44.イデーア・マーテル山の、異変。
神殿はどうなっているのでしょうか。
女官たちやシニンは無事なんでしょうか。
というところにさしかかってきました。
さあ、みなの無事を祈って。
純子。頑張れよ。
『ジュンコ頑張れー。あたしがついてるぞー』
「うるせえ。身体のないやつは、楽でいいな」
つい、純子はつぶやいていた。
汗を拭き、体にまとわりつく服をはだける。
そんな純子を見て、ニヤける追捕師をウレアハルが怒鳴りつけていた。
「タンヌ、暑い」
ヘカテミスも隣で弱音を吐いていた。
純子は周りを見渡した。様子は以前とすっかり違っていた。
王宮を出ると、すぐに神殿への道は絶えていた。
がけ崩れで大岩が落ちてきて、道を塞いでいたのだ。
「馬車はここに置いていくしかないな」
追捕師の声で全員が荷物を背負い込むと、自分の足で難所を乗り越えた。
道がなくなっている箇所は大きく迂回する。
ヘカテミスの両親の石碑は崖の淵にかろうじて残っていた。
道中の安全を祈願したあと、再び岩を登り崖を這い伝う。
そうやってお互い助け合いながら、なんとか山道を登ってきたのだ。
純子はサンチュの様子を気にしていた。
昨日の様子では吹っ切れたようだが、実際にデハウを見ればどうなるか、不安だったのだ。
しかし、サンチュは笑顔で母親と接していた。明るく話しかけている。
デハウもなにか返事しているようだった。崖のぼりではデハウの荷物を持ち、手を引っ張っている。
純子は大きなデハウのお尻を押し上げながら、
二人の様子にほっと安心のため息をついた。
『よかったね。ジュンコの話が功を奏したんだね』
(うん。このまま元に戻ればいいんだけどね)
一日がかりで頂上が近くなってくると、今度は異様な暑さが一行を襲ってきたのだ。
風は以前よりも強いぐらいなのに、吹き付けてくるのは熱風だった。
「確か、以前は寒いぐらいだったよね……」
「こんなことは初めてです。こんなに暑いなんて」
ウレアハルが不安そうな声を上げた。女官たちも落ち着かない様子。
「早くせよ! 神殿にまいろうではないか」
女王の声に一同は動き始める。しかし、その足は重い。
熱風と共に小石も舞い上がってくる。顔の前を手で覆っていないと顔面が痛い。
(いったい何よ、これ……どうなっちゃってるわけ?)
一段と激しい風が純子の髪の毛を強くなびかせた。
そして、その場所が頂上だった。
そこでは激しく霧が舞っていた。霧よりももっと濃い、ガスか雲だった。
流れる雲が視界を邪魔する。離れ離れにならないようにできるだけ近づいて歩く。
白い雲の中から顔を出したのは、女神の祠。
そこで道中の無事を感謝してから、純子は周りを見回した。
ここから大池が見えるという、女官の言葉を思い出したのだ。
近寄れるだけ寄ってみる。ヘカテミスもついてくる。しかし見えるのは白い雲。
吹き付けてくるのは熱い風。ここが今までで一番暑く感じる。
(まるで、この下に熱湯があるみたい)
『大池が熱々のお湯になっちゃってるとかねー』
なにか、タンヌにつっこもうとした純子だったが、沸きあがってきた悲鳴に慌てて走り始めた。
女官たちは慌てふためいていた。ウレアハルは地面にへたりこんでいる。
そしてその理由が純子にもすぐにわかった。
あの神殿への洞穴が土砂で覆われ、完全に潰れていた。
『ど、ど、どういうことよ。ジュンコ!』
「地震よ。あの地震で埋まっちゃったのよ……」
『どうやって神殿に入るワケ! これじゃあ、入れないじゃない!』
「わかってるわよ。あのエレベーターはもう使えない。それどころか、地下も一緒に潰れちゃったかも……」
横に立つヘカテミスも呆然としている。
「みんな、みんな埋まっちゃったということなんですか?」
『いやー! そんなこと、言わないでー!』
タンヌが顔を両手で覆っていた。
モイルは黙って立ち尽くしていた。シニンが心配だという気持ちは痛いほど純子にはわかる。だが、できることはないのだ。純子が振り返ると、ヘカテミスは首を振った。
「まだ、わかりません。中へ入る道を作ります」
「え? そんなことができるんですか」
純子が見つめる中、ヘカテミスは女神の祠にかけよった。
その前にしゃがみこむと、一身に祈りを捧げている。
女官たち、ウレアハルも駆け寄って地に伏せている。
その背後から女王や追捕師、純子たちが見守っている。
『こんなお祈りしてて、なんとかなるのー?』
タンヌのいらいらした声が頭に響く。
(いや、言いたいこともわかるけどさ。ここは彼女達の領域だから……)
祈りが終わったのか、ヘカテミスが立ち上がった。
そして祠に手をかける。力いっぱい押しているようだが、ピクリともしない。
女官たちも手伝うが、やはり動きは無いようだ。
『あの祠が動くの? なんか罰当たりに見えるけど』
(わかんないけど、ヘカちゃんのやるとおりにやってみようよ)
純子も押してみるが、まったく動かない。
「どけ」
女官たちをどかしながら進み出てきたのはモイル。
全身を使って肩で押し始める。血管が膨らみ、目が血走る。靴が地面にめり込む。
「くっそおおお!」
純子がダメかと思ったその瞬間、モイルの口から絶叫が響いた。
そして祠が大きく傾いた。
女官たちも加わって、祠を押し倒していく。その跡には大きな穴があった。
「これ、これって……」
「いままでに使ったことはありません。でもあの洞穴が使えなくなったときには、ここに道があるとの言い伝えがありました」
ウレアハルが説明した。
純子はその穴をこわごわ覗き込む。垂直に落ち込んでいく竪穴。中は真っ暗で明かりの一つもない。
もしかすると自動点滅なのかもしれないけど、もし、ここを落っこちた場合は命はなさそうだ。
『どうやって降りるのよ。ロープでも使うの?』
(よく見なよ。横にタラップが付いているのがわからない?)
そう、まさしくここは非常用階段なのだ。
「お姉ちゃん、ここを降りるつもり?」
覗きこんだサンチュが怯えた声を出した。そのサンチュをデハウが支えている。
「どけ。あたいが行く」
そう言うモイルを純子は制した。
「ううん。あたしが先に行く。モイルは後からついてきて。あたしになにかあったときにはモイルが上に戻って、みんなに知らせて欲しいの。わかった?」
モイルは純子を見て頷く。
『ジュンコ、ホントに一番手でいくの? なんなら、あたしは置いてってもいいのよ』
(身体のないあんたにそんなこと、できるわけないじゃん。つべこべ言わないで)
純子は点けてもらった松明を口に加えた。変な味がするけど、この際しょうがない。
骨折した左手の小指を気にしながら、純子はタラップを使って、暗闇の中を降り始めた。
何とか今日もアップする事ができました。
それにPVが一万越しました。
感謝申し上げます。有難うございます。




