57.天使、マルアハ。
今回は神様、女神、そして天使の話です。
神様の名前はヨーウェ。女神はキュベレー(もう、間違えるなよ)。
天子の名前はマルアハです。
こいつらは前の話にはおりませんでした。今回の話で彩をあざやかにしてくれました。
で、純子。がんばれよ。
純子とヘカテミスの周りを取り囲む仲間達。
モイルを先頭にサンチュ、イアフメス、そして追捕師とウレアハル。一歩下がって、デハウ。
全員の目が純子たちを見つめている。
「昔、人々は船に乗ってこの地にやってきた」
ヘカテミスはいきなり話し出した。
「人々はこの地に神殿を築いた。船は空へ登り、神となって天から見守った。神殿の女神は人々を助け、指導し、そして文明がこの地に栄えた」
「……それは?」
「この神殿に伝わる伝説。昔話だ」
「ああ、シニンもそんなようなことを言っていた。ここで調べているうちに、そんな資料に出会ったようだ」
モイルが思い出しながら言う。と口調が変わる。
「いや、そんなことはどうでもいい。今は助けに行く事が先決だろう?」
「この話が二人を救う唯一の道だとしてもか?」
まるでヘカテミスは笑っているような口調だった。モイルは黙る。
「この話にはおかしな点が多い。最大の点はこの地に文明が栄えたと言っていることだ。確かにこの神殿には過去の素晴らしい文明を示すものはある。謎のように残っている。
だが、神殿を一歩外に出れば、そこには神殿よりはるかに劣るものしか目に入らない。これは一体どうしたことだろう。シニンは何か言っていたか?」
ヘカテミスがモイルに訊く。
「シニンはこんなことを言っていた。この文明は一度滅んだんじゃないかって。あたいには何のことだかよくわかんないんだが。シニンだって確信があったわけじゃないよ」
だが、ヘカテミスは大きく頷いていた。
「シニンの言うとおりだ。その原因が病気か、戦争か、それとも天災なのか、わからないけど、文明は一度は地上から消え去った。生き残ったごくわずかな人が少しずつ増えていき、ようやく今の形にまで戻ってきたというべきか。この神殿以外は」
「この前の地震よりも大きなやつが昔、襲ったっていうこと?」
純子はそう呟いた。脳裏にあの様子が思い浮かぶ。
「ああ。そうだ。そしてこのままだと、再びそれがやってくるかも知れないとしたら、どうする?」
「そ、そんなこと、あるはずがないっ!」
モイルは叫んだ。
「ヘカテミス、何を言うつもりだ! いったい何が起こるというんだ。お前は何を知っている?」
ヘカテミスは微笑んで純子を見上げた。
「あたしとタンヌは同じ使命のためにきてるってこと」
ご指名された純子は訳もわからずにヘカテミスを見下ろしていた。
「タンヌ! 頭の悪いあたいにもわかるように説明してくれ! いったい神官様は何を言おうとしてるんだ」
「いやー、ごめん。あたしにもわかんない」
純子は頭をかいた。そんな純子を見て、ヘカテミスは話を再開した。
「天の神様と地中の女神はお互いに連絡し、また監視し合いながら人間の進歩を促した。時には退屈しのぎにちょっかい出し合いながら。
しかし、しばらく前、神様は女神の様子がおかしいことに気がついた。連絡がなくなった。神様はいろいろと考えた挙句、使いを神殿へと下ろした。
その使いはまあ、いろいろ苦労はあったわけだけど、とにかく女神が不調だという結論に達した。
女神をなんとかせにゃならんというわけだ」
『うわー、ヘカちゃん。何でも良く知ってるわー』
タンヌが感心した声を上げた。
「その、神様が直接なんとかすればいいんじゃないの?」
サンチュの質問にヘカテミスは首を振る。
「いやー、神様と女神は不可侵と決めてるみたい。それを犯すとホント、最終戦争みたいだから、あくまで使いがなんとかしろって立場なんだよね。あー、人使い荒いわ」
「で、不調の女神をどうするって?」
「そうだね、モイル。その不調箇所には幸い予備回路があって、そっちに切り替えれば元どおりなんだけど、見てのとおり、あいつらがいるわけ。あのお掃除怪物どもが。
あいつらの攻撃をかわしている間に、予備への切り替えを成功させる。それには多少なりとも知識とか、経験とか持ってるものが必要ですよって、神様に進言したのよ。
そしたら、神様が引っ張ってきたのが、どうってことない普通の女の子だったってこと。あー、もう、どうしようって感じだったわ」
『ヘカちゃん、口調が変わってきたよね』
(うん。しかもどこかで聞いたことあるような感じ……)
純子にとってはヘカテミスの話の内容を考えることでいっぱいだった。なんだか、話の内容が身に覚えがあるような気がしてならない。
(その、呼び出された女の子って、もしかして……)
「ところが、あの、ボケ神様。肝心要な用件を伝えずに送り込むものだから、慌ててあたしが後を追いかけるはめになって。でも追いかけたって言っても相手が誰で、どこにいるのかも皆目検討がつかず。もー、あきれちゃったわさ。あたしは」
「誰よ!?」
純子は叫び声を上げた。みんなの目が純子に集中する。
「あなた、ヘカちゃんじゃない! 一体誰? 誰が話してるの」
「とりあえず、神殿にある慣れた身体でじっくり待つことにしたわけだわ。その女の子がやってくるまでね」
そう続けると、ヘカテミスは純子を見つめた。
「あたしの名前は、神様の使い、天使のマルアハ。ヘカテミスに数年前から憑いたり離れたりしてる」
驚きで目を丸くしている純子に向かって微笑む。
「神様のところで会ったよね。久しぶり。タンヌ――じゃなくて、中の人っていうべきかな?」
『ど、どういうことよ。純子。ヘカテミスは天使だってこと?』
「違うわよ! あたしがタンヌの身体に憑いたみたいな状態だって言ってるんだ。ほら、前に夢だって話したあったよね。ここに来る前、神様に会ったって。そのとき神様と一緒にいた女の子がヘカテミス、じゃなくて、マルアハだって言ってるんだ」
思わず純子は口に出していた。
「あれは夢じゃなかったんだ。本当に神様と会ってたんだ!」
「違うわ。お姉ちゃん、夢よ! それは夢なのよ!」
サンチュがいきなりしがみついてきた。その勢いに純子は尻餅をつく。
「お姉ちゃんは頭がおかしいんです。家で衛士にひどく殴られて、そのまま死んじゃうって思ったぐらいに。なんとか息を吹き返してからは変な事ばかり言うし、ボクのこともわかってなかったし。
それからシニンさんのところで妙なデンキってのに触ってからは、身体の中に二人いるとか言い出すし。それからのお姉ちゃんは以前のお姉ちゃんとは全然違うんです。でも、それは衝撃が大きかったから、仕方なくて、そのうちきっと元のお姉ちゃんに戻るはずなんです。
だからお姉ちゃんが言っているのは全部夢なんです。幻なんです。お願いです。もうこれ以上、お姉ちゃんを苦しめないでください!」
そう言いながらサンチュは泣いていた。
(あ、あたし、苦しんでたのか?)
『うーん、ジュンコもあたしも苦しんでるとはちょいと言いがたいよねえ』
(サンチュはそんなふうに思ってたんだ……)
「ごめん。サンチュ。サンチュの気持ちも知らないでいたんだ。ごめんね」
純子が優しく触ると、サンチュは顔を上げた。
「あたしもタンヌもたぶん、気が狂ってはいないし、夢を見てるとも思ってないわ。現実離れしてるとは思うけどね。純子としては。
天使が現れなかったら、きっと夢だって思ってたかもしれない。けど、こうやって天使が現れた以上は、あれも実際にあったってことなんだってわかったわよ」
そういう純子を見て、ヘカテミスが言った。
「そうか。タンヌに憑いているのはジュンコというんだね」
よーやくプロローグとつながってきました。はい。
つまり、もうちょっとで完了です。
長い話にお付き合いくださって有難うございます。
もうちょっとです。よろしくです。




