55.神殿の、禁断の場所。
今日も書く事ができました。
神様、感謝申し上げます。
なんちって。エイプリルフールだもーん。<天誅!
冗談もほどほどにしませんとね。
さ、今夜も頑張れ、純子。
一行は巨大な金属の扉の前に立っていた。
高さは数メートル、横幅はその何倍もある。顔が映るぐらいに輝く扉。
その前でヘカテミスは言う。
「ここから先は禁断の地。誰も、そう私も入ったことはない。これより先に入るものをここで絞りたい。ここに残して行きたいのだ。クリティア、シニン。そしてモイル。あとは私とタンヌ。以上だ」
それを聞いて、サンチュが出てきた。
「お姉ちゃんが行くのなら、僕も――」
その声が途中で止まる。サンチュの腕をイアフメスが引き止めているのだ。
「女王様……」
「お兄様。どうか、私を、妹を残していかないでください。見捨てないでください」
その様子を見てヘカテミスは言い切った。
「サンチュと女王は残す。追捕師は護衛としてついていろ」
「でも――」
「駄目よ。サンチュ」純子が言い聞かすように話す。
「これからあなたは女王様と一緒にこの国をまとめていく人。こんなところで危険に身をさらしちゃいけないのよ。だからここで女王様と一緒に待ってて」
サンチュはなおも躊躇していたが、やっと頷いた。
「お姉ちゃん。ボク、待ってるから。だから必ず帰ってきてよね」
「うん。帰ってくるよ。サンチュを置いてきぼりになんかしないから」
そう言うと純子はサンチュに手を伸ばした。そして手を取り合うと、そっと唇を重ねる。血のつながっていない姉弟であることはもうお互いが承知していたけれど、それでも重ねずにはいられなかった。サンチュはいつまでも唇と舌を離そうとはしなかった。そんなサンチュを純子も愛おしく感じていた。
「サンチュ。もう切りがないから」
純子はそう言いながら唇を離す。
「うん。待ってるから。帰ってくるまでいつまでも待ってるから」
純子は頷いて振り向いた。扉の前で四人が待っていた。
ヘカテミスが印を結び、指輪から細い光が扉に向かって放たれた。
純子は轟音と共にこの金属の扉が開くものと思い込んでいた。
しかし、実際には小さな音がすると、人サイズのドアが開く。
その差に思わずコケかかったものの、よく考えれば無駄なことをしないだけ合理的だ。
そしてその扉の奥はまったくの別世界だった。
必要最小限の明かり。金属製の細い通路。頭の上にも足元にも何かの用途の配管。
(まるで、工場の中とかそんな感じ。でもそれよりも量も長さももっとすごいけど)
『でも、すごいね。ジュンコ、わかるんだ。』
(あ、いえね。なんとなく、だけど)
いつの間にか、通路を伝わってくる振動と止むことのない物音が聞こえてきていた。
歩を進めるごとにそれが強く伝わってくる。
そしてそれを感じる純子には、別の感覚も起きていた。
(なんだろう、なんだろう。この感覚……。忘れてた何かを思い出しそうな、この感覚は)
「タンヌっ!」
呼ばれて純子は顔を上げた。考えているうちに四人からすっかり遅れていたのだ。慌てて純子は駆け寄る。
「こんなところで迷子にでもなったら探し出せないぞ。注意しろ」
「ごめん。ごめん」
そう言いながらも、純子の心は思い出すのに懸命になっている。
(なんだろう。タンヌ、この感覚、わからない?)
『あたしゃ知らないねえ。ジュンコがあたしの身体に潜り込んでくる前の話じゃない?』
(前。タンヌと出会う前……。その前は神様)
「神様か!」
いきなり純子は叫んだ。
薄暗がりの中で、ぶつぶつ呟いていた神様と名乗る白ひげの老人。その周りでうろちょろしていた少女。そのうす暗がりの雰囲気が、周りの様子が今、目にしているものに似ている気がするのだ。
「なんだ、タンヌ。さっきから。調子がおかしいのなら帰ってもよいぞ」
ヘカテミスがそばにきてそう言った。がその目は心配げだ。
「違うの。思い出したのよ。あれは夢じゃなかったのかもしれない。本当に神様に会ってたのかもしれない。女の子もいた。でも何を言われたのか、思い出せない」
「お前……。そうなのか? お前なのか」
ヘカテミスの声が変わった。
「お前なのかって……。ヘカちゃん、何かわかるの?」
純子がそう問いかけたときだった。前を行く三人から悲鳴とも絶叫ともつかぬ叫びが上がった。
二人は慌てて駆け出した。
ヘカテミスの木靴が金属製の通路と当たって金属音が響く。純子の裸足はあまり音がしない。
三人が呆然と先を見ているところへやっと追いついた。
「どうしたの? なにか、あったの?」
「見ろ。あれはいったいなんだ?」
クリティアの指差す先。そこは明かりが比較的集まった広場のような場所だった。
金属の塊のようなものがたくさんあって周りをとりかこんでいた。そして赤や緑の光がいくつも煌いている。
「あれは……ヘカちゃんが出したのと同じものじゃない?」
ヘカテミスが謁見の間で宙に出していたものと同じ表示が、ここでは表示板に映し出されていた。
それ以外にもたくさんの表示がいろいろな場所に出ている。
塊からは低いうなりと振動が伝わってくる。
(機械……。何かの機械が動いているんだ。やっぱり工場の中なんだ)
『あたしゃわかんねえよ。こんなの、見たことないよ』
(あたしだって直接見たことないわよ。でもテレビとかなら)
人影がないことを確かめて、五人は通路からその広場に進み出た。
(そういえば、ここ、真ん中にあの椅子を置いたら、謁見の間に似てる)
謁見の間の方が周りから見下ろす感じがする。それにこんなに機械に取り囲まれていることはない。
それでも純子には両者が似ているという感じがあった。
(そうか。たぶん、同じ機能を持ってるんだ。あっちは見ているだけの部屋で、こっちはもっと直接的に操作したりするところなんだ。だから、ヘカちゃんは謁見のまでないと駄目だって言ってたんだ)
そのヘカテミスでさえ、ここでは周りを見回して途方にくれているように見えた。他の三人は当たり前のように呆然としている。もっともシニンは目が見えないので、他の二人に口で説明するように懸命にせがんでいるのだが、うまく説明ができないようだ。
(あたしでさえ知らないことなんだから当然なんだけどね)
しかし、純子の中になにか不安がこみ上げてきていた。違和感があった。ここにはなにか上では感じたことのない違和感がある。まるで喉元にこみ上げてくるように不安が募ってくる。
「ヘカちゃん……。なんかここ、変だよ」
「なにか? 何がおかしいというのか?」
純子は必死になって謁見の間と比較した。その間にも不安感がどんどん増してくる。
「逃げよう。絶対に変だよ。ねえ、みんな。逃げよう。帰ろうよ!」
そして、やっとその違和感の原因に、純子は気がついた。
いよいよカウントダウンでございます。
もうちょっとだ。頑張れ、オイラ。




