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35.ウレアハルの、申し出。

 ウレアハル、伊達に筆頭神官をやってたわけじゃない、と。

策士は嫌いではありませんが、自分に降りかかってくるのはちょっとねえ。

 なんて言っている場合じゃない。頑張れ、純子。

「本当に、サンチュじゃないんですか? 女王様なんですか……?」

「はい。確かに似てはおりますが、よくご覧ください」

 そう女官に言われて、純子は女王を見つめた。雰囲気は似ている。しかし、短い金髪の隙間から覗く耳には大きな輝くピアス。目鼻立ちもサンチュの方がしっかりしている感じがする。

 それに何と言っても違っているのは、その胸。タンヌほどではないにしても、しっかりと二つの膨らみを見せている。

(タンヌ……、サンチュじゃない、よね?)

『いやー、お姉ちゃん、人違いしちゃったよお。あはははは』

(あははじゃねえよ! 何年、姉やってて見間違えるのよ。それで処刑になったらどうすんの!)

『あたしの身体であたしが処刑になるだけで、別にいいじゃんか』

(あたしを巻き添えにすんな!)


 そんな純子とタンヌの会話も知らずに、ウレアハルは話し始めた。

「今日参りましたのは筆頭神官の交代についてでございます」

 隣でヘカテミスが驚きの表情を浮かべた。

「私の姉夫婦が不幸な事故で亡くなったことから、私ウレアハルが筆頭神官を勤めてまいりました。姉夫婦には忘れ形見、このヘカテミスがおりましたが、まだ年端の行かぬ子供。とても筆頭神官は務まるまいという判断から私にその勤めが来たものでございます。

 しかし、あの事故から五年という歳月がたちました。その間、ヘカテミスも必死に修練を積みました。私の目から見ても、十分に筆頭神官が務まるだけの力と経験を持ったと思っております。

 どうか、ヘカテミスの筆頭神官をお認めくださいませ」

『えー、この人は突然、何を言うわけ!』

(神官を辞めるつもりだったんだ……)

 驚いたのはタンヌと純子ばかりではなかった。

「お、叔母さま……い、いえ、筆頭神官様。そのような事を突然に言われても……」

 指名された本人、ヘカテミスにとってはまさに驚天動地の発言のようだった。そんなヘカテミスを見て、ウレアハルは微笑む。

「あなたは見習い神官として十分に修行を積んだのですよ。私のいびり――いえ、出した修練にもしっかりと耐えてきました。もう一人でしっかりやっていけると思いますよ。

 それに私もそろそろ自分の時間が欲しくなってしまいました。どうか、女王様、よろしくお願いいたします」

 ウレアハルは床に頭をつけた。ヘカテミスも慌ててそれに習う。

「ふむ、見たところまだまだ子供のようであるが、大丈夫であるか。ヘカテミス。そなたが筆頭神官になるに当たって、女神様はなんと申しておられるのか?」

 ヘカテミスは遠くを見るような目をした。そして頭をする。

「女神キュベレー様は何も申していただけませぬ」

「ほう。それはどうしてじゃ?」

「自分自身の未来を占ってはならぬと申されました。それが許されるのであれば、きっと両親もあの事故を何とかして回避しようとしたでしょう。幼い子供一人残して、この世から立ち去るなど、きっと思ってもみなかったことでありましょう。

 女神は、私のことをお伺いしても何も申してはくれませぬ」

「では、そなた自身はどう思うのじゃ」

「母は言っておりました。運命は受け入れねばならぬものと。幼い私はそれが何を意味しているのか、まったくわかりませんでした。今にして思えば、母はあの事故もうすうす予感していたのかもしれません。しかしそれを受け入れるつもりだったのでしょう。

 そう思えば、私が筆頭神官を受けることも運命なのだと思います。自信があるわけではありません。しかし、運命は受け入れるつもりです。母と同じ運命であるならば、喜んで受けたいと思います。どうか、お認めくださいませ」

 ヘカテミスの答えを聞いた女王は大きく頷いた。

「わかった。了承しようぞ。しかし、ウレアハル。おぬしはこれからどうするつもりじゃ」

「私は、私は神官を退きましたなら……」

 ウレアハルは控えている追捕師をにっこりと見た。いや、もしかするとそれはニタリとした笑みだったかも知れない。

「このヘリシェファ様のところへ押しかけるつもりでございます。ヘリシェファ様が認めてくださるまで、下女でも奴隷でも何でも尽くすつもりでございます」

「おお、そうか。追捕師よ。なかなか結婚しないのは、どのような良き人がいるのかと思っておったが、神官殿と恋仲であったとは。さすがにモテ男は違うのう」

「い、いえ、女王様。私はウレアハル様とは恋仲などとは……」

「あら、神殿でも馬車の中でもあれほど口説いてくださったではありませんか。私は恋のために神官という地位も役職も擲って、身一つでまいります覚悟。どうか、お受け止めくださいませ」

『やるねー、ウレアハル。女王様の前で既成事実作っちゃったよ』

(うーん、こりゃ追捕師、ロープ際に追い詰められたって感じだね)

 純子の言うとおり、追捕師は脂汗を流して弁解に努めていたが、もう時遅し。女王はすっかりウレアハルの味方になっていた。

「うん。それは素晴らしいお覚悟。これ、追捕師。ここまで来て逃げるなどとは申すはずはあるまいな」

「あ、い、いえ、そんな……はあ……逃げるなど……」

「わかった。これ以上言うまい。後は二人でゆっくりと決めるがよかろう。日取りが決まったら知らせるがよい。何か祝いを用意しようぞ」

「有難うございます。女王様。感謝申し上げます」

 喜色満面のウレアハルと盤面蒼白なヘリシェファ。しかし、既に試合は終了していた。そして試合の締めくくりとして、ウレアハルのティアラがヘカテミスの頭に載せられた。

「これであなたはただいまから筆頭神官様です。しっかりとお勤めしてくださいね」

「はい。筆頭……叔母様」

 ヘカテミスの目には涙が光っていた。


「後、もう一つございます。先ほど、大変な失礼をいたしました、この娘のことでございます」

「おお、そうであったな。あれは一体何事であったのか」

 純子はウレアハルの横に立った。

「この墓守の娘、タンヌと申すもの。妹のサンチュを必死で探しておるのでございます。風笛の神殿では一緒にいたのですが、サンチュはこちらへ向かったようなのです。どうも剣断殿が何か企んでいるようでございます」

「剣断殿が!?」

 女王は驚いた声を出した。

「そう言えば、最近剣断殿は何かしら独断で動く事が多い。何をしておるのかとは思っておったのだが、いったい何を企んでおると言うのだ?」

「わかりませぬ。しかし、このまま放置しておくことはよくないことになるのではないかと。どうか、剣断殿を取調べくださいませ。そしてサンチュをこの姉の元へお返しくださいませ」

「サンチュを、どうかサンチュを見つけてください!」

 純子は必死になって言った。その純子をじっと女王は見つめた。


 追捕師、剣断、貫主。一応全部実在した役職でございます。

気になる方はどうぞ、お調べくださいませ。

もっとも時代的なものは無視しまくってますけどね。

では。


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