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34.謁見の、間。

 なんとか、王宮には入り込んだ純子。でもサンチュの姿はない。衛士に捕まらないように、神官とともに入り込んだ、その先では?

 さあ、純子。今夜も頑張れよ。でないと、「処刑~!」


「大丈夫か、頭から血が出てるぞ」

 モイルから言われて、純子は額に手を当てた。ヌルッとした感触。ひび割れた眼鏡を純子は投げ捨てる。

「ちょっと切ったみたいだけど、大丈夫」

 それでもモイルは包帯代わりの布を純子の頭に巻きつけた。二人がそうやっている間に、女官たちが中庭に入ってくる。

「いやー、お二人。派手にやりましたなあ」

 追捕師は様子を見ると、なぜだかうれしそうな声を上げた。破れた扉から続いて、ウレアハルやヘカテミスも入ってくる。

「ヘカちゃん、目が覚めたんだ」

「お姉さま……。神殿から急に王宮に変わってしまって……」

 ヘカテミスのぼんやりした様子に、純子は思い出した。

(そうか、女神が憑いてからの記憶は無いんだ)

「ヘカテミス。これから女王様との面会を要求します。ついていらっしゃい」

 ウレアハルが言った言葉にヘカテミスに緊張の色が走る。

「女王様と……。あ、はい、叔母――筆頭神官様」

 ウレアハルは場内へとさっさと歩き始める。ヘカテミスも遅れまいと後を急いだ。モイルと友に純子もその後を追いながら、ウレアハルの言葉を考える。

(女王様に面会? そう言えばさっきも緊急の要件とかって言ってたよね。いったい何のことなんだろう。さっきは口からでまかせかと思ってたんだけど、違うのかなあ)

『ジュンコと違ってでまかせじゃないんじゃないの?』

(タンヌ、いつあたしがでまかせを?)

『うーん、褒めたつもりなんだけど……』

(褒めてない!)

 脳内漫才を二人がやっているうちに、王宮の内部へと進んだ。衛士たちが止めようとやってくるが、神官の権威と女官たちの武器で排除される。やがて、一行は大広間へと入ってきた。

 そこでは白ひげの老人が出迎えている。

「これは筆頭神官殿。女王にご面会とお聞きしました。ただいま、準備をしております。どうぞ、しばらく謁見の間にてお待ちくださいませ」

 ウレアハルは鷹揚に頷いた。

貫主かんず殿、どうぞよろしくお願いします。それまではこちらで待たせていただきます」

 貫主と呼ばれた老人は頷くと下がっていった。

「あ、あの、サンチュのことは……」

 純子がウレアハルにそっとささやいた。ウレアハルは微笑む。

「ちょっとお待ちなさい。忘れたわけではありません。物事には順序があります。でなければ、単なる押込強盗と変わりませんよ。あなたがやっていることは」

 そう言われて、純子は引き下がった。

(うへ、強盗って言われたよ。タンヌ)

『そりゃあ、力ずくで門を破って侵入してるからそう思われるのが当然じゃね? ウレアハルは何とか誤魔化してくれようとしてるんだわあ』

 ほんの少しだけ、自分の行いを反省しながら、純子は状況を見守ることにした。


 純子が初めて見るような豪華な大広間だった。足音がしない分厚いじゅうたん、壁の前にも何十ものカーテンが垂れ下がっている。一段高いところには豪華な一人用の椅子。初めて見る純子にも、あれが女王様の椅子だとすぐにわかった。

『うーん、すごいなあ。あんな椅子、一度でいいから座ってみたい。それに女王様ってどんな人なんだろう。ドキドキするなあ』

(え、タンヌ? 見たこと無いの、女王様を)

『無いわよ。あたしみたいに下々の中でも一番下っ端がお会いできるわけないじゃん。ジュンコはあっちではそういう人と顔見知りなの?』

 そう言われて純子は思い返してみた。自分の世界でも一番偉い人に直接会ったことなんてあるはずがない。テレビとかで見るから顔を知っているだけのことだ。

(そうかあ。あたしもタンヌと全然違わないよ。こっちが一方的に見てるだけだ)

 その間にも人の出入りが激しくなってきた。王宮の女官たちは神殿の女官と違って、着飾っている。その女官たちが様々な調度品を部屋に持ち込んでくる。衛士の姿もあるが、ここの衛士は外と違って、やはり着飾っていた。武器も戦闘用というよりは儀礼的なもののようだ。

 さらに女官や文官たちが出入りした。大広間も明かりがついて、輝きを増してくる。そして貫主が現れた。

「筆頭神官殿、お待たせしました。女王がまいります」

 そういうと、深々と頭を下げる。神官たちも絨毯の上に膝をついた。それを見習って純子も同様の姿勢をとって頭を下げる。

 足音、かすかな衣擦れの音。それが戸口から椅子へと向かう。

「一同、面をあげてよろしい」

 その声で純子も顔を上げた。そして初めて女王の顔を見た。

「サンチュ……」

 純子は思わず立ち上がった。目の前にはサンチュが立っていた。


『サンチュ、サンチュだよお!』

 金色の髪の毛は短くなっていた。いつ着替えたのか、質素な服ではなく、装飾のいっぱいついたドレスになっていた。すそからかすかに見えるつま先には輝く靴。

しかし、顔はサンチュ。赤く唇は輝き、目の上には青いシャドウ。手には金色の杖を持ってはいても、どう見てもサンチュ。

「サンチュ! 無事だったんだね、剣断から逃げ出したんだ!」

 純子の意思かタンヌの意思かはわからなかったけど、脚が動いていた。止めようとする女官を振り切って、純子はサンチュに抱きついた。

「こ、こら、貴様、何を――」

 サンチュは純子の抱擁を振りほどこうともがく。

『甘くていい香り……』

 そして純子はサンチュに口づけした。口紅は変な味だったけど、それでもしっかり唇をあわす。必死に顔を引き剥がしたサンチュが声を荒げた。

「貴様、何を――誰か、こいつを取り押さえろ! 無礼者を引き剥がせ!!」

「ああ、サンチュ。そうか、剣断から逃げ出して変装したんだ。それで女王なんて名乗ってるんだ」

 純子はサンチュをしっかりと抱きしめた。もう誰にも渡さない。そんな気持ちで。しかしそんな純子を衛士が押さえつける。

「いやです。離しません。サンチュ、助けて。お姉ちゃんだよ! 迎えに来たんだよ」

『お姉ちゃんの言う事が聞けないなんて、お尻ペンペンだからね!』

 後ろから慌てて女官が飛び出してきた。衛士の代わりに純子を押さえつける。

「助けてください。どうしてサンチュを取り返してはいけないんですか?」

「いえ、あれは女王様です。これではただの狼藉者。処刑されてしまいます」

 処刑と聞いて、純子は固まった。その横をウレアハルがすり抜け、女王の前に平伏する。絨毯に頭をこすり付けて、助命の嘆願を始めた。

「こ、これはご無礼を。礼儀もまったく知らぬ端女はしためでございます。このもの、妹がいなくなったっと気が動転しております。正気ではございません。お許しくださいませ。後でたっぷりとお仕置きして思いしらせます」

 ウレアハルの必死の言葉がつうじたのか、女王は口を拭きながら忌々しげに純子を睨み付けた。

「まったく、なんと言うものを神殿は使っておるのやら。わかった。筆頭神官。こやつの処分はその方に任す。

 で、このたびの訪問はいったい何の目的じゃ。至急の用件とのことであったが、開門を待てぬほどの至急とは一体何事じゃ」

 ウレアハルは再び頭を床にこすり付けた。


 WBCが終わってから書き始めたから時間がないよお。

誤字脱字ありましたら、教えてくださいませ。

次回はウレアハルの至急の用件について。

ヘカテミス、頑張れよ。って違うか。

では。

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