Ⅶ.神殿の奥 45.非常階段の、下。
新しい場面となりました。神殿の奥深くという設定です。
ラスボスが近づいてきた感じですかね。
さあ、純子。頑張れよ。
って、あんたの使命っていったいなんなのよ。
純子は一段一段と降りる。
埃がたまっているのだろうか、ステップは滑りやすかった。
そのステップをしっかりと握り、片足で下にあるはずのタラップを探し、確認すると一段下りる。その繰り返し。
『下が見えない以上はしょうがないよね』
(く、口が塞がっているのも、顎が辛いよ)
涎が垂れそうになると、休んで松明を手に持ち替える。
唾を下に向かってはいても何の音も聞こえてこない。まだまだ下は深そうだ。
「タンヌ、大丈夫か?」
純子が休んでいると、上からモイルの声がした。
「うん。少し休んだらまた降りる」
一人分の幅しかないタラップでは交代ということも出来ない。
再び松明を口にくわえ、また降り始める。
(エレベータがどれくらい降りていたのかわからないけど、結構時間がかかったような気がする。ということは、この縦穴も結構深いはずだよ)
『ジュンコ、大丈夫? 滑って落っこちたなんてことになったら……』
(一緒に死んでくれてありがとう、ってことね)
『あーん、ジュンコ。頑張ってよ』
言われなくても、って思いながら、純子は次のタラップを足で探す。
松明を見た。燃える炎は変化がないようだ。
(酸欠だっけ、どっかの下水道でお亡くなりなんてのがTVであったような気がする。とりあえず、この縦穴は空気は大丈夫のようね)
いくつ降りたのか、わからない。また純子は休みを入れた。左手の小指が痛いせいで、どうしても右手中心に体重をかけてしまう。その分、右手が疲れてくる。
一段、そしてもう一段。その繰り返し。頭の中までそれしか考えられなくなる。
探す。踏みつける。体重を移動する。手を離し、又掴む。そして片足を伸ばす。又探す。
いったい、何回それを繰り返したのだろうか。
そして、純子の足の裏が何も見つけられないときが来た。
(えっ?)
そう思ったときはもう遅かった。
身体になじんだ動きで、もう体重移動にかかっていた。
当然のことながら、両足が宙ぶらりんの状態で右手一本で支えるようなもの。
しかもその右手は疲れから握力がすっかり抜けてしまっていた。
『ジュンコ!』
タンヌの悲鳴も遅かった。右手からはタラップがつるりと抜けていった。
背中から先に行くような姿勢で、純子は暗闇の中に落っこちていった。
「う、うわわわわあああああ!」
松明を落っことして、なんとか悲鳴を上げることはできた。
しかし、次の瞬間、純子は思い切り背中に衝撃を喰らった。
「おい、タンヌ。大丈夫か!」
(い、い、痛い。痛い。こ、腰が痛い)
『ジュンコ。痛いってことは生きてる証拠だよ。よかったねえ』
(う、ぐ。くそ、あんたの言うとおりだよ!)
純子はなんとか空中に向かって叫んだ。
「落ちた。けど、床に着いた。気をつけて。もう終わりだよ」
純子は痛みをこらえて、落ちていた松明を拾い上げた。
頭の上を見る。約2mぐらい上でタラップは終わっていた。
自分がいるのは小さな部屋の中。とくに出入り口のようなものは見当たらない。
純子があたりを探っているうちに、頭の上から脚が下りてきた。
最後のタラップを掴むと、モイルは無難に着地する。
身長のあるモイルにとっては、2mぐらいはたいしたことの無い高さのようだ。
「悲鳴が聞こえたときにはびっくりしたぜ。で、ここが終点ってことかい?」
「うん。ここからどこかにいけるはずなんだけど、扉が見当たらない」
今度は二人掛かりで四面を探る。ピッチリとくっついている壁はどこにも隙間が見つからなかった。
(そんなはずないのに。ここから出入りできるはずなのに)
純子の気持ちがモイルにも伝わったようだ。
「おい。どうする? 本当にここから神殿に入れるのか?」
返事代わりに純子は手を差し出した。
「なにか、叩くもの貸して」
「叩くもの? ……これでいいか?」
モイルが差し出したのはナイフ。純子はそれを手に取ると、壁を叩いた。
耳を壁に当てて反響を確かめてみる。そして四面のうち、ひとつだけうつろな音がする壁を見つけた。
ナイフをモイルに返して、モイルにも反響を確かめてもらう。
「うん。この壁だけ音が違うな」
「この向こうが通路なんだと思う。これが扉になるんだと思うけど、開け方がわからないよ」
「おい。そんなこと言っている場合じゃないだろう。これしか道が無いんだ。なんとかして開けるしかないぞ」
「わかってる。なにか、手がかりが必要なのよ」
純子は懸命に考えた。壁にはナイフの尖端すら入るような隙間は無かった。もちろん指先が引っかかるようなところは無い。
(力ずくじゃだめだってことよね。なにか、方法はあるはず。だって非常階段だもの。絶対に開けられる方法はある)
しかし、純子の思いとは裏腹に何の解決策も見つからない。
(思い出せ。思い出せ。何かヒントがあるはず。この神殿で開けたり動かしたりするのに何をしてたんだっけ)
自動ドア。自動の照明施設。それ以外ではエレベータ。その起動はどうしてたっけ……。
「ヘカテミス!」
純子は突然叫んだ。
『なによ。ジュンコ。急に、驚いたわよ』
「ヘカテミスがどうかしたのか?」
「この鍵はヘカちゃんが持ってるのよ。それが必要なの。ああ、ヘカちゃんに来てもらわないと」
純子が竪穴に駆け寄ろうとしたその瞬間、当の本人が竪穴からにゅっと顔を突き出した。しかも逆さまで。
「お呼びになりまして? お姉さま」
「うわわあああああ!」
驚愕のあまり、純子は床にへたり込んだ。
「ごめんなさい。お姉さま。あんなに驚くなんて思ってもみませんでした」
ヘカテミスは素直に頭を下げる。聞けば、純子たちの後を一人だけで追いかけてきたらしい。
「だって筆頭神官ですもの。私がこなければなりません」
「わかったわよ。で、ここの扉だけど、開けるのにはヘカちゃんの力が必要だと思うの。何か方法を知らない?」
ヘカテミスはしばらく考え込んで、首を振った。
「お姉さま。ここの扉は開けた事がありません。開ける方法なんて……」
「いいの、何でもいいから試してみて。ここが開かないことには話にならないんだから」
そう純子に言われて、ヘカテミスは様々な印を結んでみた。しかし、どれにも反応は無い。
(考えろ。純子。考えるの)
純子は自分に言い聞かせた。
(ここを使うのは非常時。非常階段だもの。普通じゃないときよ。そんなときに、印を結ぶだの、呪文を唱えるだのそんな時間は無いはず。だからそんな方法じゃない。なにか、もっと簡単で直接的なものよ)
『それがわかんないから、困ってるんじゃないの』
昔の純子だったら、タンヌの一言ですっかりいじけていたかもしれない。でも今の純子は違っていた。
(わかってる。黙っててよ。タンヌ!)
そうタンヌを制すると必死で考えた。(もっと単純なこと、もっと簡単なこと……)
そして、純子の目がヘカテミスに留まった。必死で印を作るヘカテミス。その頭の上のティアラ。王宮でウレアハルから渡されていた金色のティアラ。
「そうか!」
純子はヘカテミスをいきなり抱き上げた。
「お、お姉さま。気持ちはうれしいのですが、今はそのような時では……」
「勘違いするな!」
そういうと、純子はヘカテミスの高さを様々に変えてみた。そして、とうとう頭の上の高さでティアラが反応した。一瞬、輝く光が部屋に満ちる。そして音も無く壁が消えた。
「やった!」
そして次の瞬間、三人はたじろいだ。開いた扉からは一段と激しい熱が押し寄せてきたのだ。
うーん。熱風地獄ですか。温暖化ですね。
なんちって。これも原作段階ではなかったんですが。
これからどうなるんでしょうか。




