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29.筆頭神官、ウレアハル。

 ヘカテミスの叔母様、ウレアハルです。

まあまあの美人ですが、アラサー。本人も自覚。

行き遅れの意識でヘカテミスをいびっています。

 まあ、能力の差というのもあります。(これが一番か)

頑張れ、ヘカテミス。

あ……純子も頑張れ。(汗

「すまない、タンヌ」シニンが申し訳なさそうに言った。

「かまわないんだけど……それでいいの?」

 いよいよ筆頭神官の所へ出かけようとしたとき、シニンが残りたいと言ってきたのだ。

「ワシにとっては神官の話には興味はない。が、ここの施設には大いにそそられた。地中なのに太陽と変わらない光。そしてそれを操る技術。それ以外にもワシが見たことも聞いたことも無いようなものが、無造作に転がっている。

 ずーっと考え続けたよ。いったいこれは何だってな。そして昔王宮にいた頃聞いた噂を思い出した。デタラメだと思ってたからすっかり忘れてたんだがな」

「どんな噂?」

「遙かな昔、この地上には高度に発達した文明があったんじゃないかという与太話さ。戦争とも天災ともわからぬ厄災がふりかかり、文明は壊滅した。しかしその時の生き残りの子孫が我らだ、というとんでもない話だよ。

 ああ、昨日までそう思っていた。もしそんな文明があったのならその証拠がどこかにあるはずだからだ。いくら酷い禍があったとしても、全ての痕跡が地上から消えるはずがない。それが見つからない以上は、そんなものはなかったのに違いない、とね」

「でも、それが見つかった。ここに」

 純子の言葉にシニンは頷いた。

「そうとしか思えない。ここは太古の文明の残滓なんじゃないのかと思っている。だがもっと証拠が欲しい。知りたい。誰が、なんのために、どうやってこの施設を作ったのか。今は神殿などと言っているが、そもそもはそんなためじゃなかったと思っている。

 だけど、わからない。だから調べたい。ここの資料を見つけて、知りたいんだ」

 純子は頷いた。シニンの感じていることは純子にも理解できた。

「うん、あたしも知りたい。神官の方は任せておいて。シニンも頑張って」

「ああ、この目がもっと見えればいいんだがな。補助の女官を置いてってくれ。手助けしてもらいながら、調べるよ」

 ヘカテミスの手配でシニンと女官が別室に消えた。その姿を見送りながら、純子達は通路を歩き出す。

「筆頭神官様は中央の謁見の間でございます」

 その言葉に、純子は頬が強ばるのを感じた。


 長い通路。階段。そして回廊。扉をいくつも抜けていく。床も石造りから絨毯のようなものに変わっていた。そして、大きな扉の前で一行は立ち止まった。

「この向こうでございます」

 ヘカテミスの幼い顔が極度の緊張に包まれていた。

「ヘカちゃん……」

「いいえ、行きます。しっかりとお話しします」

緊張しながらもしっかりとした声でヘカテミスは答えた。

「開けてください」

 ヘカテミスの声で女官達が扉を押した。

 大きな広場。ほとんどが暗がりだが、中央だけは明るい。そこには椅子と腰掛けている女性。ヘカテミスによく似た衣服を着用しているが、装飾品は金色だ。照明に反射して輝いている。一行はその前に進むと、膝をついた。純子もまねをする。

「ヘカテミス、参上しました」

 その声で椅子の女性が立ち上がった。

「報告が遅いのではありませんか。到着は昨晩と聞いております」

 ヘカテミスに似ている年上の女性。

(これが筆頭神官様ね)純子は理解した。

「申し訳ありません。もうお休みになっておられると聞いたものですから」

「王宮へ大至急行かなければならないとの申し出だったはず。そんな緊急の用件であるならば、報告も遅れるものではありません」

「申し訳ありません」ヘカテミスは深々と頭を下げる。

 そして、タンヌ以下の者を王宮から連れ帰ってきたこと。途中で何者かに襲われたこと。それでも無事帰還したことを説明した。

「いったい、その者達はいかなる訳で救わねばならなかったのか、女神は何とおっしゃっているのですか」

「いえ、何も。その者も何も知らないようでございます」

「つまりは無駄足。いつも女神のお告げ、女神のお言葉と言う割には、何も得られるものはないようですね」

「し、しかし、それは女神様のご意向……」

「お黙りなさい。女神の神意というのはヘカテミス、あなたのウソではないのですか!」

 高圧的な響きにヘカテミスは口ごもった。

「女神のお言葉と言えば、誰も反対できない。そこをうまく利用しているあなたの我が儘ではないのですか」

「ち、違います。これは本当に女神様の――」

「まだ年端もいかぬ子供のこと。遊びたい気持ちもわからなくはありませぬ。しかしそれでは女神の品位も神殿の誇りも失われてしまいます。ヘカテミス、身の程をわきまえなさい」

「わ、私は女神様の声を聞いて……」

「そのような嘘つき、デタラメを好むとは、姉はなんという娘を育てていたのでしょう。きっと甘やかしていたのですわね」

 ヘカテミスの顔が青ざめていた。しかしその瞳は筆頭神官を睨み付けている。

「きっと姉が生きていれば、そなたを見て慚愧の涙を流されることでしょう。己の間違い、いい加減さを悔やむことかと思います」

「お母様は、お母様は……」

「最早取り返しがつかぬかも知れませんが、ヘカテミスも姉の犯した過ちを一日も早く改めなさい。私の言うことがわかりましたか」

「分かりませぬ!」

 ヘカテミスの怒声が響いた。

「お母様はそのような方ではありませんでした。厳しいながらも優しい人でした。けっして甘やかされただなんて――」

「あなたのその態度が証拠だと言っているのです。己をわきまえなさい!」

 純子は二人のやりとりを見つめていた。

『ヘカちゃん、頑張ってるけど旗色悪いわねえ』

(そりゃ、年の功だからね。ってこのままでも拙いよね)

 純子は立ち上がって、進み出た。

「申し上げます。筆頭神官様!」

「誰じゃ! まず名乗れ!」二人の目が純子に集まる。

「私、タンヌと申します。墓守の娘です。ヘカテミス様についてきたものです」

『えー、あたしなの? ジュンコじゃないの。都合の悪いことはタンヌってことにしてない?』

(してない、してない)純子はそういいながら、筆頭神官を見た。


 ヘカテミスと同じような黒髪。しかし派手な金細工の装飾がベタベタくっついている。

「この度はお助けくださり、感謝申し上げます。命の恩人でございます。深く深くお礼申し上げます」

 純子のへりくだった態度に筆頭神官も目尻を下げた。

「デ、タンヌとやら。何かな?」

「まず持ってはお名前を……」

「おお、それは失礼した。私は筆頭神官、ウレアハル・ヘカウトである」

「ウレアハル様。先ほどからこのような小娘にこだわっておられる様子。しかし、それはあまりにも大人げない。大人の寛容ちゅうか度量の大きさというものをお見せになった方が得策かと思いまして」

 純子の言葉にウレアハルはちょっと躊躇した。

「うむ……。まあ、ちょっとはムキになったかな」

『やるね、ジュンコ。こっちの話、聞いてくれるじゃん』

 タンヌの声に純子は調子に乗る。

「もし、どうしても優劣付けると言うことでありましたら、これは試合と言うことではどうでしょう」

「試合? 勝負をするということか」

「はい。ウレアハル様が小娘に負ける道理がありませんが、力を見せつけ、その減らず口をたたきのめす、よい機会になるのではないでしょうか」


 純子の口車にのるのか、ウレアハル。

このあたり、ウレルとかヘカテミスとかはエジプト神話からもらってきたような、かすかな記憶があります。ちょっと異国風で古典的でいい感じがあるんですが、どうでしょうか。

では。


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