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26.文明の、徴。

 何が純子を驚かせるのか?

まあ、確かに驚くよなあ。こんなだと。

なかなか秘密がありそうな場所です。

頑張れ、純子。

 暗闇になった直後、明かりがついた。壁の一部が光り始めていた。それは純子にとっては懐かしいもの。

「照明……電気?」

 思わず純子は近くに駆け寄った。配線のような物は無かった。でも間違いなく壁の一部が光っているのは人工的な仕掛けに違いない。自然現象で光っているのではなさそうだ。

(電気があるなんて……今まで松明や油の明かりぐらいだったのに)

『ジュンコ……デンキって何よ?』

「お姉ちゃん、これは一体?」サンチュもそばに来て不安そうに話してくる。

(サンチュにとっては見たこともない明かりなんだろうな)

 いや、サンチュばかりではなかった。シニンも首をひねっている。

「シニン……見えるの?」

「いや、強い光だと感じることはできる。がここは山の中ではないのかね。どうしてこんな強い光があるんだ? 教えてくれ」

 純子は電気による照明と返事した。あのシニンの家で受けた治療と同じものだと。しかし、シニンは首を振るばかり。

「あの治療は一瞬しかできない。こんな連続的に明かりが灯るはずがない。それにあれは明かりにはならない。確かに火花が散ることはある。が明かりではない。どうやってるんだ。頼む、教えてくれ!」

(頼むって言われたって、あたし、理科は苦手だったし……無理)

 どうやって明かりをつけているのか、女官に訊こうとした純子は、目にした眺めに絶句した。ヘカテミス以下の女官たちが全員平伏して女神への祈りを捧げているのだ。追捕師もその中に加わって、祈りを捧げていた。

(何を……この人たち、何をしてるわけ?)

 祈りが終わるのを待って、その疑問を女官にぶつける。その回答は純子をさらに困惑させた。

「この明かりは女神様からの賜物。ですから、感謝の祈りを捧げております」

(いや、そりゃそうかもしれないけど……でもこれって女神じゃなくて……電気……)

『純子はいったい何を言おうとしてんのよ? わけがわからないよ』

(あたしだって訳わかんないわよ! 大混乱だわよ!)

 純子は頭を振った。


 訳のわからない状況はまだまだ続いていた。

 通路を歩き始めた純子は壁の違いに気がついた。

(あの山の洞穴は岩がむき出しだったけど、ここは岩じゃない)

 コンクリートのようなものが吹き付けてあるのか。ゴツゴツした感じではなく、天井から床まで滑らかになっている。

 その床もでこぼこがほとんど無い。裸足の足の裏は歩きやすいと伝えてくる。端の方には埃がたまっているようだが、特に痛んでいる様子も無い。

 そして、その行く手には照明が自動で点灯し、誰もいなくなった区画は消えていく。完全な自動制御の照明。それに対して、女官たちは何も言わない。当然のことだと思っているようだ。

(きっと、きっとどこかにあたし達を感じ取るものがあって、それが照明を入れたり切ったりしてるんだ……確か、トイレとかにあったような。道路の照明灯だって自動で点滅してたから不思議じゃない。けど、ここにあるのは不自然だ!)

 やっと純子は自分の疑問が整理できた。街にはなかったものがここにはある。しかもあることに対して、女官たちは違和感がないのだ。それがおかしい。

 その疑問を純子は思い切ってぶつけてみた。が、その返事に二の句が出なかった。

「それは全て、女神様のおかげなのです」


「あの……ここが風笛の神殿なんですよね?」

 純子の質問に女官は頷いた。ヘカテミスは一行の先頭を歩いている。

「どのくらいの広さがあるんですか?」

「さあ……。全体は知らないのです。ほんの少ししか使っていないんです」

 しばらく歩いて一行が入った場所。それはちょっとした広場の大きさだった。木でできた年代もののテーブルや椅子がおいてある。椅子に腰掛けた純子たちに、女官が木のお碗に飲み物を入れて持ってくる。

 しかし、純子にはそれさえも違和感があった。

(まるで、近代的な建物の中にアンティックな家具ってイメージだわあ)

 入り口に現れた女官にヘカテミスが聞いた。

「あの……叔母、いえ、筆頭神官様はまだ起きてみえますか?」

「いいえ、うの昔にお休みになっておられます。ご報告は明朝でよろしいかと思います。ヘカテミス様もお休みくださいませ」

 純子はためらった。

(もしかしたら、ひょっとするとここには……)

 言うか止めるか、悩んだ末に切り出してみた。

「あの……、ここには、お風呂って……ないですよね?」

「お風呂でございますか。えっと、その、蒸したもの、砂のもの、お湯のもの、なんでございましょうか?」

「お湯です。お湯で十分です!」

 女官は純子の期待どおりに微笑んだ。

「ございます。しばらくお待ちください」

(やった!)純子は小躍りした。

 昨日の夜は牢屋でお風呂なんてもんじゃなかった。その前は……川で泳いだぐらいか。

(それより前はこっちの世界に来てないからわかんないか。タンヌはいつお風呂入ったの?)

『お風呂は……洗濯の時に川に入るとか、ぐらいかな。いつだったっけ……』

 純子はなんとなく納得した。あの小屋にお風呂なんて……そして、なんとなく身体も頭も痒いなと感じていたから。

『あたしは清潔ですよーだ。ジュンコ、酷い』

(ごめんごめん)

「サンチュ、お風呂あるって。一緒に入ろうよ」

 純子の誘いになぜかサンチュは赤くなる。

「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん、ボク、まだだから一人で入りたいの。先に入ってて……」

 そう言うとサンチュは踵を返した。女官に何か聞いて出て行くところを見るとトイレだろうか。

(何だ、まだだって何がだ?)

 首をひねる純子にヘカテミスが抱きついた。

「ヘカテミス、タンヌと一緒に入るー!」

 ヘカテミスは純子の脚にしがみついて離れようとしない。無理やりやろうとすると泣き顔になる。

(泣く子と何とかには勝てねーや)

 諦めて純子がヘカテミスを抱っこする。

「では、ワシもご相伴預かろうかな」

 ニコニコ顔で言うヘリシェファに、純子の肘鉄が炸裂した。

「何言ってやがる、このスケベ野郎が!」

 ぶったおれる追捕師。しかしそのヘリシェファを女官たちが取り囲んだ。追捕師の鼻血を拭き、優しく介抱する。しかも、純子に少々棘のある視線を投げかけながら。

「追捕師様、よろしければ私がお背中流しますわ」

「いえ、この私が。この素晴らしい頭をもっとツルツルにして差し上げます」

「私でよろしければ、お風呂でもどこでもご一緒いたしますっ!」

(タンヌ、追捕師ってモテるわけ?)

『さあ? 確かに顔がいいのは認めるけど――』

 追捕師は女官たちに囲まれてデレデレになっていた。

『女にだらしなさそうなところは、いまいちよねえ……』


 次回はサービスシーン。なんと!

ヘカテミスの入浴シーン?(笑

うーん、女神の天罰がくだりそうだな。

では。


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