43.サンチュの、不安。
大事件が続いたので、今回はちょっと落ち着いた回。
でもサンチュの心は大荒れ。どうやって癒すのだ?
がんばれよ、純子。姉妹の危機だ!
『貫主さん、弱ってたねー』
(そりゃ、女王は出かけるから自分が全部取り仕切れって言うんだもの)
『女王も勝手だよねえ。でもあたしなら好きなようにしちゃうけどなー』
タンヌと取り留めのない会話をしながら、純子は王宮の中を歩いていた。
松明の明かりが城内を照らしている。そして衛士も寝ずの番に立っている。
『これなら剣断も入ってこられないよね』
(油断しないほうがいいけど、そうね)
ちょっと落ち着いた頃、剣断の行方を捜してはみた。
しかし剣断の行方はさっぱりわからなかった。死体も無い。
どこかへ逃げていったようだ。
『どこへ行ったのかなあ。まさか、お墓とか』
(いまさら、兄者の遺体を捜してなんかいないわよ。やっぱりサンチュをねらっているじゃないかな。きっとどこかで悪だくみを考えているんだよ)
もう日が暮れてだいぶ時間もたっていた。あちこちで毛布に包まって眠っている姿も見える。
純子はそっと近づいて、顔を確認すると静かに離れた。
『サンチュを探してるの?』
(うん。あの話し合いの場にもいなかったでしょ)
次の顔を確認しながら純子は話す。
(それに剣断の件もあるし。一人にしておいちゃまずいわよ)
純子は階段を上った。
サンチュは二階の窓際にもたれていた。腰に毛布をかけて座っている。
剣断に切られた髪の毛はショートカットになっている。
階下のかがり火に照らし出される横顔は光と闇が交差する。
純子はそっとその横に座った。
「お姉ちゃん……」
「サンチュ。疲れてない?」
純子の質問にサンチュは首を振った。
「すごく疲れたわ。今朝、神殿にいただなんて信じられないぐらい。剣断と王宮に来て、縛り上げられて、助かったと思ったら、ジシンだし。ほんとに一日のできごとなのかしら」
「サンチュ。明日の朝、神殿に行くの。あっちの方が安全だし、それに様子も知りたいし」
純子の言葉にサンチュは頷く。
「母さんも行くのよ」
その言葉には、サンチュは下を向いた。
「ねえ、サンチュ。母さんを避けてない? 母さんに言いたい事があるのなら、しっかり伝えたほうがいいと思うの」
純子の言葉にも反応を示さない。
「もし言いにくいんだったら、あたしに教えて。必要ならあたしが伝えてあげる。でもそれにはサンチュの今の気持ちを話してくれないと」
サンチュは沈黙を護ったままだった。しばらくして焦れた純子がもう一度話そうとしたとき、サンチュは小さく呟いた。
「母さんがわからないの」
改めて純子は待った。その中ではタンヌも黙って待っている。
「ボクとお姉ちゃんと母さんは何でも話して、笑いあえる家族だと思ってたの。この三人の中には隠し事なんて無いって。でも、母さんはボクの父さんのことを黙っていたのよ。ボクには秘密にしていたんだって思うと、母さんが信じられなくなっちゃったの。また、母さんはボクにウソをつくんじゃないかなって」
「サンチュ……」
サンチュは顔を上げた。その目には涙が光っていた。
「ボクは何でも話してきたのよ。楽しいことも悲しいことも不安なことも全部。お姉ちゃんと母さんには何でも話しできたのに。
どうして、どうして母さんは話してくれなかったのかって。そう思うと、すごく悲しいの」
サンチュは純子にしがみついてきた。
「お姉ちゃんはボクにウソついたりしてないよね。ボクはお姉ちゃんを信じていいのよね?」
(タンヌ、タンヌ!)
純子は頭の中で必死にタンヌを呼んだ。
(あんた、サンチュにウソなんか言ってないわよね? 隠し事、あるの? 正直におっしゃい!)
『うーんと、うーんとねえ』
タンヌは思案顔。
『身体触られてお金もらえる商売のことは言ってない』
(……それは言わないほうがいいかもしれない。サンチュ、サンチュに関係することで!)
腕の中で泣いているサンチュを見ながら、純子は無言で叫んだ。
『それは……たぶん、無いと思う』
「サンチュ。お姉ちゃん、バカだから覚えている限りだけど、サンチュにはウソはついてないわ。信じて」
『どうせ、あたしはバカですよーだ。フン』
むくれているタンヌは無視して、サンチュに話しかける。
「サンチュ。約束したよね。神殿で分かれる時に必ず助けるって。だからあたし、頑張る事ができたの。あの約束は今でもまだ有効よ。だからあたしはずーっとサンチュのこと、護るわ」
「お姉ちゃん……」
サンチュは顔を上げた。赤い目をこする。
「母さんの話を聞いていて、すごく不安になったの。もし、お姉ちゃんとボクの、父さんが違ってたらどうしようって」
『なにそれ?』
「そうなったときに、お姉ちゃんはボクを捨てちゃうんじゃないかって思って。ボクは一人ぼっちになるんじゃないかって……」
純子はサンチュを抱きしめた。
「サンチュのこと、見捨てたりなんかしない。
いい、忘れたの? あたしはタンヌじゃなくて、ジュンコだってこと」
「覚えてるけど……」
「ジュンコからしたら、サンチュは赤の他人よ。でも一緒にいたい。護ってあげたいって心から思ってるの。あなたはあたしの妹よ。妹がこんなに大切だなんて、考えたこともなかったけど、いまはそういう気持ちでいっぱい。
だから安心して。ジュンコはサンチュを護ります。それはタンヌも同じ気持ちよ」
『あったりめーよ!』
タンヌの言葉をサンチュに伝えると、サンチュは笑顔を浮かべた。
「落ち着いた? サンチュ」
サンチュは大きく頷く。そしてあくびをした。つられて純子もあくび。頭の中でタンヌも続く。
「寝ようか、サンチュ」
「あのお墓の家ではね、ジュンコ」サンチュが話し始めた。
「夜が来るのが待ち遠しかったの。いつもお姉ちゃんと二人一緒のベッドで、そこで何でも話したのよ」
「そうなんだ……」
「眠るときにはね、唇をあわせて舌をからませるの。それが気持ちよくて、安心して眠れたわ」
サンチュの瞳が純子を見つめた。そしてそっと唇を重ねてくる。
純子もそれを素直に受け入れた。二人の舌がゆっくりと、そして長い間絡みあった。
「これで安心した?」
長い口づけの後、純子の質問にサンチュは頷いた。
もう涙は無かった。顔には笑みが浮かんでいる。
「二人きりは危ないわ。何があるかわからないもの。下でみんなと一緒に休みましょう。明日は日の出と共に出発。たぶん、たくさん歩くことになりそうだから、しっかりと休息しなきゃ」
純子はそういって、サンチュの手をとった。
サンチュの指もしっかりと握り締めてくる。
そして、二人は明るい階下へと歩いていった。
下書きにはなかった話。
でも、やっぱり書いておかなくちゃと思って。
こうやって、キャラクターの一人としっかり話す感じが好きです。
では。




