたから。

でも、あーちゃんが俺と付き合っていたという自覚が無くて、なおかつ俺から逃げようとするんなら……、こっちも、手、出させてもらうから」



何時ものようなふざけた反論が、出てこない。

言わなくちゃ。何かこの場で、雰囲気を壊す言葉。

そうでもしない限り、幼なじみという関係が崩れてしまう気がした。



敦が、更に身を乗り出す。



「そっ!!」

唇が触れる寸前に、声が出た。


「そ、それ以上したら、敦の事嫌いになるっ!!」

精一杯の反論で、精一杯の拒絶だった。我ながら子供っぽい言葉だとは思いつつ、敦を睨みつける。このデカわんこ。ハウス!!

すると、一瞬だけ敦は目を見開いて、そしてフッと笑った。




「いいよ。嫌いになっても。そしたらまた俺の事好きになってもらうから」

その瞬間、後頭部に敦の手が周り、唇を貪られた。



必死に拒絶の意を示すために口を結ぶが、ねっとりと舐め上げられる。なんだかその方が舌を入れられるよりエロく感じるのは、私が混乱しているからか。


やっとこ敦が離れた時には、私は心身共にヘトヘトになっていた。


恍惚とした表情の敦が、一旦離れる。



「それとあーちゃん。さっきの言い方だとさ、今は俺の事好きって事なんだよね?」

「敦なんか大っ嫌い!!!」

それが今私に出来る、精一杯の照れ隠しだった。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





原先生と敦が実は従兄弟だと知ったのは、次の日の朝。



私を原先生の補習に行かせるのと引き換えに理科準備室の鍵をもらっていたのが分かったのも、次の日の朝。




何故か『そんな奴に私の敦はくれてやりません!!』発言を録音されていて、双方の親に聞かれて勝手に同棲の話が進んでいたのも次の日の朝だった。





「もう付き合っているなら早く言ってくれればいいのにね~!!」

「大丈夫ですお義母さん。あーちゃんは俺が幸せにしてみせます」

「イヤだわお義母さんだなんて!! 娘を頼むわね敦君!!」

「式はやっぱり大学卒業してからの方がいいわね!!」

などと、双方の母親と敦がダイニングで話しているのを見て固まった。



「違ーーうっ!!!」

思わず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。



「もう、うるさいわねぇ。ほら早く席に付きなさい。間違えたわ籍を入れなさい」

「間違えたわじゃないお母さん!! てか、なんでその発言録音されてんの!?」

「……(ポッ)」

「赤面してんじゃねーー!!!」

人様のダイニングで乙女よろしく赤面する敦をひっぱたきたくなった。思わず一歩踏み出すと、ボイスレコーダーから、



『そんな奴に私の敦はくれてやりません!!』

「ちょ、ホントに消せ!!」

「あーちゃんこれ家宝にして大事にするね」

「そんなもん家宝にしたら子供が泣き叫ぶわ!!」

「あーちゃん、大丈夫」

「何がっ!!!」

「それがあーちゃんの照れ隠しだって事も分かってるから」



キラキラとした敦の顔面に、初めてローリングソバットを決めたのも、ファーストキスを奪われた次の日の朝だった。

読んで頂きありがとうございます!! 変態のお話続編です。



茜の着メロは実際に私のケータイに入っています。

『ピタゴラスイッチ』と『博多の塩』、のどっちにしようか迷いに迷った挙げ句爽やかなピタゴラスイッチに決まりました。


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