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Ⅴ.再びの王宮  31.クリティアの、陰謀。

 剣断殿、再登場でございます。

いやー、ねちっこい。蛇のように執念深い。

って、そういうキャラ設定なんですけどね。いったい、こやつの狙いはなんざんしょ。

さ、負けるな、純子。今夜も頑張れよ。

「な、何が来たっていうの?」

 純子はヘカテミスに問いただした。

「わからぬ。が何かが近づいてくる」

 その間も広間は大騒ぎ。しがみつくウレアハルをヘリシェファは何とか引きはがそうとしている。

「ああ、追捕師様。そんなご無体な。なにとぞ、この哀れなウレアハルをお救いくださいませ」

『うーん、どう見てもウレアハルの方が年上だよね。結婚にいき遅れた執念?』

(タンヌ。そんなにはっきりと指摘しないでよ)

『そんなこと言ってもね、純子。追捕師はヘビに絡みつかれたカエル状態だよ』

(彼の問題は彼に解決していただくしかないわ。こっちはこっちの問題があるもの)

 歩き始めたヘカテミスに純子はついていく。女官達も続いてくる。あの巨大エレベータで洞穴の入り口にたどり着いた。そこで見たもの、それは遠巻きに取りつきながら近づいてくる衛士たち。そしてその先頭には、馬に乗った剣断の姿があった。


 強い風が黒髪を乱していた。顔の笑いは相変わらず。

『ジュンコ、あいつ、ぶちのめすんだったよね』

(忘れちゃいないわよ)純子は拳を握りしめる。

 ヘカテミスが前へ出た。慌てて女官達が武器を手にしてヘカテミスの護りを固める。

「止まれ! 神殿と知っての行動であろうな?」

 ヘカテミスの声で衛士たちの動きが止まった。

「これはこれは、神官殿。もちろんここが風笛の神殿だと分かっております。戦いにきたのではありません」

「ほう、戦いでなければ、この物々しい衛士どもは一体何だと?」

 クリティアは笑い声を上げた。

「この者達は私の身を心配してついてきているだけの事。どうぞ心配ご無用でございます」

『ほんとにそう思う? ジュンコ』

(ちゃうちゃう。絶対に違う。なんか企んでるよ。あいつ)

「ここにまいったのは、女神様とは何の関係もないこと。私が用があるのは墓守の娘だけでございます」

「あ、あたし?」

 純子は素っ頓狂な声を上げた。その目がサンチュを探す。サンチュも不安げな表情をしている。純子とサンチュはヘカテミスの横に立った。二人が小さなヘカテミスを挟む形。

「おお、二人はそこにおったのか。ではこれを見られよ」

 そう言って、クリティアは合図を送った。何かが引き出されて地面に倒れ込む。金髪の女性のようだ。横たわったまま動きがない。

(いったい、あれは何?)

「もしかして、母様……なの?」サンチュが呟く。

『母さん、母さん!?』タンヌの泣き声。

 不意に純子の瞳に涙があふれた。


 じわっと歪む視野に純子は慌てて目を拭いた。泣き出したタンヌからの影響で、自然に涙が流れてきているようだ。

『母さんとこ、行こうよ!』

「待って、待ってよ! タンヌ!」

 純子は慌てて止めた。でないと、足が勝手に走っていきそうだったから。そしてサンチュの手も掴む。サンチュが飛び出していかないために。

『止めないでよ、ジュンコ! どうして行っちゃいけないのよ!』

「クリティア、一体何のつもり! 母さんをどうしたのよ」純子は叫んだ。

「何もしていない。取引しようというのさ」

「取引……?」

「これをそちらに引き渡す。その代わり、妹、サンチュだったかな。妹を引き渡せ」

 純子はサンチュを見つめた。サンチュは真っ青になっている。

「ど、どうして……ボクなの?」サンチュは呟いている。

 妹を欲しがる理由を話せとの、純子の叫びには冷笑が返ってきた。

「そんなことはどうでもいい。お前達の欲しがるものを渡す。私の欲しいものを渡せ。それだけのことだ」

『ち、畜生。商売としては合ってるじゃん』

(タンヌ、変なところで納得しないでよ)

 だが、純子にも妙案はない。が、悩んでいる時間もなかった。

「行きます。ボクが行くわ!」サンチュが叫んでいた。

「待ってよ、サンチュ」

 慌ててサンチュを引き止める純子。しかし、サンチュは首を横に振った。

「だめ、母さんを見捨てるなんてできない。ボクが行けば母さんを救えるわ」

「それはそうだけど……」

 サンチュは少し微笑んだ。

「お姉ちゃん、今はあいつの言うとおりにするけど、必ず助けにきて。ボクはお姉ちゃんのこと信じて待ってるから。絶対に助けに来てよね」

 それだけ言うとサンチュは身体を寄せてきた。唇が純子の唇に触れる。軽く開いた隙間から舌の先が入ってきた。純子も無意識に舌を絡ませた。

 一瞬、ほんの一瞬の深い接吻。でもどんな指切りよりもしっかりと純子の心に絡んだ。

「うん、絶対に助けに行くから。待っててね」純子はささやいた。

 サンチュはにっこりと微笑むと、クリティアに向かって歩いていった。

 剣断はサンチュを馬に乗せると、立ち去った。しかし、衛士はなかなか動かない。じれったくて、純子はイライラする。

「くそっ、母さんを助けたら追いかけて行きたいのに」

「向こうもそれがわかっているから、なかなか立ち去らないのであろう。仕方があるまい。ここは待つしかない」

 ようやく、衛士たちが消えると純子たちは駆け寄る。金髪の女性は動かない。

(まさか、死んでるなんてことは……)

『ジュンコ、止めてよ! 縁起でもない』

 女官が助け起こす。と、頭から金色の髪がずり落ちた。


「ひ、ひえええっ!」純子は悲鳴を上げた。

 女官は女性を仰向けにする。顔には……何も無い。

「タ、タンヌ! あんたの母ちゃん、のっぺらぼうよっ! ムジナよ、これっ!」

『とぼけたこと言わないでっ! ジュンコ、騙された。騙されたのよー!』

 よく見れば、何のことはない、ただの等身大の人形に過ぎなかった。遠めでよくわからないのをいいことに、剣断は人形を母親だと偽ったのだ。

「騙された。ちくしょー! こんな人形でサンチュを盗られたー!」

『相手の方が一枚上手だったわね。ジュンコを騙すとは、剣断、なかなかやるわね』

「落ち着いている場合かあー!」

 すぐに馬車を出してくれるよう、ヘカテミスにジュンコはお願いした。しかし、ヘカテミスは考え込んでいる。

「ヘカちゃん。お願い! サンチュを助けに行かなきゃ」

「わかっておる。しかし、それは相手にもわかっておること。ここで無謀に飛び出していけば、相手の思う壺ではないか。道中で待ち伏せをかけておるであろう。そこへむざむざと飛び込むのは無思慮もいいところ。これは行かぬほうがいいのではないか」

「じょ、じょ、冗談じゃない! サンチュと約束したのよ! これで行かなかったら姉じゃない! いいわ、あんたが行かないのなら、あたし一人でも行くから!」

 純子の啖呵に、タンヌが呟いた。

『サンチュの姉はあたしであって、ジュンコじゃないやい』


 いつの間にやら、お気に入りも頂戴してまして、感謝申し上げます。

お気に入りとかアクセス数とか気にするとダメなので、できるだけ見ないようにはしているのですが、……心が弱いです。

では。


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