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47.暗闇の、彷徨。

 うう。なんとか間に合いそう。

10時過ぎから書き始めて、目標にたどり着きました。

もっと余裕を持って書き上げたいなあ。

と、純子。灼熱地獄でも頑張れよ。

 暗がりの中を二人が進む。壁伝いに手をついて足元に気をつけながら、ヘカテミスの記憶だともうすぐ横に階段があるはずだった。

 ふいに純子の指先から壁の感触が消えた。

「ヘカちゃん。階段に来たみたい」

 そう言うと、純子はそっと足元を探った。少し落ちて、段がある。やはり階段のようだった。

その階段の隙間から熱風が吹き上げてくる。やはり、階下はさらに暑いようだ。

「やっぱり行くの? さらに暑そうだよ。ヘカちゃん」

「先ほども言いましたとおり、私が行かなければここは神殿ではなく地獄となります。そんなことは筆頭神官の名において、許すわけにはまいりません」

 ヘカテミスの凛とした声に純子は己を恥じた。

「ゴメン、ヘカちゃん。確認したかっただけ。行こう」

 闇の中、手すりを掴みながら、一段一段しっかりと降りる。それでも階段の踊り場ではたたらを踏んでしまった。

「ヘカちゃん。階段はいくつ下りるの?」

「二階分です。それから右に曲がってしばらく行ったところが謁見の間です」

 垂れ落ちてくる汗を純子はぬぐった。握り合った二人の手が汗で滑る。小さな身体で負担は純子よりも大きいのだろう。ヘカテミスの喘ぐ声が純子の耳に入る。

「ヘカちゃん。休もうか。大丈夫?」

「大丈夫です。早く行かないと、もたないかもしれません。急ぎましょう」

 言葉とは裏腹に、暗闇の階段ではゆっくりとしか下りられない。

二人が階段をおりきって、やっと目的の階に着いたとき、もう二人とも疲労困憊になっていた。


「へ、ヘカちゃん。ついた……よ」

 暑さで喘ぐ純子にヘカテミスも喘ぎ声。

「み、右……右に行く……ます」

 しかし、踏み出した純子の手からヘカテミスの小さな手は滑りぬけた。

「ヘカちゃん?」

 純子が暗闇の中で両手で探る。その手が床にしゃがみこんでいるヘカテミスを見つけた。

「大丈夫?」

「は……はい。大丈……夫……」

 ヘカテミスの返事は途中で途絶えた。純子はヘカテミスの顔に手をあてた。

滝のような汗を想像していたのだが、逆にほとんど汗は無かった。異様に頬が熱い。

(これってまずいんじゃない?)

『ま、まずいって? 何か食べるの?』

(食い気の話じゃないわよ。熱中症って知らない? 熱すぎるとダウンしちゃうのよ)

 純子自身も頭がもうろうとなってくるような暑さだった。

喉を潤すようなもの、身体に水分を補給するようなものは何も持ってない。

(くそ、何か持ってくれば……)

 そう思ったところで後の祭り。

『戻ろうよ。ジュンコ。上に行けば、モイルなら水を持ってるよ』

 純子は暗闇の中で階段を見つけようとした。そんな簡単な動作でも、頭がくらくらする。

そして、ヘカテミスの隣に純子も座り込んでしまった。

『ジュンコ! 大丈夫?』

(……無理。タンヌ。もう帰ることも……ダメ。進むしか……ないよ)

 純子は喘ぎながら、なんとか意識を保とうとした。そしてヘカテミスを抱きしめるとやっとの思いで立ち上がる。そしてゆっくりゆっくりと歩き始めた。まるで両足を引きずるかのように重たい足取りで。

『頑張れ、ジュンコ。頑張って!』


 壁に身体をもたれさせるようにして、純子は進んだ。

こうしていないと、謁見の間への入り口を見逃してしまうかも知れなかった。

もしそうなったら、今の純子では戻ることは不可能に近かった。

(なんとか、なんとかして……謁見の間に入って……)

 それしか純子の頭の中にはなかった。絨毯の床を裸足の指が掴んで、一歩を踏み出す。それで休む。そしてもう一歩。なんど倒れたのかわからない。床の上が絨毯でなかったら、二人とも怪我をしていたかもしれなかった。

『あと少し、後残り少しだから』

 タンヌの声が淳子の意識をなんとか繋いでいた。

この暗闇の中ではタンヌにも入り口など見えないはずだった。

それでもタンヌの声が純子の残り少ない体力を引っ張り出してくれた。

壁にもたれ、手を伸ばして確認して、体を動かす。

腕の中のヘカテミスはもう声も立てない。喘ぎ声だけが生きている証拠。

「……ヘカちゃん。もう少し……もう少しだから……」

 タンヌの声をそのまま純子も口に出す。

もうどのくらい歩いたのか、時間がたったのか意識は無かった。

そして、とうとう淳子の指先が壁の端を捉えた。


「ヘカちゃん……。ついた……。この先……え……けんの……ま……」

 かすれ声しかでない。ヘカテミスは頷いたような気がするけど、気のせいかもしれなかった。

純子はなんとか、身体を動かすと壁伝いに曲がろうとした。

しかし、足がもつれて倒れこんでしまう。ヘカテミスと純子は床の上に寝転がっていた。

『ジュンコ。ジュンコ! 大丈夫?』

(ちくしょう……なんであたしばっか……あんたは暑くないのかよ……)

 純子はぼやいた。

『暑さは感じるけど、ジュンコほどは感じないみたい』

(じゃあお前が体を動かせよ)

『あ、そうか。やってみるよ』

 純子の両手が勝手に動き出す。そしてヘカテミスを見つけ出した。

小さな身体を掴むと胸の前に抱く。そして四つんばいの形で手足を動かす。

(小指が痛てえ……左手をそんなに使うじゃない……)

『しょうがないじゃない。でないとひっくり返っちゃうよ。ジュンコも協力して』

 純子の身体はジリジリと前進した。

「ヘカちゃん。ヘカちゃん。……どこに行けばいいの?」

 純子のささやき声にヘカテミスの答え。

「……椅子。……中央の……椅……子。そこ……座らせ……」

 その声で、純子は前を見つめた。何かの明かりでなんとなく、椅子らしきものが見える。

(あそこだ……あそこへ行けば……終わり……)

 その思いだけで純子は這った。何度意識を失ったかわからなかった。気がついて、前進する。床に顔をつけたまま前へといざった。

そして、頭が何かに当たった。純子が顔を上げると、それはあの椅子の台座だった。

「ヘカ……ちゃん……ついた……」

 必死になって、ヘカテミスを持ち上げる。なんとかヘカテミスは椅子の上に落ち着いた。

「ヘカ……ちゃん。ヘカ……」

 純子はずるする滑り落ちると、ヘカテミスの足元にへたり込んだ。

『ダメだよお。ヘカテミス、意識が無いよ。どうしようもないよ』

「ヘカちゃん。ヘカちゃん。……お願いよ」

 純子はかすれた声を上げて、目の前の脚を掴んで揺さぶった。

「お願い。……目を覚まして。……そして、みんなを救って!」


 うわー、暑い。書いてても暑いわ。

ヘカテミス。早く何とかしてクレー。

あ、オイラは暖房のスイッチ、切るだけか。

では。


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