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41.街を、救え。

 さあ、純子。君の出番だ。

日本人の君は否が応でも災害慣れしている。つまり、復旧慣れもしているのだから、有形無形のノウハウを身に着けているのだから。

頑張れ、純子! 応援してるぜ。

 どれだけの間、揺れが続いていたのか純子にもわからなかった。

短いような気もするし、長かったのかもしれない。

とにかく、サンチュとヘカテミスを抱きしめてうずくまっているうちに、揺れはゆっくりとおさまっていった。

 しばらくすると負傷した者たちのうめき声や悲鳴が広間に響くようになった。

「大きな揺れだったね」

 サンチュは呟くと、すぐに怪我人を助けに行く。

「お姉さま、怖い……」

 ヘカテミスはしっかりと純子にしがみついていた。

「大丈夫。もうおさまってきたみたい。もう大丈夫よ」

 手でヘカテミスの頭を撫でながら、目は剣断を探していた。

(いない……)

『どこ行ったの? まさか、壁につぶされちゃったとか?』

(そんなんならいいけど、あいつのことだから逃げ出したと思うよ)

 純子の思いが通じたのか、女王が叫んだ。

「あやつを追え! 必ず見つけ出して、殺すのだ!」

 その声に追捕師や衛士たちが飛び出そうとするのを純子は止めた。

「いけません。女王様!」

 純子はイアフメスの前に飛び出した。

「今はそのような時ではありません。ここを誤れば、批判が噴出しましょう。どうか、正しいご指示を」

 女王は純子の顔を見つめると、険しい顔になった。

「いったい、何を間違うと言うのだ?」


 純子はイアフメスを破れた壁際についていった。そこからは空が覗いている。

街の方向からだろうか、黒い煙が上がり始めていた。

 純子はそばにいたモイルから望遠鏡を借りた。

自分の目で見れば一目瞭然と、女王にも覗いてもらう。

その視野の中、純子の思ったとおり、街では火事が起きていたのだ。

「女王様。あのような大きな揺れはきっと初めてのことでございましょう。風笛の神殿で聞きました。神殿ではよく揺れるそうですが、街ではあまり揺れないとのこと。みな、こんな大きな揺れは初めてだと思います」

 純子の言葉に女王は頷いた。

「我も初めての経験じゃ」

「街でも同じこと。そしてあの煙。あれは火事です。街では恐怖と不安が蔓延しております。そしてこの大揺れ。今は剣断など捨てておきましょう。一番は街の人を助けることです。

 すれば女王の英断を感謝する声があふれましょう。非難の声は皆無になりましょう。火を消し、怪我人を助け、食べ物を与える。すればみなの不安は解消し、明日への希望に満ちるようになります。兄者の呪い、祟りなどと口にするものはいなくなるのです。

 どうか、どうか、ここは何より、街の人への援助をお考えくださいませ」

 純子は膝をついて、女王にすがった。イアフメスはじっと考える。

「ここは助けるほうが得策だと言うのだな……」

「はい。女王様は見捨てなかったのだと信じれば、街の人たちも女王様を見捨てはしません。これがこの街の病気を治す、一番の方法だと思いませんか」

「よし、わかった!」

 女王は叫んだ。

「貫主、貫主はおらぬか!」

「は、はい。女王様。ここに」

 白ひげの老人が出てきた。怪我をしたのだろうか、頭には包帯を巻いている。

「剣断の捜索など取りやめじゃ。衛士どもにありったけの物を持たせて街にいかせよ。街の人を助けるのだと大声で叫べ。みなを安心させよ。みなで火事を消せ。

 暴行を働く者、略奪を図るものは死罪じゃと叫ばせろ。そんなことをしなくても王宮から食料でもなんでも出すと触れ回らせよ。わかったか」

「は、はい。直ちに」

『へー、イアフメス、わかってるじゃん』

(うん、伊達に女王、やってないわ)

 貫主の指示で衛士たちがあわただしく動き回る。そして王宮から街へと出て行った。


 と、その様子を見守る純子の横に人影が立った。

(貫主さん……?)

「タンヌ……様。感謝申し上げます」

「え? 女王様を説得したことかな?」

「それはもちろんでございます。女王様はなかなか頑固で意地っ張りなお方。一度言い出したことはなかなか変えませぬ。それを見事に説得させたのは見事でございます」

「そんなこと……。ただこの地震で街の人を助けなきゃって思っただけ」

「この揺れ、ジシンと申されるのか。わかりました。みなに伝えて、これからはジシンと言いましょう」

 純子の脳裏には、地震のときの映像が浮かび上がっていた。

大きな地震に、火事の様子。被災者の姿や助け合っている様子まで。

『ジュンコの元いた世界ってそんな酷いところなんだ』

(確かにね)

 純子は苦笑いした。酷いとあっけらかんと言われては笑うしかない。

(他にもね、台風もあるし大雨も梅雨もあるし、旱魃や落雷や大雪や大風や病気だとかもね)

『そんな世界のどこがいいの? タンヌ、わかんない』

(その分ね、人は助け合うの。一人じゃできないからみんなで力を合わせて乗り越えていくの。信頼して、信頼されて。もう一度そうなりたい。だからあっちに戻りたいって思うの)

『ふーん、なら、あたしも一度みてみたい。ジュンコの世界、行ってみたい。一度でいいけど』

 タンヌの軽い言い方に純子も笑みを漏らした。

「タンヌ様、どうかなされましたか?」

 目の前の貫主に呼びかけられて、純子は笑顔を浮かべた。

「いいえ、ごめんなさい。なんでもありません」

「その、感謝というのは……私の子や孫も街にいるのです。この王宮の者達はみな肉親親類や友人が街にいるのです。きっとこれで助かる、助けに行けると思っています。そのお礼を言いたかったのです」

 そう言うと、貫主は指示をしに場を離れた。その後姿を純子はじっと見つめた。


 街の火事は早々に消されたようだった。それでも怪我人の処置や食事の用意など、やることはいっぱいあった。純子たちはみんな必死で働いていた。

 しかし、純子には気になっている事があった。

(サンチュがあそこにいたってことは、母さんの話、全部聞いてたのよね……)

 サンチュの父親について訊いた時の、デハウの様子も知ってしまっただろう。

だからだろうか、なんとは無くサンチュが母親を避けているような感じがする。

デハウの方も視線を走らせはするものの、食事の用意に一生懸命の様子。

いや、感じているからこそ、きっとそっちに意識をかき集めているのだろう。

(二人の間がすげーよそよそしいんだけどなあ)

『あー、もううちらの家庭、壊れちゃったよお。貧しくとも笑いありだったのに。ジュンコ、責任とってなんとかしてよね。』

(あ、あたしが壊したんじゃねーよ!)

 そうは言ったものの、純子にいい考えがあるわけでもない。

(母さんにサンチュの父親を訊くしかないんだけど、当然サンチュも聞くんだよね……)

 既に頭が痛かった。もう一つの心配事があったのだ。


 地震の伏線を張りながら……やっと表に出したよと。

次に拾うのはどの伏線かな?

では。

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