Ⅷ.天使 52.サンチュの、真相。
いやー、いよいよ謎が解き明かされるわけで。
「真実は……」いやいや。「じっちゃんの……」おい、こら。
シニンが探偵役になるとは、数日前まで気がつかず。
うん。純子。君が名探偵になる日までがんばれ。
悲鳴を上げ、崩れ落ちるデハウ。そこにサンチュが駆け寄る。
「母さん、母さん。大丈夫よ。ボクがついてるわ。落ち着いて」
そう言いながら、デハウの手をとる。
「サンチュ。サンチュ。ああ……」
デハウはサンチュにもたれる様に座り込んだ。
「シニンさん。お願いです。もう、母さんを許してやって」
サンチュはシニンを見つめた。
「許す……?」
「母さんの過去は忘れてこれからのことだけを考えたいんです。もう済んでしまったことじゃありませんか。昔のことを蒸し返すのは許してあげてください」
サンチュは懇願した。
「それが――サンチュ。君自身に関係することでもかね?」
「ボク――自身?」
サンチュの瞳は宙を迷った。しかし、すぐにシニンに落ち着く。
「はい。ボクのことでもそのことで他人が、母さんが苦しむのを見たくは無いんです。何も知らないで幸せに三人暮らせるのなら、それが一番なんです」
『そうだよ、サンチュ。あたしもそう思うぜい!』
サンチュは震えるデハウの肩を抱いていた。
「だからもう何も言わないでください。そしてお姉ちゃんと母さんと三人、墓守の家へ帰してください」
「サンチュ……」
純子が言いかけたとき、違う声が重なった。
「サンチュ。もう無理よ……」
その声はデハウだった。少し震えながらも、落ち着いた声だった。
「この人は真実に気がついてしまった。あたし一人だけなら黙っていれば済んだかもしれない。でももう駄目。他人の口は止められないわ。ならば、お前はしっかりと聞きなさい。そして、心を決めるの。それがあたしの責任の取り方……」
デハウはそう言うと、シニンに向かって言った。
「聞かせてください。もし、違っていれば、そう言いますから……」
「よく、決心したね。うん」
そう言うと、シニンは説明を始めた。純子はそれに聞き入った。
「昔、そうイアフメス=ネファルトス女王様がお生まれになる前から話そうか。そのころは私もまだ王宮にいたんだ。眼も見えていたよ。父上の王様がご結婚なされて、国中が大騒ぎだった。誰も彼もが喜んでいた。
そして王妃様の御懐妊の発表でめでたいことの連続とこれまた大喜びだった。しかし、そこに降って湧いたのが、双子の御出産と王妃様の御逝去だった。喜びの反動もあったのか、絶望と不安が国を包んだと感じてたよ」
「そして、兄者が殺されたのだ」イアフメスが呟いた。
「ああ。王宮はそう発表した。みな、これで落ち着くと安心したものだ。一抹の後ろめたさを感じてはいたがね」
『そりゃ赤ん坊を犠牲にして自分達が助かろうってんだからねえ』
タンヌの言葉に純子も同意する。
「自分の目で見たわけではない。が想像すれば、王様の命が下り、衛士が赤ん坊を連れてどこかへ行き、そこで殺害した。まあ、そんなとこだろう。相手は赤ん坊だ。何の抵抗もできるはずが無い。できて当たり前だ。
だが、その後、幾度と無く兄が生きているという噂が流れた。その都度、王は……いや、王が死んでからはこのイアフメス女王が、赤ん坊の埋められた場所を探した。その証拠を見つけようとした。そうだね?」
話を振られたイアフメスは頷く。
「しかし、何も見つからなかった。命ぜられた衛士も死んでおった。殺されたやもしれん」
「あの頃は誰彼と無く不安と恐怖に慄いていたときだった。少しでも怪しかったり、妙なことを言うやつは殺されたもんだ。このクリティアの父のようにね」
クリティアはピクリと頬を動かしたが何も言わない。
「だが本来見つからないはずが無いのだ。兄者が死体になっているのなら。見つからないが故に、兄者が生きているという噂は絶えず口に登っているのじゃ」
「そうだ。が、ここでもう一つ、整理しておきたい事がある。そこにいるサンチュのことだ。デハウの娘、タンヌの妹と聞いているが……」
純子はサンチュを見た。いつの間にか、その背後にモイルが立っている。
「クリティアから聞いたんだが、女王様に似ているところがあるとのこと。それを聞いて私はある推測に達した。が、なぜみながそう思わないのかがわからなかった。なに、簡単なことだった」
シニンは少し息を整えた。
「モイル、やってくれ」
モイルの両手が動くとサンチュの服が引き裂かれる音がした。
「きゃあああああああ!」
サンチュの悲鳴が響く。
「な、何をするか!」
純子は飛び出して、モイルの手を掴んだ。
「落ち着け、タンヌ! そして良く見ろ!」
「み、見ろってサンチュを――サンチュ? え、えええええ!」
純子は仰天した。
引き裂かれて上半身裸になったサンチュ。その胸はあまりに貧弱。肋骨が浮き上がっていた。
(ひ、貧弱っていうより、無い。まったく無い。これってまるで男の、男性の――え?)
「う、うそ、うそ! サンチュ、サンチュ?」
純子は思わずサンチュの股間に手を伸ばした。
服の上からでもそこには女性には無いはずものがしっかりと感じ取る事ができる。
「あ、あんた、男!?」
「お、お、お姉ちゃんがすぐに女の子になるから大丈夫だって言ったんじゃないの!」
涙目のサンチュが逆襲する。
「へ? あたし?」
「そうよ。どうしてボクにはお姉ちゃんに無いものがあるのって聞いたら、年頃になったらとれてお姉ちゃんと同じになるって。そしたら胸もすぐに膨らむから安心してって言ったじゃないの」
(タンヌ、タンヌ! あんた、そんなことサンチュに言ってたの?)
純子は必死になって呼びかけた。が、タンヌはとぼけ顔。
『うーん。そんなこと言ったかなあ? きっと子供の時のたわごとよ、ウソ。本気にするほうが悪いのよ』
(心底信じ込んでいる奴がここにいるじゃねーか!)
そうは言ったものの、なんとかこの場を繕わねばと純子は思った。
「えー、あー、ごめんね。サンチュ。女の子にはなれないなー。やっぱ、男だわ。ははは」
「そんな……。お姉ちゃんのうそつき……。お姉ちゃんなんか大嫌いだ……」
涙ぐむサンチュをよそに、シニンが話を再会した。
「実は最初に会ったときからサンチュは男だと感じていたんだよ。私は目が見えないから、感じることしかできない。どんな服だとか、化粧とか髪型をしていようが関係ないんだ。匂いと感覚が男だと言っていた。いや、女だなんて考えもしていなかったんだ。モイルやクリティアと話していて、私だけがサンチュを男だと考えていることに気がついて驚いたぐらいだ。証拠はなかった。だから今ここでみなに見てもらったわけだ。
そう、死んだはずの兄は、そこにいるわけだ。サンチュこそ、双子の兄。そうだね、デハウさん?」
シニンの言葉は衝撃だった。
がある事実を思い出して、それ以上の衝撃を純子は受けていた。
(あたしの、あたしの、ファーストキスは……妹じゃなくて、弟でもなくて、王様の子だったってこと?)
よかったね。純子。異界転送譚らしくなって。キスの相手が特に王様の子なんですから。
うーん。まあ、とっくにお気づきの方ばかりだと思いますが、それだけでよくこれだけ引っ張ってきたなあと。(笑
でも、これで終わりじゃないです。




