50.剣断の、侵入。
ちょいと昨日はお休み。って言いながらもうさらに次の日になってしまいましたが。
最終話までメモを作ってました。それにしたがって、書くだけです。と思うと寂しいなあ。
さ、純子。頑張れよ。
あの地震よりもっと大きな地震が来るかもしれない。
それは恐ろしい宣告だった。しかし、純子はなんとかパニックにならずに済んだ。
それは、頭の中で一足先に慌てふためく奴がいたからだった。
『いやー、そんなの、いやー! 助けて、ジュンコ! どうにかしてー!』
(わかったから、黙っててよ。もう)
「ねえ、ヘカちゃん。それはどういう理由? 女神様の御宣告?」
「女神の宣託であれば、どんなに気が楽であろうことか……」
ヘカテミスはため息をついた。
「それを回避するような方法は無いの? 逃げるとか対策するとかさ」
「あるにはある。しかし、それにはまだ足りないパーツが――」
そうヘカテミスが言いかけたときだった。
目の前の表示に変化が現れた。煌く黄色の点がいくつか、非常用の竪穴を降りてくる。
『なに、あれ?』
純子もその様子をじっと見守った。
その点は穴を降りきるや否や、たちまち分散する。
「誰か、誰かおらぬか!」
突然ヘカテミスが大声を上げた。その声で慌てて女官が入ってくる。
「侵入者じゃ! 何者かが竪穴から神殿に入り込んだぞ! すぐに賊を捕まえよ!」
女官は慌てて飛び出していった。外からは女官たちの呼び声、叫び声が響いてくる。
ヘカテミスはお酒を煽って椅子を降りると、歩き始めた。純子も急いでその跡を追う。
(何者だろう? こんな聖なる領域に侵入するなんてこと……もしかして)
『剣断よっ! こんなしつこいのは剣断に決まってんじゃん!』
タンヌの叫びに純子は青ざめた。忘れていた名前に恐怖を覚えたのだ。
純子が現場に駆けつけたとき、もうそこでは戦いが始まっていた。
あの薙刀のような棒状の武器で女官たちが黒服の侵入者と戦っていた。
賊はほんの数人。女官たちの方が多く、しかもどんどん駆けつけている。
「諦めよ。降伏すれば、命は助けてやる!」
ヘカテミスは呼びかけた。しかし、侵入者には諦める様子は見えない。
賊も残り少ないにもかかわらず、抵抗し続ける。
目の前で一人、女官が倒された。もう既に何人もの女官が傷を負っている様子だ。
「仕方ないか……」
そう呟くと、ヘカテミスは印を結び始めた。それを見て、純子は止めに入る。
「待って。ヘカちゃん、待って。その力を使うのは」
「なぜじゃ」
そう言いながら、ヘカテミスは印を中断する。
「その力を使っちゃったら、しばらく使えないんでしょう。もう、こいつらは終わりよ。使うまでもないわ」
『それに眠り込んじゃうしねー』
ようやく追捕師もやってきた。腰の剣を抜くと戦いに挑む。
そして数度の剣戟の後、賊は追捕師の剣によって床に倒された。
追捕師が賊の黒覆面をはがした。しかし、剣断の顔はそこにはない。
倒れている全員の覆面の下には、クリティアはいなかった。
『どういうこと? クリティアは来てないっていうことかな?』
「そんなはずないわよ。こいつらだけ来ることに何の意味があるっていうの?
単にここにはいないっていうことだけで……そうか!」
純子はヘカテミスに向かって叫んだ。
「ヘカちゃん! クリティアは別行動なんだ! こいつらをおとりにして、どこかに潜んでいるのよ。探さなきゃ!」
ヘカテミスは頷くと、女官たちに指示を与えた。
『でもあいつ、隠れるのはうまいからなあ』
「今度こそ、今度こそ、見つけ出してぶん殴ってやる」
『純子の復讐ノートのトップだもんねえ』
だが、タンヌが言ったとおり、クリティアは隠れるのは上手のようだ。
女官たちが神殿内を探し回っても、クリティアの居所は杳として知れない。いや、侵入したという証拠もないのだが。
「どこへ行きおった。天に昇ったか、地に潜ったか」
『いや、もう、ここ、地にもぐってるし』
タンヌがヘカテミスに聞こえないように突っ込むのを内心笑いつつ、純子は考えた。
「ねえ、ヘカちゃん。どうして賊は侵入できたの?」
「非常用の竪穴は開いたまま。祠が倒されている限り、誰でも出入りできる」
(ああ、誰も戻しには行ってないのか)
あまりに単純な理由に純子は考えを変えた。
(盲点。クリティアまたあたし達の盲点をついてきてる。目の前にあるのに気がつかないだけ。一体どこだろう。そうだ、ここにいないのは誰だろう?)
純子は通路を走りながら、顔を確認した。
(サンチュとデハウは女王や追捕師と一緒にいるから大丈夫だし。ああ、追捕師の横にはウレアハルもくっついていたなあ。ヘカテミスはもちろんいるし。あれ、誰か忘れてる――)
『シニンとモイルじゃん』
タンヌの言葉に純子は仰天した。通路でいきなり立ち止まると考え込む。
「そんなこと、そんな――ヘカテミス!」
横でヘカテミスも立ち止まる。
「シニンはどこにいるの? モイルも一緒よね」
ヘカテミスは女官を捕まえてシニンの居所を聞き出した。
そして、走り出す。
『そんな、シニンが怪しいの?』
(わかんないわよ、そんなこと。でも確認しなきゃしょうがないじゃん)
目指す部屋の前にはあの大柄の赤毛女が立ちはだかっていた。
「だめだ。部屋には入れさせない。シニンの希望だ」
モイルは抵抗する。
「モイル。クリティアが神殿に侵入したのよ。危ないわ。この部屋を確認させて」
純子の話にもモイルは首を横に振る。
「シニンは研究中は誰にも邪魔されたくないんだ。タンヌ。
これ以上は言わない。次は拳で言い聞かせるぞ」
一瞬躊躇した純子も、怯むわけにはいかなかった。
「お願い。モイル。クリティアを見つけて、ぶん殴らなきゃ。右目の代償よ。この部屋を調べるだけ。研究の邪魔するつもりはないわ。見るだけでもどうして駄目なの?」
「だめなものは駄目だ。やるか、タンヌ! あたいの復讐はお前だからな」
純子とモイルはにらみ合った。
『ジュンコ、ジュンコ。痛くないように殴られてよね』
(そんな器用なことできるかい。一緒に殴られようね、タンヌ)
『いやー。ジュンコって見境ないから、いやよー』
一触即発かと思われたその瞬間、部屋の中からシニンの声がした。
「モイル、モイル。もう良い。タンヌを、みんなを入れてくれ。話したい事がある」
その声を聞いて、モイルは扉の前から動いた。
純子はその横を通る。なんとなく、モイルが安堵の息をついたような気がした。
扉の向こう、たくさんの資料を積んだ机の向こうにシニンが座っている。
そして、その横には剣を持ったままの剣断が立っていた。
「クリティア!」
突っ込んでいこうとする純子をヘカテミスが抑える。
「剣断! 諦めて降伏せよ。もうお前一人じゃ。誰の助けも無い。諦めよ」
「諦める? いえいえ、とんでもない。私はここに交渉に来たのですよ。そして交渉は成立しました。ですから、降伏も諦めもありません」
(交渉?)
純子とヘカテミスは顔を見合わせた。
たまにはお休みも必要ですね。リフレッシュ、リフレッシュ。
残り、あと十話弱って所です。お付き合いくださって有難うございます。




