2.連れられて、水没。
えっと、異界転生ものなわけです。で、実は前から思っているのですが、日本人が(って別に何人でもいいんですけど)異界にいって、そこで現地の人といきなり会話してたりするのに、違和感たっぷりなわけです。別にそんなところで拘らなくても、とも思うんですけど。
で、「魔法少女」では「翻訳魔法」。「かりそめ」ではあくまで現代日本語が通じるギリギリの時代設定にしました。
今回は、簡単に言えば、現地の人の体を借りて転生なわけです。
さあ、純子。今回も頑張れよ!
風が出てきていた。手を引く少女の髪が風になびいて、金色のカーテンに見せていた。殴られて傷む頬に心地よい、冷たい風。でもそれを堪能する余裕は純子には無かった。何度も何度も後ろを振り返り、追っ手が現れないか確認をする。
「痛っ!」
道の小石が足の爪に当たった。それでも立ち止まらない。止まれない。
(見つかる前に、少しでも遠くへ。逃げる。逃げる。……って、裸足?)
改めて自分の足を見た。足首までのドレス風のスカート。その下は靴も靴下もはいていない。
(いつ脱いだんだろう?……靴下もないなんて)
人一人が歩くような踏み分け道。舗装もない。石だらけの小道がゆっくりと下っている。純子はちらりと後ろを見た。あのボロ家はだんだんと小さくなっている。まだ逃げ出したことに気づかれていないようだ。
今度は足の裏でとがった石を踏みつけた。たたらを踏んで文句の一つも言いかけるけど、隣の少女を見て口をつぐむ。純子同様、素足なのだから。
「早く。お姉ちゃん、急ごう」
不平の一つも口にしない少女に純子はちょっと気恥ずかしくなった。
(でも一体これは何? あたしは今どこにいるわけ? この娘、誰?)
様々の疑問が純子の頭に浮かぶ。でも今は聞いている場合じゃない。
(逃げる、逃げる、逃げなきゃ)右目のヒリヒリした痛みが、さっきの恐怖を呼び起こす。
(あの男に見つかる前に、逃げ切らないと、殺される!)
小道は谷間に降りてきたようだった。風は止んでいる。しかし曇った空は相変わらず。ひんやりとした空気は、雨が近い証拠だろう。谷間に入ると、木々が生えてきていた。小石だらけの足下にも草の緑が見える。
「ちょっと、ちょっと休もう」純子は立ち止まると、荒い息を整える。
少女も立ち止まって、大きく喘いでいた。でもその瞳は今来た道を監視し続けている。
「あいつら、気がついたかしら」
沈黙が怖くなって、純子は話す。
「いくらなんでも長すぎるから、外の奴らが中を見たらきっとばれるわ。中の二人が目を覚ましたかも知れないし。たぶん、もう追いはじめていると思う」
少女が冷静に言った。でもその瞳は不安で一杯のようだ。
「どうして、どうしてあいつら、あたし達を……。あいつら、一体何者? ヤクザ?」
「ヤクザって言葉はよく知らないけど……衛士よ。数日前からあいつら、墓地をうろついているのを見たって、お姉ちゃん、自分で言ってたじゃない。あいつら、お墓に何の用があるんだろうって」
純子は少女の顔を見つめた。(数日前のこと? 墓地? 一体それは何?)
だが、その言葉を言う時間はなかった。
遠くで叫び声。騒がしい物音。そしてかすかに犬の鳴き声が聞こえる。
「犬よ! お姉ちゃん、あいつら気づいた!」
少女が純子の手を取る。
「い、犬? 犬が怖いの?」
「怖いわよ! ボク達より脚が早くて、噛まれたらまず助からない。何より、あいつらの鼻! ボク達の匂いをどこまでも追ってくるわ!」
純子は慌てて後ろを振り返った。目には見えないけど、匂いの道がここにはある。しかも所々には、右目の傷から落ちた血まであるはずだった。これだけの印があって、鼻が効く犬が追いついてこられないはずがなかった。慌てて純子も走り始めた。
ポツポツと雨が落ち始めていた。いつの間にか、足下は草が繁茂している。周りも灌木から密生した樹木へと変化してきていた。純子の足がひんやりとした物を感じて、止まった。
「沼?」
道はいつしか消えて、密生する草とその間から水面が見えるまでなってきていた。その水面に落ちる雨の模様が見えている。隣で少女の足も止まった。
「ほんとは、本当はここ、来たくなかったんだけど……」
「どうして?」
「踏み込んじゃいけない所だって、お姉ちゃんも言ってたのに」
「えっと、えっと、ごめん。お姉ちゃんってのは、あたしのことだよね?」
少女はきょとんとした顔で純子を見つめた。そして吹き出した。
「やだあ、もうお姉ちゃんたら。こんな時にも真面目な顔で冗談言うなんて。お姉ちゃん以外にお姉ちゃんなんかいないわよ」
(それはそうなんだけども……)「じゃやっぱり、あんたはあたしの妹?」
今度は少女は笑い声を上げなかった。形のいい眉が寄る。
「お姉ちゃん、大丈夫?……死んじゃったんだって思ったのよ。衛士に酷く殴られたから。しばらくして息を吹き返したんだけど、やっぱりそのときの影響なの? お姉ちゃん、記憶がどうかしちゃったの?」
(い、いえね、記憶どうのこうのっていうより、もう何がなんだか……)
そのときだった。意外なほど近くで物音がした。そして犬のほえ声。
「来たわ、あいつらよ! お姉ちゃん!」
「走ろう! 早く!」
もうすぐそばにまできていた。純子は少女の手を掴むと夢中で走り出す。もう道も水も関係なかった。撥ねを飛ばして枝を交わしながら、とにかく前へ進む。だから何につまずいたのか、引っかかったのかまったくわからなかった。何かが純子の足をひっぱり、あっと思ったときには思いっきり水の中に飛び込んでいた。
「あ、あっ、ふわっぷ! た、助けて――!」
意外に水は深く、冷たく、そして流れがあった。突然のことで頭の中がパニックになっていた純子を少女の腕が捕まえる。
「お姉ちゃん、じっとして! ボクに捕まってて」
言われたとおりに純子が動きを止めると、そっと少女が泳ぎだす。水の流れにも乗りながら、巧みに突っ切っていく。そして対岸の水草の陰に身を隠した。
しばらくすると、犬や衛士たちが反対側の水縁をうろうろ探しているのが見える。犬達も匂いがわからなくなっているようだ。威勢のよかったほえ声がおとなしげに聞こえる。しばらくするとその両者とも姿を消した。
「あきらめて行っちゃったのかしら」
「もうちょっと待ってましょう。我慢できるだけ我慢したほうがいいと思うわ」
純子の目には、少女の唇が紫になって震えているのが見える。水の冷たさはたちまち限界に達した。純子自身も震えている。それでも二人抱き合って必死に我慢を重ねた。そしてやっと水から這い上がる。
しかし、水から上がっても今度は雨の中で体温は戻ってこなかった。濡れた服はべったりと体に張り付き、歯の根も合わぬほどにガタガタ震えがくる。そして、やっとそのとき、純子は自分に起こった異変に気がついた。
(これ、これ、そんなの、あり?)
水に濡れてすっかり透き通っている服。そこで息づいている二つのふくらみ。自分の呼吸に合わせて動いている以上、それは自分の胸に違いないが……
(あたしの胸は、こんなにでかくないぞ!)
メロン、小玉スイカ。表現は何でもいいけど、純子の動作一つ一つでまるで胸に張り付いた別の生き物って感じで大きく揺れている。肩がこるなんて今までうわさ話でしか聞いた事がなかった純子だが、今まさに実感としてそれを感じていた。
(いったい、あたし、どうかしちゃたの!?)
で、その現地のお姉ちゃんが、意外なぐらいにデカ乳だったということで……。(笑
えー。えー、一度は書いてみたいと思ってましたよ。(笑
はい、念願かなって、うれしいです。では。